遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
――――永続罠、ウィジャ盤。
デュエリストなら、このカードを知らぬ者はいないだろう。
その効果は
相手エンドフェイズに、1枚ずつ死のメッセージを場に出し、『DEATH』の文字が浮かび上がった瞬間に勝利が決定するというものだ。
「ほほほ。【ウィジャ盤】の効果により、デッキから【死のメッセージ「E」】を魔法・罠ゾーンに置きますぞ」
「不味いですわね……」
問題なのは、このカードが相手エンドフェイズに発動することだ。
そしてワタクシ達が戦っているのはバトルロイヤルモード。
つまり、自分以外の全員が相手に相当するのだ。
「メッセージ完成に必要なのは、3ターン。
ワタクシ、威月さん、シルヴィユさんのターンで、ゲームセットですわね」
「そのうちシルヴィユくんは、操られているから……。
実質、私と鬼陽子ちゃんで打破しないと駄目だね……ッ」
勝負は、この2ターン。
ここでしくじれば、冗談抜きで死ぬ。
「どうぞ来なさい、お嬢さん方。
お相手して差し上げましょう」
だが、信濃井もまた、ここが勝負所なのは理解している。
男とシルヴィユさんの場には合わせて4枚の伏せカード。
信濃井も本気で潰しにくるつもりだろう。
「頼みましたわよ、威月さん。
ワタクシ、貴女を心から信じていますわよォ!」
「任せて……ッ!私だって、やれるんだから!
私のタァァーン!ドロォォッ!」
威月さんが咆哮し、渾身の力でカードを引く。
それは開戦の号砲。
生きるか死ぬかの短期決戦が、始まる。
「いくよッ!永続魔法【凡骨の意地】の効果発動ォ!
ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、そのカードを公開してもう1枚ドローするッ!
私が引いたのは、通常モンスター【ハウンド・ドラゴン】ッ!
よって私は、更にカードをドローするッ!」
フラフラでボロボロの身体を引きずって、彼女はドローする。
だが、その目には死の気配が一切ない。
燃えるような茶の瞳は、鋭くギラついた勝負師のソレだ。
「ドロー!通常モンスター【リザード兵】!
次!通常モンスター【ベビードラゴン】!
さらに次ッ!通常モンスター【魔頭を持つ邪竜】ッ!」
引く、引く、引く。
ありったけのドロー、ありったけの闘志。
意志の力で強引に運を味方につけたような、大量ドロー。
「【
更に1枚ッ!ドロォォォォォオッ!!」
いつまでも続きそうな勢いのドローが、止まる。
彼女の射殺さんばかりの視線が、白衣の男を貫く。
「最後のカードは通常モンスターではなかったからドローフェイズは終了ッ!
メインフェイズ!【闇の量産工場】を発動!墓地の通常モンスター2体を手札に加えるッ!」
どこまでも貪欲に手札を増やし、どこまでも貪欲に追いすがる。
荒削りで未完成、けれど執念だけでこの場に立ち続ける、『普通の少女』。
彼女の切っ先が、闇の源へとにじり迫る。
「喰らえッ!速攻魔法【禁じられた一滴】を発動ォ!
場の【凡骨の意地】を墓地に送り、【闇の侯爵ベリアル】の攻撃力を半分にして、さらに効果を無効化ッ!」
闇の侯爵ベリアル
ATK2800→1400
「ほう、ベリアルの攻撃力を下げましたか。
ほほほ。よもや、【禁じられた一滴】とは」
「決めてやるッ!私は【ギガヴォロス】を攻撃表示にッ!
【ギガヴォロス】の攻撃力は、手札の数かける500アップする!
私の手札は10枚ッ!それにより攻撃力は――――!」
マテリアクトル・ギガヴォロス
ATK500→5500
「――――攻撃力は、5500だッ!」
延びた白竜が、青い業火を吹き出す。
煌々と照らす炎の熱は、ただそこにあるだけで万物を焼き切るかのよう。
「ほほほ。ここまで上げてきましたか。
ふむ、それで【ベリアル】を攻撃すれば、一撃で私のライフは消し飛びますなぁ」
「お前の、余裕そうな顔も……これで終わりだッ!
いっ、けぇぇぇええぇぇ!【マテリアクトル・ギガヴォロス】で、【ベリアル】を攻撃ッ!!」
原質の竜が轟々と吼え、その巨体でベリアルに肉薄する。
闇を駆ける豪炎の竜が刻むは、青い残光。
その軌跡が描く果ては、終焉か。
「確かに、この攻撃が決まれば終わりですな。
えぇ、終われば…………リバースカード発動」
ああ、しかし。まだ終わらない。
彼女が導く終焉を、男は遠ざける。
「速攻魔法、【禁じられた聖杯】。
表側表示モンスターの1体の攻撃力を400アップし、その効果を無効化します。
貴方にも禁忌を注いであげますよ、【マテリアクトル・ギガヴォロス】」
「なぁ…………ッ!?」
金色の杯が傾き、一滴が原質の竜に落ちる。
禁忌の聖具がもたらすは、ほんの少しの祝福と、大きな天罰。
神の怒りが、竜から力を奪い去っていく。
「【ギガヴォロス】の攻撃力は、自身の効果によるもの。
それが無効化されれば、攻撃力は元に戻りますぞ。
ああ、いえ、400は上がっていますなぁ」
マテリアクトル・ギガヴォロス
ATK5500→900
力を失った竜に向けて、ベリアルが手にした大剣を投擲する。
黒翼の悪魔が放った切っ先は、ギガヴォロスの肉体を貫通し、竜の命を絶つ。
が、大剣の勢いはまだ死なず、竜を穿った刃は宙空を裂いて…………
「――――ッ!!」
威月さんの胴体を貫き、彼女を壁に貼り付けにした。
威月
LP:600→100
「威月さんッ!?」
「がふっ、ご、ぼぁ…………ッ!?」
深々と壁に縫い付けられた威月さんが、おびただしい程の血液を吐き出す。
黒く濁った鮮血は、剣の柄を濡らし、なおも止まることはない。
「ほほほ。残念無念。お嬢さんは大したデュエリストでしたが、私を倒すには少々実力が足りませんでしたなぁ」
「…………みたい、かな……っ、あ、ぐぁぁ……!」
「喋ってはいけませんわ!貴女は今……!」
「それは……きけ、ない……よ……。
まだ、戦わ、なきゃ……っ!」
駆け寄ったワタクシを制止して、彼女は指を動かす。
「私、は……カードを……1枚、伏せて……」
「威月さん……」
「…………ごめん、ね……鬼陽子、ちゃん……。
かっこわるい、なぁ…………わたし……」
「何をおっしゃいますか……!
貴女は立派に戦っているではありませんか!」
「え、へへ……ありが、とう……ね」
血に濡れた彼女の手が、ワタクシの手をか細く握る。
「であって……すこし、だけ……だけど……。
おうえん、するね…………」
「っ!……ええ、お願いしますわ。貴女の応援があれば、いくらでも頑張れそうですもの!」
威月さんの指は、震えていた。
ワタクシを握る手も、最早ほとんど力が入っていない。
「だから、ずっと応援していてくださいませ。
ここで死ぬなんて、そんなの絶対に許しませんわよ」
「わか、ってる…………お店、つぶすわけに……いかないし……」
ぎゅっと、威月さんの手を握りしめる。
彼女もまた、今ある力で握り返してくれた。
「がんばれ……鬼陽子ちゃん……!」
それが、最後だった。
威月さんの全身から、力が抜ける。
ワタクシを握ってくれていた手が、だらりと落ちる。
彼女も瞼が閉じ、意識が暗闇に沈んでいった。
威月
LP:100
手札:9枚
場:なし
伏せ:1枚
「えぇ、頑張ってきますわ。威月さん」
彼女の血だけが残った手のひらを握りしめ、男に向き直る。
白衣の男は酷く余裕そうで、見世物を見るような目つきをしていた。
「友達ともお別れは済みましたかな?」
「まさか。誰ともお別れはしませんもの」
髪を払い、前を睨む。
状況はかなり不味い。絶望的と言ってもいい。
あとどれだけの妨害があるか。
それらをぶち抜けるかどうかは、正直怪しい。
……だが。だが、しかしだ。
それは、諦める理由にはなりえない。
「覚悟は決まりましたかな?
ではエンドフェイズ、【ウィジャ盤】の効果を発動。
デッキから【死のメッセージ「A」】を場に出します」
「上等ォ!ワタクシのターン、ドロー!」
ここからは、読み合いだ。
読みを外せば、ワタクシ達は死ぬだろう。
「マジックカード【戦士の生還】を発動!
墓地から【剛鬼スープレックス】を手札に加えますわ!」
さて、これからだ。
少なくとも【ウィジャ盤】を破壊する方法は持っている。
問題は、それが通るか。
そして、通ったところで次のターンを生き延びられるか、だ。
(独力で勝負に勝つのはほぼ不可能……。
ですが、やるだけやらなければ、ワタクシのプライドが許しませんわね)
第一目標は、このターンで勝つ。
第二は、ウィジャ盤の破壊。
第三は、とりあえず生き延びること。
今の状況で考えるなら、出来て第二目標までが限界か。
何にせよ、どれかひとつでも達成できたら、ワタクシは超凄いって感じでいきましょう。
「ヒャァハハハハ!手札から【剛鬼ヘルトレーナー】の効果発動!
自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードと墓地の剛鬼リンクモンスターを特殊召喚しますわァ!
ただし、この効果で特殊召喚されたリンクモンスターの攻撃力は500ダウンしますわよ!
なんにせよリベンジですわよォ!【剛鬼サンダー・オーガ】!」
剛鬼サンダー・オーガ
リンク3/ATK2200→1700
剛鬼ヘルトレーナー
レベル1/DEF0
「続けて【剛鬼スープレックス】を通常召喚しますが……何かありますか?」
「いいえ?どうぞ、続けてくれて構いませんぞ」
まだあちら側に動きはなし、か。
召喚に反応する罠を持っていないのか、あるいは使っていないだけか。
……おそらく前者ですわね。
ワタクシを完封すれば勝利が確定する状況で、出し惜しむ理由もありませんし。
(となると、これは通りますわね)
思考をまとめ、天を指差す。
その先には、鬼の控える藍色の門。
「ぶちかましますわよ!
【サンダー・オーガ】と【スープレックス】をリンクマーカーにセットォ!」
2体の鬼が戦場という名のリングを離れ、藍色の門へと飛び込む。
選手交代。次なる鬼が、出番を前に闘志を打ち鳴らす。
「鬼が行くは猛き道!山をも砕き、力のままに暴れまわれ!」
門をこじ開け、鬼が雄叫びを上げる。
そのまま鬼は、闘志と力を漲らせ、|戦場〈リング〉に降り立つ。
「リンク召喚!リンク4!
剛力轟け!【剛鬼ザ・パワーロード・オーガ】!!」
剛鬼ザ・パワーロード・オーガ
リンク4/ATK2800/リンクマーカー:右 右下 左下 下
「墓地へ送られた【スープレックス】の効果発動ですわよォ!
デッキから2枚目の【剛鬼再戦】を手札に……」
「リバースカード発動。速攻魔法【墓穴の指名者】を発動。
墓地の【スープレックス】を除外し、その効果を無効化しますぞ」
「マストカウンター……!いい勘してますわねェ!」
ワタクシの手札は残り1枚。
それも、展開に繋げられるカードではない。
ここで【剛鬼再戦】のサーチに失敗したのは、かなり痛い。
(あと出来るのは、【パワーロード】での攻撃だけ……。
攻撃力は2800ですから残りライフ1800のシルヴィユさんを倒すことは可能ですわね。
問題は、この攻撃が通るかですけれど……伏せカードがあと2枚、ですか)
懸念材料は、正体不明の2枚の伏せカード。
とはいえ、あれが【ミラーフォース】といった罠であれば問題はない。
【パワーロード】自体は他のカードの効果を受けないからだ。
(さらに【パワーロード】にはフィールドのカードを破壊する効果がありますわ。
これを使えば【ウィジャ盤】はどうにか出来ますわね)
が、やはり怖いのは伏せだ。
一応【ヘルトレーナー】の効果が通ったことから、【神の宣告】といった問答無用のカウンターとは考えがたいが……。
(ワタクシに選択肢はありませんわね)
結局のところ、最善手はシルヴィユさんを倒すことだ。
伏せ2枚がシルヴィユさんのものである以上、安全に通すなら彼を先に脱落させるしかない。
「千載一遇か、進退両難か。
いずれにせよ、ワタクシには基本的に前進以外の選択肢はありませんわよォ!
バトルフェイズ!【パワーロード・オーガ】で【月光白兎】を攻撃しますわァァ!!」
ズシズシと闇を踏み、床を軋ませて、鬼は兎に襲いかかる。
これが決まれば首の皮一枚が繋がる。
さぁ、どうだ……!
「ふむ、それは困りますなぁ。
シルヴィユの手札から【クリボー】を使わせ、戦闘で発生するダメージを0にしますぞ」
「ッ!前のターンの【信用取引】で手札に加えさせていましたのね!」
「ほほほ。貴方は意外に、頭の回転が早いですなぁ」
パワーロードは月光白兎からダウンを取るが、決定打を与えることは叶わなかった。
それにシルヴィユさんは、悔しさと恥辱から血が出るほど唇を噛んでいた。
「ク、ソ……がぁ……!動くなよ、おれ……!」
「無駄ですよ。シルヴィユ。そしてお嬢さん。
貴方達は皆、闇に沈み、無意味に死ぬのですよ」
「闇が生きることより心地よければそれも良かったのですけれどねェ!」
一面に広がる闇は、チクチクと過去を詰るだけだ。
大好きな先輩達に褒められたり、新しい友達とクレープを食べたりは、できない。
「メインフェイズ2!【パワーロード・オーガ】の効果発動ォ!
剛鬼リンクモンスターをリリースし、そのリンクマーカーの数までフィールドのカードを破壊しますわよォ!」
これでいけるかは、賭けだ。
それも分の悪い大博打。
負ければ、ワタクシの命はない。
「【パワーロード】をリリース!ぶっ壊れなさいませ!【ウィジャ盤】ッ!」
「ここまで迫るとは、いやはや感服いたしましたよ。
ですが、まぁ……シルヴィユが伏せていた【蟲惑の落とし穴】を発動。
【剛鬼ザ・パワーロード・オーガ】の効果を無効にして破壊、ですなぁ」
死の呪いをぶち壊そうと、パワーロードが拳を振り上げる。
だが、その拳が振り下ろされることはなかった。
鬼は闇の中に飲まれるように沈んでいき、肉と骨が潰れる音と共に消滅する。
「これは…………」
その音は、ワタクシの抵抗が叶わなかったことを、これ以上なくはっきりと表していた。
「……これはもう、ワタクシにはどうにも出来ませんわね」
息をついて、力を抜く。
駄目ですわね。打つ手なしですわ。
パワーロードは他のカードの効果を受けない。
しかし、自身をリリースして効果を発動した場合は、無効にされうる。
その穴を突かれたとなれば、それはもう仕方がないというものだ。
「エクセレント。そう言わせていただきますわ」
「これはどうも。ありがたく受け取りましょう。
して、万策尽きた様子ですが、サレンダーしますかな?」
「やめておきますわ。死ぬなら最期まで足掻いて死にたいですもの」
最後に残った手札を一瞥する。
これがカウンター罠の類ならまだ希望はあったが、そう上手くはいかない。
「カードを1枚伏せますわ」
ブラフにでもなればと、ワタクシはカードをセットする。
もっとも、効果はあんまりなさそうだ。
ウィジャ盤は強制効果であり、何があろうが勝手に発動される。
そしてこれは、シルヴィユさんのターンで完成する。
ただターンエンドさせるだけで勝利が確定するのだ。
「絶望しましたかな?」
藪から棒に、男は声をかけてきた。
「お嬢さんは頭がいい。ならば、この盤面が詰みであることは理解できているでしょう」
「お褒めいただきありがとうございますわ。
ええ、確かに。かなり厳しい盤面であるとは、理解していますわよ」
「ほほほ。詰みを認めないのは、せめてもの抵抗ですかな?
あるいはお嬢さんが伏せたカードが逆転の一手となるのか……。
おそらくはブラフだと思いますがな」
流石に見抜かれる、というかこの状況なら伏せカード1枚なんて気にする必要性がないか。
「お可哀そうに。未来ある少女たちの命が、散ってしまいますなぁ」
「憐れむ余裕がおありでしたら、未来あるワタクシ達を生かしても良いのではなくて?」
「ご冗談を。ここで殺さねば、お嬢さん方はまた牙を剥くでしょうからな」
男は朗らかに、骨の浮いた喉を鳴らす。
その様は相変わらず、気さくなお爺さん然としていた。
「というか、『敗者は死ね』、ですぞ」
だからこそ、冷徹に死を告げる男の姿が、ワタクシには死神のように映った。
きっとこの男は、何十、何百と人を殺してきたのだろう。
でないと、こんなにも死に慣れた佇まいは出来ない。
「さぁ、死ぬ覚悟できたなら、ターンエンドの宣言を」
白衣の男が、死を促す。
それに共鳴してか、闇の中に映る者達が、ワタクシを責め立てる。
元気そうですわねぇ、と思いながら、部屋全体を見渡す。
苦しそうにもがくシルヴィユさんが映った。
ごめんなさい。貴方が最高になれる手助けがしたかったけれど、力不足でしたわ。
次に、磔にされている威月さんが映った。
確か、ラーメン屋さんで働いているのでしたか。
一度は食べに行きたかったのですが、叶いそうにありませんわね。
最後に、闇と血溜まりに沈むベニアさんが映った。
貴女とは、お友達になったばかりなのに。
もっと遊んだり、一緒にくだらないことをしたりしたかったですわ。
「あの世でごめんなさいしますわ」
ふっと、笑う。
死ぬなら笑って、だ。
ワタクシの尊敬する先輩達も、きっとそうやって死ぬだろうから。
「ターンエンド、ですわ」
鬼陽子
LP:800
手札:なし
場:剛鬼ヘルトレーナー
伏せ:1枚
ワタクシのターンが終わる。
そして、男が口元を大きく歪ませる。
「ほほほ。楽しいデュエルでしたなぁ」
しゃがれた笑い声が闇を揺らし、波紋が広がる。
勝ちを確信しているのだろう。
初老の男は、酷く上機嫌だった。
「では、最期を飾りましょう。
シルヴィユのターン――――」
――――――乱入ペナルティ。
デュエルディスクの電子音が、響く。
それは、ありえないはずの音だった。
「あははっ。やっと見つけたよ」
聞き慣れた笑い声と、足音。
それが“誰”なのか、振り返らずとも分かった。
「遅くなってごめんね、鬼陽子ちゃん」
優しい声に振り返れば、そこには予想通りの人物の姿。
彼は灰色のカーディガンを揺らし、金色の瞳を細める。
場違いな程に、優しい声。
ワタクシの大恩人で、大好きで、頼れる先輩の声。
「で、ボクは誰をぶっ殺せばいいのかな?」
――――廻理さんはそう言って、前髪をくしゃりとかき上げた。
「廻理さん!」
「おわっと」
衝動的に彼の元へと駆け寄り、勢いのままに抱きつく。
廻理さんは困り笑いを浮かべて、ワタクシの頭を優しく撫でてくれた。
「無事でしたのね廻理さん!良かったですわ!」
「うん、どうにかね。それより抱きしめる力強いね?傷口開いちゃうからもうちょっと優しくしてもらえると嬉しいんだけど」
「本当、安心しましたわァ!マジで死ぬ5秒前でしたもの!」
「あっ、ぎゅぅってされるのは嬉しいんだけど痛い痛い痛いって!」
頭を撫でていた手が、ぱしぱしと背中を叩いてくる。
そこでようやく、彼の身体が傷だらけなことに気づいた。
「あら、ごめんなさい。ワタクシ、嬉しくってつい……」
「あははっ。いいよいいよ。
それより、これは一体どういう状況かな?」
廻理さんが部屋に広がる惨状を眺め、首を傾げる。
「ベニアちゃんは死にかけてるし、何故か威月ちゃんはいるし……。
それとあの少年は何者?ケモミミと尻尾がついてるんだけど」
「彼はシルヴィユさんですわ。信濃井に改造されてああなっていますの」
「なるほど……?
あとそうだ、足元のこの黒いヤツはなに?
見てると嫌なことを思い出すんだけどさぁ」
「それは闇ですわね。トラウマを想起させ、過去の傷を開いてきますわ」
「マジ?ヤバいね」
「ヤバヤバですわよォ」
「……よもや、まだ増援がいたとは」
状況を説明していたところに、信濃井が入ってくる。
それに反応して、廻理さんは目線だけを男にやった。
「これはこれは、可愛らしいお嬢さん……いえ、君は少年ですかな?」
「だね、たまに間違われるけど少年だよ」
「おぉ、素晴らしい。私、見目麗しい少年には目がないものでしてなぁ。
どうです、君、私のペットになりませんか?」
「あははっ。生憎と既に飼い主様がいるからねぇ」
「残念です。どうやら私は、君を盗まねばならないようですなぁ」
「んじゃ、ボクも盗もうかな。おじーさんの命とかさ」
「ほほほ、腕白ですな。大人しくなるよう調教するのが楽しみです」
廻理さんが最後に一度だけワタクシの頭を撫で、前に出る。
それから彼はぐっと伸びをした。
「【ウィジャ盤】か。あと1ターンで完成するみたいだね。
で、ボクは白衣の男……信濃井保磨だけをぶち殺せばOKかな?」
「ええ。シルヴィユさんは被害者ですもの。
殺さない方向でお願いしたいですわ」
「了解。ざっくりと状況は理解できたよ」
廻理さんが振り返り、ワタクシに微笑みかける。
「よく頑張ったね、鬼陽子ちゃん」
「っ!えぇ!ワタクシ、頑張りましたわァ!」
廻理さんの労いの言葉に、ワタクシは明るく答える。
「ちょっと届かなかったり、死にそうになったりしましたけれど!
ワタクシ、本当に、超頑張りましたの!」
成果は、お世辞にも良いとは言えないだろう。
だがそれでも、彼は頑張りを褒めてくれた。
故に、謙遜はしない。
ワタクシは頑張ったのだと受け入れて、喜ぶのだ。
「うん。偉いし凄いよ。
だからさ、もう少し頑張って欲しいんだけど、いいかな?」
「もちろんですわァ!足りなかった分の成果は、サポートで稼ぎますわよォ!」
「あははっ、いいね!頼りにしてるよ鬼陽子ちゃん!」
ワタクシもまた前へ出て、廻理さんと並ぶ。
もう少し褒めてもらうために、もうひと頑張りだ。
「増援には驚きましたが、このターンで【ウィジャ盤】が完成することには変わりなし。
はたして君は、【ウィジャ盤】を破壊できますかな?」
「おっと。おじーさんって神経質なんだね。
【ウィジャ盤】を破壊できるかとか、細かいことを心配してさぁ」
廻理さんが手で顔を覆う。
その手の中で、彼は笑っていた。
「お前が心配すべきは、次のターンまで生きていられるかだけだよ」
殺意が、部屋の中を支配する。
信濃井もそれを感じ取ったのだろう。
男の顔から余裕が消え失せた。
「っ!?君は、一体……!」
「さぁて暴れようか!ボクのターン、ドロー!
まずはマジックカード【テラフォーミング】を発動!
デッキからフィールド魔法を1枚持ってくる!」
「させませんぞ……!手札から【灰流うらら】の効果発動!」
男は直感的に、廻理さんが脅威だと感じ取ったのだろう。
信濃井は初めて焦ったように、カードを発動させた。
「このカードを捨て、【テラフォーミング】の効果を無効にします!
これで、君は止まる……」
「あははっ!これくらいじゃ止まんないことくらい分かるだろうにさぁ!
【
このカードは召喚成功時、手札からレベル4以下の昆虫族1体を呼ぶ!
おいで、【蟲の忍者―蜜】を特殊召喚!」
竜咬蟲
レベル4/ATK1000
蟲の忍者―蜜
レベル2/DEF2100
「【おろかな埋葬】を発動!デッキから【
そして【ヴォイド】の効果発動!このカードは効果で墓地へ送られた場合、フィールドのモンスターの元々の属性の種類と同じだけ、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る!」
「墓地肥やしですと……!
今フィールドにある属性の種類は……!」
「地、水、闇、風の4種類!よってデッキトップ4枚を墓地へ!」
闇の中から炎が吹き上がり、廻理さんのデッキのカードを焼くように拐っていく。
そして燃え盛る炎から、2つの影が飛び出す。
「効果で墓地へ送られた【シャドール・ビースト】の効果発動!デッキから1枚ドロー!
でもって墓地に送られた【ゴキポール】の効果発動!
デッキから【G戦隊 シャインブラック】を手札に加え、そのまま特殊召喚!
さらに【シャインブラック】以上の攻撃力を持つモンスター1体を破壊する!
やっちゃえヒーロー!【闇の侯爵ベリアル】を破壊!」
炎から現れるは、影糸に操られた獣と、黒ずくめのヒーロー。
ビーストは1枚のカードを運び、シャインブラックは破壊を運ぶ。
『ハアァァァーーーーーー!!』
炎を背に飛翔するシャインブラック。
彼は空中で一回転し、勢いのままにベリアルに蹴りを叩き込む。
メキリと靴底が胸部にめり込み、その衝撃によりベリアルは爆発四散する。
『グッ!』
「ナイスヒーロー!助かったよ!」
「ベリアルが破壊されましたか……墓地の【怨念の邪悪霊】の効果発動。
悪魔族・レベル8が墓地へ送られた場合、このカードを手札に加えることができますぞ」
爆散したベリアルの残骸から、悪霊が立ち上り手札に還る。
男はそれを尻目に、廻理さんに目を向けた。
「……久しぶりですよ。人を恐れるのは。
君は、相当な手練ですね?」
「別に手練ってほどじゃないよ。ボクより強いヤツなんてごまんといるだろうしさ」
「ほほほ……君を見ていると、『薬女帝』を思い出しますよ。
君はまるで、あの怪物のようだ」
「げぇ、あのクソアマに似てるとか侮辱もいいとこだよ」
刹那、廻理さんが闇に焦点を合わせる。
そのときの彼の瞳は、嫌そうな、寂しそうな、そんな色をしていた。
「……やっぱ、あの人が映るか」
聞こえるか聞こえないかの声で、そんな言葉を呟いたのを、ワタクシは聞き逃さなかった。
廻理さんは今、闇の中にどんな過去を見ているのだろうか。
「はぁ……マージで嫌なこと思い出しちゃった。
この闇ってやつ鬱陶しいし、さっさとぶっ殺そ。
【夢蝉スイミンミン】を特殊召喚しその効果で【リヴァイエール】を攻撃表示に変更。
でもって【シャインブラック】と【スイミンミン】をリンクマーカーにセット」
どこか気怠げに手を掲げ、廻理さんが天を指す。
「召喚条件は昆虫族モンスター2体。
リンク召喚、リンク2。頼んだよ、【
甲虫装機 ピコファレーナ
リンク2/ATK1000/リンクマーカー:左下 右下
「行くよ。【ピコファレーナ】の効果発動。
手札を1枚捨て、デッキから【応戦するG】を【竜咬蟲】に装備。
そして…………」
廻理さんがおもむろに手を前に向け、告げる。
「レベル2の【蟲の忍者―蜜】にレベル4の【竜咬蟲】をチューニング!」
竜のような虫が緑光の輪へと姿を変え、蜜を包む。
そして輪の中に一筋の閃光が走り、2体のモンスターは調律される。
「地獄に巣食う蜘蛛よ。安らかな闇を手繰り、光なき世界へ救いを垂らせ!
シンクロ召喚!レベル6!織り廻れ、【地底のアラクネー】!」
閃光を裂いて現れるは、蜘蛛の身体に女性の上半身をくっつけたようなモンスター。
彼女は、闇に覆われた世界に目を向けた後、その暗闇へと糸を垂らす。
地底のアラクネー
レベル6/ATK2400
「装備されていた【応戦するG】が墓地へ送られたことで効果発動!
デッキから【クローラー・グリア】を手札に加える!」
アラクネーが糸を引き上げれば、その先には1枚のカード。
廻理さんは蜘蛛の糸を手繰り、カードを手札に加える。
「とりあえずうざったいヤツから潰そうか!
【地底のアラクネー】の効果発動!相手フィールドのモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する!【カース・ネクロフィア】を装備するよ!」
蜘蛛糸の網が広がり、死霊人形を絡め取る。
それだけにはとどまらず、アラクネーはネクロフィアを引き寄せ、そのまま糸でぐるぐる巻きにした。
「手札が足りないな。【ピコファレーナ】の効果発動。
墓地の【ゴキポール】【スイミンミン】【応戦するG】をデッキに戻し1枚ドロー!」
ピコファレーナのリボンがカードを運ぶ。
その1枚に目を通して、廻理さんはにやりと笑った。
「ありがたく頂戴したものは、最大限利用させてもらうよ。
速攻魔法【超進化の繭】を発動!装備カードを装備した昆虫族をリリースし、デッキから昆虫族1体を特殊召喚する!
【地底のアラクネー】をリリース!さぁ這い出せ!【
糸に包まれたネクロフィアが……あるいは繭が割れ、怪蟲が孵化する。
赤黒い触手の塊のような異様な蟲は、贄としてアラクネーを喰らい、脚のような器官で床を引っ掻いた。
「ネクロフィアを上手く処理しましたな……」
「そいつの効果は流石に厄介だからねぇ。墓地の【超進化の繭】を除外して効果発動。
墓地の【地底のアラクネー】をデッキに戻して1枚ドローする
さらにマジックカード【貪欲な壺】を発動。
墓地の【ヴォイド】【シャドール・ビースト】【シャインブラック】【蜜】【竜咬蟲】をデッキに戻し2枚ドロー」
「……まだ動くつもりですかな」
「そりゃぁね」
強張った顔の信濃井に一瞥し、廻理さんは腰に手を当てる。
それから彼は、屈託のない笑顔を浮かべた。
「殺すのに必要でしょ?」
ああ、この人は本当に殺せるんだろうなと、思った。
ワタクシが言っても威嚇にしかならないのに、彼が言うと通達に聞こえる。
現実味を帯びた殺害宣言。
その重みは、老練の男が一番わかっているようで、信濃井はぎりと奥歯を噛み締めた。
「く……やれるものでしたら……!」
「殺るって言ったよ!フィールド魔法【星遺物に差す影】を発動!
その効果で、手札から【クローラー・グリア】を裏側表示で特殊召喚!」
闇が覆う部屋に、無数の赤い光が灯る。
赤い光、否。怪蟲の目は、無感情に獲物の姿を捉えていた。
「そのカードは……!?
まさか、星遺物に連なるカードの使い手……!」
「さてさて!墓地に落としていた【ADチェンジャー】の効果を使うよ!
このカードを除外し、【グリア】の表示形式を変更!
でもって【グリア】のリバース効果で墓地の【クローラー・アクソン】を特殊召喚!」
闇の中から怪蟲が這い出す。
機械的な甲殻と、赤黒い触手のような器官を兼ね備えた蟲達だ。
怪蟲達もまた、感情のない目に男を映しているようだった。
「んじゃ、行こうか!【グリア】と【アクソン】をリンクマーカーにセット!
召喚条件は地属性モンスター2体!
リンク召喚、リンク2!廻れ、【エクスクローラー・シナプシス】!」
2匹の怪蟲を呼び水に藍色の門から現れるのは、堅牢な外骨格に包まれた巨大な蟲。
姿が似ているものを挙げるとすれば、象だろうか?
なんとも形容詞がたい歪な容貌をしたそれは、鋭利な脚でカタカタとステップを踏む。
エクスクローラー・シナプシス
リンク2/ATK1800/リンクマーカー:左 右
「【シナプシス】の効果!リンク先にいるクローラーの攻守を300アップ!
さらにフィールド魔法の【星遺物に差す影】も全クローラーの攻守を300アップさせる!」
エクスクローラー・シナプシス
ATK1800→2100
機怪神エクスクローラー
ATK2000→2300→2600
「こんなもんじゃ止まらないよ!速攻魔法発動!【星遺物の胎導】!
デッキからレベル9モンスター【影依の炎核 ヴォイド】と【ハネクリボーLV9】を特殊召喚!
そして、【ヴォイド】と【ハネクリボー】の2体でオーバーレイ!」
炎の塊めいた騎士と、大翼を持つ毛玉のようなモンスターが、構築された黒い渦に飛び込む。
その内側からは、闇より暗く、怨嗟に満ちた唸り声が上がる。
「黒猫が横切れば不幸が通る!猫に九生、その魂は潰えない!
エクシーズ召喚!ランク9!九つ廻れ、【
黒い渦が弾け、一匹の猫が現れる。
亡霊のような、朧げで所々白骨化した、異形の猫だ。
猫は無数の亡者がくっついたみたいな声で、鳴く。
九魂猫
ランク9/DEF3300
「ぶちかますよ!【九魂猫】の効果発動!
エクシーズ素材を1つ取り除き、自分の墓地のレベル9モンスター1体を特殊召喚する!
さぁ出番だよ!【
煌々と眼をギラつかせ、猫が吠える。
『に゛ゃ゛ア゛あ゛あ゛ァ゛ぁ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛ア゛ア゛あ゛あ゛ァ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ぁ゛!!!』
絶叫。咆哮。ただ呪うようなおどろおどろしい猫の鳴き声。
大音量の呪怨は空間さえ揺らし、その歪から一機、竜が飛ぶ。
それは、機械仕掛けの核熱竜。
どこかしらのタイミングで墓地に落としていたのだろう。
墓地から黄泉帰った機械竜は歯車を回し、高らかに翼を翻す。
古代の機械熱核竜
レベル9/ATK3000
「これは、不味い……!手札から【怨念の邪悪霊】の効果を発動しますぞ!
相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、手札のこのカードを墓地へ送り、自分の墓地の悪魔族・レベル8モンスターを効果を無効にして特殊召喚します!
ここは、【闇の侯爵ベリアル】を特殊召喚しますかな……!」
「壁を増やしたか!だったらこっちも攻め手を増やすよ!
【ピコファレーナ】と【九魂猫】をリンクマーカーにセット!
リンク召喚、リンク3!【
熾天蝶
リンク3/ATK2100/リンクマーカー:上 左下 右下
「【熾天蝶】はリンク召喚成功時に、素材とした昆虫族の数だけカウンターを置く!
でもってこのカードの攻撃力は、カウンターの数かける200アップする!」
カウンター2
ATK2100→2300
「攻撃力を上げてきましたな……!」
「覚悟はいいかな?まぁ出来てなくても関係ないんだけどさぁ!
バトルフェイズ!【機怪神エクスクローラー】で【魔界特派員デスキャスター】を攻撃!」
「させませんぞ!墓地の【ネクロ・ガードナー】の効果を発動!
このカードを除外し【機怪神エクスクローラー】の攻撃を無効にします!」
降り注ぐ触手の群れを、ギリギリのところで防ぐ信濃井。
どこかしらのタイミングで墓地へ落としていましたわね。
本当に、抜け目のないご老人ですこと。
「これで、最悪の事態は防げましたな……!」
「あははっ!最悪がちょっと最悪になっただけだよ!
【エクスクローラー・シナプシス】の効果!このカードのリンク先のクローラーはバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる!」
「馬鹿な……ということは!」
「もう1回殴れるねぇ!今度こそ【機怪神エクスクローラー】で【魔界特派員デスキャスター】を攻撃!」
再び触手が降り注ぎ、今度こそデスキャスターを無慈悲に穿つ。
貫かれたデスキャスターの頭からは脳漿が、腹からは内臓が飛び散り、闇の黒を血の赤で彩っていく。
そして触手はまだ犠牲者を求めるように、デスキャスターを貫いたまま、信濃井へと伸びて……。
信濃井
LP:4000→2400
ぐちゃり。生物的な粘性の音と共に、男の痩せた胴体を突き刺した。
「ぐぅぉっ!?がっ……はぁ……!
い、痛い……!は、腹が焼けるようだ……!」
「ありゃ?もしかしてさ、怪我するのは久しぶりかな?」
「ッ!」
カラカラと笑う廻理さんに、信濃井は目を向ける。
男の顔は、先程までの好々爺のような顔ではない。
もっと生々しい、むき出しの憎悪を滲ませた殺人者の顔をしていた。
「それじゃ、たっぷり思い出させてあげようか!
めちゃくちゃ痛いってことをさぁ!」
廻理さんの頭上で、蝶と機龍が羽を揺らす。
「いくよ!【熾天蝶】で【虚空海竜リヴァイエール】を、【熱核竜】で【闇の侯爵ベリアル】を攻撃!」
巨大な蝶の羽ばたきが海竜を打ち落とし、機械の竜の光線が侯爵を焼き貫く。
その光景はまるで怪獣映画のワンシーン。
ただむちゃくちゃに、ただ無法に、暴力と破壊が繰り広げられる。
信濃井
LP:2400→1700→1500
「この……っ!」
「あははっ!まだまだだよ!【熱核竜】の効果発動!
このカードが攻撃したダメージステップ終了時、フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破壊する!
【ウィジャ盤】を破壊!これで呪いはおしまいだ!」
熱核竜が吼え、その口から熱光線を照射する。
薙ぐような光線の軌道は、闇に包まれた部屋を焼き焦がしていった。
「【ウィジャ盤】を破壊したところで……この私は、殺せませんぞ!」
呪いを薪に燃え盛る業火の中、血と火傷に飾られた老人は声を荒げる。
ただ、廻理さんの目にはもう、男の姿は映っていなかった。
「このターンで殺しきれないのは承知の上だよ!
そもそも本命はお前じゃないからさぁ!」
哄笑する廻理さんが、人差し指を向ける。
「まずはキミからだ!もう少し踏ん張りなよシルヴィユくん!」
その指の先、身体を折りもがき苦しむシルヴィユさんに、彼は告げる。
「いけ!【エクスクローラー・シナプシス】で【月光舞豹姫】を攻撃!」
「馬鹿が!そのモンスターの攻撃力は【月光舞豹姫】よりも下ですぞ!血迷いましたかなぁ!」
「あははっ!確かにそうだね!
だから――――鬼陽子ちゃん!」
「ええ!任されましたわァ!!」
あぁ、この人はワタクシを信じてくれている。
ワタクシが、最後の一手を持っていると、そう信じてくれている。
ええ、しっかりとお役に立ちますわ。
ワタクシは廻理さんの声に応えるように、伏せていたカードを発動させた。
「リバースカードオープン!速攻魔法【鈍重】!
【月光舞豹姫】の攻撃力をその守備力だけダウンさせますわよォォ!!」
月光舞豹姫
ATK2800→300
「ば、馬鹿な……!キミはそこのお嬢さんが何を伏せているかなど分からないはずだったのに……!?」
力を失い膝をつく舞豹姫を目にして、信濃井が狼狽える。
とはいえそれも一瞬だけ。
男はすぐに余裕を取り戻し、表情を歪めた。
「しかし、しかし!シルヴィユの場には伏せカードがある!
これを発動させれば、無問題ですぞぉ!」
言うや否や信濃井は、苦悶に呻くシルヴィユさんを操ろうとする。
不味い。ワタクシ達にはもう、それを防ぐ手立てがない……!
「さぁカードを発動させなさいシルヴィユ!」
「くっ………は、ぁ……!」
まるで操り人形のようにぎこちなく、シルヴィユさんがディスクに触れる。
「……シルヴィユ?」
だが、何も起こらない。
カードが発動することもない。
どれだけ待っても、何の変化もない。
「な、何故です!?シルヴィユ!早くカードを発動させ――――」
「は、はは……っ!ざまぁ、みろよ……クソッタレ……ッ!」
シルヴィユさんが顔を上げ、
そんな彼の足元には、白く綺麗で、赤く汚れた数本の肉が落ちていた。
「っ!?あ、ありえない、自分の指を食いちぎって……!?」
シルヴィユさんの手に、指はなかった。
指がなければ、カードを発動させることもできない。
だから彼は、自分で指をなくした。
「なぁ、おい」
荒い息を吐き、玉のような汗を噴き、激痛に喘ぎながら、彼はワタクシを見つめる。
「おれは、最高か……?」
「何をおっしゃいますの」
ワタクシは彼に、満面の笑みを見せる。
「そんなの、貴方が一番分かっているでしょう?」
「はっ……うるせぇよ」
なんて言うシルヴィユさんは涙と鼻水と血に塗れていて、けれど今までで一番晴れ晴れとしたいい顔をしていた。
「キミは凄いヤツだね。ホント、よく頑張ったよ」
怪蟲が蠢き、無数の赤黒い触手が降り注ぐ。
それは槍の雨が如く、舞豹姫を刺し貫いてく。
「ゆっくり休んでて。次に目が覚めたときは、キミはハッピーな世界にいるだろうからさ」
舞豹姫が破壊され、シルヴィユさんのライフが尽きる。
彼はそれを見届けた後、静かに膝をつく。
シルヴィユ
LP:1800→0
そうして最高になったシルヴィユさんは、どこか満足そうに意識を失うのだった。