※この作品はR-18です。

種付けファイター達也くん   作:minnie_remon

9 / 92
1-7 プロ2戦目

     ―達也―

 快勝の余韻に浸る間もなく、すぐに2戦目が決まった。日時は11月の中旬、舞台はデビュー戦と同じく『knock out』だ。

 試合間隔が1か月半というのは短い方だけど、俺としては全く問題無かった。というかむしろ、できるだけ早く試合がしたいと俺から直訴したぐらいだ。デビュー戦でのダメージはゼロだったし、俺としてもどうせ格闘技をやるなら勝ちまくって自身の評価を高めたい気持ちだった。だからできるだけ名の通った強い相手と試合したいというのが本音だった。

 そんな希望が受け入れられたのか、2戦目の相手はタイの選手だった。タイと言えばムエタイを国技とし、ボクシングやキックボクシングの世界に有力選手を多数輩出している国だ。空手家時代に外国人選手と戦った経験の無い俺にとっては初の国際戦、自ずと気合が入った。

 ところが、相手選手の戦績を聞いてガッカリした。なぜならその選手はキャリアが浅い上に負け越しているという、全く強いと言えない選手だったのだ。まあ、自分自身がまだキャリア1戦なんだから贅沢を言える立場ではないけれど、気合いはかなり萎えてしまったというのが正直な所だった。

 これは後に知る事になるのだけど、相手が実力の劣る外国人選手に決まったのは、どうやら俺に原因があったらしい。というのも俺のデビュー戦の内容が圧巻過ぎて、こちらから対戦を打診した日本人選手は皆揃ってオファーを断ってしまったというのだ。それが嘘じゃないという事を証明するようにここから暫くの間、俺の対戦相手はタイやフィリピンやインドネシアといった東南アジアの選手ばかりになる。

 

 試合が決まってから少しして、相手選手の過去の試合映像を手に入れる事ができた。晴香さんに頼んで入手してもらったのだ。

 俺は、試合前には対戦相手の映像を絶対に見たいタイプだ。中には試合前に相手の情報を頭に入れ過ぎるとイメージが先行してしまって自分の戦いができなくなるという選手もいるけど、俺は真逆。対戦相手の映像をじっくりと研究して、しっかりと対策を練って試合に臨むのが俺のスタイルだ。

 実は、そうなったのは充希の影響が大きかったりする。というのも、充希は模試で全国指折りレベルの成績を叩き出すぐらい頭がいいくせに、そこまでガリガリと勉強してる訳でもない。充希曰く『勉強のための勉強はしない』というのをとても大事にしているんだそうで、「義務教育での勉強なんて受験のためなんだから、試験に出ない問題をいくら解けるようになっても意味は無い。無駄な知識を詰め込むんじゃなくて傾向と対策が何より大事なんだよ」って事らしい。

 でもまあ、実際にその通りだと思う。しかもそれは、格闘技にしても同じだと俺は思う。俺たちはリングの上で腕力比べをやってる訳じゃなく、相手を叩きのめす能力を競っているんだから。どうすれば相手を叩きのめせるだろうかと突き詰める事こそ何より重要。自分が目指すべきゴールが明確になれば、取り組むべきトレーニングも自ずと見えてくる。

 と、話が長くなったけど、要は俺は試合前には相手の映像を必ず見たい、って事を言いたかっただけで。

 今回も相手の映像をしっかりと見て、その結果を一言で言うと…

正直に言って、ガッカリ感が増した。

 戦績から予想された通り、今回の相手に強さは感じられなかった。というかハッキリ言わせてもらうと、弱かった。

 攻撃の力強さには乏しく、ガードは甘い。スピードも平凡。もちろん油断は禁物だけど、相当なラッキーパンチさえ貰わなければまず楽勝というのが映像を確認して感じた率直な印象だった。相手を過小評価するのは良くないけど、過大評価もまた禁物。普通にやれば普通に勝てる、というかおそらくは相手にならない。それが冷静な分析だった。

 

………………………………………

 

 プロ2戦目の日がやって来た。

 デビュー戦はオープニングマッチ(第1試合)を任されたけど、この日は俺が登場するのは前10試合中の第5試合だった。晴香さんが言うには第5試合は前半戦のラストを飾る試合で、メインと準メインに次ぐ見せ場の試合らしい。まあ、俺の気持ちを高めるために言ってくれてるだけなんだろうけど。

 試合が進み、俺の出番が来た。

 観客の数は、デビュー戦の時より少し多いかなという程度でやっぱり空席が目立っていた。寂しいけど仕方ない。これが『knock out』の、というよりキックボクシングの現状なんだろう。ただ、こんなマイナースポーツを現地観戦するためにわざわざ足を運んでくれた数百人のファンの存在をとてもありがたくも感じた。それはデビュー戦の時には無かった感情だった。この程度でプロの自覚が湧いたなんて言うべきじゃないかもしれないけど、とにかく全力でいい試合をしてお客さんに楽しんでもらいたいと本気で思った。つまりは、観客が興奮するような圧倒的なKOで勝ちたい、と。

 リングの中央で、対戦相手と向かい合う。相手をナメる訳じゃないけど、やっぱり負ける気はしなかった。

 そして、試合が始まる。

 相手の出方を窺いつつ、ゆっくりと前進する。まずは様子を見ながら、向こうが来るなら躊躇なく迎え撃つ態勢。でも相手はこちらを警戒してか、慎重に距離を取る姿勢を見せた。

 ならばと左ジャブから組み立てて、軽くワンツーを放ってみる。すると狙い通り顔面にヒットし、相手の体が小さくのけぞった。リーチは俺の方がだいぶ長い。早くも自分に有利な間合いを掴んだ気がした。

 続いてローキック。パシン!と乾いた音が響いた。相手が反射的に右を返してくるけど、難なくかわして逆に軽く左を当てて追い返す。

 何でも当たるという感覚。よし、大丈夫。

 確かな感覚を得たなら、もう様子を見る必要はない。いけると思ったら、攻める。

 集中力を高めて、感覚を研ぎ澄ませながらしっかりとタイミングを計って。

 一気に…踏み込む…!

 

 ――ドンッッ!!

 

 フェイントの左を一瞬見せてからの、右ストレート。相手のガードをこじ開けるには到らなかったけど、ガードの上からでも十分に威力は伝わったようだ。よろめくように相手が後退する。

 その隙に前へ出る。左、右、左、右、左、右と体重を乗せた重いパンチを打ち込みながら。

 気が付けば、もう相手をコーナー際まで追い込んでいた。スパーリングなら攻撃を緩めてあげる頃合いだ。

 でも、これはスパーリングじゃないから。俺はお客さんに、豪快なKO勝利を見せる使命があるから。

 

 ――ドンッ!ドンッ!ドンッッ!!

 

 心を鬼にして、パンチの雨を浴びせる。クリンチに逃れようとする相手を容赦なくコーナーポストに突き飛ばし、手加減無しの連打を見舞う。

 一発ごとに、手ごたえ十分の確かな感触が両拳に伝わる。相手は両腕で顔面を必死にガードするけど、その上からであっても十分に効いているのが分かった。

 その証拠に、少しずつガードが下りてくる。必然的に、パンチが顔面を捉え出す。

 そして、ついに。

 

 ――グシャッッ!!!

 

 左ストレートが顔面を捉え、相手の後頭部がコーナーポストにぶち当たった。力を失った顔が、勢い良く跳ね返ってくる。

 そこに右ストレートを合わせる。これがフィニッシュブローになるという確信を持って――

 

 ――ストップっ!ストップっっ!!

 

 その時、レフェリーが間に割って入り、崩れ落ちようとする相手選手を抱きかかえるようにして試合を止めた。スタンディングダウンのルールは無い。つまりは俺のTKO勝ちだ。

 相手選手はレフェリーに体を預けたままぴくりとも動かない。どうやらさっきの左ストレートで失神してしまっていたようだった。ぶらぶらと力無く揺れる両手は赤黒く変色している。

 その痛々しい姿を見て、ちょっとやり過ぎたかなと思ってしまった。観客の目を意識するあまり、強引になり過ぎたかな…と。はるばるタイから来てくれたのに、悪い事しちゃったな…日本を嫌いにならないで欲しいな…とも。

 試合時間は、37秒だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。