※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

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1-8 美しく勝ちたい

     ―達也―

 少し…というか、かなり反省していた。

 何を反省していたのかというと、前回の試合での自分の戦いっぷりについて、だ。

 ノーダメージでの一方的なKO勝利、それ自体には何も不満はなかった。試合の結果としてはパーフェクト、1年のブランクで失われた体のキレもだいぶ戻ったという実感もあった。

 ただ、正直言ってやり過ぎてしまった。

 相手の実力が大した事ないというのは戦う前から分かっていた。実際に拳を合わせてみても、それはすぐに確信できた。

 なら、あんなにボコボコにする必要はなかった。手加減するのは逆に失礼だという事は重々承知しているけど、やっぱり手加減してあげるべきだった。

 試合後、相手の選手は病院送りとなった。検査の結果、顔面の骨折が判明し現在も入院を余儀なくされている。しかも折れた鼻骨が眼球に刺さりかけていたほどの重傷だったらしい。

 選手生命を脅かしかねなうような大怪我だ。なのに俺は、あれだけ相手を痛めつけておきながらまだ飽き足らずに、とどめに全力の右ストレートをぶち込もうとしていた。

 もしレフェリーが止めてくれなかったらと思うと心底ゾッとする。最後の右ストレートが命中していれば鼻骨が眼球を貫いて失明…あるいは大袈裟ではなく、殺してしまっていたかもしれない。

 自分には他人を殺す力がある…考えれば考えるほどそれは怖ろしい事だった。空手の世界では顔面へのパンチが禁止されているから、試合中に大怪我してしまうような事はほとんど無い。でも、キックボクシングのリングは違う。相手をコーナーに詰めて一方的にボコボコにしてもレフェリーが止めるとも限らないし、もっと言えば重い打撃が顔面や頭部に一発決まれば、それだけで命を脅かすようなダメージを与えてしまう事だってある。

(マジで、考えて戦わなきゃダメだよなぁ…)

 自分は、強い。決して奢ってる訳ではなく、事実として強い。ヘタをすれば相手を殺してしまいかねないくらいに…それをしっかりと胸に刻んで戦わなきゃいけない、そう思った。

 

………………………………………

 

     ―充希―

 プロのキックボクサーになった達也は、怒涛の勢いで連勝を続けた。

 試合はだいたい1か月に1試合ぐらいのペース。相手は、デビュー戦以外は全てタイやフィリピンやインドネシアといった東南アジアの選手ばかりだった。

 どうして外国人とばかり試合をするのか聞いてみたら、「日本人選手は俺の強さにビビッて逃げてるんだよ」というのが達也の答えだった。でも、それが嘘じゃないのかもしれないと思えるくらいに、達也の強さは圧倒的だった。

 7戦7勝7KO。しかも7戦で要した試合時間の合計はわずか10分弱と、1試合平均1分半にも満たないという秒殺の連続。

 思い返すと、デビュー戦はドキドキしながら見ていた。達也が戦う姿を見るのは1年とちょっとぶり、あの失神KO負けを喫したインターハイの決勝以来。だからどうしても、あの時の光景が頭に浮かんだ。しかも今度はプロの選手が相手だから、また酷い負け方をしてしまうんじゃないかと心配になった。

 でも今はもう、達也の試合を見ても心配になる事は無い。それどころか、むしろ相手の心配をしてしまう。東南アジアからはるばる何時間もかけてやってきて、わずか1分そこそこで達也にKOされる選手たちが何だか可哀相に思えてならなかった。

 しかも達也の勝ち方は、いつも決まって『狙いすました』ようなKO勝利だった。デビュー2戦目こそ物凄いラッシュをかけて相手をボコボコにしたけど、それ以降の試合ではボディー一発で相手を悶絶させたり、ハイキックを顔面にヒットさせて失神させたりと、言わば『一撃』での勝利ばかり。まるでスナイパーが獲物をライフルで撃ち抜くように、たった一発で相手をKOしてしまう。その繰り返し。

 「もうちょっと手加減してあげられないの?」一度だけそう言ってみた事がある。でも達也の答えは「あれで俺が本気出してるように見えるか?」だった。確かに、全く本気を出してるようには見えない。むしろインパクトのある勝ち方を求めて、遊び心満載でリングに上がっているようにすら見えた。

 加えて、「相手はむしろ俺に感謝するべきなんだぜ。負けた悔しさが人を成長させるんだから」とも言った。確かにそうなのかもしれない。そういう考えでいられなきゃ、格闘技なんてできないのかもしれない。でも…

 何にしても、達也は圧倒的な強さで勝ち続けていた。そしてどれだけ連勝を重ねても、達也が世間から注目される事は全く無かった。達也の試合を伝えるネットの記事も、小さなものばかりだった。

 

「実は来月にも試合があってさ。だから今回だけノート貸してくれないかなって…」

 達也が言う。リングの上では鬼のような強さを見せるけど、リングを離れれば普通の大学生。いや、むしろだらしない大学生。

「何が今回だけよ。ていうかそんなにキックボクシングにのめり込んでるなら休学すれば?」

「そんな事したら、充希と同級生じゃなくなっちゃうじゃん」

「…それがどうしたってのよ」

 達也と話してると今みたいにドキッとさせられるようなセリフがたまにサラッと出てくる。まあ、試合と同じでもうほとんどドキッとしなくもなったけど。

「それに、次はそこそこ重要な試合なんだ。という訳で…お願いしますっ!」

「ダメ」

「これだけ頼んでも?」

「絶っ対ダメ」

 そこそこ重要な試合って何言ってるのよと思う。重要じゃない試合なんてあるの?と。

「とにかく、自分の事は自分で頑張りなさい」

 ピシャリとそう告げると、もう達也はお願いしては来なかった。

 その姿をちょっぴり寂しく感じたりもする私は、やっぱりどこか変なのだろうか…

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