アナタに溺れて〜聖女と勇者の入れ替わり〜 作:TS娘はオレの嫁
ここイエッセ王国は400年もの歴史を誇る大国である。大陸の中央に位置するこの国は発展を続けてきた。豊かな資源をもち、大陸の中心であり、他国との交易も盛んに行われている。
外には世界の害獣たる魔物がいるとはいえ、強固な外壁で覆われ、兵士の練度も高いこの国にとっては周辺の弱い魔物など、脅威とはなりえず、この国は平和そのものであった。なんなら、ゼラチン状の青いヤツなら一般男性でも倒せた。
これほど平和な国は世界をおいても他にない。しかしながら、この国に不満を抱いていている者がいた。
それは·····。
***
「暇·····」
その人物はこの国の国教たるイリア教の最上階にいた。腰まで伸ばした金髪のロングヘアーの先を手で遊びながら、頬杖をつく、今年で齢16の少女。少し眠たげな目をした見目麗しいその少女。彼女はイリア教における最も高い地位につく聖女様その人であった。
「もう、お外はこんなにお天気がいいのに、散歩をすることすら許されないなんて、総司教ったら頭が固いんだから·····」
総司教とはイリア教における聖女の次に位が高いもののことである。実際は総司教がほとんどのことを行っているため、実質のイリア教における最高権力者である。
「むぅ·····、暇だわ·····、本当に暇·····。前に出たのなんて、もう、1ヶ月以上も前よ·····。しかも、護衛がついてだなんて、そんな危ないことこの国で起こるはずなんてないのにね。みんな心配症よね、ほんと」
「そりゃ、私のお仕事がこの国にとってどれだけ大事なのかは分かってるつもりだけど·····」
この国における聖女の仕事は国に貼った結界の安定である。魔物が国に近寄ることが出来ないのは悪しきものを弾くこの結界によるところが大きい。代々、聖女が管理してきた結界がこの国に発展をもたらしてきたのだ。
「でも、あの結界、あのまま維持するだけならあと10年は持つのよね。私が最後に結界を調整したのなんてもう2年ぐらい前のことだし」
結界は攻撃されることにより、消耗していく。しかし、何代にも渡って強化され続けた今の結界はそこらの魔物の攻撃ではびくともしなくなり、魔物たちもそれを年々学習し始め、むしろ、自分たちがダメージを受けると気づいて、ここあたり周辺に近寄ることすらしなくなってしまった。そんなわけで、ここ最近は維持による消耗しかなくなったのだ。
「毎日神様に祈りを捧げるばかりで、代わり映えのない毎日·····。あぁ、何か変わったことは起きないものかしら」
そんなことを考えていた時、部屋の扉が叩かれる。
「入っていいわよ」
「失礼致します」
そうして、従者が入ってきた。エルフと人間の混血であるいわゆるハーフエルフで、綺麗な白髪が印象的な彼女とは聖女が聖女になったばかりの頃からの付き合いである。
「リース、どうしたの? 」
「聖女様、お客様がお見えになっておられます」
「え? 一体どちら様かしら? 」
聖女には生憎、心当たりがなかった。
「はい、どうやら、各地を旅していらっしゃる冒険者の方で何でも巷では勇者と呼ばれているとか」
「勇者·····」
「なんでも、この国に来たのでせっかくだから、高名な聖女様にお目通り願いたいと·····、いかが致しましょうか? 」
なんとも、胸踊る響きではないか。退屈な自分の暇つぶしになるかもしれないと聖女はそう思った。
「ええ、通してちょうだい」
「かしこまりました」
もしかしたら、アレが使えるかも·····? このとき、聖女はほんのり期待を抱いた。
***
「お初にお目にかかります。私は冒険者をやっておりますキースと申します。この度はかの有名な聖女様にお会いできて光栄です」
キースとそう名乗った青年は、まるで、物語の中の主人公のようにキラキラしていた。そう、それはもう物理的に。反射的に聖女が目を瞑ってしまうくらいに。
「ちょっ·····! すみませんけど、その鎧脱いでもらってもいいですか! 眩しすぎて、直視出来ないんです·····」
「これは、失礼しました! 聖女様にお会いするということで私が持っている鎧の中でも最も綺麗な物を持ってきたんですが·····」
「綺麗ですから! 綺麗すぎなんです! いいから、脱いでください! 」
「そうですか·····」
渋々といった様子でキースは鎧を脱いだ。
「ほっ·····」
改めてキースを見ると、赤髪に力強い双眸、そして、その自信に満ち溢れたその態度は、なるほど、勇者然としている。少々、おつむは弱いようだが。
「初めまして、イリア教聖女マリアと申します。この度はお会いできて、こちらこそ光栄ですわ、キース様。なんでも、勇者とそう、呼ばれているとか」
「あはは·····。自分ではそう名乗ったことはないんですけどね、いつの間にかそう呼ばれるようになってしまって·····」
「そうなんですのね! その、よければ、旅のお話など聞かせていただいても·····? 」
「ええ、もちろんです! 」
そこから、聖女と勇者はしばしの談話をした。勇者の旅の話はこの国はおろか教会からすら、あまり出ることの無い聖女にとってはどれも刺激的だった。ある時は、魔物の軍勢に襲われた村を守り抜き、ある時は洞窟に潜り、宝を見つけ、またある時は山に住んでいたドラゴンに襲われた話などなど、どれもが等しくマリアを楽しませた。
***
「おっと、もう日が暮れかかっていますね。それでは、そろそろお暇させていただきます。マリア様」
「もう、行ってしまわれるのですか·····」
マリアは寂しそうな顔をしている。
「むぅ·····、残念ですが仕方ありませんね」
「ええ、お話出来てとても楽しかったです。それでは」
そして、キースは去ろうとする。
「待ってください」
それをマリアは呼び止めた。
「先に謝っておきますね? ごめんなさい」
「え? 」
そして、その瞬間、キースの意識は途切れた。
***
「ん·····」
キースが身体を起こすと見慣れない天井が目に入った。ここはどこだろうと思い、キースはあたりを見回す。どこだろう、ここ·····。寝ていた場所はレースのついた大きなベットだった。ベッドから身体を起こす。なんだか、身体がいつもより重い。それに、周りの物がなんだか、大きいような。よたよたしながらキースは歩く。
そして、マリアを見つけた。
「あ、おはようございます。マリア様。申し訳ありません、どうやら寝てしまってみたいで·····」
キースは反射的に謝った。が、なにやら、マリアの様子がおかしい。マリアはこちらに向けて頭を何度も下げて、慌てたように口をパクパクしているのだ。
「えっと、マリア様·····? 」
キースが訝しげにマリアを見つめるとマリアもまたキースを見つめる。キースは片手を上げるとマリアもまた片手を上げる。
「え、まさか·····」
キースは急いで駆け寄る。と、そこにあったのは大きな姿見だった。キースは自分の胸元を見ると、そこには男である自分にあるはずの無い豊かな乳房が胸元を露出して揺れていた。よくよく見ていると、今、キースが着ていたのはマリアが着ていたドレスではないか。道理で歩きにくいはずだとキースは納得した。
「つまり、これって·····、まさか、そんなことあるはずが、·····俺、マリア様になっている? 」