7-1 日本最強の男ですから
―達也―
この日は、母校・西都大学にある玲奈さんの研究室を訪れていた。
俺の人生には人様に自慢できるような経歴がいくつかある(と個人的には思ってる)けど、西都大学卒業という学歴もその一つだ。西都大卒…うん、響きがいい。何だかとても賢い人みたいに聞こえる。
とまあそんな話はいいとして、実は俺は大学を卒業してからも、少なくとも2~3か月に1度はここに足を運ぶようにしている。とはいえ特に大した用事は別に無くて、単なる息抜きとして。
そして玲奈さんの研究室を訪れると、俺はいつも、部屋の壁に貼られた大きな日本地図をまず確認する。
その日本地図は、各都道府県がカラフルな色で表示されている。こっちの県は黄色、こっちの県は青色と、まるで各地の降水量を示した天気予報のようにも見える。ちょっと不思議な地図だ。
とはいえもちろん、各都道府県の色は降水量を示している訳じゃない。実はこれ、俺の子どもの数を都道府県別に色で示した日本地図、通称『ベビーマップ』だ。子どもがまだいない県は無色、1人の場合は水色、2人だと青、3人は緑、4人は黄、5~6人はオレンジ、7~9人はピンク、10人超は赤という風に塗り分けられている。
今の所、赤色なのは地元の大阪だけ。その周辺である兵庫・京都・奈良、さらには関東圏や愛知・福岡といった人口の多い都府県がピンクやオレンジや黄色といった濃い目の色となっていて、その他は青や水色が全国各地に散らばっているといった感じだ。
この地図を眺めていると、体の底から力が湧き上がってくるのを感じる。俺は日本全国の女性に子どもを授けてあげられたんだと思うと誇りに感じるし、何より日本全国に散らばる俺の子どもたちに、父親として恥ずかしい姿は見せられないよなと心から思えてくるのだ。
ただ、俺の努力の結晶とも言うべきこの日本地図は、ある意味では俺の努力がまだまだ道半ばである事を示す地図でもある。
なぜなら47都道府県のうち3分の1超にあたる20もの県が、いまだに無色のままになってしまっているから。
種付けを始めて約3年半、長男のタクト君がこの世に生を受けてから3年弱、俺の子どもの数は既に100人を超えた。おそらく、俺は日本一子だくさんな男だろう。俺は日本の最強の男であると同時に日本一子だくさんな男…そう思うと本当に誇らしい気持ちになる。
でも、まだ俺の種が行き届いていない空白県が20もある。全国の半分近い地域の女性には、俺はまだ何もしてあげられていない…そう考えると本当に申し訳なくやるせない気持ちになる。
近い内に必ず、この日本地図から空白県を消す…それが今の俺の最大の目標だ。REAL無差別級グランプリを制して日本最強の男の称号を得た今、もはや格闘技で目指すべき所は特に無い。だからこれからは種付けに軸足を徐々に移して行くべきだろう。いや、移していかなきゃいけない。俺の種を待っている地方在住の女性たちの為にも。
日本中の女性に俺の種を届ける…その大いなる目標を実現すべく、今年初めには俺が資金を全額拠出する形で基金を設立し、その運用を玲奈さんにお願いする事にした。地方に住む女性が種付けを受けられるよう、大阪への交通費や出産後の一時金などに有効活用して欲しいと思っている。
ちなみに、基金には既に億単位のお金を拠出した。まあ、今の俺にとっては特に痛くも痒くもない金額だ。幸か不幸か俺は高級外車にもブランドの腕時計にも全く興味が無いから、お金は貯まる一方。貯金額は俺が使えるキャパシティを遥かに凌駕してしまっている。だからこれからは、種付けのために私財を積極的に投じていくつもりだ。
そういう意味では、本業の格闘技の方ではこれからもしっかりと勝ち続けて、たっぷりと稼がなきゃいけないと思っている。俺が勝てば勝つほど、世の女性たちに幸せを届ける事ができる…そう思うとトレーニングにも一層気合いが入るってもんだ。
「達也くん、お待たせ」
「あ、どうもです」
玲奈さんがコーヒーを淹れてくれたから、俺も日本地図から目を離して用意された椅子に座る。
ところで、かつては飲み物を用意してくれるのは未華子ちゃんだったけど、今はもうさすがに大学を卒業してここに籍は残っていない。何でも卒業後は政府関連の公的な機関に勤めているんだとか。
「そういえば達也くんって、最近『日本一運が良い男』って言われてるの知ってる?」
「ああ、何かそうみたいですね」
その話を初めて聞いた時は「何で?」と思ったけど、どうやらこれは俺の試合後のインタビューが原因らしい。勝った後に「今回勝てたのは運が良かったです」といつも言ってるのが元ネタなんだとか。最近では「達也は運だけで勝っている」なんてジョークもあるぐらいだ。
嬉しいのか嬉しくないのか自分でもよく分からないけど、まあ、世間から小野達也は謙虚な人間だと認識されてるのは決して悪い事じゃないと思う。うん、そうだよな。
「でも、本当は運が良かったから勝てたなんて思ってないんでしょ?」
「いやいや、運は大事ですよ」
ま、大抵の相手なら、逆に多少運が悪くても勝てる自信はありますけどね…とは言わないでおこう。
「それにしても達也くん、初めて見た頃よりずっと逞しくなったよね」
コーヒーを口にしながら、玲奈さんがそんな事を言う。
「え、初対面の頃の俺は逞しくなかったですか?」
「あの時も十分逞しかったけど、今はガッチリと筋肉がついて別人になったみたいよ」
「ま、これでも日本最強の男ですから」
確かに俺の体はこの数年で一回り大きくなった。大学に入った頃の写真を今見返すと、こんなに線が細かったっけと思わずにいられない。その点、今の俺は良質な筋肉が全身にしっかりとついている。自分で言うのも何だけど、まあ、日本最強の男という称号に恥じない肉体と言っていいと思う。
「ねえ、一つくだらない事聞いていい?」
「何ですか?」
「体が大きくなるに比例して、下半身のアソコのサイズも変わった?」
「…ホントにくだらない質問ですね」
玲奈さんと話していると、当たり前のように下ネタが飛び出してくる。
まあ、こういうくだらない話もまた、いい息抜きになるんだけど。
「さすがにそっちのサイズは特に変わってないと思いますよ。筋肉じゃないですからね」
「というか、達也くんは元から特大のデカチンだからこれ以上大きくなる必要もないか」
「特大のデカチンとか言わないでください」
「あれ、自覚してなかった」
「…まあ、してますけど」
特大のデカチンは言い過ぎかもしれないけど、かなりデカい方なのは承知の上だ。まあ、そっちのサイズの方も日本最強の男に相応しい…、て事にしとこうか。
とはいえ、種付けにおいてはペニスの大きさ(特に長さ)は一定以上あった方が絶対に良いと思う。なるべく奥に…言い方を変えれば少しでも子宮に近い場所に射精した方が精子が元気な状態で卵子へ届きやすい事は間違いないんだから。
余談として、種付けは正常位か後背位で行う事がほとんどだけど、モノがすんなりと奥まで届きやすいのは断然、後背位だ。そして体感的には、後背位での種付けの方が正常位でやった時よりも妊娠確率が高いような気がする。まあ、あくまで体感だけど…
「この前の精液検査も素晴らしい数値だったし、やっぱりサイズと精力は関係あると思うのよね」
「それ、玲奈さんずっと前から言ってますよね」
精液検査は年に1~2回のペースで受けているけど、俺の数値は常に良好そのものだ。WHOが定める精子濃度の妊娠可能目安は1500万/ml、日本人男性の平均値は約5000万/mlらしいけど、俺の数値はこれまで1度たりとも2億/mlを下回った事がない。それどころか、最近では3億/mlを超える事だって珍しくない。
まあ、日本一子だくさんな男の精子なんだから妊娠能力が極めて優秀なのは当たり前とはいえ、検査結果を確認する度に誇らしい気分になるのは確かだ。世間からは天才だ最強だカッコ良すぎると褒められる事が多い俺だけど、自分的には格闘技の実力や顔よりも、この精子力こそが最も自慢できる部分だと思っている。
「私としては早く達也くんの後継者を見つけたいと思ってるんだけど、君ほどの逸材はなかなか見つからないのよね」
「ははは。ま、俺を基準にしたらそりゃ厳しいですよ」
ついついそんな事を言ってしまう。とはいえ実際、俺を基準にしては他の男があまりに可哀相だろう。何たって俺は日本最強の男にして、各種アンケートで抱かれたい男No.1の座を不動のものにしているスーパースターなんだから。
「未華子ちゃんがいなくなってからスカウト活動も滞っちゃってて…ゴメンね、達也くんに頼みっきりで」
「いえいえ。優秀な後輩が現れてくれるまで、俺が身を粉にして頑張りますよ」
そう、安心して俺の後を託せるような後輩が早く出てきて欲しい…というか世の女性たちの事を考えれば早く出てこなければいけないのだ。俺のようにイケメンで、背も高くて、少なくとも頭か運動神経のどちらかが全国でもトップレベルに優れてて、なおかつ妊娠能力抜群の精子を持った男が。それこそ今の俺の地位を奪って、俺が抱えている女性たちを全て引き受けてくれるような優秀な男が。
でも残念ながら、そんな男が現れてくれそうな気配は全く無い。だから世の女性たちに子宝を授けるのは、まだ暫くは俺の役目であり続けるだろう。
大変だけど…まあ、仕方ないよな。何たって俺、日本最強の男なんだから。