※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

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6-11 ブラック達也

 ゴツッ、ゴツッ、と乾いた音が響く。肉と肉ではなく、骨と骨がぶつかり合うような、不気味な音が。

 リングの上では、達也が金田悠希に馬乗りになり、顔面を殴り続けていた。

 

 運命の決着戦。だがその趨勢は、決戦開始の合図から1分も経たぬうちに決した。

 大晦日での試合ように互いに慎重な戦いになる事を想定した金田に対し、達也は開始早々に猛攻を仕掛けた。いきなりの奇襲に虚を突かれた金田は反撃の機会を逸してしまい、そこからはもう一方的。達也の重い右フックが顎に入ってふらついた所に2発目の左がまた顎を捉えてたまらずダウン。そのままの流れで、達也があまりにもあっさりとマウントポジションを奪った。

 この時点で、勝敗は事実上決した。結局は過去の2戦と同じように、金田は自身の隙を突かれる形で敗れ去った。初戦は達也を甘く見ていた所での膝蹴り、2戦目は攻めて来ないと思っていた瞬間でのまさかのタックル、そして今回は開始早々の奇襲――

 しかし、実際は金田が隙を突かれたというのではなく、達也が金田の隙をうまく突いたと表現すべきだろう。第2戦での緊迫した試合があったからこそ、今回は開始早々の猛攻が金田にとっての隙となる事を達也は分かっていたのだ。達也の3連勝は、いずれも心理戦での勝利であると言えた。

 加えて、直前まで行っていた公開スパーリングも達也に有利に働いた。大学生とのスパーリングは達也にとって適度なウォーミングアップになっており、ろくに体も動かさぬままリングに上がる事を余儀なくされた金田との状態の差は歴然だったのだ。

 だが今回の試合においては、達也がどのように勝利を手にしたかについては、特に大した問題ではなかった。

 この第3戦において何より重要なのは、達也がマウントポジションを奪ってから繰り広げられた光景だった。

 

 

「オラ!誰が最強なんだ?言ってみろ!」

 延々と金田の顔面を殴り続ける達也。普段の様子からは信じられない、鬼のような形相で。

 達也がマウントポジションを奪ってから繰り広げられた光景は、まさに地獄絵図だった。そもそもタックルからのテイクダウンで奪ったマウントではなく、顔面への打撃でダウンさせて得たマウントである。その時点で金田はもう意識が半ば朦朧としている程のダメージを受けていたのだが、馬乗りになってからも達也は手を緩めず顔面に拳を落とし続けた。金田が本能的に達也の胴体にしがみつくと、その頭部を持ち上げて思い切りリングへと叩き付け、再びパンチの雨を降らせた。パンチから逃れようと金田がうつ伏せになっても、達也はチョークスリーパー(首締め)にはいかず、やはり上を向かせては顔面を無慈悲に殴り続けた。

 首を絞めて失神させるのは容易だったが、楽に寝かせてやるつもりは全く無かった。この戦いを受けると決めた瞬間から、達也はこの無礼なチンピラに罰を与える事を決意していたのだ。自分勝手極まりない理由でジムに乗り込んで無断で撮影を始め、達也にとっての大事な時間を奪った悪党に相応しい罰を。

 金田が意識を失ったと見るや達也はその頬に平手打ちを見舞って目を覚まさせ、さらにパンチを落とした。

 異様な光景だった。戦いが始まる直前に達也の勝利を願ったFAILYのメンバーは皆、今は達也が金田を殺してしまうのではないかと本気で心配していた。金田を処刑する…戦いの前に放った言葉が現実味を帯びる光景だった。

「た、達也くん…もうその辺に…」

 ついに、あまりにも凄惨な光景を見かねるように晴香が言うが。

「何言ってんですか。まだこいつから謝罪と反省の言葉を聞けてないですからね」

 そう言ってなおも平然と殴り続ける。本来ならもう誰かが達也を引き剥がしてでも止めなければならなかったが、誰もそれをできなかった。仲間ですら、達也の恐ろしさに気圧されていた。女子選手の中には泣き出してしまう者さえいた。

 結局、自身が満足するまで拳を落とし続けた達也は、最後は金田を締め落として完全にその意識を断った。

 だが、達也の制裁はまだ終わってはいなくて。

「香菜ちゃん、俺のスマホ持ってきてくれないかな?ロッカーの中のカバンに入ってるから」

「え…は、はいっ…」

 香菜は言われるがまま達也へのロッカーへと走り、スマホを取ってきて達也に渡す。

 すると達也は何を思ったのか、血まみれで失神する金田にスマホを向け、カシャリ、カシャリとその姿を撮影し始めた。

 メンバーたちが呆気に取られる中、達也は金田の無惨な姿を撮り続ける。それも、本当に様々な角度から。失神する金田に馬乗りになって顔面に拳を突き立てる写真や、金田の上半身を起こして肩を組み、達也自身がピースサインを決める写真などを次々と撮影して。

 そしてついには、金田のパンツを脱がせて。

「はは、何だこりゃ」

 金田の大きな体には似つかわしくない貧相なペニスを笑い飛ばしながら、それをもしっかりとスマホに収めた。

 達也が金田に与えた仕打ちはあまりにも凄惨かつ無慈悲だった。無論、正規の試合では達也は絶対にこんな事はしない。むしろ可能な限り相手にダメージが残らない勝ち方を目指し、どれだけ圧勝であったとしても試合後には必ず相手を称える男である。FAILYのメンバーはそれを十分に知っているからこそ、達也の凄まじい怒りを信じられない思いで見ていた。

 もし金田が純粋に決闘を望んだのなら、達也もこんな事はしなかっただろう。達也を激怒させたのは金田の腹黒い魂胆に他ならなかった。自分を利用して動画の再生回数を稼ぎに来た…誰に断る事なくカメラをまわして…大事なファンとの交流の機会までも利用して…その身勝手で無礼な振る舞いが許せなかったのだ。

 達也は無礼な乱入者に過酷な罰を与えた。そして今ここに、2年超に及んだ金田悠希の因縁は完全に決着した。

「ふう…」

 全てを終え、ゆっくりと達也がリングを下りる。まだ気が立っているようにも見える達也の雰囲気に気圧されるように、近くにいたメンバーが思わず後ずさる。

「達也くん…余計な心配、する必要なかったわね」

 晴香が言う。実は対決直前に達也が晴香に耳打ちしたのは、もし自分がピンチになったらメンバー総出で助けて欲しいという事だった。実は達也は、最初から正々堂々と完全決着をつけようなんて全く思っていなかったのである。こんなのは正式な試合でも何でもないのだから、もし万が一不利になればみんなに助けてもらえばいいだろうと考えていた。フェアに見えた戦いは、実は達也にだけ大量の援軍がついているという圧倒的ハンデの下で行われた戦いだったのだ。

 とはいえ、達也が1対1の戦いで金田を返り討ちにしたという事実が揺らぐものではないだろう。達也が開始早々に気兼ねなく猛攻を仕掛ける事ができたのはいざとなれば助けてくれる仲間の存在があったからにせよ、実際には援軍の力を借りる事は無かったのだから。

「晴香さん、俺シャワー浴びてきますんで、すみませんけどそいつ適当に処理しててもらえませんか?」

「え…あ、う、うん…」

 達也がシャワー室へと消えても、まだしばらく不気味な静寂がジムを包んでいた。

 

……………………………………

 

 その後、晴香が呼んだ救急車によって金田は近くの病院へと搬送され、そのまま入院生活を余儀なくされる事となった。顔面が変形するほどに殴られ続けた金田のダメージは深く、達也を激怒させた代償の大きさを物語っていた。 

 そして数日後、FAILYは公式ホームページ上において以下の声明を発表した。

 

 去る○月○日、金田悠希氏がFAILYのジムに突然現れ、弊ジムに所属する小野達也と戦わせろとの要求を突き付けました。小野はこの要求を快諾し、同日、弊ジム内にて両名による試合を行い、小野が勝利致しました事をここにご報告申し上げます。

 なお、この件につきましては上記が事実の全てであり、これ以上の取材をお受けする予定はございません。また、今回の金田悠希氏への対応はあくまで例外的なものであり、弊ジムはこのような道場破りを原則として受け付けておりませんのでご了承ください。

 

 異例の声明にメディアは両陣営に取材を申し入れたが、FAILYサイドは声明で述べていたように、この件に関する一切の取材の拒否した。一方の金田サイドは当初こそ必死に弁解を試みたが、後にFAILYがある映像をホームページ上に公開した所、完全に口をつぐまなければならなかった。

 その映像は、ジム内のリングを常時映し続けている定点監視カメラによって撮影されたものだった。映像には試合開始直後から達也が猛攻を仕掛けて金田からダウンを奪い、マウントポジションを奪ってから数十秒までのシーンが克明に映し出されていた。

 それを見れば、戦いは文句なしに達也の勝利に終わったという事は誰の目にも明らかだった。試合はフェアに行われ達也に反則行為は無く、最後は映像が途中で切れているとはいえその時点において既に事実上勝負が決している事も明らかだった。さらにFAILYの声明には、「金田氏の名誉を鑑みて試合の終盤部分は非公開としましたが、試合の結果等について金田氏からこれ以上の抗議や反論がある場合は、当方としては試合の全てを収めたノーカット映像を公開する準備がございます」という一文が付記されていた。

 

 これ以降、金田陣営からコメントは一切出なかった。この道場破り失敗の一件は金田悠希の人気失墜を決定的にすると共に、達也が紛れもなく「日本最強の男」であるという事を世間に知らしめる事となったのだった。




6章終了です。
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