公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
レイヴェルの兄ライザー・フェニックスは妹のことをこんな風に語っていた。
「レイヴェルは親しくなると礼儀正しく丁寧に接するが、本当のところは相当なワガママだ。特にすぐに『ずるい』と言って他人のものを欲しがる癖がある」と。
親しい間柄になれば、さほど身分を気にせず付き合うことが出来る。逆に言えば、関係の浅い格下の者に対しては、貴族らしく上から目線で高慢に接するのがレイヴェル・フェニックスという少女だ。
他者の持つものを羨み、憧れ、欲する。それは一概に負の感情とは言えない。悪魔であっても人間であっても、それは一種の向上心と捉えることも出来る。
幼い頃には、憧れたものを手に入れる方法を思いつかず、ただはしたなく地団駄を踏んでワガママを言っていたかもしれない。成長しても親しい者に対して、ある種の甘えの表現としてそれをすることがあるかもしれない。
ただある程度の知恵と、内心はともかく外面を取り繕う分別がついてくれば、より上手い方法を考え実行するようになるだろう。憧れを己のものとするために。レディならばエレガントに、レイヴェルの母は少女にいつもそう言っているらしいのだから。
なんにしても、俺はもうレイヴェルを手放すつもりはない。それにどちらかというと、少しくらい性格に問題のある娘の方が好みのような気がしてきている。
それにまぁ、そう問題があるとも思えないし。俺も他人のものをとるのは好きだ、とられるのは大嫌いだが。階級的に格下のメイド相手に横暴な権力者プレイするのも大好きだ。
同格のレイヴェルとイチャイチャするのも大好きだ。少しぐらいのワガママはたぶん可愛いだろう、絶対。
ふむ、やはりまったく問題ないな。いや、これもグレモリーの血の呪いのせいか?
〇●〇
「お父様!! どうしてダメなんですの!?」
ここはグレモリーのそれに負けない広い広いフェニックス家の屋敷の一室。ほとんど城と言ってよいその屋敷に、レイヴェルの声が響いた。
彼女は地団駄を踏んで、プンスカと父親に詰め寄っている。
「しかしなぁ、まだなぁ、早いだろう? なぁ?」
父と兄が三人。一人娘で末の妹として男の家族から可愛がられて育ったレイヴェルは、家族だけの状況では結構ワガママ放題言いたい放題である。
そんなこともあって、娘に甘いフェニックス侯爵は自身の妻、つまりレイヴェルの母へと助けを求めた。
「レイヴェル」
「お母さま、でも!」
男性親族には基本強気のレイヴェルも母には頭が上がらない。
そのはずの娘が反抗的な態度でムムッと口を結び、父親を睨みつける姿に侯爵夫人は「困った子ね」と頭を撫でてから、きっちりと侯爵の方へと身体を向けさせた。
「私は構わないと思いますわよ」
「お母さま!」
よし、母親は味方だ! 喜色を浮かべる娘の後ろから、その両肩に手を置いて夫人は侯爵と向き合った。
一対二の状況。侯爵の顔に焦りの色が浮かぶ。
レイヴェルをグレモリー家次期当主リヴラクス・グレモリーの眷属とすること。侯爵とてそれを厭うているわけではない。将来的には良いと思っている。だが、そう、まだ早いのだ。
悪魔の寿命は長いが、子供でいる時間は人間のそれと大差ない。精神はともかく、姿かたちが自然に子供である期間というものは、ものすごく希少で貴重なのだ。
「いや、父上……俺を見られても。その、困る」
「ライザー! お前は、レイヴェルのこの一番可愛い時期をこの私のもとから遠ざけるのに賛成だというのか!」
リヴラクスと親しいということで、他の兄二人と違って家族会議から逃げられなかったライザー。迷惑そうに「はぁ……」と息を吐いた。
たしかにライザーとて妹は可愛いが、別に今生の別れというわけではない。魔力を用いて転移すれば、グレモリー邸などすぐに会いに行ける距離でしかない。
それにリヴラクスはよくライザーを訪ねてくる、そのときにレイヴェルも一緒に来るだろう、とも思っていた。
さらに言えば、学校などが同じになる世代の少なかったライザーは、年齢の近い男性の話し相手が少ない。だから、年下ではあっても既にその魔力が魔王級を超え、成熟した際にはおそらく超越者と認定されるだろう怪物から「先輩、先輩スゲーっす。尊敬してます」といった態度で慕われて悪い気はしていなかった。いや、正直非常に気を良くしていた。特にその理由が女の扱いについてというのが、ことさらに機嫌を良くしていた。
もっとも、ハーレム道について教えた相手の最初のハーレム眷属メンバーが自身の妹というのはやや複雑なのだが。
「ライザーお兄さまは、リヴラクスさまと親しくされていますわ!」
だから、私の味方ですよね? と見てくる妹にライザーは頷いておいた。やや複雑ではあるが、見知らぬ交流もない相手のところに行くわけではないのだから。
「裏切ったな、ライザー!!」
「父上、さすがにそろそろ見苦しいかと」
「ここには家族しかおらん! だいたい、その、なんだ……レイヴェル。別にそこまで急ぐ必要はないだろう?」
長い時を生きる悪魔にとって、数年など瞬きのこと。既に長い年月を生きてきた侯爵にとっては、そんな認識になる。
「お父さま、私はあの方の一番になりたいのです! 先手必勝ですわ」
「一番最初に眷属になることに拘らなくともいいだろう」
「いいえ、いいえ。ライザーお兄さま、リヴラクスさまはどのような眷属を作りたいかと言った話はされていませんでしたか?」
そりゃ、ハーレムだろう。ライザーはそう思ったが、それをそのままを言うのもためらわれた。そこでリヴラクスがハーレム以外について話していたことを思い出して答えた。
「アニウエを参考にしつつ、いずれ来るだろう白龍皇との対決に備えたいと言っていたな」
妹とリヴラクスが結婚すれば、ライザーは義理の兄なのでアニウエだ。実際、ここに来る前にこちらの状況について通信で聞かれたときにそう呼ばれていた。
サーゼクス・ルシファーもリヴラクスの実兄なのでアニウエだ。ライザーは、何の嘘もついていない。
「そうですわ! 赤龍帝と白龍皇の戦いは必ず起きること。それに備えるためにも、きっと眷属を素早く集められるはずです。もたついていては出遅れてしまいます」
白龍皇アルビオンは、赤龍帝ドライグのライバルだ。今はどちらも聖書の神によって神器に封じられてるが、かつて龍の身で争い合っていた頃の因果の名残なのか、いつの時代もその二つの神器の所有者たちは争い続けてきた。
リヴラクス・グレモリーは純血の上級悪魔にしては非常に珍しく、己の武力の追及に熱心なことで良く知られている。まるでとにかく早く強くならなければ生きていけないとでも考えているかのように、彼はその魔力の増大に余念がなく、消滅魔力の使い方に最も精通している者の所へと足しげく通って研鑽を積んでいた。
悪魔の貴族の中ではそういった努力や鍛錬を優雅ではないと侮蔑する傾向が強いが、ことリヴラクスに関しては「まぁ白龍皇が襲ってくると分かっているなら仕方ないね」といった扱いだ。あれだけの魔力を得ていながら、何を弱気なことをドンと構えていればいいと臆病さを笑う者もいることはいるが。
「白龍皇との争いに備えて……赤龍帝故の
むむむと唸る侯爵に、レイヴェルが追撃を放つ。
「私は『女王』が欲しいのです! バラキエルの娘なんかの下に付きたくありませんわ!」
今ならまだ空いているのだ。『王』が従える十五の駒の内、たった一つだけの王の対となるべき最強にして最重要の駒が。
それをもしも、ここで忌々しき堕天使幹部バラキエルの血を引く女などに持っていかれたら、レイヴェルはきっと一生それを羨んでしまう。ずっとずっと、あれが欲しかったのに……と思いながら過ごすことになるだろう。そんなことになったら、悔しくて悔しくて頭がおかしくなりそうだ。と、ギャンギャン地団駄を踏む娘の姿に、侯爵はため息をついた。
「バラキエルと人間の間に生まれた娘か。グレモリーが身柄をおさえているとは知っていたが……眷属として従えられる状態なのか?」
「そうおっしゃっていましたわ。眷属に迎えるつもりだと」
堕天使幹部バラキエル。その名は悪魔の中にあっても大きい。かつての大戦でバラキエルの雷光に殺された悪魔は数知れず、その武力は堕天使総督アザゼルに勝るとも劣らぬほど。現在の堕天使組織における軍部のトップだろう。悪魔の組織にあてはめれば、それは魔王アスモデウスに相当する地位だ。
そんなバラキエルの娘となると、当然ネームバリューも大きい。悪魔に転生したならば、それだけで即座に二つ名の付きそうな存在だ。フェニックスの娘を『女王』に据えるよりも、断然インパクトは強いだろう。
「堕天使の光力は怖いな。それもあの『雷光』直系となると相当な威力だろう」
「それに、聞いたところでは母親は日本の退魔の名門出身だとか」
「光に退魔か……もしレーティングゲームで当たったらと考えるとゾッとするな」
現在、悪魔の戦闘遊戯レーティングゲームに取り組んでいるライザーが、バラキエルの娘のゲームにおける恐ろしさについて考え始めると、レイヴェルからさらに追加の情報が飛んできた。バラキエルの娘を飼っている本人からそう聞いてきたのならば、まず間違いあるまい。
レーティングゲームは悪魔の競技だ。参加者は全員悪魔である。そこに悪魔の弱点を突く、光力と退魔術のハイブリットなどを放り込まれたらたまったものではない。しかも両親のどちらもそれぞれの血統のトップクラスとなれば、なるほど『女王』に据えてもおかしくはない。
「お父様、嫌ですわよ、私。堕天使が『女王』になったら、それに頭を下げて暮らすんですの? それに堕天使の指揮に従って戦えと?」
『女王』の駒の眷属は、副官としての役目を持つ。『王』不在の状況では、『王』に代わって他の駒の眷属を従え指揮する立場だ。眷属内での序列が明らかに他の駒よりも高く、尊ばれる存在である。
「うぬぬ……ならば、眷属にならなくともいいだろう。結婚と眷属入りは別の話だ」
当たり前だが、別に結婚相手の眷属にならなければいけないなどという決まりはない。
ただ、現在の悪魔社会の女性には夫の『女王』というものに憧れを持つ者がかなり多いことも確か。魔王サーゼクス・ルシファーとその『最強の女王』グレイフィアの馴れ初めの物語は、悪魔の女性に広く親しまれている読み物だからだ。
「嫌です! 絶対に『女王』になりますわ!」
基本的に、どこかの『王』の眷属となった者は、その『王』の下に在ることになる。その時点でほぼ家を出たも同然だ。夫がグズグズとしている理由はただそれだけ。
娘が可愛いのは分かるけれど、とジタバタする娘を抑えながら侯爵夫人はこめかみをもみほぐした。
「レイヴェル、どうしてそう思うのか。きちんと話しなさい。こんなはしたないことまでしているのですから、それなりの理由があるのでしょう。まさか、グレイフィアさまに憧れたからなどとは言いませんよね?」
母にそう言われたレイヴェルは、少し顔を赤くしつつゆっくりと話し出した。
「別に、グレイフィアさまだけを特別意識しているわけではありません。ただ、私は昔、英雄譚が好きだったのですが」
ええ、と頷く母を見上げ、レイヴェルは続けた。
「神話や伝説の英雄たちの物語に心躍らせて、ああ、こんな英雄を支える女性になりたいと、ずっとそう思っておりましたの。それで、あの時、あのレーティングゲームのフィールドの全てを飲み込んで……それでも止まらなかったあの滅びのオーラを見て、あの方なら私の英雄になって下さるのではないかと憧れを抱いておりました。それが、今回現実になって、なりそうで、どうしても小さなころの夢を叶えたいと……」
神話や伝説の英雄とは血なまぐさいものだ。武器を手に取り、知恵を巡らせ、敵や怪物を殺して、財宝と姫君を手に入れる。
人の歴史に語られる英雄の大多数もそう。英雄とは戦場で生まれるのだ。殺した敵の数、流した血の量、征服した土地の広さこそが英雄の偉大さを証明する。
無論、そうではない英雄もいるだろう。
だが、破壊の力に魅せられたレイヴェルの求める英雄は、きっと武力と知略で敵を滅ぼし制圧する英雄なのだろう。現代の悪魔社会において最も知られ讃えられている英雄達――古き魔王の勢力を武力によって追放した四大魔王のような英雄を。
(レイヴェルの本質は覇道のようね。それは武と知をもって世をその手中におさめる道。見込んだ男を支え、英雄に、覇王にしたいという夢……それもいいでしょう。リヴラクスは神や魔の力の源である人間の魂を持ち、赤龍帝の神器を宿した古き魔王を超える魔力の悪魔……あるいは五番目の魔王『
その後、夫人の説得によりフェニックス侯爵は折れた。
原作から
ライザー「基本ワガママ、人のものを欲しがる」
母「本質は覇道。武力と知力で怨嗟を積み上げながら世を治める道を行く子」
本人「英雄譚の英雄のような方を全力で支えたい」
オリ主:メイドスキーで快楽堕ちエンド好き。権力で従えたり、無理矢理なのに最終的には身体だけでなく心も支配したいとか思ってるタイプ。武力=権力論者。取るのはすきだが、とられるのは嫌い。血に流れるグレモリー男子気質。
相棒:おっぱいショックで丸くなっていないドライグ。基本暴れん坊。神魔ごときが喧嘩の邪魔するなぶっ殺すぞとか言って実行しようとしちゃうヤツ。財宝も溜め込んでいたらしいので略奪上等のドラゴン。
婚約者:男を覇王にする女。手綱握っておかないと覇道に突き進むらしい。
ヤバイですね☆