―達也―
HFPの代表を務めているのは井上玲奈さんという法学部の教授だそうで、俺はその井上先生とやらの教授室へと案内される事になった。
「言っとくけど一応話を聞くだけだぞ。変な話だったらすぐ帰るからな」
「もちろん構いません。私の役目は達也さまをお連れする事だけですから」
「はあ?俺をスカウトしたいんじゃなかったのか?」
「教授はそう申しています。ですが私個人の意見としては、必ずしも達也様のスカウトに賛成ではなかったりします」
「…何じゃそりゃ」
そっちから声を掛けておきながら何て失礼な奴だ…と思いながらもついていくと、ようやく教授室へと到着した。
「戻りました」
そう言って教授室へと入っていく未華子ちゃんに続くように、俺も中へと入る。
教授室の中は、サッパリとした小綺麗な空間だった。部屋には数台のデスクが並び、比較的新しそうなパソコンが各デスクに1台ずつ配置されている。窓際には観葉植物なんかも置かれていて、まるでベンチャー企業のお洒落なオフィスを思わせるような雰囲気だ。
そして、デスクの一席に座っていたのは、見た目は若いながらもしっかりと大人びた雰囲気を漂わせた女性が。
「はじめまして、デカ…じゃなくて、小野達也くん」
「デカ…?」
「ううん、何でもないの。それよりこんな所まで足を運んでくれてありがとう。まずはお礼を言うわ」
「はあ…」
綺麗な女性だった。未華子ちゃんを可愛い女の子とするなら、目の前の人は文字通り綺麗な女性だった。若手を過ぎて充実期に入った女子アナを思わせるような外見、とでも言えばいいだろうか。
あと、おっぱいがめちゃくちゃ大きかった。しかもただでさえ大きいのに、胸元がはだけた薄着がその大きさを余計に強調していた。もしニュースを読むなら絶対に真横撮りしておっぱいを机に乗せるよな…そう思わずにはいられなかった。
「あの…教授…なんですよね?」
思わずそう聞きたくなってしまうほどに、目の前の女性は何と言うか…教授っぽくない見た目だった。
でも、見た目で人を判断してはいけないとはよく言ったもので。
「ええ。一応、法学部の教授をしているわ」
名刺を渡される。そこには確かに、西都大学法学部教授、井上玲奈と記されていた。
「ええ。でも今日は教授としてではなく、HFPの代表として達也くんを招いたんだけどね」
「はあ…」
要は教授でありながらHFPとやらの代表も兼ねているという事らしい。
何にしても、本当に教授だという事が分かって俺の警戒心は半減した。まさか西都大学の教授ともあろう人が怪しい宗教勧誘なんかをしている訳もないだろうから…多分。
「ていうか、HFPって具体的には何をしてる団体なんですか?」
警戒心は薄まった。でもあんまり長居もしたくないから、単刀直入に聞いてみる。
「ええ、これから詳しく説明するから、どうぞ掛けて頂戴」
促されて椅子に座ると、未華子ちゃんがお茶を用意してデスクに置いてくれた。
「HFPの正式名称は、Happy Family Project。その名の通り、人々の幸せな家庭づくりをサポートする事を目的とした団体なの。今のメンバーは私以外には未華子ちゃんだけなんだけど、NPO(非営利団体)として国から正式に認可を受けてもいるのよ」
「NPOって、確かボランティアみたいな事してる団体の事でしたよね」
「まあNPOにも色々あって一概には言えないんだけど、大雑把に言うとそんな感じかな」
玲奈さんは続ける。
「実はHFPでは、才能豊かで優秀な男性スタッフを募集してるの」
「それは、そちらの未華子ちゃんから聞きましたけど」
「単刀直入に言うわ。達也くんは私が見てきた中でも最高の逸材よ。ぜひ、HFPの一員になってくれないかしら」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
本当に単刀直入すぎて全くついていけないから。
「というか、HFPっていうのが具体的に何をしてるのか知らないですし、最高の逸材とかって言われても何が基準でそう言われてるのかもサッパリ分からないですし…ていうか何で俺なんですか?」
という至極真っ当な疑問に、玲奈さんは。
「一言で言うとね、達也くんがとてもカッコいい男の子だから、ぜひとも君の力を貸して欲しいの」
「…はい?」
思ってもいなかった一言だった。…俺がカッコいいから?
「背が高くて足も長いし、めちゃくちゃイケメンだし、おまけに空手のチャンピオンなんですって?」
「俺、そんなにイケメンですか?」
「ええ、イケメンだと思うわ。これまでさぞかしモテてきたでしょ?」
「……」
年上の綺麗な女性からの『イケメン』は結構な破壊力だった。
素晴らしい…さすが西都大学の教授ともなると、ズバッと真実を言ってくれるんだなあ…
「まあ確かに、それなりにモテてきた方だとは思いますね」
「ふふ、変に謙遜しないのもカッコいいわ」
「事実ですから」
褒め殺しな気もしたけど、それより何より嬉しさが勝った。何でだろう、同年代の女の子に言われるより全然嬉しいっ…!
「私たちが求めているのは、まず何よりも女性にモテる男性なの。達也くんを見つけた瞬間に「君しかいない!」と思ったわ」
「さすが教授、人を見る目が素晴らしいです」
「そんな達也くんに、ぜひお願いしたい事があるの。これはイケメンでモテモテの達也くんにしかお願いできない事なのよ」
「ええ、ぜひ話を伺いましょう」
「達也くんにお願いしたいのは、単刀直入に言うと『種付け』なの」
「なるほどなるほど」
「女性に種付けして、達也くんの子どもを産ませてあげて欲しいのよ」
「なるほど種付けですか………って、種付けっっっっっっ!!!!????」
浮かれ気味だったのが、一瞬にして我に返った。
…種付け?…女性に?
…俺の子どもを、産ませてあげて欲しい?
………………………………………
丸二日間じっくり考えた。でも、まだ答えは出ていなかった。
玲奈さんの話を要約するとこうだ。この社会には子どもを産みたいのに、パートナーがいなかったり、パートナーが男性不妊であるために子どもを産む事ができない女性が多く存在する。そんな女性に『父親役』となる男性を紹介して子宝を授けてあげる…つまり女性に種付けしてあげる…それが、HFPが行っている主な活動…らしい。
そして、父親役は誰にでも務まるようなものではない。玲奈さんの言葉を借りれば、「種付けを希望する女性が優秀な種を求めるのは当然」だから。
その点俺は、父親役になる資格十分なのだという。イケメンで、背も高くて健康的で、西都大学という学歴も持っていて、空手やキックボクシングもめちゃくちゃ強くて(…って俺が言ってるんじゃなくて、玲奈さんが言ってんだからな?)、とにかく俺のような素質を持った男はそうそう存在するものじゃない、と。
まあ、俺の才能や能力を評価してもらえるのは嬉しい事ではある。しかも玲奈さんのような知的な大人の女性に評価されるのは、同年代の女の子にちやほやされるよりもずっと嬉しいと言えるかもしれない。
だからつい、勢いに任せて首を縦に振りかけたのは確かだ。それに、種付けに全く興味が無いって訳でもなかった。いや、まあ別に何が何でもやりたいって訳じゃないけどさ…
でも、一つどうしても引っかかっている事があった。それは充希の存在だ。種付けに興味が無くはないけど、充希に内緒で種付けしようっていう気には全くならなかった。もしやる事になったとしても、充希に隠し事はしたくない。それは嘘偽りない本音だった。
とはいえ、「女性に種付けしてみようと思ってるんだ」なんて充希に言った日にはブチギレられる事間違いなしな訳で…いやマジで絶交も有り得る案件だぞこれは…
「という訳で、もう暫く考えさせて欲しいんです」
結局決められなかったから、とりあえず俺は回答を保留する事にした。保留するくらいなら断った方が礼儀としては正しいのかもしれないけど、完全に断ってしまうのも何か勿体ない気がして…
すると玲奈さんは、特に落胆するような様子も見せずに。
「さすが私の見込んだ男の子ね。何が何でもやりたいですっ!って飛びついてくるようでは逆に不安だったの」
「はあ…」
女性に種付けできると聞いただけで目の色をガラっと変えるサルみたいな男にはとても務まらないから、と玲奈さんは綺麗な顔に似合わない毒舌を口にして。
「じゃあ早速、種付けの具体的なスケジュールを決めていきましょうか」
「スケジュール?」
「熟考した結果、種付けを引き受けてくれる事を決めたんでしょ?」
「いや何聞いとってん!!」
思い切りツッコんでしまった。
「え?今確かにそう言ってたじゃない?」
「いやいや、もう少し考えさせて欲しいって言ったんです」
すると玲奈さんは小さくため息をついて。
「達也くん、いい?引き受けてくれたら沢山の女性とエッチできるのよ?女性を抱きたい放題ヤりたい放題の毎日が待ってるのよ?男として、そんな夢のようなチャンスをみすみす見逃すの?」
「ストレート過ぎるやろ!」
…というか、種付けに目の色変えるような男には務まらないって今言ってなかったっけ?
「達也くん、よーく考えて」
「な、何すか…」
今度はじっと目を合わせてきて。
「この社会には、子どもを授かりたいけど授かれない女性が沢山いるの。自分の子どもを産み、育てる…女性なら誰もが自然に抱くようなごく普通の夢すら叶えられない…達也くんは、そんな困っている女性に手を差し伸べてあげようとは思わないの?」
「いや、それは…何とかなればいいなとは思いますけど」
「『何とかなれば』じゃなくて、『何とかしてあげられれば』にどうしてならないの?達也くんは、困っている女性を見捨てるような冷たい心の持ち主なの?」
「そんな事言われましても…」
「達也くんは、今の毎日に心から満足してる?充実した毎日を送ってると胸を張って言える?明日死んでも満足な人生だったと言えるの?」
「な、何ですか急に」
「君はいつもそう、迷ったら尻込みして後ずさりしてしまう。だから毎日が中途半端で、くだらない日々の繰り返しなのよ。今前に一歩踏み出さなくて、いつ踏み出すの?その足は何のためについてるのっ?」
「…何か話が変わってる気がするんですけど」
「変わってる?変わらなきゃいけないのは達也くんの心よ!それに、もし断ったら私は自分が持っている力を総動員して、君の単位取得を妨害するわ。となると君は留年決定、それどころか単位全滅で退学処分になるかもしれないわ。それでもいいの?」
「完全に脅迫じゃねーか!」
…どこまで本気か分からないけど、玲奈さんの目と口調が本気っぽく感じるから怖かった。隣で未華子ちゃんも「うんうんそうだよなー」みたいな感じで小さく頷いてやがるし…
とはいえ単位とかに関係なく、ここまで熱心に説得されるなら引き受けちゃおうかなと思い始めているのも事実だった。そもそも絶対に断ろうと思ってた訳でもないし、むしろ実はやってみたい気持ちの方が大きいような気もするし…
「じゃあ、そこまで言うなら…」
「引き受けてくれるのねっ!」
引き受けるの『ひ』の字も言わないうちに、ガシッと両手を掴まれた。今更拒否すると、マジで単位を奪われかねないような雰囲気だった。
「でも、一つ問題があるんですよ」
「どうしたの?何でも言ってみて?」
単位なら私がどうとでもしてあげるわよ、と玲奈さんは言うけど。
「単位の話ではなくて…いや単位の方も是非お願いしたいんですけど」
そう、単位も大事だけど、もっともっと重要な問題があって。
「ちょっと仲の良い女の子がいるんですけど、どう説明すればいいかなと思って」
「仲の良い女の子って、高倉充希さん?」
「な、何で知ってるんですかっ…!?」
「達也くんの事は何でも知ってるわよ」
「……」
驚きとかじゃなく、単純に怖かった。
「でも、それなら全く心配いらないわ。私が責任を持って充希ちゃんをしっかりと説得するから」
「…本当ですか?」
「ええ、任せておきなさい」
玲奈さんが自らの胸をドンと叩いた。大きなおっぱいがぽよよんと揺れた。
「それに、今回の件で充希ちゃんはむしろ達也くんを見直すと思うわ」
「見直す?」
「ええ。オスは理論上無限に子孫を残せるけど、メスは妊娠という期間を経なきゃいけないから一生のうちに産める子どもの数は限られるでしょ?だから動物の世界でもオスはメスなら誰でもいいってなるんだけど、メスは強くて生殖能力の高いオスをパートナーに選ぶのよ。だから生物学的に言っても、達也くんが沢山の女性に種付けして生殖能力の高さを見せ付けてあげれば、充希ちゃんの女心がときめいちゃうのは間違いないわ」
「…そうなんですか?」
いきなり学術チックな事を言われてちんぷんかんぷんだったけど。
「そんなの常識よ。男はヤリマンより処女が好きだけど、女は童貞よりヤリチンが好きなのも同じ理屈なのよ」
「はあ…」
卑猥な単語がバンバンと飛び出すのが気になって気になって、何を言ってるのかサッパリ頭に入って来なかった。
「でも、そうと決まれば善は急げね」
すると、すっと玲奈さんが立ち上がって。
「さあ、早速充希ちゃんを説得しに行くわよ」
「い、今からっ?」
「達也くんの種を待ってる女性はごまんといるのよ。グズグズしてる暇は無いわっ」