※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

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これまで7章82話の長きに渡ってお送りしてきた本作も、ついにこの8章が最終章となります。
完結まであと少し、ぜひ最後までお付き合い下さい!


8章 並んで歩こう(X7年1月~ )
8-1 ずたぼろ


 行き先はそれぞれに違うこと 初めから知っていた二人だね

 それなのに貴方に触れる日はいつも 永遠を感じていたんだ

 めぐり逢いどれくらい経ったかな 苦手な笑顔もうまくなったかな

 それからの二人はいつも一緒だった 

 

 そして、順に大人になった――

 

………………………………………

 

 達也の負傷が軽傷だった事を受けて、REALは改めて第2回グランプリ決勝戦開催の準備に着手した。金田陽希サイドはもちろんFAILYサイドも早期の決戦に前向きで、交渉はトントン拍子で進んだ。

 そして1月の下旬には早くも、達也と金田陽希が3月22日(日)に東京ドームにて激突する事が発表された。

 常識的に考えれば、達也としては潰(つい)えたと思われたグランプリ連覇の夢が復活したのだからこれ以上なくありがたい話である。本来なら、改めての決勝戦開催を提案した金田陽希に感謝の一言ぐらいあっても良かったかもしれない。

 だが、この時の達也は、正直言って試合どころではなかった。

 何とも…本当に何とも間の悪い事に、達也が充希から別れを告げられたのは、金田陽希との試合が水面下で内定してから発表に到るまでの、ほんの数日の間だった。

 それ以来、達也のメンタルは深刻なレベルに陥ってしまっていて…

 

 

 ドンッ、と達也が尻もちをついた。若手選手の放ったパンチが達也の顔面を捉えたのだ。

 衝撃的な光景だった。達也がスパーリングでダウンするなどもちろん初めて。そもそも顔面にパンチを貰う事すらほとんど無く、たまに貰ってしまったとしても「俺の顔面を殴るとはいい度胸じゃねえか」と言わんばかりに反撃して逆に重いパンチをお返しするのが本来の達也の姿だ。なのにこの日は、たった一発貰っただけで力無くダウン。しかも、尻もちをついたまま少しの間立ち上がろうともしなかった。

 何とか立ち上がってスパーリングは再開されたが、達也の動きはとてつもなく重く、繰り出す攻撃も信じられない程に弱々しかった。なので再開後もすぐに若手選手の猛攻を浴び、コーナー際で背を丸めてサンドバッグ状態に打ち込まれてしまったのはむしろ当然の姿だった。

 結局、スパーリングは予定されていた3分2ラウンドのうち、前半の1ラウンドすら消化されずに強制終了となった。これ以上続けても意味がないどころか、ヘタをすれば達也が怪我をしてしまうかもしれない…そう思わせる程に散々な内容だった。

「あの…小野先輩、えっと…ありがとうございました」

 達也をボコボコにした若手選手が申し訳なさそうに言う。彼にしても達也からダウンを奪った時には嬉しさのあまり小さくガッツポーズをしてしまったが、最後はあまりに弱々しい達也を心配して思わず力を緩めた程だった。

 誤解の無いよう言っておくが、彼は決して強いと言えるような選手ではない。まだ二十歳そこそこの駆け出しキックボクサーであり、普段の達也なら左手一本で手玉に取れる程度の相手なのだが…

「はあ…はあ…はあっ…」

 肩で息をしながら、ヨロヨロとリングを降りる達也。状態があまりにも酷いのは誰の目にも明らかだった。

「達也くん…もしかして高熱でもあるの…?」

 晴香もまた、信じられない思いだった。何せつい数日前まで元気そのものな姿を見せていただけに…

「大丈夫です…すみません…」

 全く大丈夫でなさそうな声で力無くそう言ったかと思うと、壁際までとぼとぼと歩いてペタンと座り込む達也。そしてまた、「はあ…」と大きなため息。その表情は暗く、視線は虚ろ。瞳には全く生気が宿っていなかった。

 

 ――達也とはもう一緒にいられない。達也と私はもう、住む世界が違うから…

 

 それが、充希から告げられた別れの言葉だった。「達也は私なんかじゃなくて、もっと素敵な女性が似合う人だから…」とも

 それらの言葉を告げられた後、達也は自分が何を言ったのかほとんど覚えていなかった。「何言ってんだよ」「納得できない」そんな事を言ったような気がする。「俺の悪い所があったら直すから」みたいな事も言ったかもしれない。

 でも、そんな陳腐な言葉では、充希の決意を翻す事はできなくて。

 ついには「今までありがとう」という言葉を残して、電話の向こうから充希の言葉が届く事はなくなって…

 

………………………………………

 

 フラれてから1週間が経ったが、達也は立ち直るどころか、その状態はさらに悪化の一途を辿っていた。

 布団から起き上がるのも億劫、でも少しは体を動かさないと本当に廃人になってしまうからと気力を振り絞ってジムに顔は出すもののそこまでが限界で、とても普段通りのトレーニングを行う事など不可能だった。食事もほとんど喉を通らずに血色は日に日に青ざめて、体重はこの1週間で5kgも減ってしまった。もちろん種付けも一方的にキャンセル状態が続いていた。

 どうしても諦めきれずに何度か充希に電話をかけてみたりもしたが、電話口から聞こえてくるのは決まって冷たい電子音だけ。ならばと今度はメールを送ってみるものの、着信拒否こそされてはいないようだったが返信が返ってくる事はなく、たまにメール受信音が聞こえた時には期待を込めながら確認してみるのだが別人からのメールでガックリと肩を落とし、ついにはメール受信音が聞こえる事自体が怖くなってスマホをサイレントモードに設定したまま布団の中に放り込んでしまって、夜になってから1日分の着信履歴を確認するけどその中に充希からの着信を見つける事はできずにまた気が沈んで…と、しかしまあよくもここまで落ち込めるよなと言わずにはいられない程の、それはそれは悲惨な落ち込みっぷりだった。もし達也が獅子咆哮弾(※『らんま1/2』に登場する響良牙の必殺技。気が重くて沈んでいるほど威力が強い…って古いネタでスミマセン)を撃つ事ができれば、その威力で小さな山ぐらいなら粉々にしてしまうかもしれない…という冗談はさておき、とにかくマジでヤバい状態だった。

 しかも何より悲惨だったのが、そんな達也の状況などお構いなしに、金田陽希との決戦の日が刻一刻と迫っている事だった。

 達也がスパーリングでサンドバッグにされた時には驚き&心配しつつも「何があったのか分からないけど達也くんならすぐに調子を戻してくれるに違いない」と事態を静観していた晴香だったが、調子を戻すどころか日に日にやつれていく達也を目の当たりにしては、さすがに事の深刻さを悟らずにはいられなかった。このままでは3月に試合を行う事などとても無理と判断して試合の中止または延期をREALへ申し入れるに到ったのは、達也を監督する立場としては当然の判断だった。

 しかしREALは、今さら試合のキャンセルなど不可能だとして晴香の申し入れを頑なに拒んだ。ただ、REALの態度は至極当然である。何せ試合の開催は既に両対戦者によって正式に合意されており、それを受けてREALは既に東京ドームまで押さえているのだ。負傷等のやむを得ない理由ならともかく、原因不明の精神的不調などという曖昧な理由での辞退など受け入れられる筈もない。さらにREALは、来たるべき試合は第2回グランプリの決勝戦という位置付けであり正当な理由なき棄権は契約違反に当たるとFAILYに通告した。確かにグランプリ出場の際に取り交わされた契約書には「出場者がトーナメントに勝ち進んだ場合は負傷以外の理由で試合を棄権してはならない」と明確に定められており。原因不明のメンタル不調(しかも実態は失恋)で試合の出場を拒否するなど、誰がどう考えても契約違反以外の何物でもない事は明らかだった。

 試合の日程を変える事ができないと悟った晴香に残された道はただ一つだった。すなわち、全力を注いで達也の状態を回復させる…もうそれしかないのである。

 とはいえ、達也の精神的不調の原因が分からない以上、できる事はと言うと有名なカウンセラーを招くぐらいで…

 しかし、ズタボロになってしまった達也のメンタルは、どんな優秀なカウンセラーをもってしても回復させる事など到底不可能で…




GLAY『way of difference』
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