※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

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5-14 進化した姿

 年が変わっても、達也の元には様々なオファーが舞い込んできた。そのほとんどが取材やテレビ出演などメディアに関するものなのだが、中には格闘技に関するオファーもあった。

 その中にあったオファーの一つを達也は受諾する事にした。それは九州は熊本を拠点とするVolcano(ボルケーノ)という地域密着型の格闘技団体からのオファーで、2月中に開催予定の格闘技イベントの目玉としてぜひともリングに上がってもらえないかというものだった。

 これまでなら丁重にお断りする類のオファーなのだが今回達也が敢えて受ける事にしたのは、「今年からは社会貢献的な活動にも積極的に取り組んでいこう」という考えと無関係ではなかった。Volcanoは全国的には全く無名の団体で達也も聞いた事はなかったが、だからこそ「弱小団体を盛り上げる力添えができれば」と思ったのである。加えて、自ら熊本まで出向く事で地方のファンに喜んでもらいたいという気持ちもあった。提示されたファイトマネーはREALの数百分の一だったが、達也にとってはお金など全くどうでも良かった。

 Volcanoとしてはダメ元でお願いしてみたオファーだったが、まさかまさかOKの返事をもらって大歓喜。当然、試合のチケットはあっという間に売り切れた。

 

 

 2月15日(土)、達也は熊本の地へと降り立った。

 達也と戦うのは鶴野という選手だった。Volcanoが認定するチャンピオンベルトを保持している選手であり、要はVolcanoで最も強いキックボクサーである。とはいえ全国的には全くと言っていいほど無名で、もちろん達也も鶴野の名前を聞いた事はなかった。

 また今回の試合には、「達也が1ラウンドでKOできたら100万円、逆に鶴野が達也から1ラウンド耐え切れたら100万円」という懸賞が地元企業から懸けられていた。1ラウンド耐え切れば100万円とは凄い条件だが、それだけ達也といえば『1ラウンドKO』が代名詞になっているという事である。実際、この日駆け付けたファンのほとんどは、地元の戦士である鶴野にも頑張って欲しいと思いつつも、やっぱり達也の豪快な1ラウンドKO勝利を期待していた。

 達也自身はこれまで1ラウンドKO勝利を意図的に狙ってきた訳ではないが、今回は1ラウンドKOを狙ってみようと思ってリングに上がった。鶴野の映像は事前に確認して、実力は大体把握していた。見下す訳ではないけど負ける事はないだろう、それに今回は1ラウンド決着が望まれている試合、ならばファンの期待にチャレンジしてみるか…と。

 そして試合は…達也の1ラウンドKO勝利となった。

 とはいえ、達也が試合前に思い描いていたような盤石のKO勝利ではなかった。やはり過度にKOを狙うとパンチも大振りになり、ハイキックは見透かされたように空を切った。逆に鶴野のショートカウンターが達也の顔面を捉えるシーンもあった程だ。ラウンド中盤以降に達也が攻勢を強め、最後は1ラウンド終了間際に連打をまとめてレフェリーストップとなったが、結局ダウンは1度も奪えないままだった。鶴野の大健闘とも言えるが達也としては不満の残る内容に違いなく、やっぱり1ラウンドKO勝利を意識してもいい事ないな…と反省したのだった。

 と、達也としては決して満足のいかない一戦となったが、生の達也を目にしたファンはお望み通りの1ラウンドKOを見られて大満足。そして試合後のインタビューで達也が賞金の100万円を熊本に寄付する事を宣言して拍手喝采。直後に行われた臨時のサイン&握手会は長蛇の列で達也は2時間以上も色紙にペンを走らせファンの手を握り続けた。

 最後の1人まで握手を終えた時には手の間隔はほとんど無くなってしまうほどに疲れ果てた達也だが、しかしその疲れは、これまで感じた事のないような充実感を伴うものだった。そして翌日はVolcanoの関係者からお礼とばかりに手厚いおもてなしを受け、熊本名物の黒マー油入りとんこつラーメンや馬刺しに舌鼓を打つなど熊本をたっぷりと堪能してから、気分良く地元大阪へと帰ったのだった。

 これからはこういう経験をどんどんしていきたいな…本気でそう思う熊本遠征だった。

 

………………………………………

 

 達也の次戦は3月、続く試合は5月に行われたのだが、この2試合については駆け足で簡単に紹介したいと思う。

 まずは3月16日に行われた試合。舞台はREAL、相手は加藤圭一という巨漢のプロレスラーだった。達也の相手がプロレスラー?と思うかもしれないが、実はこの試合はキックボクシングルールではなく、総合格闘技ルールで行われた。もはや立ち技で達也と対等に戦える日本人選手は存在しない。REALは達也に総合格闘技ルールの試合をしてくれないかと粘り強く交渉を続け、ついに達也が首を縦に振ったのである。相手が本職の総合格闘家ではなくプロレスラーとなったのは、達也への配慮に他ならなかった。

 達也としては依然として総合格闘技ルールの試合にそこまで前向きではなかったが、最終的にはREALの説得に折れるような形となった。総合格闘技に本格的に挑戦して欲しいというファンの声の高まりを感じていたというのも、達也の決断を後押しする事になった。やはり時代は総合格闘技全盛なのである。

 試合前、対戦相手の加藤は吠えに吠えた。流石はプロレスラーと言うべきビッグマウスで達也を挑発し、ブレーンバスターでKOするというような宣言まで飛び出した。

 達也はそんな発言を半ば辟易とした思いで聞いていた。ブレーンバスターは相手の協力があって成り立つプロレス技であり、総合格闘技の試合で決まる事は絶対に有り得ない。自分は意を決して、小さくないリスクを背負って総合格闘技ルールを受けたのだから、そんなプロレス的な挑発はやめてくれよ…これじゃ試合自体が八百長に思われかねないじゃないか…というのが達也の本心だった。

 とはいえ、加藤がプロレスラーらしく大口発言を連発した事もあり、試合は大きな注目を浴びた。そしてこの試合は、達也が負けてしまうのではないかというファンの声も少なくなかった。達也が総合格闘技ルールで試合をするのは、一昨年の大晦日での金田悠希戦以来およそ1年3か月ぶり。あの時の膝蹴りは偶然だという声は今もって大きかった。プロレスラーの加藤に捕まってしまえば、寝技や関節技で達也は普通に負けてしまうのではないか…少なくないファンはそう思っていた。

 だが、不利も囁かれたこの一戦で、達也はファンの度肝を抜く驚愕のパフォーマンスを見せ付ける事になる。

 実は達也は、一昨年の金田悠希戦以来、総合格闘技対策のトレーニングを継続して行っていた。かつては女子高生ファイターの香菜にも全く歯が立たなかった達也の寝技スキルだが、訓練を重ねる中でめきめき上達。今や香菜など相手にならないのはもちろん、FAILYに所属する総合格闘家程度なら誰が相手でも楽に関節を取れる程の実力をつけていた。金田悠希との試合から1年超、達也は人知れず、FAILY最強のキックボクサー兼総合格闘家に進化していたのである。

 しかし、この加藤との試合に関しては、そんな進化した寝技の実力を見せ付けるまでもなかった。

 試合はまさに、達也の独壇場だった。開始早々タックルを仕掛けた加藤をひらりとかわし、強烈なローキックで意識を下げさせる。そして今度は続けざまにハイキック。これが顔面にクリーンヒットし、次の瞬間、加藤の巨体はぐらりと崩れ落ちた。試合時間わずか21秒、たった2発の蹴りだけで、達也は加藤を秒殺してしまったのだった。

 

 

 続く試合は2か月後の5月18日、相手は遠藤直樹という選手だった。もちろん舞台はREAL、そしてルールは前戦に続いて総合格闘技である。

 遠藤は加藤と違い、正真正銘の総合格闘家である。アグレッシブなファイトスタイルで実績十分、さらには人気女優を妻に持つ事でも知られる、実力と知名度を兼ね備えた選手だ。今回こそついに達也に初黒星が付くのではないかという声は少なくなかった。

 だが、試合はやはり一方的だった。

 遠藤は果敢にタックルや組み付きを試みた。しかし達也を捕まえる事はできず、むしろ達也の力強い打撃に押し返され、逆にローキックやジャブで体力を削られる。常に達也が試合をコントロールしたまま時間が過ぎてゆく。

 そして1ラウンドも間もなく4分になろうという所、達也がついに伝家の宝刀を抜いた。そう、必殺の右ハイキックである。試合開始当初は十分過ぎるほどにハイキックを警戒していた遠藤だったが、攻撃を上下左右に散らされ集中力が散漫になってしまった所に狙いすました一撃が突き刺さって勝負あり。またしても寝技にならない、達也の完勝だった。

 かくして達也は、総合格闘技ルールでもあっさりと連勝を飾ってみせた。これでプロデビュー以来26連勝、REALに限っても10連勝、しかも全て1ラウンドKO、それどころかほぼ全ての試合において事実上ノーダメージでの圧勝である。

 小野達也は総合格闘技の世界でも頂点に立てるのではないか…ファンからいつしかそんな声が聞かれるようになっていた。立ち技だけの選手は総合格闘技では通用しない、空手やキックボクシングの打撃など総合格闘技では無力に等しい…多くのファンが持っていたそんな認識を吹き飛ばしてしまう程に、この2試合のインパクトは大きかった。そして何より、ファンは皆、達也のファイトスタイルに魅了されていた。『ファイトスタイル』の部分は『美しさ』と言い換えても良いかもしれない。そう、達也の試合は美しいのだ。狙いすました一撃でKOし、必要以上に相手を痛めつける事はない。加藤戦にしても遠藤戦にしても、達也はハイキックをヒットさせた直後、倒れた相手を追撃する構えを全く見せなかった。一瞬で、一撃で試合を終わらせる…その勝ち方は芸術的ですらあり、ややもすれば勝利絶対主義にも映る従来の総合格闘技とは一線を画するものだった。

 ファンは達也が総合格闘技の世界に留まり続ける事を望んだ。達也とREALのトップファイターが戦う所をもっと見たい、達也がハイキックで総合格闘家たちを美しくなぎ倒す所が見たい…と。誤解を恐れずに言えば、ファンは皆、達也の美しいファイトスタイルが『最強の格闘技』を自認する総合格闘技を打ち砕き、名実共に日本の格闘技界の頂点に君臨する光景を見たいと、そう願っていた。

 

 だが、そんなファンの声とは対照的に、達也の実力を全く認めようとしない男がいた。小野達也など全く強くない、俺の方が間違いなく強い。戦えば間違いなく俺が勝つ、と。

 金田悠希である。




5章終了です。
個人的には中だるみ感が酷い章だと思っております。正直、2~3話にまとめるべきだったかもしれません。knockout凱旋試合とか要らなかった気がしてならない…

ところで今話(5-14)の後半がかなり駆け足の説明文みたいな内容になってしまったのには訳があります。というのも当初は、この部分を「6章:達也くんついに総合格闘技に本格転向編」みたいな感じで独立させた章にしようと考えていたのです。元の予定では6章は全9話、文字数にすると26,000字ぐらいで、実はその原稿は全て完成してます。でも、内容的に投稿できるレベルではないと判断して、泣く泣く全カットでお蔵入りとし、ダイジェストのような形で5章の最後に詰め込んだのでした。
26,000字をカットするのは苦しい決断でした。あまりに勿体ないから、完結後におまけのボツシナリオとして投稿するかどうか考え中だったりします。
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