※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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 大変お待たせしました!
 信濃井戦、ついに決着です!




第40話 月下戦4――最高脈の甘い闇

 

 シルヴィユくんが倒れ伏したのを見届けて、ボクは――遊針廻理はほっと息をついた。

 どうにかやりきったか。そう考えながら、額の血を拭う。

 

(根性ある子だな、彼)

 

 倒れた銀髪獣耳の少年を見て、思う。

 彼は自分で自分の指を噛みちぎり、デュエルが不可能な状態にしていた。

 

 操られてしまうなら、操られてもいいようにすればいい。

 それは理解できるが、実行に移すには相当の勇気が必要だっただろう。

 

(この成果は、彼と鬼陽子ちゃんのおかげだね)

 

 ボクひとりじゃ、おそらくこの結果には至れなかった。

 ホント、頭が上がらない。感謝してもし足りない。

 

「だから、負けらんないな」

 

 ここまでやってもらって負けたら申し訳が立たない。

 決意を口にし、ボクは再度ターゲットの男を睨む。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド。

 さぁ、足掻くだけ足掻きなよ、おじーさん?」

 

 廻理

 LP:2000

 手札:なし

 場:古代の機械熱鶴竜

   機怪神エクスクローラー

   エクスクローラー・シナプシス

   熾天蝶

 伏せ:1枚

 

「足掻く、ですと……? ほほほ、足掻くというのは切羽詰まった者がすることですぞ」

 

 ふっ、と信濃井の雰囲気が変わる。

 その佇まいに、先程までの焦りは感じられない。

 

「全く、最近の若者は恐ろしいですなぁ。

 何十年の経験を、十年そこらの才能で食らいついてくるのですから」

 

 白衣の男を中心に、闇が波打つ。

 

「しかし、所詮はそこまで。

 全て、全て、全て、闇に沈めて差し上げますぞ!」

 

 ――――来る。

 そう感じると同時に、男はカードを引いた。

 

「私のターン、ドロー! 墓地の【ダーク・オカルティズム】の効果発動!

 このカードを除外し、墓地の【ウィジャ盤】【死のメッセージ】カードを任意の枚数デッキの下に戻し、その枚数分ドローしますぞ!」

 

「墓地には合計4枚ありますから……大量ドローですわね」

 

「さぁ参りましょう! 【死者蘇生】を発動!

 墓地から【闇の侯爵ベリアル】を特殊召喚!

 さらに墓地の【ネクロ・ディフェンダー】の効果発動!

 このカードを除外し、【ベリアル】に戦闘破壊耐性を与えますぞ!」

 

「このタイミングで【ネクロ・ディフェンダー】……?」

 

 信濃井の動きに首を傾げる。

 その効果は有用だが、今ここで使う必要があるだろうか?

 ともすれば無駄な動きだが、この男が無駄なことをするとは思えない。

 

 なにかがおかしい。

 おそらく効果は本命じゃない。

 だとすれば本命は除外すること。

 なら、何故除外したのか?

 

「…………調整?」

 

 考えた末、そんな言葉が口から零れた。

 

「ほほほ……全くもって、君は恐ろしい。

 このカードのことなど知らないはずなのに、極限まで迫ってくるのですから」

 

 男が一枚のカードを掲げた瞬間、さらに大きく闇が波打つ。

 

 いや、波じゃない。

 これは脈だ。

 

 なにかの蠢きが、闇を血潮のように脈打たせている。

 

「このカードは、自分の墓地の闇属性モンスターが5体の場合のみ特殊召喚できます」

 

 脈打つ黒の中心で、男は告げる。

 次の瞬間、夜より暗く冷たい闇が落ちてきた。

 

「ここに降りなさい、――――【闇霊神オブルミラージュ】」

 

 舞い降りたそれは、闇の源泉か。

 深紫の外殻に包まれた、高貴ささえ感じるなにか。

 その名から考えるに、精霊とでも呼ぶべきものか。

 

 ただ、底冷えするような威圧感を振りまく物体が、ここに顕現した。

 

 闇霊神オブルミラージュ

 レベル8/ATK2800

 

「この感じ……特別なカードか!」

 

「御名答。オブルミラージュはそれなりにレアなカードでしてなぁ」

 

 そう評された闇の霊神からは、重力に似たプレッシャーが放たれている。

 ボクのクロックや殺那のボマーと少し似た感覚だ。

 

「はてさて、【オブルミラージュ】の効果を発動!

 デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加えますぞ!

 私は【ダーク・オネスト】を手札に加えますかな!」

 

「よりにもよってソイツをサーチするか……!」

 

「ええ、このターンで皆殺しにして差し上げますからなぁ!」

 

 老いた男が薄ら寒く口元を歪める。

 殺人者の顔だ。殺す算段がついた顔だ。

 

(【ダーク・オネスト】で攻撃力を下げればボクは即死。

 鬼陽子ちゃんもモンスターが2体いれば殺せる。

 不味いな、条件が揃っている……!)

 

 これから起こりうる未来を想像し、奥歯を噛む。

 そんなボクを見て、老人は背を反らし呵呵大笑する。

 

「君には感謝せねばなりませんなぁ!

 お陰で怪我の痛みを思い出し、そして人を殺す悦びを思い出しましたとも!」

 

 しわがれた声が孕むのは、憎悪と嘲笑。

 ボクにやられたのが相当頭に来たらしく、男はひたすらに殺意をぶつけてくる。

 

「これで終わりですなぁ! バトルフェイズ!

 【オブルミラージュ】で攻撃!!」

 

 冷たい暗黒の塊が蠢き、炎に似た闇を放つ。

 これを喰らえば、ライフは尽きる。

 死に誘う闇の焔は、慈悲も容赦もなく、ただボクの眼前に迫ってきた。

 

「リ、バース……カード……発、動……」

 

 闇の火が、突如としてかき消える。

 いや、かき消された。

 誰かが迫る闇を消し去り、守ってくれた。

 

「な、はぁっ!? い、いったい何が……!?

 誰が何を発動させたのですかな!?」

 

 発動させたのはボクじゃない。

 鬼陽子ちゃんに伏せカードはなかった。

 シルヴィユくんは失神している。

 ベニアちゃんも生死を彷徨ってる感じだ。

 

「まさか……」

 

「……トラップ、カード……【威嚇する咆哮】……」

 

 声のした方には、胸を大剣に貫かれ、壁に磔にされている威月ちゃんの姿があった。

 彼女は半死半生の身体に残った力を振り絞り、カードを発動させたのだ。

 

「威月さんッ!」

 

 鬼陽子ちゃんが目を見開き、名前を呼ぶ。

 けれど威月ちゃんは失神していて、反応は帰ってこなかった。

 

「ッ……!? 意識などないはず……!

 なのに何故、カードを発動できるのです……!?」

 

 信じられないといった白衣の男。

 まさか彼女が、こんな状態になってなお戦えるなんて思いもしなかったのだろう。

 

「凄いね、威月ちゃん」

 

 人間、痛みにはいつか慣れる。

 だけど彼女がこんなに痛い思いをしたのは初めてのはずだ。

 それでも、威月ちゃんは戦った。

 痛みに折れず、立派に戦い抜いたのだ。

 

「鬼陽子ちゃん。彼女はまだ生きてるよね?」

 

「ええ! ギリギリですが、息をしていますわよォ!」

 

「なら、その呼吸が止まる前に、片付けないといけないな」

 

「この……ッ! メインフェイズ2!

 【ディアボリカ】を守備表示にし、カードを1枚伏せてターンエンドですぞ!」

 

 歯ぎしりの音と共に、男がターンを終える。

 威月ちゃんに邪魔されたのが相当効いたようで、信濃井の表情には余裕がなくなっていた。

 

 

 信濃井

 LP:1500

 手札:3枚

 場:魔竜将ディアボリカ

   闇の侯爵ベリアル

   闇霊神オブルミラージュ

 伏せ:1枚

 

「ヒャァーハハハハハハァッ!

 威月さんに繋いでもらったこの命、このご恩ッ!

 ワタクシ派手に返させていただき……」

 

「待って、鬼陽子ちゃん」

 

 気合がみなぎりターンを始めようとする彼女を、手で制する。

 

「むむっ、如何なさいました、廻理さん?」

 

「悪いけど、暴れたいって子がいるみたいだからさ」

 

 ざり、と足音が背後でした。

 それを聞いた鬼陽子ちゃんはやや驚いた顔をして……。

 すぐに、納得したような微笑みを浮かべた。

 

「アァ……なるほど。

 でしたら、お譲りいたしますわァ!」

 

 デッキにかけた指を下ろし、彼女は一歩後ろに控える。

 

「そういうわけだから、好きなだけやっちゃってね」

 

「――――はいッ! ここで全部、挽回しますッ!!」

 

 ひとりの少女が、ボクの隣に並び出る。

 それは白髪交じりの黒髪に、右目を眼帯で覆った、血まみれの少女。

 

 ベニアちゃんが、再び立ち上がった彼女が、高らかにターンを開始した――――

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 死の淵の微睡みで、あたしは――ベニアは、みんなを見ていた。

 

 たったひとりでも気高く戦い抜いた鬼陽子さんを。

 助けに来てくれた廻理さんを。

 勇気を出して抗ったシルヴィユさんを。

 死の間際で渾身の力を絞り出した威月さんを。

 

 あたしは、ずっと、見ていた。

 

「馬鹿な……馬鹿な!?

 なぜ、貴女たちは立つ!?

 どうして、貴女たちは死なない!?」

 

 裂けた胸から大量の血を零しながら立つ私に、信濃井は驚愕した顔をする。

 

「どうして、だとか……そんなの……ッ!

 ここで死んだら……カッコ悪すぎるからでしょうがぁぁああぁぁッ!!」

 

 そうだ、あたしは死ねない。まだ死ねない。

 みんなが頑張ってるのに、あたしだけはまだ頑張れていない。

 

 だから、立ち上がる。

 ボロボロの身体も、裂けた胸の痛みも関係ない。

 ここで戦わなければ、あたしは誰にも顔向けできないから。

 

「あたしのターンッ、ドロォォオォッ!!

 2枚目の【冥界の宝札】を発動し、通常魔法【カード・アドバンス】を発動!

 デッキトップ5枚を操作し、アドバンス召喚の権利を獲得しますッ!」

 

 咆哮するようにカードを発動させ、、デッキから5枚を確認する。

 ダメだ、札が悪い。この5枚じゃ勝てない。

 

 だが問題はない。

 デッキトップ5枚分の運命くらいは、簡単に変えられるのだから。

 

「リバースカードオープン! 【墓荒らし】!

 相手の墓地の魔法カード1枚を、手札として使用しますッ!

 ただしそのカードを発動した場合、あたしは2000のダメージを受けます!」

 

「【墓荒らし】ですと……!?

 お嬢さんは一体何をするつもりで……!」

 

「あなたの墓地の【信用取引(マージントレード)】を奪って……発動ォッ!」

 

 瞬間、あたしの全身に激痛が走る。

 まるで体中に電撃が這うような、鋭く焼ける痛み。

 【墓荒らし】の代償、そのダメージだ。

 

 ベニア

 LP:3600→1600

 

「あ、ぐぁ……ッ!!」

 

 悲鳴は噛み殺したものの、死にかけの身体は耐えられなかった。

 意思の強さではどうにもならない、肉体の限界だ。

 ダメージがとどめとなり、あたしはぐらりと傾いてしまう。

 

「ベニアさん! しっかりなさって!」

 

「っ、鬼陽子、さん……!」

 

 倒れそうになったあたしを、鬼陽子さんが支えてくれる。

 ああ、また助けられてしまった。

 まったく、あたしは情けない。

 

「貴女はひとりで戦ってるんじゃありませんわよォ!

 だから、大丈夫ですわァ!」

 

 まるであたしの心を見透かしているかのように、鬼陽子さんは太陽みたいな笑顔を見せた。

 

「好きなだけ頼ってくださいませ!

 ワタクシたちみんなで勝ちましょう!」

 

「鬼陽子さん…………っ!!」

 

 情けないとか、そういうのはまだある。

 けれど、沈んでいる暇は一瞬もない。

 

 鬼陽子さんが、肩を貸して支えてくれる。

 そんな彼女を、あたしは裏切りたくないから。

 

「すいません、もう少しだけ……甘えさせてもらいます!」

 

「構いませんわァ! サポートならお任せをォ!

 ですわよねェ廻理さん!」

 

「もちろん! ボクらに出来ることならなんでもやるから、みんなで勝つよ!」

 

 歯を食いしばり、今一度あたしに活を入れる。

 ここまでやってくれているんだ。

 これ以上の無様は晒せない。

 

「いきます……! 【信用取引】の効果……!

 あたしと廻理さんのそれぞれのデッキを確認し、その中の1枚を選び、互いが選んだカードを手札に加えます!」

 

「了解! いいカードを選ぶよ!」

 

 お互いにデッキの中身を確認し、1枚を選ぶ。

 【信用取引】……本来であれば、役に立つカードが選ばれることは望めない。

 けれど、この状況であれば話は違う。

 

 廻理さんなら、最高の1枚を選んでくれるはずだ。

 それは、あたしの勝手な信用に過ぎないけれど……。

 

「これでいいかな、ベニアちゃん」

 

 廻理さんが選んでくれたカードは――【パンデミック・ドラゴン】。

 それは、あたしが今、欲しかったカードだった。

 あぁ、やっぱり。廻理さんは、信用できる人だ。

 

「はいっ、ありがとうございます!

 そして、廻理さんにもカードを……!」

 

「ベニアちゃんが選んだのは……これか。

 なるほど、任された!」

 

 酷(・)な(・)カ(・)ー(・)ド(・)を選んだが、彼は笑って受け入れてくれた。

 本当にありがたい。頭が上がらない。

 

「今更手札を増やそうとも……私には勝てませんぞ!」

 

「あははっ! それはどうかな!

 ベニアちゃん! ボクは腹くくってるから、存分にやっちゃって!」

 

「恩に着ます……ッ! 手札から【ドラコネット】を通常召喚です!」

 

 ドラコネット

 レベル3/ATK1400

 

「まだです! 【ドラコネット】の効果で、デッキから【プロトロン】を特殊召喚しますッ!」

 

「好きにはさせませんぞぉ! リバースカード発動! 【昇天の剛角笛(グレイトホーン)】!

 相手メインフェイズに相手がモンスターを特殊召喚する際、その特殊召喚を無効にしてそのモンスターを破壊する!

 その後、相手はデッキから1枚ドローし、相手メインフェイズを終了しますぞぉ!」

 

 笛の音が響き、終わりを告げようとする。

 これが通れば、あたしのメインフェイズは終わってしまう。

 

「これで終わりですぞお嬢さんッ!」

 

「いいや終わらせないよ! ライフを半分払い手札からトラップ発動!

 カウンタートラップ【レッド・リブート】ッ!!

 相手の罠カードの発動を無効にし、そのカードをそのままセットする!」

 

「な、なにぃぃい!?!?」

 

 剛角笛の音をかき消すように、けたたましいブザーが鳴る。

 それは、再起動の合図。

 まだ終わらせないと、廻理さんはあたしに時間をくれた。

 

 廻理

 LP:2000→1000

 

「く、ぅぅ……!!」

 

「っ、廻理さん……!?」

 

 半分のライフコストが、廻理さんに多大な痛みを与える。

 彼はすでに傷だらけの死にかけだ。

 その証拠に、廻理さんは肩で息をし、砕けそうなほど歯を食いしばっている。

 

「ボクは、大丈夫だよ! 構わずぶちかましちゃって!!」

 

 絶対に余裕なんかじゃないはずなのに、廻理さんは今も笑ってくれていた。

 

 ……【レッド・リブート】はあたしが選んで、彼に渡したカードだ。

 それを使ったらどうなるかなんて、あたしも廻理さんも分かっていた。

 その上で、彼は勝つために、使ってくれた。

 

 勝たなければいけない理由が積み上がっていく。

 同時に、『絶対勝てる』という確信もまた、積み上がっていく。

 

 あたしはこんなにも、支えられている。

 ならば――――出来ないことなんて、なにもないッ!

 

「ぶち、かましてやりますッ!

 【ドラコネット】と【プロトロン】をリリース!

 アドバンス召喚! 来て、【パンデミック・ドラゴン】!!」

 

 パンデミック・ドラゴン

 レベル7/ATK2500

 

「2枚の【冥界の宝札】の効果で4枚ドロー!

 さらに【パンデミック・ドラゴン】の効果発動!

 ライフを1000ポイント払い、このカード以外の表側表示モンスターの攻撃力を1000ポイントダウンさせます!」

 

 闇霊神オブルミラージュ

 ATK2800→1800

 

 魔竜将ディアボリカ

 DEF0→0

 

 闇の侯爵ベリアル

 ATK2800→1800

 

「攻撃力を下げましたか……!

 だがしかし! お嬢さんはライフコストに耐えられますかなぁ!」

 

「っ、ごぼっ!? ぐ、げぼっ、おぇ、え……ッ!!」

 

 ベニア

 LP:1600→600

 

 口と鼻から咳と一緒に大量の血液が溢れる。

 舌に感じる生臭い鉄の味が、腹部に感じる焼けるような痛みが、煩わしい。

 

「ベニアさん! 頑張ってくださいませ!

 貴女なら! 絶対に大丈夫! まだ踏ん張れるはずですわよォ!」

 

「もち、ろん……ですッ!

 こんなの、全然……余裕なんですからぁぁ!!」

 

 唇から垂れる血もそのままに、あたしは肩を貸してくれる鬼陽子さんに強がってみせる。

 彼女の応援が、頑張りたいあたしの背中を押してくれた。

 

「【パンデミック・ドラゴン】の2つ目の効果を発動ォッ!

 このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つモンスター1体を破壊します!

 これにより【ベリアル】を破壊ですッ!」

 

「く、ベリアルが破壊され――――」

 

「――――まだです!

 手札から【幽鬼うさぎ】を発動!

 あたしの場の【パンデミック・ドラゴン】を破壊します!」

 

 現れた幽鬼うさぎが白い幽霊のようなものを放ち、パンデミック・ドラゴンを破壊する。

 一見すれば、自分のモンスターを破壊する愚行だ。

 けれどあたしは、当然勝利を捨てたわけじゃない。

 

「【パンデミック・ドラゴン】の最後の効果!

 このカードが戦闘・効果で破壊された場合、フィールドの全ての表側表示モンスターの攻撃力は1000ダウンします!」

 

 竜は死した後に、病を遺す。

 それは闇さえも蝕み、力を削いで破滅へと向かわせる。

 

 闇霊神オブルミラージュ

 ATK1800→800

 

 魔竜将ディアボリカ

 DEF0→0

 

「この……! 墓地の【怨念の邪悪霊】の効果を発動!

 悪魔族・レベル8モンスターが墓地へ送られた場合、このカードを手札に加えますぞ!」

 

「関係ありません……! 手札の【デフコンバード】の効果で、手札のサイバース1体を捨ててこのカードを特殊召喚です!

 さらに墓地へ送られた【ドットスケーパー】の効果発動! このカードを特殊召喚します!」

 

「その瞬間に手札から【怨念の邪悪霊】の効果を発動!

 相手が効果を発動した時、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送り、自分の墓地から悪魔族・レベル8モンスター1体を特殊召喚する!

 これにより【闇の侯爵ベリアル】を蘇生しますぞぉ!」

 

 闇から再び、悪魔が浮上する。

 リカバリーが速い。まるで上から抑えつけられているみたいな気分だ。

 

「なにをしようとも無駄ですぞ!

 お嬢さん達は私を超えられない!」

 

「そんな台詞は、勝ってからほざくんですねッ!!

 【二重召喚(デュアルサモン)】を発動し、【デフコンバード】と【ドットスケーパー】をリリース!

 アドバンス召喚ッ! 来て、【スレッショルド・ボーグ】!!」

 

 スレッショルド・ボーグ

 レベル7/ATK2400

 

「【冥界の宝札】2枚の効果で4枚ドロー!

 そして【スレッショルド・ボーグ】の効果! このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターの攻撃力は500ダウンします!」

 

 闇霊神オブルミラージュ

 ATK800→300

 

 魔竜将ディアボリカ

 DEF0→0

 

 闇の侯爵ベリアル

 ATK2800→2300

 

 スレッショルド・ボーグが堅牢な外装から電光を放ち、悪魔たちを焼く。

 鋼鉄人形の光に力を奪われ、闇の悪魔たちの動きが鈍りはじめる。

 

「まだです! 墓地の【デュアル・アセンブルム】の効果発動!

 手札のサイバース族2体を除外し、このカードの攻守を半分にして特殊召喚しますッ!」

 

 部屋を満たす闇から眩い電光が奔る。

 電子の光が呼ぶのは、左右二色の竜……デュアル・アセンブルム。

 

 デュアル・アセンブルム

 レベル8/ATK1400

 

「そして除外された【バランサーロード】の効果により、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚!

 あたしは【ドングルドングリ】を特殊召喚! さらにこのカードは特殊召喚に成功した場合、フィールドに【ドングルトークン】を生成します!」

 

 アセンブルムの誘われ、2体のドングリ状のサイバースが出現する。

 

 ドングルドングリ

 レベル1/DEF0

 

 ドングルトークン

 レベル1/DEF0

 

 鋼鉄人形に、二色の竜に、ドングリのメモリ……。

 それらのサイバースたちが、弱った悪魔たちと対峙する。

 

「雁首揃えてご苦労ですが、そのモンスターで私を倒すつもりですかな!」

 

 暗に「倒せるわけがない」と言うように、信濃井が口元を歪める。

 実際問題、これでは倒せないし勝てない。

 いくら弱体化させたとはいえ、ヤツの息の根を止めるには不十分だ。

 

「貴方の様子を見るに、手札にアドバンス召喚できるモンスターはいない!

 いえ! もう召喚権を増やすカードはないようですなぁ!」

 

 図星だった。

 あたしの手札にはもう魔法カードしかない。

 これ以上の展開は望めない状況だ。

 

「ここまでモンスターを並べられた手腕は認めましょう!

 しかし! お嬢さんは私には届かない! これが現実ですぞ!」

 

「いいえ……ッ!

 あたしは、なにがなんでも届かせてやりますッ!!」

 

 遥か高くに伸ばすように、あたしは天を指差す。

 届け、届けと、強く念じるような指先。

 その延長線上で、藍色に彩られた幾何学模様の門が構築される。

 

「ッ、リンク召喚……!」

 

「さぁ、いきましょう――!

 あたしは、【デュアル・アセンブルム】【ドングルドングリ】【ドングルトークン】をリンクマーカーにセットッ!」

 

 3体のモンスターが門に飛び込めば、幾何学模様の藍色が点灯する。

 これより呼ぶのは、あたしの切り札。

 この場を満たす冷たい闇よりも、深くて甘い闇。

 

 ――――あたしの、暗闇。

 

「星の始まり、連綿と綴られた繁栄の軌跡!

 これなるは、その甘い闇の真なる名ッ!」

 

 幾何学模様の門が開かれ、内側から闇が滴る。

 真っ暗なそれは床を浸す闇に触れた瞬間にジュッ、と音を立てて、侵食していく。

 

「リンク召喚! リンク3!

 高鳴れ、アイラブユーの心拍音――――ッ!!」

 

 熱く、甘く、柔らかな闇の雫が溢れる度に、あたしの脈が加速する。

 ドク、ドク、ドク……ドクドクドク、ドクンッ!

 弱った身体のか細い心臓が強く跳ね、恋に侵された少女のように全身に熱が巡る。

 

 その熱が、その脈拍が、最高潮に達した時、門から闇色の騎士が放たれる。

 

「来て――――【ダークナイト@イグニスター】!!」

 

 顕現するのは、あたしの切り札。

 暗い紫色のラインに彩られた、黒いサイバース。

 愛情みたいな温かな闇を纏う黒騎士が、手にした剣を構える。

 

 ダークナイト@イグニスター

 リンク3/リンクマーカー 左下 下 右下/ATK2300

 

「見たこともないようなカード……!?

 お嬢さんは一体、何者なのですか……!」

 

 ダークナイトを前にし、信濃井が表情を崩す。

 対してあたしは、毅然として男を睨む。

 

「何者だとか、そんなの……!」

 

 残った力のありったけを奮わせ、あたしは吼える。

 

「お前をッ、ぶちのめす者ですよぉぉおおぉぉぉッ!!」

 

 喉から血が吹き出すほどの咆哮が大気を揺らす。

 血走った眼がかっ開かれて敵を射抜く。

 傷だらけの身体に見合わぬ殺意を迸らせ、勢い任せにあたしは突き進む。

 

「バトルフェイズッ! 【スレッショルド・ボーグ】で【闇霊神オブルミラージュ】を攻撃!」

 

 信濃井の残りライフは1500。

 この攻撃が通れば、一撃で削りきれる。

 

「うぉおぉぉあぁぁぁぁぁぁッ! 死になさいぃぃいぃッ!」

 

「私は、死にませんぞぉぉ!

 手札から【ダーク・オネスト】の効果発動ッ!」

 

 これが通れば勝てるのに、まだ勝てない、通らない。

 黒い翼の天使が、あたしを阻む。

 

「自分の闇属性モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時からダメージ計算前!

 このカードを手札から墓地へ送り、その相手モンスターの攻撃力をターン終了時まで、その攻撃力分ダウンさせますぞぉッ!!」

 

「クソッ……!!」

 

 闇の霊に殴りかかるスレッショルド・ボーグの力を、黒い天使が無にする。

 急速に力を失った電子人形は、そのままオブルミラージュの返り討ちに遭い、バラバラに砕かれてしまった。

 

「そして戦闘ダメージが発生!

 さぁお嬢さん! その死にかけの身体は持ちますかなぁぁ!!」

 

 オブルミラージュの闇から黒色の金属の刃が無数に形成され、射出される。

 一本でも突き刺されば、ただでは済まないだろう。

 

 それでも耐えてやる。耐えて、あいつをぶっ殺してやる。

 殺意混じりの意思を固くし、あたしは全力で歯を食いしばる。

 

 その瞬間、あたしの目の前に、紫色の髪が飛び込んできた。

 

 ベニア

 LP:600→300

 

「っ、いぎ、ぁ……あはは……っ!

 余裕しかないな……!」

 

 廻理さんがあたしを庇い、刃でズタズタに切り裂かれて吹っ飛ばされる。

 彼は無惨に切り裂かれ、断面からはむき出しの肉と飛び散る鮮血が覗いていた。

 生きてはいるみたいだが、それでも床に転がり倒れる廻理さんは半死といった有様だ。

 

「廻理さん!? なんで……!」

 

「死にそうだったらさぁ! 庇うくらいは、するよ!」

 

 自らの血に濡れた顔に強気な笑顔を作って、廻理さんは檄を飛ばす。

 

「ボクのことはどうでもいいや!

 そのまま進んで、ベニアちゃんッ!」

 

「ッ、はい!!」

 

 廻理さんから視線を外し、信濃井を――今、戦うべき敵を見据える。

 立ち止まっている時間なんてない。

 進むんだ、あたしは。

 みんなに支えられたあたしは、絶対に勝つんだ!

 

「ほほほッ! 生き延びたからどうだと言うのです!

 【スレッショルド・ボーグ】が破壊されたことで、モンスターの攻撃力は元に戻りますぞぉ!」

 

「構いません! 【ダークナイト@イグニスター】で【闇霊神オブルミラージュ】を攻撃ッ!」

 

「ならば手札から【抹殺の邪悪霊】を墓地へ送り発動!

 自分の墓地の悪魔族・レベル8モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚し、攻撃対象をそのモンスターに移し替えてダメージ計算を行いますぞ!

 私は【カース・ネクロフィア】を蘇生し、【ダークナイト】の攻撃対象を移し替えますよぉ!」

 

 カース・ネクロフィア

 レベル8/ATK2800

 

「【カース・ネクロフィア】の攻撃力は2800!

 返り討ちでくたばりなさいッ!」

 

「誰がくたばるもんですかぁぁッ!

 速攻魔法【蛮勇鱗粉(バーサーク・スケールス)】を発動!

 【ダークナイト】の攻撃力を1000ポイントアップさせますッ!!」

 

「なんですとぉ!?」

 

 進むって決めたから、あたしは絶対に止まらない。

 それが蛮勇でもなんでも突き進み、必ず敵の喉笛に噛みつき仕留めてみせる。

 

「これで攻撃力はこちらが上です!

 ぶった斬って! ダークナイトォォッ!!」

 

 闇色の騎士が急加速し、誘引する怨霊人形に突っ込む。

 その前進には一切の迷いはない。

 ただ真っ直ぐに、最高速で迫り、剣を煌めかせる。

 

 信濃井

 LP:1500→1000

 

「あがぁぁあぁぁぁッ!?!?

 こ、この……ッ! 無軌道な子供の分際でぇ……ッ!!」

 

 一閃。ネクロフィアを両断した刃が、同時に信濃井を斬る。

 袈裟懸けに斬りつけられた男は、怨霊みたいに深い憎悪の籠もった顔をした。

 

「だが、だがしかしぃ!

 これ以上攻撃できるモンスターはいない!

 貴方は私を殺せなかった! 私に届かなかった!」

 

「まだ終わりじゃありませんッ! 【ダークナイト@イグニスター】が戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分の墓地からサイバース族モンスター1体を選んで特殊召喚できます!!」

 

 ダークナイトを中心に、この場に満ちる闇が上書きされはじめる。

 男の冷たく辛い闇から、あたしの熱く甘い闇へと変化し、その暗黒からモンスターが浮かぶ。

 

「リ・コーリング・ラブ・ミー! 戻ってきて、【デュアル・アセンブルム】ッ!」

 

 浮上するのは、紅と藍の二色の電子竜。

 ダークナイトの闇からあたしに引き上げられたアセンブルムは、電光を瞬かせて吼え叫ぶ。

 

 デュアル・アセンブルム

 レベル8/ATK2800

 

「なんだ……何なのですか!?

 皆が皆、重傷だというのに! 全員が死にかけだというのに!

 何故、貴方達は諦めない!? 何故そこまでして私に喰らいつくのです!?」

 

 後退りする信濃井。

 男の頬には冷や汗が伝い、怪物でも見るような目で、あたしたちを見ていた。

 

「みんなが、頑張っていたからッ!

 だからあたしは、なにがなんでもテメェの命に手を伸ばすんですよッ!!」

 

 今この瞬間を作ったのは、みんなだ。

 廻理さんが、鬼陽子さんが、威月さんが、シルヴィユさんが、この状況まで持ってきた。

 その最後にあたしが立つのなら、彼らの死闘に殉じないと胸を張れない――!

 

「これで、終わりですッ!

 【デュアル・アセンブルム】で【闇霊神オブルミラージュ】を攻撃!!」

 

「こんな……怪物共に、負けてなるものですかぁ!!

 手札から【ジュラゲド】の効果を発動ぉ!

 このカードを手札から特殊召喚し、1000ライフを回復ですぞぉッ!!」

 

「ッ!? ここに来てですか……ッ!」

 

 信濃井

 LP:1000→2000

 

「さらに【ジュラゲド】はリリースすることで自分フィールドのモンスターの攻撃力を1000アップさせられるますぞ! 私はこの効果を使って――――」

 

「あはは……ッ! 使わせやしないよ!

 リバースカードオープン! 永続トラップ【生贄封じの仮面】!」

 

 信濃井保磨の起死回生を砕いたのは、廻理さんが放った1つの仮面だった。

 

「このカードが存在する限り、お互いにカードをリリースできない!

 これで【ジュラゲド】は使い物にならなくなる!!」

 

「う、嘘でしょう……!?

 こんな、こんなことが、ありえるはずがあぁぁあぁぁッ!!!」

 

 自らの末路に気づき、老練の男が絶叫する。

 しわがれていて割れるように甲高い、断末魔だ。

 

「「ベニアちゃん(さん)ッ!!」」

 

 悲鳴の中でもはっきりと、その二人の声は聞こえた。

 廻理さんと、鬼陽子さん。

 あたしの信頼できる人たちの想いが、背中を押してくれる。

 

「はいッ! 最後に、かましてやりますッ!

 いっけえぇぇぇええぇ!! デュアル・アセンブルムゥゥッ!!」

 

 老人の絶叫を打ち消すくらいの大音量で、とどめを告げる。

 それを合図にアセンブルムから紅と藍の二色の雷が、暗い部屋に溢れ出す。

 やがて雷は二条の光線となり、信濃井に向けて放たれた。

 

「ぎぁあああぁぁぎゃぎゃあがぁあぁあああっ!?!?

 ありえないありえないありえないぃぃいいぃぃ!!!!」

 

 二色の雷光線は老人を包み込み、その熱量と衝撃で徹底的に破壊していく。

 超高電圧の光に焼かれる刹那、信濃井保磨の走馬灯になにが映ったかは分からない。

 ただ男は、あたしたちに負けたという事実を疑い続け――――

 

 信濃井

 LP:2000→0

 

 ――――やがて全身真っ黒の炭となって、絶命したのだった。

 

 

 

 





 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
 楽しんでいただけましたら幸いです!
 信濃井戦が終わり、この章も残すところエピローグのみとなります!

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