※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

78 / 92
7-10 組み合わせ決定

 12月30日。第2回REAL無差別級グランプリ組み合わせ抽選の日である。この模様はREALのユーチューブ公式チャンネルで生配信され、多くのファンが視聴した。

 前話でも記したように、達也の状態は文句なしの絶好調だった。体調は万全、体に痛い所も全く無し。立ち技も寝技も密度の濃いトレーニングをこなし、他ジムの選手とのスパーリングでは連戦連勝。屈強な米兵たちも全く問題にせず、調整試合も経て試合勘もバッチリだ。さらに言うなら年内最後の種付けを一昨日の夜にこなしたのだが、これも体にキレを持った状態でリングに上がる為には試合の2~3日前に種付け(というか射精)するのがベストという自身の経験則に基づいた調整の一環だった。まさにこれ以上ないやるべき事は無いと言い切れる万全の態勢で、この日を迎える事ができていた。

 そして言うまでもなく、出場選手のチェックも欠かさず行ってきた。

 とはいえ誰と戦うのかが分かっていない中で、全ての出場選手を綿密に研究して対策を立てるのは現実的ではない。なので今回は、各選手の直近2~3試合の映像をざっくりと確認して、その大まかな実力や得意戦法を何となく頭に入れる程度に留めておいた。今や寝技でもトップ選手に全く引けを取らない実力を持つ達也だが、基本的には立ち技での攻防を志向し、ローキックで体力を削ってハイキックでKOを狙うというのが基本的なファイトスタイルだ。相手が誰であろうが自分の戦いを変える必要は無い…逆に言えば自分の戦いさえできれば必ず勝てる…俺より強い奴なんている筈がない…そんな確固たる自信を持って達也はこの場に臨んでいた。

 映像を確認してまず達也の印象に残ったのは、予選を圧倒的な強さで勝ち上がってきたボビー・サップだった。何といっても筋肉隆々の肉体は衝撃的で、170kgの体重を誇りながら余分な脂肪が一切無い選手などいまだかつて見た事が無かった。くしくも達也が5月に対戦した元横綱の白馬龍もリングに上がった際の体重は170kgだったが、同じ170kgの筈なのにボビーの肉体は白馬龍のそれとは全く別物だった。そして予選で見せた試合内容も凄まじく、パワーはもちろんスピードも驚異的で対戦相手は全く何もできなかった。まるで大人と女の子が戦っているよう…というか戦いにすらなっていなかった。

 実際、ファンの中でもボビーを優勝候補に推す声は多かった。REALのオフィシャルサイトではグランプリ優勝者を予想するアンケートが実施されているのだが、当初は達也が圧倒的1番人気だったのが10月の予選が終わってからはボビーへの投票がぐんぐんと伸び、今では達也とボビーの支持が拮抗しているような状態だった。無敵の達也であってもボビーの圧倒的なパワーの前には為す術がないのでは…そう考えるファンは多かった。

 だが達也は、ボビーの底知れぬポテンシャルは認めつつも、決して過度に恐れるべき選手ではないと考えていた。確かに身体能力はとてつもないが、所詮は格闘技を始めて間もない選手。打撃技術はかなり粗削りだし、おそらく寝技はできないだろう。さらには予選で見せたような戦い方が試合終盤まで持つ訳もなく、もし戦う事になっても最初の2~3分さえ凌げば勝手に向こうがガス欠を起こすだろう、そう考えていた。

 おそらくボビーは見た目ほど大した事はない。むしろ達也が最も警戒していたのは、金田悠希の弟、金田陽希だった。

 金田陽希は、REALのリングで既に3敗を喫していた。だがその3敗はいずれもREALにデビューした直後の頃で、ここ2年に限れば負け知らずだった。そもそも昨年の第1回グランプリでも出場すれば優勝候補の一人と目された筈だったが、兄の悠希と対戦する可能性を考慮して出場が見送られた経緯がある。

 金田陽希のファイトスタイルは、兄の悠希とは全く異なっていた。兄・悠希は鋭いタックルと荒々しい打撃が持ち味の攻撃的なファイターだったが、弟・陽希は無駄のないシャープな動きで打撃・寝技共に高い技術を誇る、欠点のないオールラウンダータイプだった。

 そんなファイトスタイルだけでなく、格闘技に対する考え方や人間性も悠希と陽希では全く異なっていた。兄の悠希は総合格闘技をケンカの延長のように捉えており、発言も対戦相手を見下したり小馬鹿にするようなものばかりだったが、弟の陽希にとっては総合格闘技はケンカの延長などではなくあくまで競技であり、試合はトレーニングの成果を発揮する場だった。兄と違い、対戦相手を挑発するような発言もこれまで皆無だった。そんな陽希だからこそ、彼は兄がリング上で度々見せる野蛮な行為には全く共感しておらず、むしろ格闘家として一定の距離を置いていた。それは陽希が所属するジムが兄と違う事からも明らかだった。

 しかしファンにとっての金田陽希は、やはり一にも二にも「金田悠希の弟」である。陽希は兄と違って人間的にまともな常識人なのだが、金田という名前の時点でどうしても悪役になってしまうのだ。なので陽希は確かな実力を有しファイトスタイルもスマートながらも、その実力に見合った人気を獲得しているとは言い難かった。また、兄の悠希が達也の敵としてファンに認知されてしまった事も、陽希にとっては不幸だった。金田は達也の敵、つまり金田は国民の敵なのだ。

 さらに付け加えるなら、陽希のルックスがお世辞にも良いとは言えない事もまた、彼のファンが少なく要因でもあった。何だかんだ言って、見た目が人気(特に女性人気)に及ぼす影響は大きいのだ。達也の圧倒的な人気が、実力だけではなく抜群のルックスにも支えられている事はご承知の通りだ。それこそ達也は「悲報!日本最強の男小野達也、顔でも現役アイドルを公開処刑してしまう…!」みたいなスレッドがあちこちに立てられるレベルのイケメンである。格闘技は全く見ないけど達也の事は大好きという女性ファンもかなり多かった。

 そこに来て、金田兄弟の見た目は…ハッキリ言って残念だった。しかも兄の悠希の場合は大悪役に似つかわしい顔であるとも言えたが、陽希は決して悪役ではないし、悪役になろうとしている訳でもない。純粋に顔でかなり損をしていると言わざるを得なかった。

 だが言うまでもなく、リングの上では顔の良し悪しで勝負する訳ではない。兄の悠希とは非公式戦を含めて3度戦い全てKO勝ちした達也だが、その勝因は悠希の単調なファイトスタイルに起因していた。言い換えれば、悠希は達也が仕掛けた罠に簡単に嵌ってくれる程度の選手だった。だが陽希からは、兄と同じような隙は感じられなかった。パワー・スピード・テクニック・ファイトスタイル、その全てにおいてレベルが高くて穴が無い、シンプルに強い選手だと正直に感じた。

 金田陽希はファンからの人気こそイマイチだが決して侮ってはいけない相手、REALのリングで3敗したのはまだ彼の実力が本物ではなかった時代の話で今は全く参考にならない、今大会最大のライバルになるのはこの男だろう…達也は本気でそう感じていた。

 とはいえ、自分が力を出し切れば十分勝てる相手だという事も正直に感じた。間違いなく強敵ではあるが、俺が俺の戦いをできれば大丈夫、そう思えるほどに達也の自信は漲っていた。

 

 

 抽選が行われ、達也の1回戦の相手はピーター・シュルツというオランダ人選手に決まった。今大会は出場者8人中に外国人選手が4人含まれているが、その1人である。かつてはキックボクサーだったが数年前に総合格闘家に転向したという、達也と似た経歴を持つ選手だった。

 そしてトーナメント表の先を確認すると、順調に行けば2回戦でボビー・サップ、決勝戦で金田陽希と当たる組み合わせとなっていた。ただ、どんな組み合わせでも問題ない、別に1回戦からボビーや金田と当たってもいいと思っていたから、決定した組み合わせ自体には特に思う所は無かった。

 抽選後の会見で連覇へ向けた意気込みを問われた達也は、力強く言った。

 

「連覇に挑戦できるのは自分だけなので、貪欲に連覇を目指したいと思っています。今回は昨年と違って外国人選手も多いですが、日本の男の強さを見せたいと思っています!」

 

 その強気の言葉は全国のファンに対してではなく、充希に向けられたものと言っても過言ではなかった。

 明日は俺が屈強な外国人選手たちを次々とKOするから見ててくれよな…!と。

 

 しかし、先に結果を少しだけ言っておくと。

 大晦日は、昨年のように達也が楽勝を重ねてアッサリと連覇を飾るような簡単な1日とはならなかった。

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