急遽始まった、俺と充希と玲奈さんによる三者会談。
と言っても、実質は充希と玲奈さんによる二者会談…いや、喋ってるのはほとんど玲奈さんだけの独演会。
話の中で、玲奈さんは俺をこれでもかというくらい持ち上げた。達也くんは種付けに必要な要素を全て備えた完璧な男性、これまで色んな男性をスカウトしてきたけど達也くん以上の人材は見た事がない…と。それはそれは、聞いてるこっちが恥ずかしくなるほどだった。
充希は充希で困惑した表情を浮かべながらも、玲奈さんの話をしっかりと聞いていた。ただし、時おり俺の方を睨みつけながら…
「充希ちゃんも同じ女なら、子どもを産みたくても産めない女性の辛さは想像できるでしょ?」
「まあ、それは…」
「達也くんは、そんな女性たちを救う事ができる力を持った男性なの。だからお願い、達也くんの力を貸してくれないかしら?」
「というか、私に言われましても…」
「達也くんは、充希ちゃんの了解を得る事が協力の条件だと言ってるの」
「はあ?」
充希の鋭い視線がまたこっちに向けられたのを感じたけど、俺は気付かないふりをして視線を逸らし続ける。
「今回の話は、全て私が一方的に達也くんにお願いしてる事なの。お願い充希ちゃん、達也くんを少しだけ私に貸してくれないかしら」
「か、貸してくれって言われても、別に私は達也の所有者でも何でもないですから…」
「それは、OKって意味に受け取ってもいいのよね?」
「OKも何も、私が口出しするような事じゃないですから…」
「ありがとう充希ちゃん、本っ当に恩に着るわっ」
ってな感じで、玲奈さんは強引に充希を承諾させてしまったのだった。
まあ、ここまでは良かった。問題は会談終了後だ。
玲奈さんが席を外すや否や、充希がドスの利いた声をこちらへと向けてきたのだった。
「で、今の話、何?」
怖かった。文字だけではおそらく伝わらないだろうけど、とにかくめちゃくちゃ怖ろしい口調だった。充希と知り合って20年弱、一番怖い声だったと言っても過言じゃなかった。
「な、何って言われても、玲奈さんが今話してた通りで…」
「私は、アンタの口から説明してって言ってんの!」
「は、はいっ…!」
コクコクと頷く。とはいえ俺にできるのは、玲奈さんがしてくれた説明を繰り返す事だけだった。だって、本当に玲奈さんが全て話したから。
ただ、全く同じ話をもう一回繰り返しただけのに、話し終わる頃には充希の怒りは幾分和らいだみたいで。
「はあ、達也がねえ…」
そう口にする充希の様子は、怒っているというよりむしろ呆れているようだった。
「あれ…もう怒ってない?」
「別に最初から怒ってないわよ」
いや絶対怒ってたよね?なんて口に出せる筈もなくて…
「ま、達也がやりたいんならやればいいんじゃないの」
出てきたのは、何とも素っ気ない一言だった。
「いや、本当にいいのか?種付けだぞ?」
「分かってるわよ。というかさっき井上先生にも言ったけど、私に聞くような事じゃないでしょっ」
「ま、まあそれはその通りかもしれないけど…」
ただし確実に言える事は、黙って種付けを始めて後からバレたら、それこそ死ぬほどブチギレられたのだけは間違いないって事で。
結論:どっちにしても怒られる。
「まあでもいいんじゃない。井上先生は有名人だし、達也をスカウトしたのもちゃんとした理由があるんでしょ」
「あの人、有名人なんだ?」
「そんな事も知らないの?テレビにもよく出てるじゃない」
「…マジかよ」
全然知らなかった。ただ後で調べてみたところ、充希の言う通り玲奈さんはワイドショーのコメンテーターをレギュラーで務めているほどの有名な教授だった。驚いた…
そして、テレビの中ではやっぱりおっぱいをデスクに乗せていた。そりゃそうだよな…
「それに、ドナーの確保が社会問題になりつつあるのは確かだし」
「何?ドナー?」
「だから、精子ドナーの確保が社会問題になってるのは事実なの。そんな事も知らないの?」
充希が教えてくれる。近頃は女性への精子提供を謳う個人サイトが乱立し、倫理面の問題がクローズアップされるだけでなく金銭面など様々なトラブルが発生しているのだと。そのために国としても精子提供に関するルール作りを急ピッチで進めており、信頼性に足る精子提供団体をNPOとして認可する動きが進んでいるんだとか。
「ていうか、何で充希がそんな事知ってんの?」
「西都大生ならこのくらい知ってて当然でしょ」
…という事らしい。もちろん俺は全然知らなかった。
「じゃあ今の時代、精子ドナーになっても大した驚きでもないって訳か?」
「まあ、井上先生のようなしっかりした人が率いてる団体なら、別に問題無いんじゃないの」
そんなこんなで、拍子抜けするほどアッサリと充希の了解を得てしまった。何より充希の口から精子ドナーなんて単語が当たり前のように出てきた事が驚きだった。
いつから、そんな世の中になってしまったんだ…
「でも、実際に始める事になったらちゃんと教えてよね」
「え…何で?」
「何よ、私には教えたくないっていうの?」
「い、いや、そういう訳でもないけど…」
正直言って恥ずかしいからあまり教えたくはなかったけど怖くて拒否する事もできず、種付けを始める事になった場合にはその詳細をきちんと充希にも伝える、という事で決着した(させられた)のだった。