―12月20日(土):充希―
窓の外には、首都の夜景が広がっている。恐ろしさすら感じるような、とてつもなく煌びやかな夜景が。
億ションと言われるような高級タワーマンションの、最上階にほど近い部屋。言うまでもなく、こんな所に住む事ができるのは特別な人間だけ。本当なら、私なんて絶対に足を踏み入れられない部屋。
そんな空間で、ぴたりと肩を寄せ合って座る。
並んで座る時は、決まって私が左側。私が左利きで達也が右利きだからお互いの利き腕を使いやすいように…って申し合わせた事なんて無いんだけど、でも、気が付けばいつの間にかそれが当たり前になった。
大学の講義でも、電車でも、デートで一緒に歩く時も、映画館でも、いつも私が左側で。
それはこうして2人でテレビゲームをしている時も、やっぱり同じで。
「くそっ、また負けか…」
今やっているのは対戦型の格闘ゲーム、いわゆる格ゲーというやつだ。ちょうど今、私の操るキャラが達也の操るキャラをノックアウトした所。
達也は、ゲームがヘタ。私だって決して上手な方じゃない…というか普通にヘタな方だけど、達也は私なんて比べ物にならないレベル。おそらく、マリオの1面だってまともにクリアできないような。
「やるな…いつにも増して強いじゃねーか」
「達也が弱すぎるだけだと思う」
でも、ヘタなのは当たり前だ。だって達也は、幼い頃からゲームなんて全くやってなかったから。毎日道場に通って、ずっと稽古に明け暮れていたから。
才能と、努力。その果てに得た今の地位。煌びやかな夜景を見下ろせるこの部屋は、必死に流し続けた汗の結晶。
私の彼氏は、本当に凄い人だ。心からそう思う。
私なんかじゃ、全然釣り合わないぐらいに…
「ねえ」
ふと、聞いてみる。
「達也って、女の子にモテたいから空手を始めたって言ってたよね」
「…言ったかな?」
「それって本当なの?」
「…何でそんな事突然聞くんだよ?」
確かに、本当に達也の言う通りなんだけど。
「何となく気になったから」
「…まあ、その通りだと思ってくれて問題はないけど」
やっぱり否定しない達也。でも、本当にそんな目的でここまで努力を積み重ねられるのかと思う。友達とも遊ばず、テレビも見ず、スマホも触らず。
「強くなって成功したいとか、お金持ちになりたいとかは考えなかったの?」
「そういうのは別に無かったかな。現に空手なんて世界一になって所で大して稼げないじゃん」
達也が言う。お金目的なら最初から野球やってた、と。
「じゃあ今、女の子にモテモテになって嬉しい?」
「そりゃ、まあ…もちろん嬉しくない訳はないけど」
すると達也は、何とも歯切れの悪い感じで。
「…ていうかさ、話題変えない?」
どうやら達也にとってはあまりしたくない話だったみたいだ。まあ、それはそうかと思う。
「じゃあ、達也ってファンから手紙とかよく貰うよね?」
「あの…あんまり話題が変わってない気がするんですけど」
「どのくらい貰ってるの?」
「うーん…」
達也は少しだけ考えるような素振りを見せてから。
「ありがたい事に応援の手紙とかもちょくちょく貰ってるけど、でも別にそんな大した数でもないぞ」
教えてくれた答えは、とても曖昧なものだった。
「そういう手紙って、全部読んでるの?」
「もちろん。これでもできるだけ返信するようにはしてる」
「そうなの?」
そういうのって無視するものなんだろうと勝手に思ってたけど、でも達也は、さも当然というように。
「そりゃ応援してくれるファンは大切にしたいじゃん」
「私の同僚で達也の大ファンの子がいるんだけど、この前、勇気を出して達也に手紙を出したんだって」
「ほう」
「そしたら直筆で返事が返ってきたって、とっても喜んでたよ」
「おお、それは嬉しい」
「その子ね、達也からの返信を一生の宝物にするって言ってた」
「マジか。そこまで言われたら適当な事書けないな」
「適当な返信してるんだ」
「い、いや決してそういう訳ではない」
…思わずにはいられない。
もし美桜がこの場面を見たら、どう思うだろう…と。
達也への愛情は、私よりも美桜の方が強いんじゃないだろうか…と。
私よりも美桜の方が、達也を支えられる存在になれるんじゃないだろうか…と。
私は、達也の隣に居るに相応しい女なのだろうか…と。
「何か食う?」
ふと、達也が言う。
「というか何か食おうぜ。さすがに腹減ってきた」
「もうすぐ大事な試合でしょ。食べて大丈夫なの?」
「むしろ食べないと勝てる試合も勝てないだろ。で、何食う?」
「…達也に任せる」
「それが一番困るよな」
「クリスマスのディナーは彼氏が決めるのが普通だと思う」
「正確には今日はクリスマスじゃないけどな」
「今更ムード壊すような事言わないでよ」
今年は24日も25日も平日だから、今日が私たちにとってのクリスマス。
そんな、大事な日のディナーに、達也が選んだのは…
「じゃあま、ピザでも頼むか」
突然始まった、2人だけのピザパーティー。その飾らなさは、いかにも達也だった。