※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

80 / 92
7-12 第2回REAL無差別級グランプリ 2

「ぐっ…くぅっ…」

 嵐のように降り注ぐ顔面へのパンチを、達也は歯を食いしばって必死に堪える。といっても、気合いだけで堪えられるような生易しいパンチではない。重要なのはできる限り密着する事、振り下ろされる拳に力が乗り切る前に、距離を縮めて額などの硬い部分でパンチを受けてしまう事だ。

 マットに仰向けになりボビーに上に乗られた達也だったが、何とかガードポジション(両足を相手の胴体に巻き付ける体勢)は維持していた。この体勢を維持できてさえいれば、ボビーの体をある程度はコントロールできる。逆に巻き付けている足を振りほどかれて完全な馬乗り状態(マウントポジション)になられては、振り下ろされるパンチに対して距離を詰める事ができなくなり、好き放題に顔面を殴られ続けてしまう。つまりは、事実上のゲームセットだ。

 巻き付けた足に力を込めて、ボビーを引き込むようにして密着を試みる。こんな筋肉ゴリゴリの男と密着なんて気持ち悪い…なんて言ってる場合ではもちろんない。密着しなければまともにパンチを受けてしまうのだから。

 ボビーの体を思いっ切り引き付け、さらに下から抱き着くようにしてボビーの動きを極力封じる。ボビーは達也を振りほどこうと太い腕を振り回しては隙を見つけて顔面にパンチを見舞おうとするが、拳と顔の距離が近くてなかなか力の入ったパンチを打つ事ができない。

 開始早々タックルに失敗してパワーボム(相手の体を持ち上げマットへと叩き付ける技)を食らうという特大のピンチを迎えた達也だったが、しかし必死に得たガードポジションだけはとりあえず完璧で、なんとか秒殺負けの危機は脱した。達也の長い足はボビーの太い胴体にガッチリと巻き付いており、そう簡単には外れそうにない。

 とはいえ、達也が不利である事に変わりはない。達也の手足を振りほどこうと暴れるボビーの力は尋常ではなく、それを封じるべく密着しているだけで激しく体力を消耗する。それに、ボビーのパンチを完全に封じ切れている訳でもなく、近距離から強引なパンチが数秒おきに振り下ろされる。それは力が入り切っていないから致命的なダメージにはならないとはいえ、そこそこ…というかかなり痛い。

 そしてさらに言うなれば、170kgの巨体に乗っかられているだけでかなりの負担だ。腹筋に力を込めていないと、胃袋が潰されてしまうんじゃないかと思うほどに。

「くっ…この野郎っ…」

 何とかしなければと思い打開策を探る達也だが、しかし有効な打開策なんてある筈もなかった。とにかく足を絡み付け上半身も引き付けて、できる限り密着を試み続ける。そしてボビーの近距離からのパンチをなるべく額で受け続けながら、隙を探って下からボビーの顔面にパンチをお返しする。

 達也にとっては、つらく厳しい時間だった。全身に力を入れ続け、顔面でパンチを受け続けた。達也も下から何発かパンチを当てはしたが、与えた打撃より受けた打撃の方が数倍多かっただろう。

 そうこうする内にボビーもバテてきたのか、徐々に動きは大人しくなっていって。

 そしてそのまま、第1ラウンド終了のゴングが鳴り響いた。

 

………………………………………

 

     ―達也―

「はぁっ…はぁっ…くっ…」

 ゆっくりと立ち上がる。とりあえずは大ピンチを切り抜け1ラウンド終了のゴングを聞けた事を安堵していた。気を失いそうになった瞬間が何度かあったけど、今はもう大丈夫。とりあえず意識はしっかりしている。

「はあっ…はぁっ…くそっ…」

 ただ、とてつもない疲労が全身を覆っていた。特に下半身の疲労は相当だった。無理もない、あんなデカい体に必死に密着して、しかも振りほどかれないようずっと全力でしがみついてたっていうんだから。冗談ではなく、俺の長い足とスポーツマンNo.1決定戦で圧勝してしまうような体力が無ければ、とてもじゃないけどガードポジションを維持し続けるのは無理だったと思う。いや、マジで。

「はぁっ…はぁっ…はぁぁっ…」

 呼吸が荒い。とりあえずコーナーへと戻らないと。インターバルは2分、その間に少しでも回復を…

「達也くん、大丈夫っ?」

「へ…?あ、ああ」

 戻ろうとしていた赤コーナーは、すぐ目の前にあった。そりゃそうだ。何たって開始早々、赤コーナーからほとんど動かない場所で投げつけられてずっと上に乗られてたんだから。

 つまりは、そんな当たり前すらにも気付いていない程に、必死の10分間だったって訳だけど。

「くっ…」

 用意された椅子にゆっくりと座る。それだけの行為が結構つらかった。

「よく耐えたわね。大丈夫、相手も確実に疲れてるわよ」

 と晴香さんが言う。確かに1ラウンド終盤にボビーがバテてきているのは自分も肌で感じてはいた。パンチの威力も鈍っていたし、何よりボビーの体に込められている力の総量が落ちていた。あれだけ密着していれば、相手が力を入れているかどうかぐらいは嫌でも分かる。

 とはいえ冷静かつ客観的に見て、俺の方が圧倒的に体力を消耗している事は確かだった。

(あー…くそっ…)

 今さらながら、低いタックルなんて狙わなければ良かったと後悔していた。案の定、ボビーのスタミナは不足していた。何たって上に乗って暴れているだけでスタミナ切れを起こしてるぐらいなのだから。当初の計画通りローキック戦法で後半勝負に出ていれば、今頃はリングの中央で俺の右手が高々と掲げられてたかもしれない。

(まあ、過ぎた事は仕方ない…か)

 そう、過ぎた事を後悔しても仕方がない。今の俺がすべきなのは少しでも体力を回復させる事と、残り10分の戦い方を改めて整理する事だ。

 俺ほどではないとはいえ、ボビーはボビーでそれなりに体力を消耗している。インターバル明けにはまた突進してくるかもしれないけど、今度は付き合わずにしっかり距離を取って、本格的にスタミナが切れるのを…

「いっ…いいいっ……!?」

 その瞬間、背中から肩首辺りを強烈な痛みが駆け、思わず声を発してしまう。

「ど、どうしたのっ…?」

「いやっ…いやいやっ…何でもないです」

 晴香さんが心配そうに聞くけど、咄嗟に適当に返す。ただ実際は、何でもないなんて事は全く無かった。現に、今もキリキリと痛い。

 これは…筋を違えたか…とにかく筋肉系の痛みだ。

 おそらくは、開始早々のパワーボムで首をマットに打ち付けられた際に負ったものだろう。戦ってる最中はアドレナリンが出過ぎてたからか全く気付かなかったけど、こうして落ち着いてしまえばその痛みが嫌と言うほど浮き上がってくる。

 というか…何これ…めちゃくちゃ痛いじゃねーか…

 ヤバい…待ってくれ…これはマジでヤバいやつだ…ていうかこんなの戦えないって…

 棄権の2文字がちらっと頭に浮かんだ。ただ、ここで棄権すれば言うまでもなく俺のTKO負けになる。

 それだけは絶対に嫌だった。何せ俺はこの試合でまだ全く力を出せていないから。ちょっと調子に乗って作戦を間違ってしまっただけで、第2ラウンドは絶対に自分の強さを披露できる自信があるから。

 それに…あのゴリラを逆転KOしたら、今度こそ充希は絶対俺の事を見直してくれる筈だから…!

「よし…やってやるぜっ…!」

 2分のインターバル終了の合図と同時に、勢い良く立ち上がる。

しかし…

「いっ、いいいいいっ…!!」

瞬間、ビキビキビキッッッ!!と背中の上部に激痛が走った。

「た、達也くん…」

「ま、まあ見てて下さいよ。最強の男の戦いを見せてやりますよ…」

 おそらくは晴香さんも、俺の異常を感じ取っただろう。だからこそ俺は敢えて強気な言葉だけを並べて、対角線上の青コーナーを見やる。

 するとそこには、ボビーが今にも突進してきそうな構えで、こちらを睨みつけていた。

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