季節はゆっくりと、しかし確実に移ろいでゆく。
だが、達也の人気は全く衰える所を知らなかった。
年明けの頃のように、達也の昼食がワイドショーで取り上げられるような異常なフィーバーはさすがに過ぎ去った。とはいえ人気が物凄いのは相変わらずで、10社以上のCMに起用されている達也をテレビで見ない日はなかった。バラエティ番組への出演も依然として多く、達也が単独ゲストという番組も少なくなかった。
ここに来て世間における達也への認識は『パクや金田といった悪を倒したヒーロー』から『強くて優しい好青年』へと確実に変化していた。言い換えれば、達也の圧倒的な人気を支えているのは金田やパクを倒した経歴ではなく、達也自身の人間的な魅力だった。モデル顔負けのスタイリッシュな体型とアイドルのような抜群のルックス、しかし服の下に隠されているのは爽やかな顔からは想像もできないような鍛え抜かれた肉体。人間的にも明るく、謙虚で偉ぶる事もない。しかしパクや金田悠希といった『敵』と対峙した時には、怯む事なく強気な姿勢で迎え撃つ。悪を倒したヒーローとして世間に迎えられた達也は、メディア露出という自己紹介を経て、優しさと強さを兼ね備えた理想の男性像の象徴として捉えられるようになっていた。
ちなみにこの年の赤ちゃんの名前ランキング(男の子部門)では、『達也』という名前が何と堂々の1位に輝いた。わずか2年前はベスト50位圏外だったのだが、パクに勝った前年に16位までジャンプアップし、そしてこの年は一気に1位である。いかに達也が日本中から愛されていたかが分かるというものだろう。世の親たちは皆こぞって、我が子が達也のように強く優しく逞しい立派な男に成長して欲しいと願ったのである。
そんな不動の人気を獲得した達也が清水戦以来のREALのリングに上がったのは6月2日の事だった。達也にとって運命の分かれ目となったパク・チャンミンとの一戦から1年となる大会である。
相手はダディ・リプスコンプという南アフリカの黒人選手で、『アフリカの暴れ牛』の異名を持つという触れ込みのキックボクサーだった。2メートル近い長身でマイク・タイソンに似た顔を持つという、いかにも強そうな見た目も話題を攫った。
だが、荒々しい異名やイカツい見た目とは裏腹に実力は今一つで、達也との実力差は明白だった。また、この頃は達也のメディア露出もようやく一巡し、十分とは言えないまでもそれなりの休養や練習時間を確保できるようになっていた。なので達也の状態は清水戦とは見違えて好調。それを証明するように試合は序盤早々から達也が一方的に押し込み開始1分過ぎに最初のダウンを奪う。リプスコンプは何とか立ち上がったが唯一の見せ場は立ち上がったその瞬間だけで、再開後まもなく達也のカカト落としがモロに脳天を直撃し、リプスコンプはその場で昏倒した。2メートル近い選手の脳天にカカト落としを決めるという衝撃的なフィニッシュで、達也は連続1ラウンドKO勝利記録をついに20へと伸ばした。
と、達也にとっては文句のつけようのない快勝だった。だが賢明な方ならお気付きの通り、この試合は達也の勝利を見込んで組まれた、言わば『調整試合』だった感は否めない。格闘技の世界では、基本的には強敵との連戦は避けられる傾向にある。いくら強い選手であっても、強敵とばかり戦っていてはさすがに身が持たないからだ。昨年大晦日に金田悠希と、3月に清水諒と戦った達也にとって、今回の試合は楽に勝てるボーナス試合に過ぎなかったのである。達也もそれを感じていたからこそ、カカト落としという『魅せる』技をフィニッシュに採用したのだった。
だが、ファンを少しでも楽しませたいというプロ意識から繰り出されたこのカカト落としが、試合後にとんだ騒動を巻き起こす事になるとは、この時はさすがに誰も想像できなかった。
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発端は、とある週刊誌だった。それも『週○文春』のような有名な雑誌ではなく、エロや芸能ゴシップのみを扱うようなジャーナリズムとは全く無縁の大衆雑誌が火元となった。
「カカト落としで発覚!小野達也の強さの源はマグナム級の巨根にあった!!」
これが、その週刊誌が特集した記事のタイトルである。記事では達也がカカト落としを繰り出すために右足を真上に高く上げた瞬間の写真が掲載されているのだが、その写真ではトランクスが太ももにピシッと張り付くような映りになっており、おかげで股間のモッコリがハッキリと分かってしまうようなアングルになっていたのだ。
そのモッコリはどう見ても偶然浮かび上がったようなシルエットではなく、しかも通常ではまず見ないようなサイズ感を誇っていた。偶然撮れたにしてはあまりにも出来過ぎで、その写真を100人が見れば100人とも「達也は特大の巨根を持っている」と思う事間違いなしの、ちょっと言い逃れできないレベルの決定的証拠写真だった。
以下、記事の内容である。
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小野達也旋風はとどまる所を知らない。先日行われたREALのメインイベントで『アフリカの暴れ牛』ことダディ・リプスコンプと対戦した小野はこの日も1ラウンドからエンジン全開。開始早々突進を試みたアフリカの暴れ牛を難なく押し返すと、開始1分過ぎにはパンチの連打で早くもダウンを奪う。カウント9で立ち上がるも既にフラフラとなったリプスコンプの脳天に、最後は小野のカカト落としが突き刺さって勝負あり。試合後小野は「今日は調子が良かったので早いラウンドから積極的に勝負したいと思っていました」と語ったが、まさに言葉通りの会心の勝利。これで昨年のパク・チャンミン戦からREAL6連勝、プロデビューから続く連続1ラウンドKO勝利も大台の20に到達だ。
調子が良いとは言うものの、1ラウンドKO勝利で有言実行してみせるのだからまさに大物感たっぷり。しかもこの試合で、小野の『大物感』が彼の肉体にもハッキリと表れている事を本誌カメラはバッチリと撮らえた。
それが上の写真である。見ての通りカカト落としを繰り出そうと右足を高く上げた瞬間、小野の『チン影』がトランクスにもっこりと浮かび上がっているではないか。しかもそのサイズ感たるや、とんでもない大物である。
本誌は今回激撮された写真の真偽を確認すべく、関係者に取材を行った。すると複数の関係者から、小野の大物っぷりを示す証言が相次いだ。
小野の古巣とも言える『knock out』に参戦しているある選手は「たまたまトイレで隣同士になった時にチラッと見えてしまった事があるが、あまりに大きいのでつい二度見してしまった。キックボクシング界ナンバーワンなのは間違いない」と羨望の眼差しを向ければ、別の選手は「化け物でした。ホントにもうレベルが違い過ぎる。彼こそ日本代表ですよ」と呆れ顔。小野が所属するFAILYの関係者によると、彼のモノはあまりにビッグなため股間に装着するプロテクターは特注サイズを調達しているのだという。また、高校時代に空手部で小野の同級生だったというA氏の証言が凄い。「桜水台学園(小野やA氏が通っていた高校)には運動部員が共通で使用できるシャワーブースがあるんですが、ブースの一番奥にあるシャワーは『玉座』と呼ばれて、全運動部員の中でアソコが一番デカい男が使うという伝統があるんです。達也は高校1年で空手部に入った瞬間から卒業するまでずっと、玉座のシャワーを使い続けてました。つまり3年間ずっと、桜水台学園一のデカチンとして玉座に君臨し続けたんです。運動部にはアメリカ人やガーナ人とのハーフの男子もいたんですが、達也には全く適いませんでした」
人体に詳しい湘南医科大学の小保晴子教授(30)も、小野達也巨根説を肯定している。「一般的に足の長さとペニスの長さには相関関係があると言われています。小野選手はとても足が長いので、ペニスもとても長いと考えるのが自然でしょう」。どうやら小野が特大の巨根の持ち主である事はもはや疑いようのない事実のようだ。
さらに小保教授はこうも語る「ペニスは男性にとっては臓器でもあります。つまりペニスが大きいという事は他の臓器も大きいという事ですから、心肺機能が高かったり疲労回復機能に優れていたりする可能性は高いです。また、東洋医学では男性の力は下腹部に宿ると言われています。小野選手の巨根はまさに、彼の驚異的な強さの源と言えるのではないでしょうか」
やはり強さの秘密は特大の巨根にあるのか。今のところ小野には女性の噂が全く無く、自慢のイチモツをプライベートでどのように使用しているかは謎だが…いずれにせよあれだけの強さとルックスに加えて特大の巨根まで有しているとは、神様は小野に何物を与えるのかという世の男たちの呻きが聞こえてきそうだ。
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さすが大衆誌と言うしかない記事だが、どんな下らない記事でもすぐにネットニュースになる時代である。掲載された写真はあっという間に拡散され、ネット上はお祭り騒ぎ。達也のウィキペディアにも巨根だと断定されるような書き込みが加わり、達也巨根伝説は日本中が知る所となってしまった。
達也としては何とも迷惑な話である。普通の男なら恥ずかしくて人前に出られないなんて事になってもおかしくないかもしれない。
だが、当の達也本人は全く気にしてないようで、記事の件を充希に聞かれても。
「まあ、デカいのは紛れもなく事実だし、別にいいんじゃね?」
と、全く意に介していない辺り、確かに大物だった。
作者の悪い所が出てしまいました。スミマセン…