※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

37 / 41
ちょっとした番外編です。
葛と梨々花が書きたくて作りました。

では始まります。


第36.5話 葛と梨々花とドクターと

 

 『孤児院』アジト、デュエル場にて。

 開けた空間で、アタシと梨々花は、カードを繰っていた。

 

 屍の復讐者が駆動し、天使が踊る。

 そしてその視界の先で、電子音が鳴った。

 

「……ふむ。問題なさそうだな」

 

 祈崎悲贋

 LP:0

 

「お疲れ様だ、鳴金姉妹。

 これでサイコデュエリスト研修は終了だ」

 

 アタシ達とデュエルしていた女性……祈崎悲贋さんはそれだけ言って、カードを片付ける。

 それと同時に、実体化させていたモンスター達もまた、消えていった。

 

「これで終了なんですか?ちょっとデュエルしただけですが?」

 

 梨々花がちゃんと敬語を使っている。

 ちょっと、姉として鼻が高い。

 

「あー……終了だ終了。基本的な使い方と加減が効きゃぁそれでいい」

 

「……正直、完璧にコントロールできた自信はないのだけれど」

 

「それは問題ねぇよ」

 

 悲贋さんは腰に手を当て、口元だけで笑う。

 無愛想に見えるけれど、これが彼女なりの笑顔なのだろう。

 

「ワタシを殺してないだろ?じゃあ加減はできてら」

 

 そういうものなのかしら?

 疑問に思うアタシをよそに、悲贋さんはタバコを咥える。

 

「タバコ失礼。ヤニカスなもんでな」

 

 断りを入れてから、彼女はライターで火をつける。

 すぅ、と煙を吸って……悲贋さんは思いっきりむせ出した。

 

「ゲボッ!オェッ!!……あー、まっず」

 

「じゃあなんで吸ってるんですか……?」

 

「やめられないんだよ。人間ってのはそういうもんだ」

 

 梨々花の質問に答えて、悲贋さんは一度タバコを離す。

 ふぅー、と肺の中から吐かれた煙が、天井に漂い溶けていった。

 

「あー……研修はこれで終了だが、質問とかあるか?

 ねぇなら帰っていいぞ。自由時間だ」

 

「じゃあ、私からいいです?」

 

 おずおずと梨々花が手を挙げる。

 悲贋さんは、黙したまま、顎で頷く。

 

「貴方がさっき使ってたカード……

 それ、廻理も使ってたけど……」

 

「だろうな。アイツに星遺物とクローラーをやったのはワタシだからな」

 

 懐かしそうに目を細め、彼女は天を仰ぐ。

 

「一応覚えておくといい。この世には、いくらかの『特別なカード』が存在していてな……」

 

「……条約で禁止されている【No】とか、創造現象で生まれたカードとかですか?」

 

「おっ。梨々花、お前はよく知っているな」

 

「でしょう?」

 

 妹が褒められてとても嬉しい。

 自分のことでもないのに、ついつい胸を張ってしまった。

 

「そう、さっき言ってくれたような、希少価値の高いカードだ。

 んでもって、【星遺物】に連なるカード達も、その『特別なカード』に分類される」

 

「どおりで、見たことも聞いたこともないわけね」

 

 知らないカードを使っていると思えば、そもそも希少だったわけか。

 

「だな。そして注意しろ。そういう『特別なカード』には、危険なモノも混ざってんだからな。

 手にしたばかりに精神が崩壊して廃人になった奴が何人もいるんだ」

 

 とりあえず迂闊に触れないことだ。

 そう言って、悲贋さんはタバコを咥え直す。

 

「……ねぇ」

 

「ん、なんだ?質問か?」

 

「そうね。気になったのだけど、どうしてそんな特別なカードを、廻理に渡したの?」

 

 特に意味もなく、なんとなく気になったので聞いてみる。

 廻理にカードを渡したのは分かったが、どうして彼だったのだろう?

 もし、ただ強いだけなら、他の人でも良かったのではないだろうか。

 

「………………」

 

「?」

 

 それくらいの軽い問いだったのだが、彼女は一瞬、顔を強張らせる。

 どうしたのか、そう聞こうとしたが、次の瞬間にはいつもどおりの表情になっていた。

 

「あー……アイツに寄越した理由は、まぁ色々だよ。

 当時使いこなせそうなのが廻理しかいなかったとか、昔のアイツが弱虫だったとか、色々だ」

 

「弱虫?廻理が?……想像できないわね」

 

 自分のお腹に大穴開けることも厭わない彼が、弱虫なんて。

 少なくともアタシには、そんな廻理がまったく想像できなかった。

 

「アイツもアイツで大変だったんだよ。瑞理(みずり)の件とか……」

 

「…………みずり?」

 

「あっ、悪い今のはナシだ。忘れてくれ。

 それは、廻理の一番深い傷跡だから」

 

「……そう」

 

 気にはなったけれど、追求はしないようにした。

 きっとこれは、触れてはいけない傷なのだろう。

 

「代わりと言ってはあれだけど、もう1つ質問いいかしら?」

 

「断りはいらんよ」

 

「それなら遠慮なく」

 

 そうしてアタシは、一番の疑問をぶつける。

 

「サイコデュエリストとは、何なの?」

 

 聞いたのは、サイコデュエリストの……アタシのこと。

 カードを実体化させる力を持つ存在、というのは分かっている。

 アタシが知りたいのは、もっと根本的なところだ。

 

「アタシは、ある日突然サイコデュエリストになった。

 けど、これって自然なことなの?」

 

「ふむ。お前が知りたいのは、発生とかルーツとか、そういうのか?」

 

 こくりと頷いて見せる。

 悲贋さんは大きく煙を吸い込み、一拍置いてから答え始めた。

 

「まず、お前に起こったこと……天然モノのサイコデュエリストになったことだが……。

 これは別に、変な病気だとかそういうわけじゃない」

 

「じゃあどういう……」

 

「成長なんだよ、天然モノは」

 

 首を傾げるアタシに、彼女は説明を添える。

 

「天然でそうなるヤツは、成長によってサイコデュエリストになる。

 背が伸びるとか、声が変わるとか、喉仏が出るだとか。

 そういう変化と同じなんだよ」

 

 悲贋はそこで一度区切り、タバコを携帯灰皿に捨てる。

 

「成長でそんな風になるのか、って思ったろ?」

 

「……まぁ、そうね」

 

「ハハッ。気持ちは分かるよ。あとで論文を渡しておこう」

 

「あの、成長でなるとして、じゃあどうして一部の人間だけがそうなるんです?」

 

「あー……それに関してはまだ解っていない。

 なにかしら共通点はあるはずなんだがな……」

 

 悲贋さんは困ったように、頭を掻く。

 その表情は、悔しがる学者のよう。

 

「ただ、サイコデュエリストらしき存在は、遥か昔から確認されている。

 伝説、逸話、神話、色々だ。それらを紐解いていけば、もっと研究が進むんじゃないかと睨んでいるんだがな……」

 

「なら、調べればいいのではないかしら?」

 

「残念ながら、その手の神話の資料は歴史的に価値がありすぎてな。

 裏デュエル界の闇医者じゃ、見ることさえ叶わんよ」

 

 言われて気づく。

 そうか、研究となると難しいのか。

 書店で本を買って調べるとか、そういう次元の話ではないのだろう。

 

「って言っても、神話とかってフィクションじゃないんです?

 なら、調べても意味がないんじゃ?」

 

「そうでもねぇよ。事実であるとされているのもあるし。

 アトラス神話とかは証拠になる遺産が出土してるしな」

 

「えっ、あれって遺産とか出てたんですか?」

 

「そうそう。つってもお前らが生まれる前だろうから、知らないのはしょうがねぇが」

 

「……アトラス神話?」

 

 知らない話で盛り上がる梨々花と悲贋さん。

 なんだろう、アタシは全然知らないのだけれど。

 幽閉生活中、もっと本を読んでおけば良かったかしらね。

 

「1万2千年前にあったっていうとある国を舞台にした神話だよ、お姉様」

 

「ふぅん。物知りなのね」

 

 褒めるみたいに梨々花の頭を撫でる。

 サラサラの金髪を指先で弄ってあげると、アタシの自慢の妹は、嬉しそうに顔をほころばせた。

 

「にしてもよく知っていたもんだな。結構マイナーな神話だが……」

 

「ソシャゲに出てたんで、それで知ったんです」

 

「おっ、それってコレか?」

 

 白衣のポケットから。おもむろに携帯端末を取り出す悲贋さん。

 そのまま彼女は、可愛らしい女の子のイラストが表示されたゲーム画面を見せてくる。

 

「えっ、ドクターもやってるんです?」

 

「まあな、給料の殆どは課金で消えてるよ。

 ちな梨々花はどのキャラ推しだ?」

 

「そうですね……あのファラオの子が好きですね」

 

「あー、いいよな、ワカルぅー。女体化枠の大当たりだよなぁ。

 まぁ初代デュエルキングと同一人物説を採用したキャラ造形は狂気の沙汰だと思うが」

 

「あれってなんか根拠があるんですかね?

 そういうドクターは誰推しです?」

 

「ワタシは件のアトラス神話勢が好きだな。

 アスプロと紫灰の厄のカプ推し」

 

「おお、いいですよね。私もイベスト読んで最高ってなりました」

 

「分かってくれるか鳴金梨々花。

 そうだ、フレンド交換しないか?」

 

「もちろん!じゃあIDを送るんで……」

 

「…………こほんっ」

 

 わざとらしく咳払いをする。

 ……別に、アタシの知らない話で楽しそうにしているのが嫌だったわけじゃない。

 当然、拗ねているわけでもない。

 本当よ?ええ、本当に、なんとも思ってないわ。本当に。

 

「っと悪いな葛。えー……何の話だったか……」

 

 悲贋さんが、こめかみをコンコンと指で叩く。

 そうだ、と彼女は手を叩いて、アタシに向き直った。

 

「サイコデュエリストの起源の話なら、40年前のことを話さないとな。

 あの事件のときに、裏デュエル界は初めてその存在を確認したわけだし」

 

 今度は、梨々花も知らない話みたいだ。

 アタシ達はふたり揃って、悲贋さんの続きを待つ。

 

「40年前、裏デュエル界のとある科学者がサイコデュエリストの少女を捕獲した。

 胸糞悪い話だが、そのとき行われた調査――という名の解剖実験で、サイコデュエリストのアレコレが判明してな」

 

「確かに、胸糞悪い話ね」

 

「違いねぇな。だが安心しな。それやった奴ぁ、皆ぶち殺されたからな」

 

 フッ、と笑い、親指を立てる悲贋さん。

 

「殺されたって、なにがあったのかしら?」

 

「詳しくは知らん。ただ、異様に強いサイコデュエリストが乱入してきて、解剖に関わった奴らを皆殺しにしたらしい。

 んで、その後は検体にされてた少女をかっぱらって、どっかに姿を消したみたいでな」

 

「なんでそんなことが起こったんです……?」

 

「理由も原因も一切不明だよ。

 本当に唐突現れて、全部をぶち壊して消えたみたいなんだ」

 

 そう言って、悲贋さんは茶色の髪を掻き上げる。

 そういえば、廻理もソレをよくやるなって、どうでもいいことを思った。

 

「だがワタシには、この一件がサイコデュエリストのルーツに迫る鍵に思えるんだ」

 

「……検体になっていた少女を、攫っていったからです?」

 

「イグザクトリー。まるでサイコデュエリストを……その詳細を、隠したがっているようじゃないか?」

 

「偶然ってことは、考えられないのかしら?」

 

「その可能性はあるさ。でもまぁ、会えたら話を聞いてみたいもんだ」

 

 検体の少女と、皆殺しの犯人。

 40年前の出来事だから……今だとお年寄り一歩手前か。

 

「『悪夢想』」

 

「え?」

 

「姿を消した犯人のあだ名だよ。

 16歳くらいの、可愛らしいお嬢さんだったそうだ」

 

 ジュッ、と悲贋さんが新しいタバコに火をつける。

 

「裏デュエル界の科学の発展を潰したこと。

 そして彼女が使ったカードにちなんで、その名が付けられた」

 

 ふと、悲贋さんが、デッキから1枚のカードを抜き取る。

 彼女はぼう、とそれを眺めながら、続く言葉を紡いだ。

 

「【トロイメア】。彼女が使ったモンスターであり、星遺物に連なるカードの1つだ」

 

 星遺物。廻理と同じカードを使う、40年前の人物。

 それに何か運命を感じてしまうのは、アタシの気の所為だろうか。

 

「ま、星遺物を使う婆ちゃんがいたら気をつけな。

 ソイツは40年前の殺人鬼かもしれんからな」

 

「……肝に銘じておくわ」

 

「よろしい。長生きしてくれよ?」

 

 今更アタシは、違う世界に来たんだと、そう思った。

 ここでは死が隣人で、長生きは祈られるモノみたいだ。

 

「何年経とうが、見知ったガキが死ぬのには慣れん。

 死体を見るのも、泣き声を聞くのもだ」

 

「あら?おかしなことを言うのね」

 

 確かにここは死に近い場所なのだろう。

 彼女はいくつもの死を見届けてきたのだろう。

 そんな彼女に対して、アタシは髪を払い不敵に笑う。

 

「アタシは死なないわ。梨々花や廻理達がいるもの」

 

 そうだ。折角アタシは生きたのだ。

 これからアタシの人生は始まるのに、何故死んでやらなければならないのか。

 

「私も死なないからな。死にたくないし」

 

 梨々花もアタシと同じように、不敵に笑って腕を組む。

 きっと、梨々花も同じ気持ちなのだろう。

 

「……いいじゃないか。葛、梨々花」

 

 悲贋さんが眩しそうに目を細める。

 ほんの少しだけ、彼女が纏っていた不安が、和らいだような気がした。

 

「さてと、アタシ達はお暇しようかしら。

 行くわよ梨々花。生き残るために修行でもしましょう」

 

「ん。了解、お姉様」

 

 悲贋さんに会釈をしてから、梨々花の手を取る。

 柔らかくて温かい手のひらを引いてみると、梨々花は嬉しそうな笑い声を漏らした。

 

「どうしたの、梨々花?なにか楽しいことがあったのかしら?」

 

「いや、なんていうか……姉妹みたいだなぁって」

 

「ふふっ。姉妹でしょう?」

 

「ああ。だから嬉しいんだ」

 

 梨々花の手が、握り返してくれる。

 かつては、もう二度と感じられないと思っていた感触だ。

 それが今、ちゃんと、アタシの手の中にある。

 

 どこか嬉しい気分になって、アタシは暫くの間、梨々花と手を繋いだままにした。

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます!
本編も現在、頑張って書いています!
楽しみにしてくださると嬉しいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。