―達也―
充希の了解も得ていよいよ種付け生活スタート!
…の前に、とても重要な過程が一つ残っていた。
それは、精液検査。俺の精液に十分な受精能力が確認できなければ、種付けの話は全部無かった事になる。
精液検査を受けると決まって、ガラにもなく緊張した。キックボクシングの試合前は全然緊張しないんだけど、今回は別だった。もし自分が種無しだったらどうしよう…と。そんな不安と緊張感からか、肝心の本番(精液採取)では射精量が普段より少なかったような気がしてならなかった。
しかし、案ずるより産むが易しとはよく言ったもので。
精液検査の結果は…合格だった。それもただの合格じゃなく、とっても優良な精液だとお医者さんから絶賛されてしまった。
具体的な数値は、精液量7.6ml(これでも普段より少なかったんだぜ!)、精子濃度2億6000万/ml。総精子数は19億7600万。ちなみにWHOが定める基準値が総精子数3900万らしいから、なんとその50倍以上の数値だ。
その他にも精子の運動率とか生存率とか正常形態率とかよく分からない項目がいくつかあったけど、その全てで基準値を大きく上回っていた。俺の精子は自然受精に何の問題も無いどころか、極めて受精能力が高い事が科学的に証明されたのだ。お医者さんからは「めちゃくちゃ妊娠しやすい精子だから子づくりするつもりじゃない時は絶対に避妊しないとダメですよ」とまで言われてしまった。
ハッキリ言おう、めちゃくちゃ嬉しかった。人生で一番嬉しかったと言ってもいいかもしれない。俺の精液は普通の男より50倍も優れている、女性を妊娠させる能力に圧倒的に長けている…そう思うと自分が神様から選ばれた男であるような気さえした。オスとしての優越感がハンパないというか…とにかく自分自身が誇らしくて仕方なかった。
嬉しい…マジで嬉しいっ…!!
精液検査にも無事合格し、いよいよ種付けに向けた具体的な話が始まった。
種付けのペースは、まずは週1回程度をメドにして行う事に決まった。玲奈さんとしてはゆくゆくは週2~3回程度のペースを考えているようだったけど、慣れるまでは緩やかなペースの方がいいだろうとなったのだ。
そして、キックボクサーとしての活動も引き続き継続する事になった。俺としてはもう引退するつもりだったんだけど、やはりキックボクサーとして連戦連勝を続けている事が、俺の『父親役』としての価値を高めているのは間違いないようで。
「これからも勝ちまくって、達也くんが女性に種付けするに相応しい男だっていう事を証明し続けて欲しいの」
なんだとさ。まあ仕方ないか、体動かすのはストレス発散にもなるし。
「じゃあ、種付けは大学が夏休みになる8月から始めましょう。それまでに、これをしっかりと頭に入れておいてね」
そう言って玲奈さんから渡されたのは『種付けマニュアル』なるタイトルが付された資料、なんだけど。
「分厚いっすね…」
その重さに、思わずそう口にすると。
「大丈夫、達也くんには半分くらい関係のない内容だから」
「…そうなんですか?」
「それより、達也くんはどんな女性に種付けしたい?」
「何ですか突然?」
「ゴメンゴメン、いきなり言われても意味が分からないわよね」
玲奈さんが説明してくれる。曰く、HFPには女性からの問い合わせが殺到していて、種付けの順番待ち状態になっている女性が数十人もいるらしく。
「20代前半の女の子もいるけど、ほとんどは30代から40代ね。女性の妊娠率は年齢と共に低下するから本来なら高齢の女性を優先して種付けするべきなんだけど、達也くんは新人だから、まずは比較的若い女性への種付けをお願いしようと思ってるの」
そう言って、続ける。
「だから、順番待ちになってる女性の誰に種付けするか、達也くんが自由に決めていいわよ」
「マジっすか…?」
それって…マジで好きな女性とヤりたい放題って事では…?
「どう?俄然やる気が出てきたでしょ?」
「やる気っていうか…うん、ヤル気が…」
オスとしての本能が疼き出すのを感じる。毎週好きな女性を選んでヤって、俺の子どもを産ませまくって…
(いやいやいや…何考えてんだ俺っ…!)
一瞬欲望に持っていかれそうになったのを、ぐっと堪えて。
「いや、やっぱり自分で選ぶのは遠慮しときます」
「あら、どうして?」
「別にそういう事をしたくて今回の話を引き受けた訳じゃないですから。種付けの相手は全て玲奈さんにお任せします」
「本当にいいの?」
「もちろんです。女性の容姿は度外視して、子どもが欲しいと切実に願ってる人を優先してあげて下さい」
と、カッコをつけて相手選びは玲奈さんに任せる事になった、けど。
本当は自分で選びたかったのをぐっと堪えた、ってのが正直な所なのは言うまでもない。
………………………………………
その夜、俺は玲奈さんに渡された種付けマニュアルなるものをぱらぱらと眺めていた。
中身を確認してみて、半分くらいは俺に関係がないと玲奈さんが言った意味はすぐに分かった。端的に言うと、マニュアルは女性経験が無い男…つまりは童貞用に作られたものだったのだ。ご丁寧に女性器の位置が詳細に記された図を見た時は、何だか嫌な気分になってしまった。
だから前半のページは適当に読み飛ばして、しっかり目を通すのは後半部からにする。
――種付けには主に『タイミング法』『シリンジ法』『人工授精』の3種類があり、HFPでは特段の事情がない限り『タイミング法』にて行う。また、1人の女性に対する種付けは原則として月に1回、排卵予定日の2日前をメドにして行う。
タイミング法とは、要は普通の中出しセックスって事らしい。妊娠しやすい日にタイミングを合わせて行うからそう呼ぶのだという。ちなみにシリンジ法とは精液を専用の器具に採取して人為的に膣内に注入する方法、人工授精とはあらかじめ精液を採取して医療機関に持ち込み、科学的に受精を目指す方法だそうだ。ただ、シリンジ法も人工授精も成功確率はあまり高くなく、加えて人工授精は費用も高額になるから、HFPでは原則としてタイミング法のみを採用しているらしい。
俺としては、タイミング法ぜひとも望む所だった。…いや、別にタイミング法じゃなきゃ嫌だって訳じゃないんだけど、シリンジ法でも全然いいんだけど、でも成功する確率が一番高い方法を採用するのは当然じゃん?だからやっぱりタイミング法がいいと思うんだよな。うん、思う。
――種付けは原則としてHFPが指定する場所にて行う。
種付け場所についても詳しく記されていて、何と都会の一等地に建つ高級タワーマンションの一室だった。種付けのためだけに玲奈さんが自腹で借りているらしい。セキュリティ抜群、部外者立ち入り不可、防音機能完備で隣の部屋への音漏れ心配なし、とある。試しにスマホでマンションの名前を検索してみると、毎月の家賃は一般的なサラリーマンの3か月分の給料に匹敵するんじゃないかってレベルだった。どう考えても種付けのためだけに借りるのは勿体ない部屋だと思うんだけど…何にしても玲奈さんすげえな…
というように種付けに関する概要が列挙されているだけでなく、他にも具体的な種付けのやり方や種付けにおける注意事項や禁止事項も沢山記されていた。例えば…
――種付けの体位は、女性が指定する体位にて行うものとする。女性の指定が無ければ体位は任意となるが、その場合は正常位または後背位が推奨される。
どうして正常位か後背位が推奨されるのかは書いていなかった。そのかわり、正常位や後背位がどんな体位なのかという事は図解付きで詳細に記されていた。その図を見て、やっぱりちょっと嫌な気分になった。
――種付け中、女性の体を叩く・傷付ける等の暴力的行為は禁止。ただし処女膜を破る行為は例外。
…そりゃそうだろうけど、処女膜のくだりはいらんだろ。
――射精は必ず女性の膣内に行う。膣外射精(顔射・口内射精など)は行ってはならない。
…当たり前だよな、種付けなんだから。でも、わざわざ『顔射・口内射精など』って例をあげる必要あるか?
――射精は事前通告制とする。射精の際は必ずその旨を女性に告げてから行う事。
…つまり勝手にイくなって事か。書き方が変に仰々しいんだよな。事前通告制って…
――射精時は、可能な限りペニスを深く挿れて射精すること。その方が妊娠確率が上がる。
…そうなんだ、全然知らなかった。でも常識的に考えて、その方が精子が生きたまま子宮に届きやすい…のかな?
など、様々な決まりや注意事項が大量に列挙されていた。それらを一つ一つ読んでるのは意外と面白かったけど、全部を完璧に覚えるには一日や二日じゃ到底無理そうだった。
(ま、なるようになるだろ…)
と、気楽に考えてるうちに。
種付け本番の日は、あっという間にやってきた。