※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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お待たせしました!
廻理&ベニアVS殺人犯、決着です!
はたしてどのような結末に至るのでしょうか…?
どうか、お楽しみください!



第7話 それはまるで悪魔のような

 勝負は決まった。

 女の心をへし折った以上、続行は不可能だ。

 

 ……なんて思ってしまうやつは、裏デュエル界で生き残れないけどね。

 

「ぁ……あぁ……!ド、ロ……」

 

 電雷に焼かれた殺人犯が、震える足で立ち上がり、ターンを始める。

 残念。このまま寝ててくれたら、サレンダー扱いで殺せたんだけどなぁ。

 

 女はカードを引き、泣きながら手札を確認している。

 おそらく、現状を切り抜ける方法を全力で考えているのだろう。

 それこそ命がけ、それこそ死ぬ気で。

 一手でも誤れば、惨たらしく殺されることになるのだから。

 

(まぁ、命がけなのはこっちもだけどね)

 

 そう、ボクらだって命を賭けているのは変わらない。

 こちらも頭を働かせて、ぶち殺す(勝利する)方法を模索し続けなければならない。

 

 精神面では、こちらが圧倒的に有利だ。

 ベニアちゃんの攻撃は、たしかに殺人犯の心をへし折ったことだろう。

 

 だが、心を折り、身体を焼いただけだ。

 デュエルはまだ終わっていない。

 そして、終わってない以上……誰にもでも勝ちの目は存在する。

 

 ボクもベニアちゃんもそれを理解しているからこそ、緊張の糸を緩めることができずにいた。

 

(逆転の手があるとすれば……ア(・)レ(・)が出てくることか。

 今のライフ差が5800だから……うん、攻撃を通したら即死だね)

 

 あの殺人犯のデッキに投入されているであろう1枚のカードを思い浮かべる。

 それは、逆転の一手。

 ボクらを一撃で焼き殺せる切り札。

 

(……【エンシェント・ホーリー・ワイバーン】。たぶん、EXデッキに入ってるだろうな)

 

 エンシェント・ホーリー・ワイバーン。

 レベル7のシンクロモンスターで、素材に光属性チューナーを要求するカード。

 

 その効果は、自分のライフが相手より多い場合にそ(・)の(・)差(・)の(・)数(・)値(・)だ(・)け(・)攻(・)撃(・)力(・)を(・)上(・)げ(・)る(・)というもの。

 単純にして、この状況においては凶悪な自己強化能力である。

 

「ベニアちゃん。まだ気を緩めないでね」

 

「了解です……っ!」

 

 注意を促せば、ベニアちゃんは殺人犯を凝視したまま答える。

 どうやら彼女も、油断はしていないようだった。

 

「っ…………アロ、マ……セラフィ……ぁ、あ……アン、ゼリカ…ぁ」

 

 焼けただれた殺人犯の指が、1枚のカードの効果を発動させる。

 使用したのは【アロマセラフィ─アンゼリカ】。

 手札から墓地に送り、自分の墓地の【アロマ】モンスターの攻撃力分だけ自分のLPを回復するモンスター。

 この効果により、殺人犯は【カナンガ】の攻撃力分だけ回復する。

 

「はぁ……はぁ……っ!う、うぅ……!」

 

 小さな妖精が翅を震わせ、女の周囲を飛ぶ。

 それに伴い緑色の淡い粒子が空を舞い、殺人犯の火傷を治していった。

 

 殺人犯

 LP:9200→10600

 

「へぇ、治って良かったね?おかげで、また壊せるよ」

 

「ひっ!?」

 

 笑いかけてあげれば、女は引きつった悲鳴を上げて、ガタガタと震えだした。

 歯を鳴らし、心細いのか自分で自分を抱きしめて、怯えている。

 

 その様子を見ながら、ボクは別のことを考えていた。

 

(【アンゼリカ】は自己蘇生ができるレベル1の光(・)属(・)性(・)チ(・)ュ(・)ー(・)ナ(・)ー(・)、か……)

 

 短期決戦。

 ふと、そんな言葉が浮かんできた。

 

 この女は恐怖で折れている。

 今にも逃げたいと思っているだろうが、逃げることはできない。

 ならば、早急に決着をつけようとするのは当然と言えるだろう。

 

「はっ、はぁ、はぁっ…っぁ……!ぁ、【アロマージ─ジャスミン】……!」

 

 召喚されるのは、【アロマージ─ジャスミン】。

 先程のターンで手札に加えていた、銀色の髪の小柄な少女だ。

 

 アロマージ─ジャスミン

 レベル2/ATK100

 

「【ローズマリー】……!通常、召喚……!」

 

 続いて召喚されるのは、美しい青髪の女の子。

 髪色と同じく青い衣装に身を包んだ少女……【アロマージ─ローズマリー】が現れた。

 

 アロマージ─ローズマリー

 レベル4/ATK1800

 

(【ジャスミン】の効果による召喚権の増加で召喚されたか。

 でもって、【ローズマリー】のレベルは4と)

 

 殺人犯のフィールドにはレベル2の【ジャスミン】が。

 そして墓地には、蘇生可能なレベル1チューナーの【アンゼリカ】がいる。

 

(出せる状態ではあるけど……この感じは違うな)

 

 

「【アロマガーデニング】、で……1000、回復……!」

 

 殺人犯

 LP10600→11600

 

「……【ジャスミン】と、【ローズマリー】の……こ、効果ぁ……!

 1枚、ドロー、し…………でゅ、【デュアル・アセンブルム】を……守備、表示に……!」

 

 ライフ回復をトリガーとして、【アロマ】たちの効果が発動する。

 【ジャスミン】の効果は、デッキからのドロー。

 そして【ローズマリー】の効果は、表側表示モンスターの表示形式の変更。

 

 青い花弁が舞い、蒼紅の電子龍を惑わせる。

 やがて目を回した【デュアル・アセンブルム】は、ゆっくりと地面に寝転がった。

 

 デュアル・アセンブルム

 DEF1000

 

「あ、アセンブルムゥゥゥーーーー!働いてくださいぃーーー!!」

 

 ベニアちゃんが自分のモンスターに叫ぶが、電子龍は困った顔をするばかりだった。

 

「しょうがないよベニアちゃん。効果は根性じゃ耐えられないんだから」

 

「むむむ……って、今はそれどころじゃないんでしたね……!」

 

 そう言って、ベニアちゃんは視線を電子龍から殺人犯に戻す。

 その目の先では、女がカードを発動させていた。

 

「【おろかな埋葬】……で、デッキ、から、【スポーア】を……墓地、へ……!」

 

 カタカタと歯を震わせ、怯えながらも、その女はプレイングを続ける。

 

 死にたくない。

 そんな思いがひしひしと伝わってきた。

 

(自業自得、因果応報ってやつだろうに。

 キミが汚し、殺してきた少女だって死にたくなかったさ)

 

 ……この女は、そんなことも分かっていないのだろうけど。

 はぁー。思わずため息が出てしまった。

 

「【スポーア】の、効果…ぁ………ぼ、墓地の【カナンガ】を、除外…して……特殊召喚……」

 

(で、【スポーア】はその効果で特殊召喚したとき、除外したモンスターのレベル分だけ自身のレベルを上げると)

 

 スポーア

 レベル1→4/DEF800

 

 緑の葉が舞い、それと共に毛玉みたいなモンスターが飛び跳ね現れる。

 けれど、飛び跳ねる【スポーア】のその顔はお通夜みたいに暗く沈んでいた。

 

 いや、【スポーア】だけではない。

 フィールドの【ジャスミン】も、【ローズマリー】も、【マリーナ】も。

 全員が暗く、辛そうな顔をしていた。

 

 あぁ、別に彼女たちは、自らの主の心配をしてるわけじゃない。

 彼女たちの主である殺人犯は、サイコデュエリストの能力でキミたちを実体化させて、酷いことをしてきたんでしょ?

 

「…………安心しなよ」

 

 精一杯の優しい笑顔を作って、花の少女たちと跳ねる毛玉に語りかける。

 

「キミ達の気が晴れるくらい、ソイツは凄惨にぶっ殺すさ。

 その後は、まともなデュエリストの手に渡るように善処するよ」

 

「………!そうですね!あたしも!頑張ります!すっごく!」

 

 隣のベニアちゃんも、花の少女たちが辛そうな顔をしていたのに気づいたのか、励ますように大声を上げる。

 眩しく、晴れやかな表情と、元気な声だった。

 

 それを見て、聞いたモンスターたちは、顔を上げて……ほんの少しだけ、瞳に光を灯した。

 

「なに…よ……!なんで……!私に、尽くせよぉ……!」

 

 その様子を見た殺人犯は、その怯えきった表情に怒りを滲ませて、カードを叩きつける。

 

「レベル2の、【ジャスミン】にぃ……レベル、4の【スポーア】をチューニング……っ!」

 

 飛び跳ねる【スポーア】が4つの光の輪となり、【ジャスミン】を取り囲む。

 やがて光輪の中心から眩い光が広がり、銀髪の女の子が溶けて、姿を変える。

 

(レベルの合計は6……【スイート・マジョラム】か)

 

「シンクロ召喚……!【アロマセラフィ─スイート・マジョラム】」

 

 光の中から現れるは、深い緑色の髪の、大人の女性。

 黒い衣装をなびかせ、翅を広げた女性は、その綺麗な顔を曇らせる。

 それは暗に、呼び出されたくなんてなかったと行っているように見えた。

 

 アロマセラフィ─スイート・マジョラム

 レベル6/ATK2200

 

「【スイート・マジョラム】の、効果ぁ……!デッキから、【恵みの風】を手札に……!」

 

 確か、シンクロ召喚成功時にデッキから特定のカードを持ってくる効果だったか。

 で、今回は【恵みの風】をサーチしたと。

 

「ベニアちゃん、気をつけて。【スイート・マジョラム】はライフが多い時、フィールドの植物族を効果対象にさせない効果があるから」

 

「なるほど…………ですが、問題ありません!」

 

 チラリと手札を確認した後、ベニアちゃんが力強く答える。

 ふむ、なにかしらは持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ということか。

 

(持ってるカードにもよるけど……【デグレネード・バスター】はここで破壊されるかな。

 えーと、次に動くとすれば、【アロマガーデン】で回復して…………)

 

「【アロマガーデン】の効果……!ライフを、回復し……攻守、を500……上げ、る…!」

 

 殺人犯

 LP11600→12100

 

 姫葵マリーナ

 DEF1600→2100

 

 アロマージ─ローズマリー

 ATK1800→2300

 

 アロマセラフィ─スイート・マジョラム

 ATK2200→2700

 

(で、【スイート・マジョラム】の効果が発動。

 ライフ回復時にフィールドのカードを破壊する、と)

 

「【スイート・マジョラム】……でぇ、……【デグレネード・バスター】を、破壊ぃ…!」

 

「くっ……こんなことなら、早めに【デグレネード・バスター】の効果を使っておけばよかったです……!」

 

 ベニアちゃんが苦々しく吐き捨てる。

 とはいえ、これは仕方がないだろう。

 

 【マジョラム】が出た時点で植物族は効果対象にできない。

 ベストは尽くしたけど、盤面が悪かったね。

 

「ですが、タダでは終わりません!【スイート・マジョラム】の効果発動時に、手札に【幽鬼うさぎ】の効果を発動です!」

 

「ゆ、【幽鬼うさぎ】……!?う、そ……っ!?」

 

「【幽鬼うさぎ】はフィールドのモンスターの効果が発動したとき、このカードを墓地に送って、そのモンスターを破壊します!

 そして【幽鬼うさぎ】の効果は対象を取る効果ではないため、【マジョラム】の耐性には引っかかりません!」

 

 深緑の女性が杖を振るえば、甘い匂いと共に葉が降り注ぐ。

 その緑葉が電子の超人を貫く……と同時に、白髪和装の小さな女の子が現れる。

 少女……【幽鬼うさぎ】が手を伸ばせば、白い幽霊のようなものが【マジョラム】を通過して、その姿を攫っていった。

 

 しかし【幽鬼うさぎ】の効果は、あくまで“破壊するだけ”だ。

 効果を無効にはできないから、【デグレネード・バスター】は破壊される。

 とはいえ、ここで【マジョラム】を破壊できたのは大きい。

 

「っ、ぅ……【マリーナ】ぁ……!植物族が、破壊されたときぃ……カードを、破壊……!」

 

「……それは防げません。通します」

 

 向日葵の姫が、ベニアちゃんの伏せたカードの1枚を破壊する。

 破壊されたのは……【ミラーフォース】か。

 結構いいカード仕掛けてたなぁ。破壊されたのが残念だ。

 

「【マリーナ】を、攻撃表示に……バトルフェイズ……!

 【ローズマリー】、で……【デュアル・アセンブルム】を攻撃…!…死、ねぇ……っ!」

 

 恐怖の中に憎しみを浮かべた殺人犯が命令すれば、青色の少女が花弁を飛ばす。

 対して【デュアル・アセンブルム】は抗うことをせず、静かに花弁を受け入れ、爆ぜた。

 

「……ごめんなさい、【アセンブルム】」

 

「ぁ、あぁ……!【マリーナ】でぇ、攻撃ぃい……!」

 

 ベニアちゃんが目を伏せる一方で、女は攻撃を飛ばしてくる。

 向日葵の姫が心配そうな顔で襲いかかってくるが…………

 

「させません!トラップ発動、【カウンター・ゲート】!

 直接攻撃を無効にし、あたしはデッキから1枚ドローします!」

 

 ……ベニアちゃんも、そのまま攻撃を通すほど弱くはない。

 防がれた【マリーナ】はどこかホッとした様子で、殺人犯の場に戻っていった。

 

「くっ……!?止められ、た……!?」

 

「【カウンター・ゲート】は、ドローしたカードがモンスターであった場合、通常召喚する効果もありますが……今回引いたのはモンスターではありません」

 

「あははっ!命拾いしたね!」

 

 笑い声を響かせて、相手にプレッシャーをかける。

 こうやって精神的優位を維持しつつ、恐怖を煽ってまともなプレイを妨害する。

 うん、マナーは守ってないし、楽しくデュエルというか感じではないな。

 

「ぅ、う……っ……ぅ……」

 

「残念ながら、キミがなにをやってもボクらに傷をつけることは叶わないよ。

 それより大丈夫かな?このままだと、次のターンでまた痛いのを味わうことになるけどさぁ?」

 

「ひっ……!わ、私……は、カードを、3枚……伏せて……ターンエンド」

 

 

 

 殺人犯

 LP:12100

 場:姫葵マリーナ

   アロマージ─ローズマリー

 伏せ:3枚

 手札:1枚

 

 

 

「よし。ナイスだよベニアちゃん。このターンをノーダメージで終わらせたのは大きいよ!」

 

「え、えへへ……頑張り、ました……!」

 

 これに関してはマジで上手く動かしたと思う。

 というのも、ベニアちゃんが伏せていた2枚の罠と手札にあった【幽鬼うさぎ】のことだ。

 このカードたちは、なにも偶然そこにあったわけじゃない。

 

 これらは、前のターンの【カード・アドバンス】で操作したデッキトップの5枚のカードだ。

 つまり、彼女は最終的になにをドローし、どのような盤面に持っていくかを計算して並び変えたのだろう。

 

(ただ召喚権を増やすために使ったのかと思ったけど……しっかり考えてたわけか)

 

 この少女はしたたかで、先を見通している。

 弱々しく見えるその姿は、本当は擬態なんじゃないだろうか?

 そんな考えさえ浮かんできてしまう。

 

「あははっ!ベニアちゃんに負けてられないなぁ!」

 

 これでも一応、ボクは先輩だからね。

 ちょっとカッコつけてみせるとしよう。

 

「いくよ!ボクのターン、ドロー!

 まずは通常魔法【九字切りの呪符】を発動!

 手札のレベル9モンスター【古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)】を墓地へ送り、デッキから2枚ドローするよ!」

 

 さぁて、なにが引けたか。

 できればこのターンで【クオリアーク】を並べて一気に終わらせたいが……

 

「うーん…………【クオリアーク】には繋げらんないな」

 

 悪くはないけど、ワンキルに持ち込めるカードじゃないね。

 いやぁ、残念。【クオリアーク】を出せたらライフ12100くらい削り切れたんだけどなぁ。

 

「ま、それならそれだ。よりエグく行こう。

 手札のモンスターをセットし、【星遺物の傀儡】の効果発動!

 セットしたモンスターの表示形式を変更するよ!

 これによりリバースした【クローラー・グリア】の効果!

 墓地の【クローラー・レセプター】を特殊召喚するよ!」

 

 クローラー・グリア

 レベル2/ATK700

 

 クローラー・レセプター

 レベル2/ATK900

 

「どんどん行くよ!【グリア】と【レセプター】をリンクマーカーにセット!

 召喚条件はリバースモンスター2体!

 リンク召喚!頼むよ、【サブテラーマリスの妖魔】!」

 

 2匹の怪蟲が夜空に浮かび、三角形を組み合わせた藍色の門を形作る。

 その内側から飛び立つは、地底世界の妖魔。

 桃色の髪の美しき幻竜が、ここに舞い降りた。

 

 サブテラーマリスの妖魔

 リンク2/リンクマーカー:左下 右下/ATK2000

 

「【サブテラーマリスの妖魔】の効果を発動!

 デッキからリバースモンスターを墓地に送り、手札の【禁忌の壺】を裏側表示で特殊召喚!」

 

「【禁忌の壺】……ですか…………」

 

 隣のベニアちゃんが険しい顔をする。

 あぁ、ボクとデュエルしたときは、これでモンスターが全滅したもんね……

 

「あははっ、先に説明しておこうかな?

 【禁忌の壺】には4つの効果がある。

 デッキから2枚ドローする効果。

 フィールドの魔法・罠カードを全て手札に戻す効果。

 相手フィールドのモンスターを全て破壊する効果。

 相手の手札の見て、その中の1枚をデッキに戻す効果」

 

「っ…………!」

 

「どれも禁止級の効果だよ。というわけで死のうねぇ!

 墓地の【ADチェンジャー】の効果発動!【禁忌の壺】を表側攻撃表示に変更してリバース効果発動!相手フィールドの全てのモンスターを破壊するよ!

 

 現れるは禍々しい巨大な壺。

 壺の中でなにかが笑い、それと同時に雷が降り注ぐ。

 災厄を思わせる稲妻の雨は、花の少女たちを貫いていく。

 

「あっ!加減してやりなよ!?あの子らも被害者なわけで……え?静電気みたいなもの?うーん、流石!」

 

 ちょっと不安になったので【禁忌の壺】に注意してみたが、心配はいらなかったようだ。

 試しに壺から溢れる電撃に触れてみたが、たしかに静電気くらいの痛みしかない。

 

「そ、そんな……わたしの……肉壁がぁ……ぁあ……!」

 

「あははっ!そんな風に扱ってるから愛想尽かされるんだよ!

 【禁忌の壺】がリバースしたことで【サブテラーマリスの妖魔】の効果が発動!

 墓地の【クローラー・グリア】を手札に加えるよ!

 さらに手札から【マジック・プランター】を発動!

 永続罠の【星遺物の傀儡】を墓地へ送り、デッキから2枚ドロー!」

 

 役目を終えた罠が、2枚のカードに変換される。

 おっ、いい感じのカードが引けたねぇ。

 

「さぁさぁ行くよ!速攻魔法【星遺物の胎導】を発動!

 自分フィールドのレベル9モンスターと種族・属性が異なるレベル9モンスター2体をデッキから特殊召喚するよ!

 さぁ、おいで、【影依の炎核(ヘルシャドール) ヴォイド】【ハネクリボーLV9】!」

 

 禁忌なる壺から、2体のモンスターが現れる。

 光と共に現れるは、夜を焦がす炎で象られた鎧。

 もう1体は、紅い鎧に身を包んだ、羽の生えた毛玉みたいなモンスター。

 

 影依の炎核 ヴォイド

 レベル9/ATK2900

 

 ハネクリボーLV9

 レベル9/DEF?

 

「【ハネクリボーLV9】の攻守は、相手の墓地の魔法カードの数かける500になるけど……今回はどうでもいいや」

 

 そう呟くと、【ハネクリボー】は驚いたみたいな表情をした。

 『えぇ~!そんなぁ~!』とでも言うかのような顔だった。

 

 しょうがないじゃん。あの女の墓地の魔法カードは【おろかな埋葬】くらいしかないし。

 そもそも、火力を求めてキミを呼んだわけでもないんだから。

 

「大型モンスターが…………一気に、2体も……!?」

 

 現れた2体……主に【ヴォイド】を見て、女がガタガタと震えだす。

 ふむ、【ヴォイド】の攻撃を喰らう未来を想像しているのだろうか。

 

「あぁ、安心してよ。【星遺物の胎導】で特殊召喚したモンスターは、攻撃できないし、エンドフェイズに破壊されるから」

 

「え…………」

 

 それを聞いて、女は胸を撫で下ろした。

 攻撃できないデメリットを聞いて、助かったとでも思ったのだろうか。

 

 だとしたら、とても惨いことになる。

 だって、なんにも助かってはいないのだから。

 

「あははっ。ボクもそろそろ、先輩としての威厳ってやつを見せないといけないからねぇ……」

 

 腕を前へと伸ばし、告げる。

 新たなるモンスターを呼ぶための、その言葉を。

 

「行こう。【影依の炎核 ヴォイド】と【ハネクリボーLV9】でオーバーレイ!」

 

「っ!?ま、まさか……!?」

 

「オーバーレイってことは……え、マジですか!?」

 

 地を覆うようにして、黒い渦が形成される。

 それに伴い、【ヴォイド】と【ハネクリボー】が光となって、渦に飛び込む。

 

「黒猫が横切れば不幸が通る。猫に九生、その魂は潰えない!

 エクシーズ召喚!ランク9──────」

 

 黒い渦が弾け、鳴き声が響く。

 亡者の声がいくつも重なったような、不気味な鳴き声が。

 

「────九つ廻れ!【九魂猫(ナインライブズ・キャット)】!!」

 

 そこにいたのは、ところどころが白骨化した、紫色の猫だった。

 亡霊のように朧げなその猫は、爪を構え、殺人犯を威嚇するように睨む。

 

 九魂猫

 ランク9/DEF3300

 

「廻理さん……エクシーズ召喚できたんですね……!」

 

「先輩だからね。リンク召喚しか能がないわけじゃないとも」

 

 ベニアちゃんがビックリしたような感じの目で見てくる。

 まぁ、リンク召喚しか見せてなかったからね。

 それがいきなりエクシーズ召喚なんて使いだしたらそうなるかな。

 

 いやぁ、どうせだからこのまま融合、シンクロ、儀式まで見せてあげたいけど……

 

「……今はエクシーズだけで十分か。

 【九魂猫】の効果発動!エクシーズ素材を1つ取り除き、自分の墓地のレベル9モンスターを蘇生する!」

 

 猫が吠える。

 

『に゛ゃ゛ア゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛ア゛ア゛あ゛あ゛ァ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ぁ゛!!!』

 

 猫とは思えないほどに歪んで、濁った、亡霊(猫)の咆哮。

 絶叫とでも言うような鳴き声が大気を揺らし、空間を歪ませる。

 そして歪んだ空間から、一機の竜が飛翔する。

 

「さぁ、出番だよ!派手にかましてやって、【古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)】!」

 

 夜空を舞うは、歯車の機械竜。

 駆動音を響かせて、【古代の機械熱核竜】は黄泉より現れ、その翼を翻した。

 

 古代の機械熱核竜

 レベル9/ATK3000

 

「さぁ!痛いことをしよう!

 まずは【古代の機械熱核竜】でダイレクトアタック!」

 

「っ!トラップ、発動ぅ……!聖なるバリ─────」

 

「あははっ!【古代の機械熱核竜】が攻撃するとき、ダメージステップ終了時まで相手は効果を使えないよ!」

 

「そんな……!?じゃ、じゃあ……!!」

 

「丸焼きってことさ!殺っちゃえ熱核竜(リアクター)!」

 

 瞬間、夜が赤く光った。

 機械竜の口部から放たれた火砲。

 超高熱の赤いビームは暗闇を照らし、一直線に女に迫る。

 

「やめ──────」

 

 女がなにかを言う前に、光線は女の腹部を蒸発させた。

 

「────え?」

 

 呆けた顔、なにが起きたのか理解できていない顔。

 現状が理解できず、脳の処理が止まっているのだろう。

 けれど、それも一瞬のこと。ほんの僅かな現実逃避。

 

「……あ、ぁぁ、ああぁぁあぁああぁあぁああああぁぁぁぁぁぁああああああ!?!?

 ぎゃあぁああぁぁあぁああぁぁあいたいいたいたいたいぃぃあぁぁあああぁぁ!?!?」

 

 一拍遅れて、耳をつんざくような悲鳴が上がる。

 腹の肉が蒸発した熱さ。身体に穴が空いた激痛。

 普通に生きてたらまず味わうことはない痛みだ。

 

 そりゃ耐えられるわけがない。

 女は地面に膝をつき、口をパクパクと動かして、どうにか激痛を処理しようとしていた。

 

 殺人犯

 LP12100→9100

 

「痛がってるところ悪いけどさぁ、【熱核竜】は攻撃するとフィールドの魔法・罠を破壊できるんだよねぇ。というわけで、キミの伏せてる恐らくは【ミラーフォース】であろうそのカードを破壊するよ!」

 

 機械の竜が翼を振るえば、その風で伏せられていたカードが破壊される。

 

 さて、これで伏せカードは残り2枚。

 そのうちの1枚は【恵みの風】。現状では使い物にならないカードだ。

 で、もう1枚は……どうだろ。まぁ、確認の意味も含めて誘ってみるかな。

 

「もう一丁!【禁忌の壺】でダイレクトアタック!」

 

 「…………………………とら……ぷ…」

 

 【禁忌の壺】の攻撃に合わせて、女が罠を発動させる。

 

「発動したのは……【ドレインシールド】か。

 へぇ、2枚積んでたんだ」

 

 壺の中から放たれた雷が、薄い緑色の障壁に阻まれ、生命力に変換される。

 2枚目の【ドレインシールド】により、女の腹の穴は修復され、おおよそ塞がれた。

 

 殺人犯

 LP9100→11100

 

「けど、まだ残ってるんだよね。やって、【サブテラーマリスの妖魔】」

 

 指示を飛ばせば、妖魔は雄叫びを上げて殺人犯へと突進する。

 その勢いのまま、幻竜は爪を振り抜き、女をズタズタに切り裂いた。

 

「がぁっ!?………ぁ…が、ぃ…………あぁ……!」

 

 爪に裂かれた衝撃で、女は盛大に吹っ飛ぶ。

 5メートルくらい地面を転がったか。

 結構ざっくり爪が入ったし、骨も折れただろうね。

 妖魔が爪を叩き込んだのは胴体だから……内臓もかなり壊れたかな。

 

 殺人犯

 LP11100→9100

 

「ふむ。ボクはカードを1枚…………いや、2枚伏せようかな。これでターンエンドだよ」

 

 

 廻理

 LP4000

 場:サブテラーマリスの妖魔

   禁忌の壺

   古代の機械熱核竜

   九魂猫

 伏せ:2枚

 手札:2枚

 

 

 ふーむ、欲を言えばもう少しダメージを与えたかったな。

 とはいえ、ボクのデッキは果敢に攻めるより、ジワジワやる方が得意だしなぁ。

 まぁ、やるだけのことはやったかな。うん、多分そうだ。

 

 さて、ターゲットの様子は、と…………おっ、立ち上がった。

 胴体を切り裂かれ、腹を焼き穿たれて、それでも折れないかぁ。

 

 顔は涙とか血とか鼻水とかでグチャグチャだし、喉からは嗚咽が溢れている。

 けれどまだ、目は死にきってない。

 勝てる、生き残れる、そういう確信を持っているような、そんな目だ。

 

(あの手札……【ローンファイア・ブロッサム】とかかな。

 たぶん、【ジャスミン】の効果でドローしたときに引いたな。

 で、次のターンで効果を使ってレベル6の【ベルガモット】を特殊召喚。

 そのまま墓地の【アンゼリカ】を特殊召喚してシンクロ、ってところだろうね)

 

 そこまで展開を考えて、思わずため息で漏れる。

 さっさと殺そ。

 ボクも加虐趣味はないし。

 

「わた…………ど、ろ……ぉ……」

 

 なんて考えていたら、哀れな人殺しがターンを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしは、なんでこんな、めに…………

 いたい、いたい、いたい、いたい、よ

 

「わた…………ど、ろ……ぉ……」

 

 ゆび、ふるえてる

 なみだで、みえない

 ううん……ち、たりなく、なって……

 

 こわいよぉ……!いたいよぉ……!

 なんで……わたし……わるいことしてないのにぃ…!

 

「それがキミのラストドローなわけだけど、いいカードは引けたかな?」

 

 びくんっ

 こえ、こわい

 ばけもの、ばけもの、ばけもの……!

 いき、できない

 こわい、こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわい!

 

「っ…………あ、ぁ……!」

 

 こわい、こわい、こわい

 

 けど……けど!

 まだ、わたしには……希望が、ある…!

 

「はっ、はぁっ、はっ、はっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 息が荒い。恐怖と激痛で身体は限界。

 今、自分がどうなっているかなんて知らない、知りたくない。

 だけど、これだけ痛いってことは、メチャクチャになっているのだろう。

 

 大丈夫、あと少しの辛抱だ。

 勝つ算段はついている。

 目の前の悪魔どもは私を舐めている。

 だからこそ、私に逆転の手があることに気づけていない。

 その隙きをつければ、私はまだ助かる……!

 

「まじ、く……さ、ぁぐ……さ、【サイクロン】……!」

 

「げぇっ?!ここで除去!?」

 

 化け物が、焦った顔をした。

 焦っている。あれほどに余裕だった、あの悪魔が。

 それは、つまり……あの伏せカードに、なにかある、ということ……?

 

「あ、あはは……なにを破壊するのかな?あっ、ベニアちゃんの【冥界の宝札】とかかなぁ?」

 

 わかりやすく、化け物は私を誘導しようとする。

 確信した。伏せているカードを破壊されると、奴は困るのだ。

 

「…………ふせ、てる……右の、カード……」

 

 暴風が、罠を破壊する。

 

「っ!?マジかぁ……!」

 

 それを見た化け物が、引きつった笑みを浮かべた。

 

「…………2分の1の大当たりだよ。

 ごめん、ベニアちゃん。迂闊だったかも」

 

「えぇ!?やらかしたんですか!?

 先輩としての威厳がどうとか言ってたのに!?」

 

「うぐっ……!」

 

 悪魔が申し訳無さそうに目を伏せる。

 その様子に、私は安心を覚えていた。

 

 そういえば、前のターンで奴はカードを何枚伏せるかで悩むような素振りを見せていた。

 なぜか?おそらくは……1枚は伏(・)せ(・)な(・)く(・)て(・)も(・)い(・)い(・)カ(・)ー(・)ド(・)だったからだ。

 

 つまりは、ブラフ。本命を隠すための、囮。

 悪魔……廻理の様子から、そんな考えが浮かんでくる。

 

(…………勝った…?奴にはもう…妨害札がない……?)

 

 言うならば、地獄に救いの糸が垂らされたような、そんな気分。

 希望は繋がったのだ。

 諦めなずに、頑張ってよかった。

 

 私はまだ────生きられる。

 

「っ!わ、わたし、は……【ローンファイア・ブロッサム】を、召喚、っ……!」

 

 生きられる、生きられる、生きられる!

 その事実が、私に力を与えてくれる。

 胸いっぱいに暖かい感情が広がり、力強く私を突き動かす。

 

「【ローンファイア・ブロッサム】を、リリースし……効果、ぁ……!

 デッキ、から……べ、【ベルガモット】をぉ………特殊、召喚……っ!」

 

「まずい……っ!」

 

 花火のように燃える【ローンファイア・ブロッサム】が弾け、新たなるモンスターが現れる。

 【アロマージ─ベルガモット】。私の、最後の駒。

 

 アロマージ─ベルガモット

 レベル6/ATK2400

 

「墓地、の……【アンゼリカ】…ぁ!この、カードを……蘇生、する……!」

 

 アロマセラフィ─アンゼリカ

 レベル1/ATK0

 

 自分のライフが相手より多く、かつ自分の場にアロマモンスターがいるとき、【アンゼリカ】は墓地から特殊召喚できる。

 そしてこれで……ようやく、あのカードを召喚できる!

 

「レベル、6……【ベルガモット】に……レベル1、ぁ、【アンゼリカ】を……チュー、ニング…!」

 

 妖精が光の輪となり、【ベルガモット】を通過する。

 すると輪の内側から光が弾け、美しき白竜が飛び上がる。

 

 これが、私の切り札。

 あの悪魔どもを殺す、最強のカード。

 

「────【エンシェント・ホーリー・ワイバーン】!!」

 

 純白の竜が今、夜空に浮かび上がる。

 

 その光景が目に映り、気づけば私は涙を流していた。

 

 あぁ、私は助かった。

 あの悪魔どもを、これから白竜が殺してくれるんだ。

 

 【エンシェント・ホーリー・ワイバーン】の攻撃力は、相手のライフを上回っている数値分だけ増える。

 そして私と奴らとのライフ差は5100もある。

 よって、その差だけ攻撃力は上昇し…………

 

 エンシェント・ホーリー・ワイバーン

 レベル7/ATK2100→7200

 

 攻撃力、7200。

 もう誰にも止められない。

 これで、終わりだ。

 

 助かったんだ、私は。

 諦めなかったから、頑張ったから、報われたんだ。

 

 ありがとう、これで私は、この先も女を蹂躙できる。

 怪我が治ったら真っ先に女をレイプさせて、尊厳を踏みにじり、無残に殺してやろう。

 

「や、った…!やった、やったぁ、ぁああぁ……っ!!」

 

 自然と顔がほころぶ。

 私に待つ無限の未来。

 楽しく、蹂躙と快楽に満ちた希望の明日。

 それが今、私の目の前にあるんだ……!

 

「いやぁ、これは参ったなぁ…………あはっ!あははは!あははははは───────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────はい。【奈落の落とし穴】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言で、私の希望は奈落に消えた。

 

 

「…………………………………………え?」

 

 なにが起きたのかわからない。

 うそ、なんで、どうして、え、なんで、なんで、なんで

 

「あー、怖かった。【冥界の宝札】が破壊されたら困ったでしょ、ベニアちゃん」

 

「それはそうですけど!メチャクチャ焦りましたよ!?廻理さん、ホントにやらかしたんじゃないかって!」

 

 化け物たちがなにかを話している。

 けれど私は、現実を受け入れられずにいた。

 

 誘導。

 すべては、化け物の手のひらの上。

 あの言動は全て、伏せているカードを破壊されることを怖れてのことではなかった。

 あれは単純に、発動している【冥界の宝札】を破壊されることを嫌っての言動だったのだ。

 

 それを、私は都合よく解釈して、助かったのだと誤解しただけ……?

 救いの糸なんて、はじめからなかったの……?

 

「さて、キミの切り札は【奈落の落とし穴】によって除外されたわけだけど、まだ何かすることはあるかい?」

 

 呆然とする私に向けて、化け物が笑った。

 

「ぁ、ああ………!ああぁ、ぁぁ……!」

 

 気づけば私は、地面に膝をついていた。

 

「うん、なにもできないよね。手札はゼロで、墓地から発動できるカードもないんだから」

 

「い、いや……!いや、いや……!まって、まってよぉ!」

 

 いやだ、このままターンが終わったら……!

 死にたくないターンを渡したくない待って待って待って

 

「遅延行為は認められないよ。ほら、さーん、にー……」

 

「ま、待って!待ってくださいおねがいします待って待ってまってまって────」

 

「──ゼロ。じゃあ、ベニアちゃん。よろしく」

 

「了解です。あたしのターン、ドロー。

 廻理さんの【サブテラーマリスの妖魔】さんと【禁忌の壺】をリリース。

 来て、【デモニック・モーター・Ω】」

 

 デモニック・モーター・Ω

 レベル8/ATK2800

 

「お、お願いします……許して、許してくださいぃ……!」

 

「【冥界の宝札】で2枚ドローし、手札の【ダークネス・シムルグ】の効果発動。

 このカードを手札から特殊召喚します」

 

 ダークネス・シムルグ

 レベル9/ATK2900

 

「やだやだやだぁ!殺さないで、お願いだからぁ!私、反省しましたぁ!だからどうかどうかどうかぁあぁ!」

 

「通常魔法【二重召喚(デュアルサモン)】を発動して通常召喚権を増やします。

 そして【古代の機械熱核竜】さんと【九魂猫】さんをリリース。

 アドバンス召喚。来て、【セグメンタル・ドラゴン】」

 

 セグメンタル・ドラゴン

 レベル7/ATK2600

 

「ひ、人を殺したのがいけないんですよね!?じゃあもう殺しませんからぁ!

 自分のモンスターを犯して殺すのでぇ!それで我慢しますからぁ!!」

 

「【冥界の宝札】で2枚ドロー。

 さらに【デモニック・モーター・Ω】の効果を発動です。

 このモンスターの攻撃力を1000ポイントアップします」

 

 デモニック・モーター・Ω

 ATK2800→3800

 

「バトルフェイズです」

 

「いや、いやあぁあああ!!たすけてっ!たすけてくださいぃ!!

 しにたくない死にたくない!ころさないでぇぇぇえええぇぇ!!」

 

 モンスターたちが、動く。

 悪魔みたいな赤い機械が、黒い巨鳥が、電子の竜が。

 ゆっくりと、私に迫ってくる。

 

 内股が温かいもので濡れている。

 いつの間にか失禁してしまったのだろう。

 

「たすけてぇぇぇええ!!パパ、ママぁ!!いやぁああ!!

 こわいこわいこわいしぬのっ、いやぁぁあああああああぁぁあ!!」

 

 子どもように泣き叫び、嫌だ嫌だと喚き散らす。

 死にたくない、死にたくない、もう痛いのは嫌、助けて、誰か

 

「【セグメンタル・ドラゴン】【ダークネス・シムルグ】【デモニック・モーター・Ω】でダイレクトアタックです」

 

「やめてぇぇええぇぇぇええぇぇええ!!ゆるしてえぇぇぇぇえぇぇぇっ!!」

 

 電子の竜から閃光が迸り、私の両手両足を焼き尽くす。

 

「ぎゃああぁぁああついあついあちぃぃいぃあつぃいいいいあぁぁああああああああ!?!?」

 

 あまりの痛みに倒れれば、黒い大鳥がそのくちばしで私の腹を食い破り、臓物を喰らう。

 

「お゛っ!?あ、ががががっ、がぁああああぁぁぁいたいぃぃいたぃいい!?!?たべっ、たべないでぇぇえええぇぇえぇ!!」

 

 喉から血が溢れる。

 身体が暖かい、血まみれだから、ぬるぬるして、温い。

 なのに、寒いよぉ……からだ、つめたいよぉ……

 

「ぁ………………」

 

 涙のせいか、死が近いせいか、視界がぼやける。

 そのぼやけた世界で、赤い機械が動くのが見えた。

 

 あ、死ぬ。あれ、死ぬ、死んじゃう

 機械が腕先の大きな刃を振りかぶる。

 だめ、いや、死ぬ、いや、いやいやいやたすけてゆるして

 声が出ない、助けも求められない

 こわい、しにたくない、ごめんなさい、ゆるしてください、こわい、ころさないで

 

「……わ…ぁ……た………わる、く……な…ぃ」

 

「ふざけたこと言わないでください」

 

 冷たい声と共に、機械が振り下ろされる。

 

 その切っ先は、どこまでも無造作に

 乱雑に、無慈悲に、残酷に、

 

 

 私の頭を、貫いた

 

「ああ゛ああぁぁぁあぁ゛ぁ゛あ゛あああぁぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛ああああ゛あああぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!?!?!?」

 

 からだ、はねる

 め、みえない

 みみ、きこえない

 

 いたい

 こわい

 つらい

 こわい

 

 きえる

 わたしが

 しぬ

 しんじゃう

 

 おちる、きえる

 いや、こわい、こわい、こわいこわいこわい

 しぬしぬ、しにたくないしぬしにたくないしにたくないしにたくな────

 

 

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛っ」

 

 

 重い刃が、もう一度、突き刺さる

 

 痛みで、壊れた脳が焼ききれて

 

 

 ────────わたしは、くらやみに、きえた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの殺人犯をぶっ殺してから数日後。

 ボクとベニアちゃんは『孤児院』の広間で新聞を広げていた。

 

「うん、載ってるね。あの女の殺害事件について」

 

「えっ?ど、どこですか……?」

 

「あはは。ほら、ここ。片隅だけど、猟奇殺人事件って感じで載ってるよ」

 

 新聞を指差してベニアちゃんに教えてあげる。

 そうして記事を読むと、彼女は顔をしかめた。

 

「うわっ……あたしたち(犯人)のこと、『悪魔』とか書かれてます……」

 

「そりゃ客観的に見て悪魔だからねぇ」

 

「うぅ…………それはそうですけど……」

 

 ベニアちゃんが口をとがらせて文句を言う。

 確かにボクらが殺したこの女はクズだったが、じゃあボクらが正義の味方かって言うと違う。

 

「人殺しなんてするもんじゃないよ。褒められたことじゃないしさ。

 ま、ボクらは飼い主さまの意向次第で殺らなきゃいけないけど」

 

「世知辛いです…………」

 

「あははっ!世知辛いかぁ」

 

 しゅんとするベニアちゃんを見て思わず笑ってしまう。

 対する彼女は不服そうに頬を膨らませた。

 

「ごめんごめん………………あぁ、そうだ」

 

 ひとつ、聞きたいことを思い出した。

 新しく入ってきた子には、いつも聞いてきた言葉だ。

 

「『孤児院』での初仕事が終わったわけだけど、どうかな?ここでやっていけそう?」

 

 目の前に座る少女の目を見て、聞く。

 ベニアちゃんは少し驚いたように目を見開いて、ゆっくりと答える。

 

「…………廻理さんと、一緒にいるの………けっこう、居心地いいですから」

 

「そっか」

 

 これは、彼女なりの肯定。

 居場所を求めて裏デュエル界に堕ちてきた少女の答え。

 

 それは少なくとも、彼女はこの場所を『居場所』だと捉えているということだ。

 なら、ベニアちゃんは大丈夫だろう。

 十分、この世界でもやっていける。

 

「いいね、じゃあ、改めてだけど――――」

 

 にっこりと笑って見せる。

 彼女のこれからを祝って。

 最大限の歓迎をこめて、ボクは笑顔を浮かべる。

 

「――――ようこそ、『孤児院』へ。

 これからよろしくね、ベニアちゃん」

 

 ベニアちゃんは、目を点にして、それから不器用に口角を上げる。

 

「は、はい……!よろしく、お願いします!」

 

 こうして正式に、ボクに可愛い後輩ができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、そうだ。またお仕事が来ててさ」

 

「えぇ……『孤児院』ってこんなに忙しいんですか……?」

 

「ブラック企業だからねぇ」

 

 違法組織に労基はない。

 業務内容も形態もブラックの極みだ。

 

「まぁ、今すぐにって仕事じゃないよ。けど、数日後には頑張らないといけないよ」

 

「…………その…廻理さんも、来てくれる感じ……ですか…?」

 

「うん、そうだね。ボクとベニアちゃんと、あともう一人で挑むことになるかな」

 

 そう言うと、ベニアちゃんは安心したような表情を浮かべた。

 自分一人ではないと分かって、ほっとしたのだろう。

 

「安心しました…………それで、今回はなにを……?」

 

「えーと、今回はね────」

 

 そうしてボクは、仕事の内容を説明する。

 

 

 思い返せば、それがこの一件の始まりだった。

 複雑怪奇で、色んな人の欲望や情が絡まりあった、大破局。

 そんな事件に足を突っ込んでしまった、その発端だった。

 

 

 

 

 

 

 

「────あるお屋敷の地下に発生した迷宮と、そこに住まうサイコデュエリストの殺害だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊戯王Cruel 令嬢ダンジョン攻略編、開幕

 

 




読んでいただき、ありがとうございます!
これにて『新人研修編』は終了となります!
次回からは新しいエピソード、『令嬢ダンジョン攻略編』が開始します!
ご期待ください!

プロットを練る都合上、2週間ほどお時間をいただきます。
次のエピソードはハイペースで投稿したいですね…!

最後に、感想や評価、お気に入りなど、ありがとうございます!
とっても嬉しく、そして励みになりました!
『新人研修編』を書き上げられたのは、皆さまの応援のおかげです!

まだこの作品は続いてきますが、読んでくださる皆さまに楽しんでいただけるよう、これからも頑張ります!
ありがとうございます!
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