※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

33 / 92
4-3 パパは強くなきゃいけないから

 梅雨が開けて少しした頃、達也の次戦の対戦相手が発表された。カンフーの使い手という触れ込みのアメリカ人選手だった。

 ただ、詳しくは後述するがこの相手はハッキリ言って達也の『商品価値』をさらに高めるという目的のためだけに選ばれた選手と言って差し支えなかった。

 ここに来てREALの運営サイドは、小野達也という選手の真の才能に注目し始めていた。もっと言えば、達也は『パクを倒した男』という特別な付加価値に支えられただけの選手では決してなく、純粋に素晴らしいスター性を有した選手なのではないかと考え始めていたのだ。

 現状、ファンの達也に対する認識は『パクを倒した男』でしかない。だが冷静に達也のここまでの戦績を見てみると、プロデビュー以来15戦15勝、しかも全て1ラウンドでのKO勝利なのだ。さらに達也はまだ20歳と若く、加えてモデル顔負けの恵まれたスタイルとアイドルのような爽やかなルックスまで持っている。パクを倒したという事実ばかりに目を奪われがちだが、実績・年齢・外見といった達也本来のポテンシャルを純粋に評価しても、スーパースターになれる資質を十分過ぎる程に持ち合わせていると言えるのだ。それに気付いたREALが今後は達也を前面に押し出していこうと考えるのは当然だった。

 

 8月13日、達也は再びREALのリングに登場した。パク戦は挑戦者という色合いが濃かったが、今回はイベントを彩る主役の一人としての出場である。

 そして、達也がREALの『推し』選手となった事はテレビ放送での編集でも明らかだった。試合前に達也の紹介VTRがたっぷりと流されたのだが、その内容はというと…

「普段は西都大学に通うインテリ大学生(自己推薦入学である事には触れられず)、イマドキの若者らしく流行りの曲を好み(実際はあまり音楽を聴かない)、甘いスイーツが大好きなんていうキュートな一面を持っていて(糖質制限してるからスイーツはほとんど食べない)…」

 …と、達也を知る人間からすれば「こいつ誰やねん!」と言わずにはいられないようなとんでもない仕上がり、おまけに「爽やかなルックスで若い女の子から人気沸騰中!」と、まるでアイドルのプロモーションビデオと見まがうような、それはそれは凄まじい紹介VTRだったのだ。

 ただ、紹介VTRはオーバーが過ぎるとはいえ、達也が爽やかなルックスで若い女の子から人気急上昇中なのは決して嘘ではなかった。現に達也の試合になると、F0層(13歳~19歳の女性)及びF1層(20歳~34歳の女性)という格闘技にはあまり興味を持たない層の個人視聴率が5ポイント以上もアップした。

 

 さあ、視聴率もぐんぐん上がってついに達也の試である。リングに上がる達也の表情には、これ以上無い程に気合いが漲っている。

 実は達也には、どうしても勝ちたい『ある理由』があった。まあ、もちろんいつだって勝ちたいんだけど、この日はこれまでの試合以上に、特別な思いを持って試合に臨んでいた。

 というのもつい先日、達也が昨年の夏に初めて種付けした亜美から、無事に男の子を出産したという知らせが届いたのだ。

 HFPではプライバシー保護の観点から、種付けする男性と依頼者の女性が連絡先を交換する事を原則として禁止している。なので達也から亜美に連絡する手立ては無く、亜美が達也に連絡したければ玲奈を介さなければならない。なので達也は、亜美が妊娠したという事自体は知っていたが、それ以降の情報は全く聞かされていなかったのだ。

 早いもので、達也が種付けを始めてからもう1年になる。その間、大事な試合が近付くたびに種付けのペースを落とすなどはしてきたが、それでも最低週1回以上のペースで、達也は世の女性たちの子宮に精子を注ぎ続けてきた。その結果、これまで達也が妊娠させた女性の人数は何と30人。これからは毎月複数の出産の報告が入る予定になっているのだ。

 とはいえ、やはり達也にとって亜美は、初めて種付けした思い入れの深い女性だ。亜美への種付けでは自分自身到らぬ部分があって精神的に落ち込み、一時は種付けを辞めようと思った瞬間もあったが、亜美が書き残してくれた感謝の言葉に励まされて心を持ち直す事ができた。だから達也は今でも時々思う。もし初めての種付けが亜美さんじゃなく別の女性だったら、もしかしたらその時点で種付けを辞めていたかもしれない、と。

 そんな亜美さんが俺の子どもを産んだ…そう思うと達也はつい感慨に浸ってしまうのを止められなかった。同時に、亜美に子どもを授けてあげられた自分自身を誇らしく思った。その誇りは、パクを倒して国民の期待に応えたという誇りにも、決して勝るとも劣らないものだった。

 亜美は生まれてきた男の子に達也から『た』の一字を取って『タクト』と名付けた。それを聞いた達也はちょっとした恥ずかしさが込み上げると共に、自分もついに父親になったんだという自負と責任感が込み上げてくるのだった。

 法律的には、達也とタクト君は赤の他人だ。達也はタクト君の子育てには一切関与しないし、そもそも会う機会すら永遠に無いかもしれない。でも…

 自分はもう父親なんだ。だから絶対に、弱い姿は見せられない。タクト君のためにも今日の試合は絶対に勝って、君のパパは強いんだぞっていう所を見せなきゃいけないんだ…と。

 

 秘めたる闘志の胸に、いざ試合が始まる。相手は前述したように、カンフーの達人という触れ込みのアメリカ人選手だ。

 だがこれも前述したように、この一戦は達也の商品価値を高めるためにプロデュースされたという意味合いが極めて強い試合である。強豪選手同士の試合ばかりを組んでいては毎回壮絶な潰し合いとなってしまって誰の身も持たない。いくらREALが国内最大の格闘技団体とはいえ、トップ選手に「楽な試合」を適度に組み込む事は当たり前の事なのだ。

 このカンフー選手が達也の相手として選ばれた理由は主に二点。一点目は空手vsカンフーという分かりやすい構図を作れるという事、もう一点はこの選手の見かけの戦績が実力とマッチしていないという事だった。つまりこれまでの戦績としては黒星より白星の方が遥かに多く高い勝率を誇っているが、実際は大した相手とほとんど試合をしておらず実力的には今一つ、というのがこの選手の正体なのである。

 そんな選手が相手となれば結果は最初から分かり切っているが…まあ一応、試合の内容を簡単に記そう。

 試合開始直後から、達也は何とほぼノーガードで戦うというエキサイティングな戦術を見せた。両手をぶらぶらと下げ、相手の攻撃を難なくかわしては素早いパンチを打ち込む。相手の攻撃は一発も当たらないのに達也の攻撃は面白いようにヒットする。それはまるで、ベテランの闘牛士の華麗な舞いを見ているようだった。

 そんなファンサービスのような戦いを1分半ほど見せ付けた後、達也は一気に決めに出た。圧力を強めて左右の連打で容赦なくダメージを与え、最後は達也が最も得意とする必殺の右ハイキックで顎を撃ち抜き、その瞬間に相手は失神した。

 パパとしての強さを見せ付ける、まさに言う事なしの完璧な勝利だった。また、パク戦の勝利がフロックではなかった事を全国のファンに証明し、その評価と知名度はさらに高まったのだった。

 

 

 そんな圧倒的な勝利をテレビで観戦しながら、亜美の瞳には自然と涙が溢れていた。私はこの人の子どもを産んだんだ…タクトの中には、この強く優しく逞しい青年と私の血が混じり合っているんだ…と。

 タクトのパパは、日本一強くてカッコいいパパなんだよ…そう呟きながら亜美は、まだ生まれて間もない我が子を抱きしめるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。