遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
日常パートです!
車を走らせること2時間。
ボク、殺那、ベニアちゃんの三人は、まさしく豪邸というような、大きな家の前にいた。
「ほへぇ……これが、件の『鳴金家』ですかぁ……」
「大きい、ね。【巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅲ】と、同じ、くらい?」
「そこまで大きくないよ」
助手席に座る殺那にツッコミを入れつつ、駐車場を探す。
「これ何処に停めればいいんだ……?
無免だから人目につく場所には停めたくないんだけど」
「あ、やっぱり無免許だったんですね……」
「館の、車庫、とか、貸して、もらえない、かな?」
「そうしたいの山々だけど、門が閉まってるし…………ん?」
館の前をぐるぐる回りながら悩んでいると、突然門が開けられた。
その向こう側、家の敷地には、執事と思しき男性が立っていた。
「『入っていいよ』、って、こと、かな?」
「どうなんでしょう…………?」
「まぁ、違ったら謝っとけばいいや」
アクセルを軽く踏んで、館の中に入れてもらう。
それを見た男性は、ボクらに対してある一方向を指差す。
その先には、この館の駐車場があった。
「駐車場、広い、ね。ドリフト、できそう」
「やんないからね」
「えー」
「えー、じゃないよ」
安全運転で車を停めて、シートベルトを外す。
そのままドアのロックを解除して、車から降りることにした。
「わぁ……金持ちの家の空気です……」
「あははっ。今のうちに吸えるだけ吸っとこう。貴重な機会だしさ」
「袋に、詰めて、持ち帰ろう。高値で、売れる」
長時間の運転で凝った身体を解しつつ、周囲を見た渡す。
広い。そして大きい。
一目で金持ちの家と分かる、立派なお屋敷だ。
庭も馬鹿みたいに広い。たぶんサッカーとかできるレベルだ。
はたして、人間が住むのにここまでの面積が必要なのだろうか?
あるいは、金持ちは異常に広い家に住まなければならないルールでもあるのか。
いずれにせよ、ド貧民のボクはその無駄に大規模な家に圧倒されるばかりだった。
「……お前らが『孤児院』とかいうとこのクソガキか?」
館を眺めていたところに、先程の執事姿の男性が声をかけてくる。
歳は30代くらいだろうか。
酷く無愛想で、露骨に嫌そうな顔した男だ。
それになんというか……この人はどうにも、汚い。
顔立ちや髪型、それに空気が、なんともいえない不快感を滲ませている。
とはいえ、この人は仕事の相手だ。
ボクが何を感じようが、それ相応の対応をするべきだろう。
「ですね。なんか話をもらったんで来ました」
「…………上がれ」
それだけ言って、男は館のほうへと歩き出す。
おそらくは、着いてこいということだろう。
「態度……めっちゃ悪いですね……」
「どう、する?殺す?」
「すぐ殺そうとするんじゃないよ」
三人で話しながら館の中に上がる。
ふむ、家の中も豪華だ。
廊下が無駄に長いし、横幅も広い。
そして壁際には絵画や陶器といった芸術品が飾られていた。
コテコテの豪邸だが、いざ見ると空気に飲まれてしまいそうになる。
こんなことなら、もう少しちゃんとした格好をしたほうが良かっただろうか。
とはいえ、ボクはいつもの黒ズボンとシャツ、それと灰色のカーディガンしか持っていないが。
ちなみにベニアちゃんは殺那が着せていたゴスロリ衣装ではなく、白いワンピースを着ている。
潰れた右目を包帯で覆い、おどおどとする姿は、彼女をより一層弱々しく見せていた。
「…………?…か、廻理さん、廻理さん」
廊下を歩いていると、ふと後ろを歩いていたベニアちゃんが袖を引っ張ってきた。
「ん?どうしたの、ベニアちゃん」
「あ、その………誰か、見てます…」
「ん?……あぁ、ホントだ。よく気づいたね、ベニアちゃん」
ベニアちゃんの背後。
歩くボクらの背中を、何者かが見ている。
それは、金色の髪の少女。
短く切り揃えた髪に、ドクロを模した髪飾り。
下はショート丈のパンツに、上はシャツ。腰にはパーカーを巻いている。
活発、というよりガラが悪そう、といった表現が似合うか。
その少女は、キリリとした目でボクらを睨みつけていた。
「ど、どうしましょう……?」
「放っておけばいいよ。見られているだけだし」
はたして彼女が何者なのかは気になるが、かといって干渉する理由もない。
実害がない以上、放置するしかないだろう。
「着いたぞ」
気づくと、ボクらの目の前には扉があった。
どうやら、この執事はここまで案内していたようだ。
そのまま執事はドアをノックする。
対して部屋からは、ただ一言、「入れ」とだけ返ってきた。
「へぇ。これはボクらが入ったほうがいいヤツです?」
確認のために聞くと、執事は舌打ちをした。
ふむ、Yesってことか。
「じゃあ遠慮なく。失礼しまーす」
「失礼、します」
「し、失礼します……」
ボク、殺那、ベニアちゃんの順番で部屋に入っていく。
部屋にはテーブルが1つと、それを挟むように置かれたソファーが2つ。
雰囲気と家具の配置からして、応接室といったところか。
そしてそこには、ひとりの男がいた。
壮年の、神経質そうな男だ。
「本当にガキだな。ちゃんと使えるんだろうな?」
その男は挨拶もなしに、えらく不愉快そうに言い捨てた。
(コイツが依頼主かぁ……)
(資料に、あった、ね。名前は、『
(態度…悪いですね……)
三人でコソコソ話しつつ男──鳴金雄太郎を観察する。
どっしりとソファーに座った男の腕には、金色の高そうな腕時計。
それに……ポマードの臭いだろうか。
どうにもこうにも、男からは不快な臭いが漂っている。
クソみたいな大人。
それがボクから見たこの男の第一印象だった。
「フン。話は聞いてるだろうな?お前らには害虫駆除をしてもらう」
「あー、サイコデュエリストを殺せって話でしたね。詳しく聞いてもいいですか?」
「学のないクズが喋るな。空気が汚れる。
いいからさっさと殺してこい」
あーあ、こりゃダメだ。
じゃあなんで呼んだんだよ、とか色々言いたいことはあるが……
コレと話しても楽しいことはなさそうだ。
「じゃ、早速お仕事に取り掛からせてもらいますねー」
笑顔を作って部屋を出る。
「あははっ、お邪魔しましたー」
態度がそれなりにムカついたので、出る際に手のひらを舌で舐めて、そのままソファーに唾を擦り付けてやった。
「あっ、壊し、ちゃった」
殺那も苛ついていたようで、彼女は去り際にドアノブをねじ切っていった。
「し、失礼しました……!」
なお、ベニアちゃんは閉まる扉の隙間から鳴金雄太郎に向けて中指を立てていた。
パタリ。ドアが閉まって、不愉快な男の姿が消える。
廊下は、シンと静まっていた。
「やっぱ、殺す?殺す?」
「裏デュエル界のクズじゃないから殺しはなしだよ」
「むぅー」
相手が死んでも仕方がないクズなら、舐めた態度を取った時点でぶん殴るなり殺すなりする。
だが、鳴金雄太郎もあの執事も、一応は一般社会の人間だ。
ムカついたからぶっ殺す、というのはあまりにも短絡的な話といえるだろう。
「あれ?そういえば、あの執事さんは?」
「…………いません、ね…」
ざっと探してみたが、あの執事はどこにもいない。
「参ったな。件の地下室まで案内して貰いたかったんだけど……」
「いない、なら、仕方が、ない。家探し、だね」
「うぅ……クソみたいです……」
館に着いてから話した連中がどいつもこいつもクソだったせいか、ベニアちゃんもしょんぼりしている。
ボクも殺那もガン萎えだ。いや、歓迎されるような立場ないことは理解しているが、それでも冷遇されたいわけではない。
せっかく来てあげたんだから、もうちょっと丁寧にもてなされたかったというのが本音だ。
「とりあえず地下だから……1階のどこかにはあるか」
「地下室の、ありそうな、場所……物置、とか、かな?」
「だね。とりあえず、その辺を当たってみるかな」
そんなこんなで件の地下室を探すこと数分。
ボクらは物置部屋にて、それらしき物を発見した。
物置にあったのは、鎖で厳重に封印されたハッチ。
この地下になにかがあることは、確定的に明らかだった。
「これ、っぽい、ね」
「なんか……禍々しい気配がしますね……」
ベニアちゃんの言う通り、ハッチの隙間からは、なにか黒い瘴気のようなモノが漏れ出ていた。
「ちょっと待ってね、解錠するから…………はい、できた」
「ピッキング、お疲れ、さま」
ポケットにたまたま入っていたクリップで鍵を解錠し、そのままハッチを開ける。
地下には、先が見えないほどの暗闇が広がり、不穏な気配で満ちていた。
「懐中電灯、あった。丁度、3つ。行ける?」
「まぁ、行ってみよっか。じゃなきゃ始まらないし」
殺那が物置から拾ってきた懐中電灯を受け取って、地下室へと潜り込む。
続いて殺那が、そしてベニアちゃんが降りてきて、3つの明かりが暗がりを照らす。
「………広いな」
そこに広がっていたのは、長く続く通路だった。
懐中電灯で照らしても、その光が先の先まで届かない。
さらには、暗闇の中に薄っすらと分かれ道まで見える。
いくら豪邸の地下室と言えど、その規模は異常の一言に尽きた。
「……ホントに、迷宮みたいです………」
「そうだね。これは……気をつけて進まないと迷子になりそうだ」
「道、覚えておく、ね」
警戒を深めつつ、ボクらは地下を探索することにした。
なんにせよ、ボクらの仕事はここにいるっていうサイコデュエリストの殺害だ。
とりあえず探し出して殺せば済むだけの話。
なに、簡単なお仕事だ。
…………それが間違いだと、このときのボクらは気づいていなかった。
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「やっば!頼むよ【クローラー・スパイン】【ハガクレミノ】!!」
「お願い……【キャシー・イヴL2】…!」
暗い地下迷宮で、デュエルディスクにカードを置く。
すると、どこかからかモンスター達が出現し、目の前に立ちはだかるモノを倒していった。
「おいおいおい、確かにダンジョンにモンスターはつきものだけどさぁ!」
「ま、マジでいるとは……聞いて、ません……!」
デッキからカードを引きながら、怪蟲が倒した“ソレら”を見る。
それは、自立して動く人骨。
そして、腐ってなお生き続ける死体。
アンデット。
そう呼ぶにふさわしいモンスターたちが、迷宮のあらゆる所から出現し、ボクらに襲いかかってきた。
「や、ヤバいです……!奥から、いっぱい来てます……!」
「嘘でしょ!?まだ増えるの!?」
「無尽蔵、だね。進む、ほどに、妨害が、激しく、なってる」
最初は、【ワイト】みたいな骸骨が数体出てくる程度だった。
しかし、奥に進めば進むほど、湧き出すモンスターは増え、その行く手を阻んできた。
そして今では、何十体ものアンデットが明確な敵意を持ってボクらに襲いかかってきていた。
「くっ……【セグメンタル】とかを呼べれば……!」
「地下ってのがネックだね…!大きいモンスターを出したら崩落しかねない…!」
確かに、この地下迷路の規模自体は広大だ。
しかし、通路の一本一本の大きさはたかが知れている。
そんな状態で巨大なモンスターを呼び出せば通路も天井も破壊され、瓦礫に埋められかねない。
「あっ!?殺那さん!うしろに!」
ベニアちゃんが焦ったような声を上げた。
その視線の先には、殺那が。
さらにその背後には、剣を持って襲いかかろうとしている骸骨の姿があった。
「っと」
骸骨が剣を振り抜く。
それより早く殺那が大きく飛び上がり、空中で骸骨の頭蓋に触れる。
「マナーが、なって、ない、ね?」
ゴキンッ!
小気味いい音と共に、骸骨の首が折れる。
なんてことはない、殺那は頭蓋に触れ、それを思い切り回しただけだ。
720°くらい回転しただろうか。
それにより骸骨の首がねじ折れ、分離した胴体が力なく倒れた。
「わっ……めっちゃ強い……」
「ふふっ。骨だけ、だから、首、折るの、楽だった」
たおやかに笑いながら、殺那は頭蓋を数回リフティングする。
あのフリルだらけの服で、よくもここまでの動きができるものだ。
「どう、しよう?まだ、進め、そう?」
「あ、あたし……ちょっと疲れてきました……!」
「ボクもしんどいかなぁ!どこがゴールかも分かんないし!」
そうこう言っているうちに、奥からはモンスターが湧き出してくる。
キリがない。強行突破してもいいが、突破した先が正解の道である保証はどこにもない。
この広大な地下迷宮で、無尽蔵に湧き出すモンスターを相手にしながら、合っているかも分からない道を進む。
とてもじゃないが、やっていられない。リスクとリターンが噛み合っていない。
「あぁもう!思った以上にヤバいって!」
襲いかかってきた骸骨に蹴りをぶち込みながら、愚痴を零す。
蹴り飛ばした骸骨は、肋骨が砕けて動かなくなった。
が、おかわりとでも言うのか、また違う骸骨たちが襲いかかってくる。
「これ……無理じゃないです……?」
「ふふっ、ヤバい、ね。超、ヤバい、よ」
「うーん………」
非常に、非常に不服ではあるが、最善手はこれしかないか。
しょうがない。ため息をついて、ボクは二人に提案する。
「────戦略的撤退しようか」
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地下迷宮から脱出して十数分後、ボクらは無駄に広い庭園で作戦会議を開いていた。
「とりあえず、地下の、構造の、スケッチ、見せる、ね」
そう言って、殺那が1枚の紙を見せてくる。
そこにボクらがつい先程までいた地下迷宮のスケッチが書かれていた。
「あの、ダンジョンは、地下へ、広がってる、みたい、だね。
私達は、8階まで、進んだ、けど……最下層が、何階かは、わからない、ね」
「うげぇ……まだまだ下に広がってる可能性もある、ってことですか……」
ベニアちゃんがげんなりする。
「もういっそ………全部壊すとか……なしですか……?」
「あははっ!そうしたいのは山々だけど、絶対怒られるだろうね!」
「うん。アイツら、なんて、困れば、いいけど……飼い主様に、怒られる、のは、不味い、ね」
館ごと燃やすだとか壊すだとか、そういうのは出来るし、なにより手っ取り早い。
が、そんなことをすれば当然ボクらは怒られるわけで。
別に、怒られるだけなら問題はない。
問題があるとすれば、ボクらが
「臓器、大事。命も、大事、だよ」
「そういうわけで、ボクらに取れる手段は正面突破しかないね」
「でも…………正面突破でどうにかなるんですか……?」
「「無理」」
その正面突破で挑んだ結果、ボクらは戦略的撤退を選んだんだ。
またあの迷宮に挑んだところで、到底攻略できないだろう。
「回数を、こなして、少しずつ、迷宮内の、構造を、調べる?」
「なるほど……先に地図を完成させて、楽に進もう、っていう作戦ですね……!」
「問題は、何回もトライできるだけの時間を、鳴金家側がくれるかってことだね」
「こう……数日お世話になるとか…………無理ですかね……?」
「あははっ……この家の連中がそんなこと許してくれるかな…?」
「私、許して、くれる、とこ、想像、できない、かな」
「つ、詰んでるじゃないですかーーーー!!」
庭園にベニアちゃんの叫びが木霊する。
いやぁ、参った参った。というか、ホントにどうしようね。
とりあえず「できませんでした~」などと言うわけにはいかないので、打開策を三人で考える。
しかし、どれだけ考えても、ガッツで特攻する以外の案は出てこない。
そうやって頭を悩ませていると、ふと何者かの視線に気づく。
「見られ、てる、ね」
「…………ですね…」
「木の陰に誰かいるね」
ちらりと目を動かし、覗き見している人物を確認する。
視線の先には、金色の髪のガラの悪そうな少女がいた。
数時間前、館の廊下で見かけた少女だ。
「あの子、さっきもボクらを見てたな」
「あぁ、あの館にいた…………けど、どうしてあたし達を……?」
「聞いて、みる?」
「そうしよっか。ここまで見られたら、そろそろ気になってくるし」
殺那と頷き合い、覗き見している少女に声をかける。
「ねぇー、どうしたのかな?そんなところでじっと見てきてさー?」
「っ……!?」
ボクが声をかければ、少女は驚いた様子で逃げようとする。
「逃げないで、お話、しよう、よ?」
が、殺那のほうが早い。
少女の行く先には先回りした殺那の姿があった。
「なっ!?いつの間に……!?」
「めっちゃ、走った」
驚愕する少女に対して、殺那は誇らしげにピースする。
ホントになんであのフリルだらけの服でそんなに早く動けるのだろうか。
「まぁ、殺那の高速移動は置いといて。
キミは何者かな?ずっとボクらを見ていたみたいだけど」
警戒を解くために、優しい笑顔を作って少女に話しかける。
けれど、それはどうやらなんの効果もなかったようで、金髪の少女はボクを睨みつけてきた。
「……お前らが、『孤児院』とかいう連中か?」
「そうだね。ボクは『孤児院』の遊針廻理。裏デュエル界の違法組織に飼われてる、人権のない奴隷だよ」
「奴隷……………………」
軽く自己紹介をすると、少女はどこか同情したような、悲しそうな顔をした。
ふむ、久しぶりに誰かに同情された気がする。ちょっと嬉しい。
「……
「鳴金……」
予想はしていたが、やはり鳴金家の人間か。
まぁ、このお屋敷にいる人物となると、身内くらいしかないのだが。
年齢から考えるに、彼女は鳴金雄太郎の娘といったところだろうか。
「へぇ、梨々華ちゃんか。綺麗な名前だね」
「お世辞かよ」
「いやいや、本心だよ」
本心から褒めたのだが、金髪の少女……梨々華ちゃんはより一層刺々しくなってしまった。
参ったなぁ。ボクも敵意を向けられたいわけじゃないし、どうにか警戒を解きたいけど……
数秒の沈黙。
どうしたものかと悩んでいると、梨々華ちゃんが口を開いた。
「……お前らは、お姉様を殺しに来たんだよな?」
「「「……お姉様?」」」
三人揃って首を傾げる。
はて、『お姉様』とは。
少なくとも、ボクらはそんな人物のことは聞いていないが……
「とぼけるなよ。お父様から聞いたぞ。お姉様を殺すために、お前らを雇ったって」
「…………あ、あの……それってもしかして……」
「地下の、サイコデュエリストは、貴方の、お姉さん、なの、かな?」
梨々華ちゃんは答えない。
しかし、その沈黙はなによりも雄弁に、問いかけを肯定していた。
「なるほどね。状況はおおよそ理解したよ。
なにがあったかは知らないけど、キミのお姉さんは地下に迷宮を作って引きこもっている。
でもって、鳴金雄太郎はそれを快く思っていないのか、『孤児院』に暗殺依頼をしてきた、と。
けど梨々華ちゃんは、お姉さんが殺されるのは嫌だから、ボクらをずっと見ていた……って感じかな」
梨々華ちゃんの言動から立てた仮説を披露してみる。
すると、梨々華ちゃんはなにか癇に障ったのか、小さく舌打ちをした。
「…………お姉様は好きで地下になんかいない」
ぽつり。悪感情の籠もった呟きが零れる。
怒りや、悲しみの混ざったような声だった。
「ふぅん……どうやら、ボクらの知らない事情がたくさんあるみたいだね」
少なくとも、ボクらはターゲットの情報はなに一つ知らなかった。
ターゲットの性別も、妹がいることも。
「なぁ……お前らは、お姉様を殺すんだよな」
もう一度、梨々華ちゃんが問う。
それは暗に、殺すなんて許さないと言っているようで。
「まぁ、仕事は仕事だからね。ボクらはやることをやるだけだよ」
「ッ……!」
彼女の想いは、痛いくらいに伝わってくるし、理解もできる。
けど、飼い主様からの命令は絶対だ。
逆らえばバラバラになって殺されちゃうからね。
だから、まだ判断するには早すぎる。
こっちは命がかかっているわけだ。
ここで“命令を無視する”なんて選択は、まだ取れない。
(とはいえなぁ……なんか、このまま殺すと不味い気もしてきたんだよなぁ……)
明らかに、この仕事には裏がある。
そもそも、殺害依頼を出された背景も分からないのだ。
その背景の事情を知らずに殺すのは……たぶんヤバい。
などと考えていると、金髪の少女は、必死の形相でボクの胸ぐらを掴んできた。
「…………やめろ」
ぽつり。震える声で、少女は言葉を紡ぐ。
「お姉様を殺すの、やめろよ……!」
余裕もなにもなく、泣きそうな顔で、少女は訴える。
ふむ……どうするか。
とりあえず、臨戦態勢の殺那と、オロオロしているベニアちゃんに「大丈夫」だと伝えておく。
「さて、キミの気持ちは分かったよ」
「なら…………」
「けど、こっちも命がかかってるからね。そう簡単に頷くわけにもいかない」
「ッ!テメェ……!」
胸ぐらを掴む手に、力が込められる。
その手にそっと触れて、ボクは少女に提案する。
「だからさ、公平なやり方でこの仕事をどうするか決めようじゃないか」
三日月のように笑って、少女の手を払い距離を取る。
そのまま左腕にデュエルディスクをセットし、彼女と対峙する。
「ボクはデュエリストだ。キミも通したい願いがあるなら、デュエルでぶつけてきなよ」
「デュエルで……だと……?」
一瞬、梨々華ちゃんは呆けたような顔をした。
が、ボクの言っていることが理解できたのか、数秒後にはその瞳に闘志が灯る。
「…………デュエルで勝てば、お前らはお姉様を殺すのをやめるんだよな?」
金髪の少女が、デュエルディスクを装着し、デッキをセットする。
「一応ボクもデュエリストの端くれだ。この魂にはデュエリストの誇りがある。約束を反故にはしないさ」
「…………そうか」
少女は真っ直ぐにボクを睨み、デュエルディスクを展開した。
「私が勝ったら、なにもせずに帰ってもらうぞ」
「分かったよ。キミが勝ったら、キミのお姉さんを殺すのはなしだ」
少女は敵意を剥き出しにし、ボクはいつも通りに笑う。
彼女はお姉様とやらを守るために。
ボクはとりあえず、憂いなく仕事をするために。
「「────────
かくして、戦いの火蓋は切られたのだった。