4-1 激変した日々
翌日のスポーツ新聞は、全紙が達也の勝利を大きく報じた。野球を差し置いて一面で取り扱うスポーツ紙も少なくなかった。それ程までに、達也の勝利は日本人にとって痛快な出来事だったのだ。
試合の反響の大きさはSNSの盛り上がりにもハッキリと見て取れた。『小野達也』はツイッターのトレンド1位となり、『小野よくやった』『パクを倒してくれてありがとう』『小野最高すぎる』といった賞賛ツイートで溢れ返っていた。ほとんど無名の若者だった達也は、憎き韓国人を退治するという国民の期待に見事に応え、一夜にしてヒーローへと昇華したのだった。
………………………………………
―達也―
パク戦の反響は凄かった。
まず驚いたのが、REALの公式ホームページに寄せられたファンからのコメントの数だった。スタッフの話によると、試合終了直後から俺を称賛するコメントが大量に書き込まれサーバがダウン寸前だったらしい。それを聞いて「俺もついに有名人の仲間入りかも」と思わずにはいられなかった。
そして、それが単なる思い上がりではなかったという事に気付かされるまで、そう時間はかからなかった。
なぜなら、知らない人からめちゃくちゃ声を掛けられるようになったからだ。
お店でも、コンビニでも、普通に外を歩いてるだけでも、色んな人から当たり前のように声を掛けられる。小野選手ですよね、応援してます、頑張ってください、前の試合とても凄かったです、サインください、握手してもらえないでしょうか…と。
嬉しかった。今まで勝っても勝っても全く注目されなかったからこそ、俺という存在をみんなに知ってもらえた事がすごく嬉しかった。だから声を掛けてくる人たちには丁寧に対応しようと心がけた。サインも握手も断らないようにしたし、写真だって何枚撮ったか分からない。でも、嬉しいんだけど、さすがに声を掛けてくる人が多過ぎるから、気が付けば外出時には帽子やマスクで顔を隠すようになってしまった。
試合前には全く無かった取材の依頼も殺到した。スポーツ系メディアからの取材依頼だけじゃなく、ワイドショーや普通の週刊誌までも取材に来た。おかげで試合後しばらくは取材対応に多くの時間を割かなきゃいけなくなってしまった。
そういった諸々の変化を通じて、どうやら俺は単なる有名人というよりも、ヒーローのような存在として世間から認知されていると自覚せずにはいられなかった。自惚れのようだけど、でも現実として世間は俺の事を『憎き韓国人を倒したヒーロー』として見ていた。でなければ「日本人としての誇りを守ってくれてありがとう」みたいな言葉を何度となく掛けられるなんて事があるだろうか。
そんな言葉を掛けられる度にパクとの試合を受けて良かったと思ったし、あの時棄権せずに股間の激痛に耐えて試合を続行して良かったと思った。もっと言うなれば、幼い頃から毎日必死に努力してきて良かったと心から思った。これまでの厳しい練習の積み重ねがついに報われたような気がした。
ハッキリ言って、この地位を失いたくないと正直に思った。今は試合直後で過度な注目を浴びてるだけかもしれないけど、できるならこの状況が長く続いて欲しいと本気で思った。イヤらしい言い方になるけれど、世間からヒーロー視される状況というのはとても気持ち良かった。
そしてもう一つ、試合の前と後で大きく変わった事といえば、そう。
充希と正式に付き合う事になった。
とはいえ何が変わったのかと言われると、実はほとんど何も変わってなかったりする。一応、会わない日は毎日必ず電話しようってのを決めたぐらいで、それ以外は以前と全くと言っていいほど同じ。必要以上にイチャイチャするようになった訳でもないし、充希はちょっとした事ですぐ機嫌を損ねて冷たくなる。まあ、それが充希と言ってしまえばそれまでなんだけど。
そんなこんなで、パク戦に勝利した事であらゆる物事が良い方に動き始めたんだけど、唯一玲奈さんだけは頭を痛めているようで。
「達也くんが勝ち続けるのは嬉しいけど、こんなに有名になっちゃうとさすがに困っちゃうよね…」
俺が一躍有名人になってしまった事で、種付けに関する様々な調整がとても面倒になってしまったらしいのだ。
そして、そんな変化は俺自身も、確かに感じていた。
………………………………………
「凄い…本物だ…」
部屋に入って対面するとすぐ、種付け相手の美冬さん(27)が驚いたような様子で俺を見て。
「ほ、本当に…本物の小野達也さん…なんですよね?」
「ええ、一応ニセモノではないと思います」
「凄いっ…私、ずっと前から達也さんの大ファンなんですっ」
鼓動の高鳴りを確認するように、美冬さんが自らの胸に手を当てる。言葉通り、本当に信じられないといった表情で。まあ、「ずっと前から」ってのはいかにも嘘っぽいけど…
とはいえ、最近はいつもこんな感じだ。俺と対面した女性が最初に見せる反応は『緊張』でも『恥じらい』でもなく『興奮』。俺という有名人を目の前にして興奮を隠せない女性がほとんどだ。
最初はこっちが逆に恥ずかしかったけど、こうも続くとさすがにもう慣れてしまった。それに、実際に俺は有名人になってしまったのだから、それなりの振る舞いをしなきゃいけないという自覚も芽生えつつあった。もちろん無駄に有名人ぶるのはダサいけど…
だから俺は、変に謙遜する事なく、あくまで堂々と。
「本日、美冬さんへの種付けを務めさせて頂きます、小野達也と申します、美冬さんに子宝を授けられるよう全力で頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
半ば定型化された挨拶をしてから、軽く頭を下げると。
「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ…」
美冬さんもぺこりと頭を下げる。年上女性の慌てたような仕草に、変な所で可愛らしさを感じていると。
「あ、あの…」
挨拶を終えるや否や、美冬さんが。
「も、もし良ければ、体を触らせて頂けませんか…?」
少し後ろめたそうに、そう尋ねてくる。ただ、これも最近は本当によくあるリクエストだ。
「だ、ダメですか…?」
「いえいえ、構いませんよ。良ければ服も脱ぎましょうか?」
「ぜ、ぜひお願いしますっ…」
美冬さんの嬉しそうな声に応えるべく、服を脱ぐ。
これまでの種付けでは、お互いに下だけを脱いで行為に及ぶ事がほとんどだった。でも最近は、ほとんどこの流れで上を脱いで…
「あ…」
シャツを脱ぎ捨てると、美冬さんの視線が痛いほどに注がれるのを感じて。
「どうぞ好きなだけ触ってください」
「あ、ありがとうございますっ…」
美冬さんの指先が手のひらが、さわさわと体に触れる。腕から肩、そして胸へと。まるで俺の筋肉を品定めするかのように。
「凄い…ダメ…カッコ良すぎる…」
やめられない止まらないといった感じで、美冬さんは俺の体をまさぐり続けて。
「はぁぁ…凄い…ダンプのタイヤみたい…」
「タイヤ?」
「はい…硬いのに弾力があって、それにとっても分厚いです…」
…なるほど、タイヤか。
そんな比喩で言われたのは初めてだったけど、言い得て妙な気もした。
「あったかい…それに、体からとてもいい匂いがする…」
それは単に、さっき使った石鹸の香りだな…と思いながら。
種付けの前にはバスルームで体を清めているんだけど、そこに用意されてる石鹸は超が付くほどの高級品。さすが玲奈さん、細かい所にも抜かりが無い。
「ああ…ホントに素敵…」
完全に俺の体の虜になってしまったのか、美冬さんはなおも手のひらを這わせ続ける。それはゆっくりと下っていって、割れた腹筋を一つ一つ確かめるようにしながら、ついには臍までやってきて。
(…止まる気配、無いな)
まあ、別に嫌な気はしない。自身の肉体を女性に賞賛されて、嬉しくない男なんていないだろう。
とはいえここまで積極的に迫られると、逆にちょっと引いてしまうのも事実だけど。
(…ま、サービスしてあげるか)
有名人として、ファンは大事にしなきゃいけないから。
「本番の前に、ここも確認しておきますか?」
おもむろに、美冬さんの手を取って。
そのままさらに下へと導き、股間へと宛がわせる。
「えっ…」
美冬さんは一瞬ピクっと腕を震わせたけど、それは瞬間的な反射に過ぎず、抵抗では決してなくて。
「そんな…嘘…」
「どうしました?」
「凄い…おっきい…」
ズボン越しにでも確かに伝わる男性器のサイズ感に、美冬さんは驚いたようで。
「こんなに大きいの…初めてです…」
美冬さんの男性経験がどのくらいなのかは知らないけど、どうやら美冬さん史上最大の称号を頂けたらしい。
それだけでも、十分光栄なんだけど。
「でも、本番の時にはもっと大きくなりますからね」
「う、嘘っ…」
「ほら、まだまだ柔らかいでしょ?」
そう言って、美冬さんの手をギュッと股間に押し付けてやると。
「ひゃっ…あ…」
俺のモノにはまだ全く力が入っていないという事を分かってくれたのか、美冬さんは慄くように小さく頷いた。
種付けは『優しく』『激しく』『中間』『お任せ』の4パターンから選んでもらっている。最初の頃はそんな余裕は無かったけど、俺も種付けを初めてもうすぐ1年。サービスのバリエーションは増やしていかなきゃいけないから。
ちなみにこれまでは『優しく』が約6割、『中間』と『お任せ』が2割ずつぐらいで『激しく』をリクエストした女性はまだ皆無だ。俺としてはたまには激しくハードプレイしてみたい…なんて思ったりもするけど、まあこんな筋肉質の体とデカいモノを見せられれば、優しくして欲しいと思うのが普通だろう。
美冬さんのリクエストもやっぱり『優しく』だった。だから丁寧に下準備して、挿れてからもできるだけ優しく動いてあげた…つもりだ。
そして、最後の一滴まで残さず中に注ぎ込んで、自分の役目をしっかりと果たして。
「美冬さん、痛い所とか無いですか?」
「はい…大丈夫です」
美冬さんは足を少し広げ、頭を低くした体勢を取っている。いわゆる妊娠ポーズだ。
ハッキリ言うと、俺は妊娠ポーズを取っている女性を眺めるこの瞬間が好きだ。スマホで撮影しちゃダメかな…なんて思ってしまうくらいに(さすがにした事ないけど)。
何にしても、妊娠ポーズを取る女性を眺めていると、一仕事終えたという充実感に浸れるんだよなぁ…
「あの…達也さん」
その時、美冬さんがふっと口を開いた。
「この前の試合、おめでとうございます」
「どうもありがとうございます」
「私、達也さんが勝ってくれて本当にスッとしました」
「はは、そう言ってもらえると嬉しいですね」
勝ってくれてありがとう…いったいどれだけの人からそう言われただろう。日本人として、男として、本当に嬉しく誇らしい気持ちになる。
充希にも聞かせてやりたい。というか充希は俺の価値を分かってない気がする。いや、マジで。
「でも…大丈夫だったんですか?」
「大丈夫とは?」
「その…途中、反則を受けて…」
「ああ…」
そういやそんな事もあったなあ、と思う。あの時はマジで死ぬかと思ったけど、喉元を過ぎれば何とやらというか…
「そうですね、アソコもしっかり鍛えててホントに良かったですよ」
「は、はは…」
軽い下ネタジョークに、美冬さんは苦笑い。まあ、鍛えられたアソコの逞しさを身を持って知った直後だからこその苦笑いなのかもしれないけど。
「ま、さすがにちょっと痛かったんで、お返しにボコボコにしてやりましたけどね」
「はい…とってもカッコ良かったです…」
そう言って美冬さんは、自らの下腹部を、円を描くようにして撫でた。
まるで、体内で行先に迷っている俺の精子たちを、卵子の元へと導こうとしているかのように。