※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

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4-5 金田悠希という男

 今、日本で最も人気のある格闘技団体は、間違いなくREALである。

 では、REALにおいて最も有名な選手は誰かというと、真っ先に名前が挙がるのが金田悠希だ。

 事実、金田悠希が登場すると観客は大いに盛り上がり、テレビの視聴率は一気に跳ね上がる。REALにとって金田悠希は、間違いなく看板選手と言える存在だ。

 そんな金田悠希とは、一体どのような選手なのか。

 金田が初めてREALのリングに上がったのは3年前。地下格闘技と言われるような小さな格闘技団体で圧倒的な実績を誇っていた金田だが、この時は全国的にはまだ全くの無名の存在だった。

 REALデビュー戦の相手は杉山という選手だった。彼もこの試合がREAL初参戦で、リングネームは朝ノ富士といった。その名前からも分かるように、元大相撲の力士である。最高位は小結だったが、金星獲得数で歴代上位に名を連ねるなどここ一番での取組に強い力士で、この時点では金田よりも圧倒的に高い知名度を誇っていた。

 この元三役力士との一戦で、金田は鮮烈なREALデビューを果たす事になる。

 試合開始直後、突っ張りながらの突進を見せた朝ノ富士に逆らう事なく、金田は軽やかにロープ際へと下がった。すると朝ノ富士が勢い余って尻餅をついた。

 その直後、咄嗟に起き上がろうとした朝ノ富士の顔面を、金田が思い切り蹴り上げたのである。

 その衝撃で、朝ノ富士の前歯が全て飛び散った。だが金田はここぞとばかりに朝ノ富士に襲い掛かり、顔面へとパンチの連打を見舞う。レフェリーが慌てて試合を止めた時には、朝ノ富士の顔面は血まみれになっていた。

 この、凄惨な秒殺デビューは、ファンにとてつもなく強い印象を与えた。金田悠希はあまりにも残忍なファイターだというイメージは、試合を見た全ての人の脳に強くインプットされた。

 そして金田は、この試合以降も、ファンのイメージに違わない試合を続けた。

 REAL2戦目となった試合では、グラウンドで上になった体勢からヒジを落とし相手を失神させたのだが、角度が悪くレフェリーからは失神したのがハッキリと確認できなかったのを良い事に、その後もしばらく無抵抗の相手にパンチを連打し続けた。さらに別の打撃系ファイターとの一戦では、腕ひしぎ逆十字で相手の腕をへし折ってしまった。

 そんな残忍かつ荒々しいファイトは金田の代名詞となり、彼は一躍、人気選手への階段を駆け上がった。ただしその人気は、言わばアンチ・ヒーローとしての人気だった。ファンは金田が負ける姿を期待して試合を見る、しかし金田はそんなファンの期待を裏切って、挑戦者たちを返り討ちにしてしまう。つまり金田悠希とは、稀代のヒール(悪役)なのだ。

 ただし、金田を単なる悪役と見るのは早計だ。というのも、彼のREALでの戦績は9戦して8勝1無効試合。無効試合は金田の打撃が誤って相手の後頭部に入ってしまったもので、内容的には金田が相手を圧倒していた。つまりREALのリングで事実上の全勝ロードを驀進中という、確かな実力を有した選手である事は疑いようのない事実なのである。

 冷酷なファイトスタイルと確かな実力で、金田悠希は悪役としての確固たる地位を手に入れた。さらに彼は、リングの外でも立派な悪役だった。REALで知名度を獲得した金田は間もなく自身のユーチューブチャンネルを開設。動画自体はぼったくりバーに突撃して支払いを拒否したり、街でケンカ自慢の素人を探してスパーリングを申し込んだり、あるいは外車や高級腕時計といった高価な物をキャッシュで購入してみたりと、およそ人気プロ格闘家が配信するに相応しいとは思えない低俗な内容ばかりなのだが、やはりファンの怖いもの見たさもあって視聴数はうなぎ上り、今ではチャンネル登録者数は200万人を超えている事からもその人気が嘘ではないという事が分かる。

 もちろんこういったユーチューバー活動は自身の悪役イメージを増幅させたいという狙いがあっての事なのだが、その狙いは見事に成功していると言えた。実際、格闘技にはさほど興味がなくともユーチューブに投稿される動画は見るという層も一定数存在し、格闘技ファン獲得の底上げを担っている事も確かだった。金田自身、今では自らを『格闘系ユーチューバー』と名乗っているが、これも「格闘技はケンカの延長であり金儲けのための手段のひとつ」というイメージをファンに持たせるための自己プロモーションの一環と言えた。

 また、金田の『悪役』としてのイメージ作りは、リングの上やカメラの前を離れても徹底していた。所属するジムでは後輩選手は金田への絶対服従を誓わされ、トイレやリングなどの掃除は全て後輩が担当しなければならないのはもちろん、金田が乗る高級外車や履いている靴も毎日綺麗に磨くよう強要されていた。トレーニングが終わり金田がシャワーブースから出てくると、若手選手は金田の元へと駆け寄りバスタオルで彼の体を拭かなければならなかった。まあ、ここまで来ると悪役としてのイメージ作りと言うよりも、単に金田本来の性格が表れているだけかもしれないが…

 いずれにしても、金田は根っからの悪役なのである。かつて一時期だけ金田と同じジムに所属したアメリカ出身のあるレスラー選手は、彼の振る舞いを目にして酷くショックを受けたと述懐する。

 

「何という事だ、これはまるで19世紀の奴隷制度だ。ユウキ・カネダは自分を王様だとでも思っているのか?」

 

………………………………………

 

 達也との試合を打診された金田は、喜び勇むようにオファーを受諾した。達也の人気が飛ぶ鳥を落とすような勢いなのはもちろん知っている。日本中のヒーローとなったキックボクサーと、自身のフィールドである総合格闘技で戦える…金田にとっては断る理由など何一つないどころか、率直に言ってこれ以上無いほどに嬉しいオファーだった。負ける筈がない。強がりではなく、100%嘘偽りなく、金田は自分が達也に負ける姿など想像できなかった。

 また、金田自身の実体験も、彼の強気を後押ししていた。それは今からおよそ1年前、金田にとってREAL6戦目となった試合に遡る。

 その試合の相手は、木山肇(きやまはじめ)という空手家だった。空手の世界選手権で2度の準優勝を誇る日本空手界の第一人者であり、この日が総合格闘技初挑戦だった。

 試合前の会見で、木山は力強く言った。

 

「自分は空手家なので、打撃以外で勝てるとは思っていません。総合格闘技は寝技におけるウエートが非常に高い競技である事は理解していますが、自分には打撃しかない。ただ、打撃に関しては金田選手よりも勝っていると自負しています。打撃で圧倒して、空手の強さを見せたいです」

 

 ところがいざ試合が始まってみると、木山が金田を殴るチャンスは一度も訪れなかった。

 試合開始間もなく、金田は前蹴りのフェイントを入れると、その流れから素早くタックルに入っていとも簡単にテイクダウン(相手を倒して上になる状態)を奪った。

 そこからは、もう一方的だった。マウントポジション(相手に馬乗りになる圧倒的に有利な体勢)から木山の顔面を殴り続け、思う存分に甚振(いたぶ)った挙げ句、1ラウンド残り20秒という所で関節技へと移行。木山が逃れようとしたその隙に背後へとまわり、チョークスリーパーで失神させて決着した。哀れにも白目をむいた木山は、口から赤い泡を吹いていた。

 試合後の勝利者インタビュー、金田は半笑いで言い放った。

 

「ま、空手なんて全く話にならないって事っすね」

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