万全の状態で、達也は本番の日を迎えていた。週1回にペースを落としていた種付けも試合前2週間はキャンセルし、この日だけを見据えて体をつくり上げてきた。自分史上最高の状態と言い切れる仕上がりだった。
ステップアップ・トーナメントに出場するのは4人。まずは昼過ぎに1回戦が行われ、そのおよそ3時間後に決勝戦が行われるタイムテーブルとなっている。
達也にとって1日に2試合というのはプロになって初めての経験だったが、空手家時代には1日に何試合も戦わなければならないのが普通だったからさほど気にはならなかった。ただ、空手家時代は決勝戦まで勝ち上がる事を想定したペース配分を心がけていたが、この日に関してはまずは何が何でも1回戦に勝つ事、初戦の戦いに全力をぶつける事しか達也の頭には無かった。
1回戦の相手の名は柳川翔太。高校3年のインターハイ決勝で、達也が失神KO負けを喫した相手である。
柳川は高校を卒業後、名門私立大学に進み空手を続けていた。昨年の大学選手権では全国ベスト4という成績を収めている。高校時代に無敵の達也に唯一土をつけたという実績を考えれば伸び悩んでいるとも言えるが、それでも大学生としては全国有数レベルの実力を有している事もまた確かだった。ただし、キックボクシングの試合に臨むのは今日が初めて。経験値では達也にかなり分があると言えた。
試合前の合同会見でも柳川は自身の不利を自認する発言を繰り返した。「高校時代に小野選手に勝ったのはマグレに過ぎません。明日の試合は胸を借りるつもりで頑張りたいです」と。
一方の達也からも、記者が注目するような発言は全く出てこなかった。リップサービスも嫌いではない達也からはこれまで、「今回もできれば1ラウンドで勝ちたいと思っています」のような強気な発言もよく出ていたのだが、今回は「練習した成果を出す」や「精いっぱい戦う」といったつまらない発言しか出てこなかった。
そして試合は、そんな味気ない会見を象徴するように、白熱した試合にはならなかった。
もう少し具体的に言えば、試合はアッサリと終わってしまった。
グローブを装着しての試合が初めてとなる柳川は、まずは達也の様子を窺う作戦に出た。インターハイ決勝の感覚は柳川にもハッキリと残っており、あの時の記憶が脳裏に染みついているからこそ、達也も慎重になって迂闊に攻めてこないだろうと考えたのだ。
だが達也は、柳川が消極的なのを見て取るや、思い切って前に出た。
達也が狙ったのは柳川の顔面だった。空手の試合では顔面へのパンチは禁止されている。柳川の未経験領域を狙うように、達也は顔面へのジャブとストレートで攻勢を強めた。
そして、柳川が反撃に出た…その刹那だった。
打ち返そうと柳川のガードが下がった瞬間に、達也の右ハイキックが柳川の顔面を捉えた。
会心の一撃だった。達也の格闘技人生の中でも3本の指に入るほどの一撃だった。柳川の体は1m後方のロープまで吹っ飛び。そのまま意識を失った。
試合時間、1分37秒。2年半前にハイキックで失神させられた借りをハイキックで返すという、完璧なリベンジだった。
1回戦のもう1試合は、達也の試合とは対照的に大熱戦となった。23歳の選手と21歳の選手の激突となったこの試合は1ラウンドからお互いにダウンを奪い合うクロスファイト。規定の3ラウンドでは決着がつかずに延長戦へと突入し、結局延長2ラウンドを含めた計5ラウンドを戦い抜いた死闘の末に、23歳の選手が先輩の貫録を見せる形で僅差の判定勝利を収め、達也の待つ決勝戦へと駒を進めた。
だが、彼の体力は1回戦の死闘を経て既に限界だった。ノーダメージで1回戦を突破した達也との余力の差は歴然、加えて本来の実力差も大きく、達也の相手にはならなかった。試合開始直後から達也が優勢に試合を進め開始30秒過ぎにアッサリとダウンを奪う。何とか立ち上がるもダメージは大きくフラフラで、見かねたセコンドがタオルを投入して試合は終わった。その瞬間、REAL本大会への出場者は達也に決定した。
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「んああっ、あっ、ああっ、ああっ、あはぁぁっ、ひっ、ひあぁぁっっっ!!!」
部屋には、女性の喘ぎ声が延々と響いていた。荒さと切なさが入り混じった、卑猥な声が。
「あはああぁぁっ、あっ、ああぁぁっっ、んはあぁぁっっ」
その声は、普段この部屋で聞かれる同質の声と比較しても、明らかに数割増しのボリュームだった。こんなに大きな声で喘ぎ続けては、早晩女性の声が枯れてしまうのではないかと、そんな懸念を抱かせるほどに。
だが、喘ぎ声が大きいのは、決してこの女性が声の出やすい体質だからではない。彼女の普段の声量は、むしろどちらかというと小さい方だ。
彼女の声の大きさは、彼女自身ではなく、彼女に声を出させている方にあった。つまりは、彼女の腰をガッチリと掴んで自らの腰を遠慮なく前後させる、若い男に。
達也は絶好調だった。体調もそうなのだが、何より精神的な部分が絶好調だった。
まあしかし、それも当然だろう。かつて屈辱を味あわされた相手に完璧なハイキックでやり返して、しかもREALへの出場権もゲットしたのだ。これで喜ぶなと言う方が無理である。まさに気分は最高、一点の曇りも無い快晴気分だった。
加えてこの日の相手は、(間が悪い事に)達也のタイプにドンピシャの女性だった。具体的に言うと、充希にどことなく似ている女性だったのだ。顔もそうなのだが、背格好や佇まいなど様々な部分で充希に似通った雰囲気をたっぷりと醸し出す、清楚で上品な(達也から言わせれば)女性だった。
だからどうしても、いつもより興奮してしまう。腰の動きも普段より大きく、強くなる。声を出すまいとする女性の精神力など、アッサリと打ち砕いてしまうほどに。
「うはあぁぁぁっ…あっ…ダメっ…こわれ…るぅぅぅっっ…あっ、いやあぁぁぁぁっっ…!!」
自慢のビッグ・キャノンから繰り出される下腹部への連打はあまりにも猛々しく、充希似の女性の精神力はもはやズタズタに引き裂かれていた。もう何も考えれられない、何を考えていたのかも分からない…そんな極限状況で、達也の暴力的とも言うべき苛烈な攻めを延々と受け続ける。それは一種の拷問に等しかった。
そしてついには、声を上げる事すらも難しくなって。
「んはぁっ、ぁっ、はあぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
女性がカッと目を見開き、顔を大きくのけぞらせた。直後、細い体がビクビクと震える。
「あ、イっちゃいましたか?」
腰を前後させたまま、達也は満足そうに女性の様子を確認して。
(うんうん、やっぱ俺って、マジで強いよなぁ…)
普段の達也ならこの辺りでハッと我に返りそうな所だが、この日の達也はあくまで上機嫌。白目をむいて震える女性を思いやるどころか、リングの上だけでなくベッドの上でも相手をKOしてしまう自分の強さに酔いしれる始末。
そして、これがリングの上なら間違いなくレフェリーストップだが、残念ながらベッドの上にはレフェリーは存在しないから…
「もう少ししたら出しますんで、まだちょっとだけ我慢してくださいね」
自らの強さを女性の体にとことん刻み込むべく、攻めの継続を宣言する達也。
『優しくKOしてあげる』という自戒を振りほどいた達也の恐ろしさをまじまじと見せ付ける光景は、この後も延々と続いた。