※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

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3-7 大一番に向けて

 間もなく、達也とパクの試合が正式に発表された。その直後から、この一戦は5月28日に開催されるREAL全12試合の中でも1、2を争う屈指の好カードとして注目される事となった。

 だが、この時のファンの心理は期待よりも不安の方が大きかった、というのが実際の所だ。なぜなら、達也がごく一部の格闘技マニアを除いて全く知られていない、ほぼ無名と言うべき選手だったからである。本当にこんな無名の若手がパクに勝てるのか、返り討ちに遭って惨めな姿を晒すだけなんじゃないのか…ファンの中にはそんな空気が色濃く漂っていた。

 とはいえ、決まってしまったからには達也を応援する以外の選択肢は無い。ファンは拭いきれない不安を抱きながらも、小野達也という初めて聞く名の若者にパク退治の願いを託した。何人かのファンは達也に激励の手紙を送り、別のファンは少しでも達也の力になればと、差し入れの品を大量にジムへと送った。

 そんなファンの期待に応えるべく、達也は試合が内定するや否やその正式発表を待たずに、パク戦への準備を始めていた。種付けのペースをぐっと減らし(といってもゼロにはしないのだけど)、パクの過去の試合映像をかき集めて、早速その確認へと入った。

 幸い、パクの試合映像は簡単に手に入れる事ができた。パクはこれまで戦ってきた選手たちとは全く格が違う大物、試合映像は無料の動画サイトなどでも大量に拡散されていた。

 それらの映像を確認して達也が抱いた率直な感想は…意外と強い、だった。

 相手の実力を見極める際は過小評価も過大評価もしてはいけない、それは達也が肝に銘じている事でもある。フラットな視点でパクの試合を確認して感じた印象は、こいつはただの知名度先行型選手なんかではなく、確固たる実力を持った強豪だな…というものだった。オリンピックの決勝戦は疑惑の判定と言われているが、少なくともプロ転向後にREALのリングで日本人選手を下した2試合はいずれも文句なしでパクの完勝、何度やってもパクが勝つだろうなと思える内容だった。他にもヨーロッパの強豪選手と互角以上に渡り合っており、これまで達也が戦ってきたどの選手よりも強い事は間違いないように思えた。

 もしかしたら負けるかもしれない…なんて弱気な事は思わないにしても、勝てる保証なんてどこにも無いというのが率直な感想だった。決してオイシイ相手じゃない、むしろ危険な相手だ…と。

 しかし、達也は、それが逆に嬉しかった。

 これまで達也は、勝てども勝てども大した注目を浴びる事はなかった。空手のインターハイ決勝という舞台であっても、注目してくれるのはせいぜい学校の女子たちぐらい。しかしパクとの試合は、間違いなく日本中が注目する一戦になる。そんな晴れ舞台で勝敗が見えない危険な試合に臨む…それを考えると、自然と胸が熱くなるのを感じずにはいられなかった。

 格闘技なんていつ辞めてもいいと思っていた筈なのに、いざ大一番を前にすると、恐怖心よりもワクワク感の方が圧倒的に大きかった。この試合は、俺という男の価値を日本中に示す最高の舞台だ…と。

 そして何より、達也の気持ちを駆り立てるのは充希の存在だった。これまではどれだけ勝っても何故か全然褒めてくれなかったけど…今回勝てばついに充希と付き合える…!そう思うとめちゃくちゃ気合いが入った。

 おそらくは、勝っても負けても人生が変わる。それも劇的に…

 そんな瞬間ともうすぐ対峙できる事に、達也の心は歓喜していた。

 

………………………………………

 

 試合までおよそ2週間に迫った5月の中旬、達也は出稽古のためにある道場へと足を運んでいた。

「今日はよろしくお願いします」

 達也が礼儀正しく挨拶する相手の名前は山本大志。前回のオリンピックでパクに疑惑の判定の末に敗れて銀メダルに終わった張本人である。

 今回の出稽古は、他ならぬ達也が強く希望したものだった。試合前にテコンドー選手とのスパーリングを経験しておきたい、そして叶うなら、パクと拳を合わせた経験を持つ山本選手と手合わせをお願いしたい、と。山本としても自分が力を貸せるなら労力は惜しまないと達也の申し出を快諾し、出稽古が実現した。

 スパーリングの様子はメディアに公開される事になり、この日はREALの担当をはじめ複数のスポーツ系メディアが取材に訪れていた。テコンドーというアマチュアスポーツの世界で戦う山本にとっては、さすがプロの世界は注目度が違うなと羨ましさを感じずにはいられなかった。

 しかし、肝心のスパーリングは、ハッキリと言ってしまえば地味な内容だった。報道陣としては達也が山本を圧倒してくれれば記事になると期待していたのだが、残念ながら内容はそんな期待には程遠く、むしろ達也が押し込まれるようなシーンが目立った。訪れていた報道陣の多くはこの日初めて達也を生で見たのだが、彼らからは一様に不安の声が漏れた。「おいおい、こいつめちゃくちゃ調子悪いじゃん」「というかこんな弱くて無名の若手がパクに勝てる訳ないって…」「ヘタしたら公開処刑になるんじゃねえのか…?」と。

 

 

 だが、不調に見えたスパーリングこそ、達也にとっては予定通りの展開だった。

 達也が山本とのスパーリングを希望したのはテコンドー選手の距離感や間の取り方を肌で感じておきたかったというのは確かにあるのだが、

 実はもう一つ、もっと重要な目的があったのである。

 

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