ごそごそと動く気配がして、うつらうつらとしながらもなんとか目を開き、状況を確認しようとしてすぐに誰かの頭が見えた。手触りが良さそうなショートカットの銀髪。見るだけでさらりとしていて、匂いの類はしないことを少し気にしたが、欠点のない美しさを目の当たりにする。
薄暗い室内、わずかに顔をあげたことで彼女の顔を見た。視界は悪いがそれほど近ければ見間違えるはずもない。
目元を覆う黒い布。彼女たちに言わせれば、それも意味のあるバイザー的な物らしいのだが、どう見ても機械には見えない。やっぱり不思議だな、と呑気に考える。
2Bが覆い被さるようにしてベッドの上にいた。寝そべるハルタを見下ろしている。
「2B?」
寝ぼけ眼で半目になりながら名前を呼ぶ。返事はない。
目元を擦って、しっかり彼女の顔を見ようとする。
2Bの表情に普段との差異はない。顔だけを見るならばいつも通りと思えるだろう。しかし彼女を注視したことで、彼女が何も身に纏っていないこと、つまり全裸なのだと気付いた。
陶器のように白い肌は暗闇の中で浮かび上がるような印象を覚え、形の良い乳房は掌の中に納まりそうもないサイズで、乳首はきれいなピンク色。驚いて思わず上から下まで確認してしまって、均整のとれた体はいかにも女性らしくて、股には毛がないことを知る。
見た瞬間は驚いたものの次の瞬間には、ああ、そうか、と納得する。
むしろ安堵すらした。常々クールであった彼女は他のアンドロイドとは違うのだと思っていて、笑顔を見せることがない、感情的になることがない、本心を明かすことがない。他の女性型アンドロイドのように自分を求めてくることもないため、別にそれを不満に思うことはなかったのだが、ひょっとして嫌われているのではないかと少し気にしていたのだ。
2Bはハルタに触れないよう、彼を跨いで見下ろしていた。
それだけで彼女の求めていることを理解する。ハルタはふっと笑った。
「いいよ。2Bのしたいようにしてくれていい」
手を伸ばして頬へ触れる。さらさらの髪に触れてわずかに揺れた。
2Bは何を考えているのだろう。何も言わないが動き出す。
ハルタの首筋に顔をうずめ、唇を触れさせた。彼の背に両腕を回して抱きしめてくる。壊してしまわないようにそっと、優しく、どう触れればいいのかわからないという戸惑いを感じた。それでも彼女は触れたくて仕方なくて、人間の体を抱きしめる。
ハルタは自らも彼女の背に腕を回した。自分なら彼女を壊してしまうことはないから、ぎゅっと力を入れて抱きつく。
2Bはしばらく何もせず、ただハルタを抱きしめるだけだった。
どうすればいいかわからない。それもある。だがそれ以上に、ずっとこうしたかった、こうして触れてみたかった。ただ触れるだけでどうしようもなく胸が満たされ、喜びを感じていた。
そう、喜んでいるのだ。その事実に2B自身が驚いている。
任務に感情は必要ない。そう思っていたのに、気付けばハルタを目で追っていて、彼に抱かれる他の女を睨みつける自分に気付いて、眠っているハルタにキスをした、あの時に自分が壊れたのだと思った。しかしそれでもいいのだと思った。
「ハルタ」
「ん?」
「私は、どうすればいいかわからない」
ハルタは彼女の背を撫で、子供をあやすようにぽんぽんと叩いてやる。
2Bは落ち着いていた。しかし混乱してもいる。
自分が何のつもりで裸になって、なぜこうしたのか。わかっているはずなのに上手く言葉にして伝えることができない。だから、ハルタに委ねることにした。
彼に抱きついたまま、離れたくないと言うかのように、首筋に顔をうずめて呟く。
「うん」
「だけど、ハルタにしてほしい」
「いいの?」
「いい」
顔を離して、至近距離で見つめ合う。
2Bは動かない。静かで、穏やかで、だけど何かを求めている表情。
ハルタは彼女の顔に触れて、目元を覆う布を取った。露わになった目は静寂を保ち、感情を感じ取ることは難しいとはいえ、今なら彼女の期待が読み取れる気がした。
どちらからともなく、二人はキスをする。唇を触れさせるだけ。押しつけて、鼻先が触れて、目を閉じてつながっていた。
胸の中が変だ。2Bは自覚しながらも、彼とのキスに集中しようとする。
今までこんな気持ちになったことはない。そもそも、気持ちや心なんて不確かな概念に執着しようとさえしていなかった。
自分にも心があるのだと、まだ認められたわけではない。けれど、あってほしい、と思ったのは今この瞬間が初めてだ。
人間になりたいわけじゃない。きっとハルタに認めてほしいだけだった。
唇を離すと、緩慢な動作だが、ハルタと位置を変えてベッドに体を預ける。
行為自体は知っている。ハルタが女性型アンドロイドと何をしているのかも知っていて、あの時はそれが必要だからしているのだと思っていた。任務だから仕方なく。自分には任務が与えられていないから必要がない。今にして思えば、そう信じ込もうとしていた。
任務などないのだ。彼に抱かれたかったから抱かれていたのだ。
自分が同じ状態になって、ようやく彼女たちの表情の意味を知る。
バイザーを通さず彼と見つめ合うことを、こんなに嬉しいと思うだなんて。
髪を掻き上げられ、視線を交わし、奇妙な感覚を覚えている。
胸の内側をきゅうううっと満たすようなこれは何なのだろう。彼女には理解できなかった。
「緊張しないで。って言っても無理かもしれないけど、無茶はしないから」
つつっと肌の上を指が歩く。
些細な刺激も、彼に触れられているというだけで奇妙な感覚が走った。
吐息を漏らして2Bは身を捩り、彼が与える刺激には敏感に反応する。
「俺も経験が多いわけじゃないから、自信はないんだけど……優しくする」
「ハルタの、好きにしてほしい」
「うん。わかった」
ハルタがキスをしてくる。唇に触れてほっとして、耳にされて焦りを覚えて、首筋にされて電流のような何かを感じて、舌を触れさせたまま胸の方へ行くと、吐息が漏れた。
彼が言った通り、その触れ方はとても優しく、いじらしい。
両手で胸を掴まれ、張りのある乳房を舌先で押される。ぴちゃぴちゃと水音を伴い、ゆっくり撫で回されて、徐々に近付いていって乳首に触れた。舌先でそっと触れて転がし、口の中に含んで、乳首だけでなくその周りまでちゅううっと吸いつく。
初めての感覚だ。2Bはほんの少しだけ息を乱した。抑えようとはしないで、身を任せて力を入れずに四肢を投げ出す。
ハルタの手つきは優しい。
むにゅっと下から持ち上げるようにして胸を揉む時も、肌を伝って腹を撫でた時も、括れた細い腰を掴むように確認した時も、余計な力は入れず、その力加減に安心する。
気遣いのある愛撫で体の状態は良好であった。彼の心遣いに胸が熱くなる。
「2B、大丈夫?」
「ん……平気」
「こっち、触るから」
そう言って彼は2Bに脚を広げさせ、その間に陣取ると股間に顔を寄せた。
ぴたりと閉じた秘裂に指を触れ、くいっと広げさせる。幼ささえ感じる外見。何度か経験しているはずなのだがやはり体が熱くなり、股間が痛くなるのを自覚していた。
ハルタは2Bのおまんこに舌を這わせた。下品な音を鳴らして吸いつき、舌先で膣の中をほぐそうと差し込み、唾液を塗り込んで縦横無尽に動かす。
右手ではクリトリスを転がしている。そこが敏感なのだと知ったのはつい最近で、指で触れて声が漏れたのを聞くとすかさず移動して舐めた。べろりと舌で撫でつけ、もがき始めた2Bの脚を押さえ込み、大胆に頭を動かして全体を舐めあげる。
「ハルタ……」
「ん?」
「私のことは、気遣わなくていい。平気だから」
「あ、うん。じゃあ……」
そういえばまだ服を脱いでいなかった。急いで全て脱ぎ捨てて裸になり、がちがちに硬くなったペニスを自分の手で掴み、彼女のおまんこに触れさせる。
膣の入り口に亀頭を押し当てて、2Bの顔を見つめる。
普段とは違い、隠されていない彼女の眼はとてもきれいで、ハルタは思わず息を呑んだ。
「行くよ」
「うん……」
力を入れて、ぐっと押し込む。
男を受け入れるための器官。ハルタのためのおまんこ。
柔らかな肉に包まれて、ぎゅうっと締め付けてきて、ペニスが喜んでびくびく跳ねる。
表情を変え、耐えるような様子を見せるハルタは腰を動かし始めた。彼女の腰を掴んでパンパンぶつける。
初めてとは思えないほど彼女の膣は優しく彼を迎え入れて、無数のひだがよく絡む。それでいて痛みは感じないが気持ちいいくらいに締め付けて、潤滑油として機能する愛液がペニスによって掻き出されてシーツを濡らした。
2Bは動かなかった。彼が行う全てを受け入れて、抵抗せずにハルタの顔を眺める。
その間、ハルタは必死に動き、素早いピストンを繰り返す。
アンドロイドのボディは頑丈だ。痛覚をカットすることもできるため、気遣いはいらない。ハルタは自分勝手に、オナホールを使うように腰を振るよう言われている。
それでも女性に対する気遣いは心掛けていたのだが、挿入してペニスに強い刺激を受けると我を忘れる傾向があった。現に今も2Bのためではなく、自分のために、わがままなペースで必死に腰を振っていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……! 2B、2B――」
目をぎゅっと閉じて眉間に皺を寄せ、辛そうな表情で動くハルタとは対照的に、2Bは涼しい顔で表情一つ動かさない。彼のピストンによって揺り動かされるままだ。
肉を打つ音が連続する。余裕のないハルタが限界を迎えるまで時間はかからなかった。
びゅっ、びゅっと、情けない声と共に精子が飛び出す。
体を震わせた後、全身から力が抜けてしまい、ハルタは2Bの上に倒れ込む。覆い被さって荒い呼吸をして、胸を掴んだ状態で顔をうずめた。
気付けば2Bは彼の頭を撫でていた。表情こそ変化は希薄だが、慈しむ様子で見つめる。
「ハァ……ハァ……2B、よかった?」
「私にはわからない。ハルタが射精すればそれでいい」
「そ、そうか」
「でも……多分、よかった」
まるで他人事のようであったが、2Bの言葉を聞いてハルタは安堵する。
彼女の胸に頭を預け、そのまま眠ろうとしていたようだ。
2Bは母親のように彼の頭を撫で続けて、彼が意識を手放して眠りにつくまで片時も手を休めず、満足した様子で彼を抱きしめ続けていた。