今後は毎日12時に1話ずつ、完結まで投稿する予定です。作品へのコメントや評価、心よりお待ちしてますのでよろしくお願いします。
金田が道場破りを敢行したのは、ちょうど第2回目の公開スパーリングが行われている最中だった。前回同様に大学生たちを相手にした達也はこの日も圧倒的な強さを見せ付けて集まったファン…特に女性ファンを喜ばせ、自身もノリノリの上機嫌だった。
そんなタイミングに金田が現れたものだから、ジムは騒然となった。FAILYのスタッフは金田を排除しようと説得を試みたが金田は達也と戦わせろと言って聞かず、引き下がろうとはしなかった。
公開スパーリングなどとても続けられる状態ではなかった。ファンたちは一様に不満そうな表情を浮かべながらも次々とジムを後にし、スパーリング相手を務めていた大学生たちもやむなく撤収せざるを得なかった。
達也は怒っていた。何より、せっかく観覧に来てくれたファンたちに対して申し訳ない気持ちで一杯だった。ファンを大事にする事を常に心掛けている達也にとって、金田の愚行は到底許せるものではなかった。
加えて、金田の他にも撮影用のカメラを携えた数人のスタッフの存在があった事が、達也を激怒させた。
そう、金田にとって今回の道場破りの最大の目的は、自身のユーチューブチャンネル用の動画撮影なのである。達也に連敗して人気ユーチューバーとしての立場も危うくなりつつあった金田は、ファンの関心を繋ぎ止めるために早急に手を打つ必要があった。そこで思い付いたのが、達也へのリベンジ道場破り企画だったのだ。公開スパーリングが行われ多数のファンが訪れているタイミングでFAILYに乗り込み達也に戦いを挑むという映像を撮影できている時点で、既に目標の8割達成。あとは適当な所で切り上げて、「小野達也は俺から逃げた!」と動画で吠える腹積もりだった。
だが、そんな金田の炎上系ユーチューバーのようなノリとは対照的に。
達也はこの時、既にプッツンしていた。ストレス発散の…じゃなくてファンとの大事な交流の機会を奪っただけでなく、自分を利用して動画の再生回数稼ぎを企む金田に、何が何でも制裁を加えなければ気が済まなかった。
「ナメんなよ、この野郎」
そう言って金田たちににじり寄る達也が見せた形相は、FAILYのメンバーですら見た事の無いような恐ろしさを携えていた。ファンがいる前では自制していた達也だったが、ファンも大学生たちもいなくなった今、もう我慢する必要はなかった。
「おい、勝手に撮るんじゃねえ!」
スタッフが手にしていたカメラを掴み、それを強引に奪い取る。
「てめぇ、何しやがる!」
「あぁ?」
突っかかろうとする金田を睨み返す達也。グッと顔を寄せ、今にも殴りかかりそうな雰囲気で。
「上等じゃねえか。そこまで言うならお前の挑戦受けてやるよ。上がれよ」
そう言って、親指でクイっとリングを指す。
「ちょ、ちょっと達也くんっ…」
だが、そこに晴香だが待ったをかけた。一触即発のムード漂う達也の元へと慌てて駆け寄って。
「な、何を言ってるのよ。冷静になって頂戴」
しかし。
「晴香さんは黙っててください。こいつは俺が責任持って始末します」
その恐ろしいほどの怒りに満ちた雰囲気に、晴香は何も返せず押し黙ってしまう。
そんな中、達也は再び金田を睨みつけて。
「おい、金田。マジでやってやるよ。その代わり後悔すんなよ」
「はぁ?」
「言っとくが前みたいに容赦はしねえからな。生きてジムから出られると思うなよ」
リングの上、対角線上のコーナーに別れて達也と金田が対峙する。3度目にして、正真正銘最後の決戦である。
戦うにあたって、金田が引き連れてきたスタッフはジムの外へと排除された。というより、達也が強引にジムの外へと叩き出した。達也としては自身が金田のユーチューブ動画の再生回数の足しになるような事態は絶対に許せなかった。隠し撮りや録音を防止するためだけでなく、決戦の様子を証言できる者を排除するという点においても、金田側のスタッフたちを叩き出す事は必須だったのだ。もちろん、達也が奪い取った撮影用カメラも没収したままである。
ジム内での撮影を禁じられた金田は当初の目論見が外れただけでなく、実際に達也と戦う事になって少しばかり当惑していた。達也が再戦要求に応じる事など有り得ないと勝手に思っていたのだ。道場破りはあくまで視聴回数を稼げそうな動画撮影が目的であり、何ならこれを機会に人気者の達也とコラボ動画シリーズでも始められたらチャンネル登録者数もぐっと伸びるかも、などという可能性もほんの少し考えていたぐらいなのだ。
だが、ユーチューブはおろかツイッターやインスタグラムにすら興味が無いアナログ人間の達也にそんな勝手な考えが通用する筈もない。それどころか、炎上系ユーチューバーのようなノリは達也を本気で激怒させただけだった。
こんなつもりじゃなかったのにな、と金田は内心思う。まさか達也がカメラも観客もファイトマネーも無い決闘に応じるなんて思ってもいなかった。だが道場破りと称して乗り込んだ手前、こうなっては引き下がる事もできない。
ここまで来ればもう戦うしかない…金田は気合いを入れ直す。動画撮影は叶わなかったが、しかし達也にリベンジしたいという思いを強く持っている事は確かなのだ。達也に2度敗れた屈辱を思い出し、目の前の相手を今度こそKOしてやるんだと闘志を燃やす。
もう一方のコーナー。怒りのオーラに満ちている達也とは対照的に、晴香は不安顔だった。
「達也くん…本当に大丈夫なの?」
「大丈夫とかそういう問題じゃないんですよ。ああいう奴は一度とことん懲らしめてやる必要があるんです。日本最強の男である俺が、責任もってあいつを処刑します」
「しょ、処刑って…」
達也の口から聞いた事の無いような物騒な言葉に、晴香がまた何も言えなくなってしまっていると。
「そんな事より晴香さん、ちょっと耳貸してもらえます?」
「ど、どうしたの?」
「一つお願いがあるんですけど」
ゴニョゴニョゴニョ、と達也が遥香に何かを耳打ちする。
それを聞いた晴香は、少し驚いた表情で。
「そんな事…本当にいいの?」
「いいも何も、こんなの別に試合でも何でもありませんからね。その時は躊躇なくお願いします」
「…分かったわ」
達也の秘密のお願いを聞き入れた晴香は、小さくこくりと頷いて。
ついに、達也と金田悠希の、決着の第3戦が始まる。
だが、FAILYのメンバーだけが見守った運命の決着戦は。
誰もが予想だにしなかった、あまりにも衝撃的な結末へと進んでいくのである。