白馬龍との一戦からおよそ2週間後、達也の右足に5億円の保険がかけられたという記事がスポーツ各紙に掲載された。
要は達也が大手保険会社とスポンサー契約を交わしたという事である。なので別に達也が保険料を支払う訳ではないし、5億という金額にしても数字のインパクトを考慮して適当に決められただけのものに過ぎない。
ただ、もし達也の右足の価値をお金に換算したならば、5億円程度では全く釣り合わないだろう。現にこれまで達也が右足で相手をノックアウトして得たファイトマネーの総額は、5億円など軽く超えているのだから。そして言うまでもなく、これからも達也はその右足で相手を次々とマットに沈めていく可能性は極めて高いのだから。そういう意味では、達也の『黄金の右足』に対して5億円という保険金はむしろ全くの過小評価と言うべきかもしれなかった。
まあ、とはいえこの程度のニュースはもはや大した話題にもならない。達也が大手企業と新たなスポンサー契約を交わした、達也にはまた少なからぬ契約金が舞い込んできて、その一部は自身の種付けのための基金に拠出され、達也の子どもがさらに何人か増えるための手助けとなる、ただそれだけの事だ。
しかし、好事魔多し。禍福は糾える縄の如しとはよく言ったもので。
その数日後にある週刊誌が掲載した記事が、達也の今後に大きな影響を及ぼす事になる。
「小野達也&高橋ひかりが熱愛!?交際スタートは昨年末から!?」
高橋ひかりといえば現在人気No.1の超売れっ子若手女優だが、記事によると達也とひかりは一昨年の冬に新語・流行語大賞を同時受賞した事をきっかけに知り合い、その後バラエティ番組やCMなどでの共演を経て意気投合、昨年の終わり頃から男女の交際に発展したようだ…というような事がかかれていた。
また、記事にはひかりに近い関係者の話も掲載されていて。
「流行語大賞の授賞式で知り合ってからはしばらく友人関係だった2人ですが、昨年末頃から正式に交際がスタートしたと聞いてます。ひかりちゃんはひたむきに格闘技に取り組む小野選手を尊敬していて、小野選手もひかりちゃんと友人として接する内に、その飾らない人柄に好意を寄せるようになったみたいです。しかもこの2人、歳が同じで誕生日はたった1日しか違わないんですよ(注:小野が7月30日で高橋が7月31日)。まさに運命的なお似合いカップルだと思いますね」
さらに記事には、熱愛の裏付けとなる写真も掲載されていた。ただしそれはツーショットの写真ではなく、某高級料理店に達也とひかりが同じ日にそれぞれ単独で入店していく写真で、入店のタイミングをずらして店内で合流し、2人きりの会食を楽しんだという事が示唆されるものだった。
2人が付き合っているという決定的な証拠は無かったが、少なくともかつて他の週刊誌が掲載した達也とサトパン(フジテレビ女子アナウンサー)の熱愛疑惑よりもずっと信憑性は高いように感じられる記事だった。この記事を受けてネットではひかりの過去の言動が洗い出され、バラエティ番組で「格闘技が好き」と言っていた事や、別の番組で好きな男性のタイプを問われた際に「強くて守ってくれる男性」と答えていた事、さらには流行語大賞の授賞式で冗談半分ではあるが「達也と付き合ってもいい」というようなニュアンスの発言をしていた事も掘り起こされた。
ただ、世間のざわつきをよそに、当の2人は記事に関して完全スルーの姿勢を見せた。ひかりは週刊誌が発売された2日後に某アパレルブランドのイベントに出席したのだが、そこでの会見では週刊誌報道に関する質問を一切禁止する徹底ぶりだった。達也に関してはそもそもタレントではなく、SNSも一切やっていないのでプライベートな内容の記事に大していちいちコメントを出さないのはある意味当然だ。世界で唯一達也に取材する権利を有する人物(充希)に対しても「全くの事実無根、高橋ひかりさんとは確かにCMの共演とかを通じた知り合いではあるけど、特別な関係である訳がない」と電話で釈明し、充希も何とか納得してくれてとりあえずは一件落着。あとは世間の人々が噂を忘れ去るのを待つだけ…と安心しかけた達也だったが。
ところが、物事は達也の期待した通りには進まなかった。
なぜなら今回の記事は、昨今の週刊誌が得意としている2週連続スクープの第1弾に過ぎなかったのだ。
「小野達也&高橋ひかり熱愛スクープ第2弾!超高級タワマンで真夜中までラブラブ密会!」
それが2週目の記事のタイトルである。第2弾の記事に掲載されていたのは、都内の某マンションに別々のタイミングで入っていく達也とひかりの姿が映った写真だった。記事によると2人が入っていったのは達也が部屋を借りている超高級タワーマンションで、ひかりが乗り込んだエレベーターは達也が部屋を借りているとされる高層階のフロアで止まった…ひかりがマンションに入ったのは午後8時過ぎ、マンションを出たのは日付けが変わった午前0時過ぎだから、4時間もの間2人は同じ部屋でラブラブな時間を共にした…というような事が書かれていた。
第1弾の記事に続き、今回もツーショットの写真は無かった。だが決定的証拠こそ無かったものの、状況証拠としては2人の交際を裏付けるかなり有力な写真と言えた。前回のように飲食店への出入りなら偶然2人が同じ日に同じ店へ訪れただけという可能性も十分有り得るが、ひかりが達也の部屋があるマンションに単独に入っていく理由など、普通に考えて一つしか無いのだから。
各局ワイドショーもこの2週連続スクープをこぞって取り上げた。あっという間に世間の認識は「達也とひかりはデキてる」という空気になってしまい、ネット上には「達也ロス」「ひかりロス」といったワードが溢れ返った。「達也様が高橋ひかりと付き合ってると考えただけで涙が止まらなくて死にたい」という反応を女性ファンが見せれば、逆に男性ファンは「ひかりちゃんが小野達也のデカチンでメロメロにされてるなんてマジで死にたい」と嘆く始末。ここまで来るとさすがに達也もひかりも事態を無視する事はできなくなり、達也はFAILYを通じて、ひかりは所属事務所を通じてそれぞれコメントを発表した。
だが、達也のコメントが「一部報道にあったように、高橋ひかりさんと交際しているという事実はございません」というようなシンプルなものだったのに対し、ひかりの所属事務所から発表されたコメントが「高橋のプライベートは本人に任せておりますが、小野選手とはあくまで仲の良い友人であり、交際の事実はありません」という文言だった事が、記事にさらなる真実味を与える事になってしまった。
…仲の良い友達?異性の部屋に一人で遊びに行くような?
それってやっぱり、普通にデキてるって事じゃん!と。
そして一旦は達也の説明に納得した充希も、第2弾の記事を受けてはさすがに心中穏やかでいられる筈もなく。
本人の口から真相を確かめるべく、達也を大阪から東京へと呼びつけた。