公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
ラティアの総合戦闘スペックは、原作リアス部長と同じくらいのつもりで書いています
冥界。アスタロト領の時刻は夜。
偽りの月の明かりに照らされた闘技場の中央で、リヴラクス・グレモリーとラティア・アスタロトが魔力を昂らせながら向かい合っている。
その様子をライザー・フェニックスは離れた場所から見守っていた。
ライザーにはまだ正妻がいない。婚約者もいない。年齢的にはもういてもいいのだが、まだだった。
それには、同世代にその候補となる純血の上級悪魔が少なかったことも関係している。
一種の見合いの場でもある上級悪魔のための名門学校。そこで、ライザーは出会いに恵まれなかったのだ。さらに言えば、気軽に話せる友人もほとんどいない。
生まれた時期が悪かったのだろう。繋がりの強くなりやすい同世代が少なかったことは、ライザーにとって素直に痛かった。
「ラティア」
情感の籠ったリヴラクスの声が響き、紅と紫のオーラを迸らせる『騎士』の駒が向かい合う二人の中央に浮かんだ。
ライザーは眷属ハーレムの『王』である。見た目から性格までバリエーション豊富な眷属たちをライザーは愛おしく思っているし、眷属たちもそれに応えてくれている。女に困っていない。
だから別にモテないわけではないのだ。それはそれとして、縁があったかもしれない美少女が他の男の下僕になるシーンを見せつけられているのは、なんとも微妙な気持になってしまう。性格がキツそうな上に、ライザーがラティアと結ばれていた場合、婿入りになっていたので将来的にもキツかっただろうが。
「リアス」
平坦な、いっそ冷たいとさえ言える声音でラティアが応えた。彼女の目付きは厳しく、微塵も甘い気配を漂わせてはいない。傍から見ている分には、アスタロト家当主である祖母の命令で嫌々政略結婚させられようとしている場面にさえ見えてしまう。
もしもそうだったなら、ライザーは強大な力を持つグレモリー家の次期当主に女を奪われた男の役どころか。
実際は、まったく関係ないのだが! 知らないうちに婚約者候補になっていて! 知らないうちにそれを断られ! ほぼ初対面で手酷くフラれた男!
それがフェニックス家三男、ライザー・フェニックス!
あのラティア・アスタロトという女、顔つきにも雰囲気にもそんな気配を全く感じさせないのに、リヴラクスの近くに居る間中ベタベタベタベタと触れ合いまくっていた。
あれは、そう、表情、声色、オーラで好意を示せない分を、自分の身体で表現しているように見えた。ライザーはこの考えがおそらく間違っていないだろうと思っている。
別に悔しくはない。年下の、義理の弟になる男が二人目、眠りの病に倒れているミスラ・ウァプラを含めると三人目の純血上級悪魔の嫁さんをもらおうとしていたとしても、ライザーは悔しくはなかった。
結婚していない上級悪魔の男性は結構いる。
その代表選手はかの『
レーティングゲーム不敗の王者、ランキング1位、ベリアル本家次期当主ディハウザー・ベリアルだ。彼こそは世の未婚男性貴族の星!
悪魔界で一番モテる男と言っても過言ではない『皇帝』がまだ結婚していない。
だから、ライザーは悔しくないのだ!
「『
『騎士』の駒から放たれる光が脈動し始める。魔力の波が激しさを増していく。
闘技場内に吹き荒れる、超越的な魔力の乱流。フィールドの結界外から見守る観客たちすら、その影響を受けて慄いていた。
『王』が新しく眷属を迎える際には、魔力を昂らせ『悪魔の駒』に注ぎ込むことはままある。それにしてもこれはやり過ぎだった。
ショーとしての側面があるとしても、リヴラクスはどれだけ気合を入れているのだ。
レイヴェルのときもこうだったのだろうか?
妹がどのようにして『女王』の駒を挿入されたのか。それをライザーは知らない。
知っていたら、それを聞かされていたら、どんな顔をしたら良いものか実に反応に困ったことだろう。
「我がラティアの名にかけて、この魂ある限り貴方を『王』と仰ぎ、その傍らに侍ることを誓いましょう」
『騎士』の駒から放たれる魔力の脈動が最高潮に達すると、駒が動き出し、ラティアの胸に触れ、そのまま心臓へと沈みこんで行く。
無事に駒がなかへと入り魔力が混ざり合ったことを確認すると、リヴラクスとラティアは「ふぅ」と同時に息を吐いて昂らせていた魔力を鎮めた。
「ラティア」
リヴラクスがラティアの頬に触れ、感極まった様子で彼女を抱きしめる。
「胸の奥から貴方を感じるわ。約束、必ず守ってもらうから」
ラティア・アスタロトはリヴラクスの背に腕を回し、自ら彼に唇を重ねることで応えた。
熱烈な抱擁と口づけを交わす二人の姿を、ライザーは何とも言えない気持ちで眺めていた。妹の旦那と別の女とのラブシーンを見つめる彼の胸中は実に複雑だ。
とりあえず、これを見て望まぬ眷属化などではないとアスタロト家関係者各位は納得したことだろう。これはそのためのパフォーマンスなのだろうと思われる。
「んっ、んん! ここでは、そのぐらいにしておけ。見ているこっちが恥ずかしくなってくるぞ」
あまりに口づけと抱擁が長くなって来たため、その様子を見届けていたアスタロト卿が二人を引き離した。続きは寝室でどうぞといった風情だ。
ライザーとしても是非そうしてもらいところ。兄として、レイヴェルのこともきちんとしろよと言いたいライザーだが、今はそれを口にする場ではなさそうだ。
「さて、長々と待たせたなライザー・フェニックス。余興の始まりと行こうじゃないか!」
ようやくライザーの出番が回って来たらしい。
―○●○―
ライザーは生まれに恵まれた。フェニックス本家の三男。元七十二柱の名門貴族本家の生まれというのは、それだけで箔が付く。
それに加えて、ライザーはフェニックスだ。その御家の伝来の魔力の特性により、超高級高性能治療薬『フェニックスの涙』を自前で生産できる。これを製造して売っているだけで、眷属含めて経済的には将来安泰の好物件。分家を作って細々と領地経営をする必要すらない。
顔も悪くない。ワル系のイケメンだ。
さらにさらに、誰が呼んだか「フェニックス家の才児」。ライザーは悪魔としての才能=魔力にも恵まれていた。
少なくとも現時点ではライザー・フェニックスの方がラティア・アスタロトよりも格上だ。
宴の余興として行われる戦闘。その開始前のライザーとラティアの間にある距離はミドルレンジ。武器や格闘での近接戦闘距離であるクロスレンジ。悪魔同士であれば魔力弾・魔力砲撃の撃ち合いとなる遠距離戦のロングレンジ。その二つの中間の距離になる。
「ラティア。私がお前にその大戦時の武装を与えた意味、理解しているか?」
審判役も務めるらしいアスタロト卿の言葉に、ラティアは頷き剣を構える。
その構えを見たライザーは、ラティアの剣の腕が大したものではないと見抜いた。
ライザーの眷属の『騎士』にカーラマインという剣士がいる。そのカーラマインよりも、剣士としてのラティアは遥か格下だろう。
最近のライザーは、レーティングゲームへの本格参戦に向けて眷属を鍛え上げているので、それぐらいは分かる。
「赤龍帝の……いや、『
「分かっています、お祖母さま。それでも、わたくしはリアスの『騎士』になると決めました」
ただ、それはカーラマインがラティアよりも強いということではない。ラティア・アスタロトは純血の上級悪魔。転生悪魔のカーラマインとは、種族としてのスペック、保有する魔力の量が違い過ぎる。
純血の上級悪魔とは、本来は眷属を統べる『王』となるべき存在なのだ。構えて見せた以上は多少は使って見せるのだろうが、ラティアの本領はいわゆるウィザードタイプだろう。剣など飾りだ。
「ならばいい。相手は不死鳥フェニックス、遠慮はいらん。そのときになって
「元よりそのつもりです」
『悪魔の駒』の特性を引き出すには、慣らしが必要だ。
眷属ハーレムの『王』として、多くの女性を下僕にしてきたライザーはそれを知っている。
駒を受けてすぐに戦闘では、上手く扱えるわけがない。初陣前に修練が必要なのは常識である。
「ラティア姫、本当に最初から全力で良いのですか? 『騎士』になったばかりでは、上手く使いこなせないどころか逆に足を引っ張られてしまうかもしれません。少々慣らしてからの方が良いのでは?」
駒の与える力の特性。スピードを上げる『騎士』の駒ならば、上昇した自身の速度を把握することは必須のはずだ。
慣れていないと、無様に転んで醜態をさらすことになりかねない。
そんなライザーの気遣いはバサリと切って捨てられた。
「必要ないわ。
ライザーとしては大変面白くない返答だ。
闘技場内の離れた場所でリヴラクスが何か言いたそうにしていたが、言葉にされなければ理解は出来ない。
「ラティア姫は、余程自信がおありのようだ。しかし、先達からの忠告は素直に聞いておいたほうがいい」
「事実を言ったまでよ。『悪魔の駒』に慣らしなんて必要ないわ」
「慣れない剣を振り回して、恥をかかないといいな! ラティア・アスタロト!」
「ゆっくりと慎重に、斬り刻んであげましょう。ライザー・フェニックス」
アスタロト卿が片手を頭上に掲げた。前口上はこれで終わりだ。
「始め!」
戦闘開始の合図。アスタロト卿が腕を振り下ろした次の瞬間、ライザーの首が宙に舞った。
「なっ……」
ラティア・アスタロト、いくらなんでも速過ぎる。ライザーが反応すら出来なかった。この短時間で訓練したライザーの『騎士』よりも駒の特性を引き出して見せたとでも言うのか。
回転するライザーの視界の中に、振り終えた剣の具合を確認するラティアの姿が映る。
「『悪魔の駒』を開発したのは、わたくしの伯父よ」
切り離された首と胴が炎を噴き上げ、一つになって蘇る。首が飛んだ程度ではフェニックスにダメージはない。
ライザーは首を左右に振って肩を鳴らした。
「そういうことか。なるほどな、これは確かにアスタロトの一族でなければ難しい」
そもそもの『悪魔の駒』に対する考え方が違うのだ。アプローチの方法がライザーの眷属たちとは、決定的に異なるのだろう。
通常の転生悪魔は『悪魔の駒』の特性を使い込み、慣らし、徐々に特性を引き出していくものだ。
だが、彼女は『悪魔の駒』の開発者であるアジュカ・ベルゼブブと同じアスタロトの一族。駒のシステムの根幹部分にはアスタロトの一族の特性が関与している可能性は高い。ラティアはそのシステムに干渉したのだろう。
「ベルゼブブさまのように他人の駒の操作までは無理でも、自分の中にあるものの力を引き出すくらい簡単なことよ」
ラティアが剣をだらりと下げた。
そう思った時にはライザーの両脚は斬り落とされていて、支えを失った身体が地面へと倒れこんで行く。背から炎の翼を噴出させ、両脚はそのままにライザーは空中へと身を移した。
地に残された脚が燃え上がって焼失し、代わりに空を舞うライザーの下半身が炎に包まれ脚が生えてくる。
攻撃の出が全く見えない。初動すら観測できず、いつの間にか斬られてしまっている状況。
「こちらも攻めさせてもらおう!」
このままやられっぱなしでは、フェニックス家の名が廃る。ライザーは地上のラティア目掛けて炎の魔力弾を放った。
火炎弾をラティアが避ける。彼女の横に着弾した燃える弾丸は地面に接触すると爆炎に変じ、風が爆ぜ炎が周囲を焼き焦がす。炎と土埃が晴れると、抉れた地面だけが姿を現した。
視線を巡らせ爆心地から離れた場所にラティアの姿を見つけたライザーは、片手を彼女目掛けて突き出しそこから火炎弾を連射し始める。
逃げるラティアを追いかけ放たれる炎の弾。それが機関銃の掃射のように次々と地面に着弾し、闘技場内に炸裂音が連続で響き渡った。
爆ぜる火炎、灼ける大気、舞い上がる粉塵、鼓膜を揺さぶる轟音。それらを小規模な結界で緩和していた禁手状態のリヴラクスのもとへ、アスタロト卿が避難してきた。
「やれやれ、埃っぽくてかなわんな」
アスタロト卿が胸元に付いた土埃を払う仕草をすると、大胆に開いた服に包まれた豊満な乳房がプルンと揺れる。
その様子に、うんと頷いたリヴラクスは義理の兄になる男を庇う発言をした。このとき彼の視線はラティアとライザーの攻防に戻っている。
「ライザー義兄上は、場を盛り上げようとしているのでは?」
余興なら派手な方がいい。素人目には分からない駆け引きを好む者も中に入るが、観客の大半は華やかさを好む。
「ラティアは地味だからな」
「地味……? いや、あれはあれで、十分見応えがありますが……もしかして見えていませんか?」
魔力はイメージ。普段から使っていてイメージしやすい身体機能の強化は、比較的容易な部類の運用方法だ。
「見えているとも、戦闘中ならばともかく目を凝らす余裕があればどうにかなる」
「アガレスの『時間』の特性は広域の結界型だと思っていましたが、自分だけに限定してかけられるものなのですね」
ラティアの速さの理由は、『騎士』の駒の力を引き出していることだけではない。母から受け継いだアガレス大公家の血がもたらした『時間』の魔力特性だ。彼女の『王』となったことで、神器を通して時間に対する感覚を受け取ったリヴラクスは、それが理解できるようになっていた。
ラティアは『時間』特性を用いて自分だけを加速した世界に置いている。そして、その中で行動しているがために
そのため、ラティアはライザーの初動を見てから余裕で回避し、狙いすました反撃を行うことを可能としていた。
超早口になっているはずのラティアの言葉を観客たちが理解できているのは、あらゆる言語を理解する能力を持つ悪魔だからだ。
「ラティアはアスタロトだ。魔力を絞り込み、一点に集束させるのは我が一族の得意とするところだぞ」
アスタロト家次期当主ディオドラは、魔力を円錐状に整形して突き刺す攻撃方法を得意としている。
これは通常の魔力弾、魔力砲撃よりも、貫通力が圧倒的に高い。先端部に魔力を集束・圧縮することで面あるいは打撃に近い性質から、点あるいは刺突に近いものへと変化させているからだ。
通常の魔力攻撃が拳ならば、鋭く尖らせた魔力は槍の穂先。後者の方が防御障壁を突き破る力が高いのはイメージできるだろう。
ラティアは今、『時間』の特性を自身に限定して発揮させ、さらに剣の刃や魔力攻撃の切断・貫通力を高めて運用している。眼に見えて分かりやすいのはその速さだが、あれは相当高度な魔力運用によるものだ。
速さだけならば、リヴラクスは強大な魔力と神器による『倍加』で追いつける。だが、あれだけの技量はリヴラクスにはない。
よく言われるレーティングゲームでの選手の分類に照らすと、ラティア・アスタロトはテクニックタイプになるのだろう。
「ラティアが戦う姿を俺が見るのは、初めてだったかもしれませんね」
「あれはあまり争いを好まんからな。それでも、あれはお前の『騎士』になることを選んだ。その意味を理解してやってくれよ」
「ええ、分かっています」
『赤龍帝の籠手』は争乱を呼ぶ。その所有者の近くに居れば、争いに巻き込まれるのは必定。平穏は遠ざかる。戦場を嫌い後方での安穏とした暮らしを望むのであれば、離れているのが正解だ。
「ライザー・フェニックスは丁度良い相手だった。格上相手にゲームでは使えない実戦用の殺し技を気兼ねなく試させてやれる。まったく、不死身というのは恐ろしいものだな」
戦闘開始直後の首刎ね、あれで大抵の悪魔は死ぬ。つまり、戦力維持のための演習であり、興行でもあるレーティングゲームでは出来ない戦い方だ。
リヴラクスの兄である魔王サーゼクス・ルシファーのような肉体を持たない者や、フェニックス一族のような不死身の特性持ち相手でもなければ、必殺の技というのはなかなか試せやしない。雑魚狩りで練習しても上達は難しく、といって純血の上級悪魔より格上の相手に理由もなく殺し合いを仕掛けるのはリスクが高すぎる。
「レイヴェルはまだ未成熟ですからね」
成熟したフェニックスであるライザーと違って、まだ未熟なレイヴェルは『不死身』による再生・復活のたびに体力を大きく消耗してしまう。殺傷力の高い攻撃の練習相手としては、まだ不向きだ。
リヴラクスからすれば、ラティアがレイヴェルを斬り刻む光景を他人に見られたらどう思われるかということも気になってしまうところ。当人同士が納得済みならば、有効性は期待できるのかもしれないが。
「ま、格上といっても、今だけの話だが」
ラティア・アスタロトは才能に恵まれた悪魔だ。
その魔力量は本家の次期当主ディオドラと同等。アスタロトの一族らしく魔力の術式・運用に長け、なおかつ母方の血筋であるアガレス家の『時間』特性までも扱える。
『時間』への干渉力こそ本家本元の同世代であるシーグヴァイラ・アガレスに及ばないが、アスタロトの血による技量の高さと組み合わせた運用方法の多彩さでは勝る。
リヴラクス・グレモリーがバアル大王家の『滅び』とグレモリーの魔力量の豊かさを兼ね備えたハイブリッドならば、ラティア・アスタロトはアガレス大公家とアスタロト家のハイブリッドと言っていい。
「成熟すれば最上級悪魔クラスを狙えそうですからね」
上空で火花が散った。火花の出所はライザーの頭部。無数の針状の魔力がライザーの顔面に突き刺さり皮膚をぼろ屑のように変えて骨を露出させる、さらに針の一部が眼球を貫いて頭蓋内部に侵入しそこで爆発したのだ。
それでもライザーは不死鳥、顔中の穴という穴から火の粉を散らして復活する。ただし、一時的に思考回路を破壊されてしまっていたためか、ラティアの姿を見失ってしまったようだ。
「ライザー義兄上は凄いな」
「お前がラティアを応援しないでどうする」
「いや、しかし、あれは痛いなんてものではないでしょう」
「フェニックスは痛みに鈍感だと聞いているがな」
ライザーの母はフェニックス家の出身ではない。フェニックス卿の妻として他家から嫁いできた身だ。
そのため、ライザーも妹のレイヴェルも血筋だけで考えれば初代のような純粋なフェニックスではないと言える。それでもこの二人は純粋なフェニックスだ。フェニックス家の特性だけを継承している。
悪魔たちはあまり意識していないが、ライザー・『フェニックス』、レイヴェル・『フェニックス』という生家の名前は悪魔にとってやはり重要なものなのだ。
初代の誕生から現在まで、世代を重ねる度に貴族家同士の血の交流は行われ続けて来た。
もはや、始祖の純粋な血統など残ってはいない。二代目から消えたと言ってもいい。現行世代のほぼすべての純血の上級悪魔たちは、様々な御家の血が混じり合ってしまっている。
それでも貴族各家の特性が現れるのは、生まれたときに家の名前を受け取るからなのだろう。悪魔は『
嫁いできた母から大王バアルの『滅び』を受け継いだサーゼクスやリヴラクス。やはり嫁入りしてきた母方のアガレス大公の『時間』を扱うラティアの方が例外的な存在なのだ。
『滅び』の力がグレモリー家の代名詞のようになることを警戒し強く嫌悪するバアル家現当主。グレモリーが『滅び』を継承していく中、自身の第一子が『滅び』を持たなかったことに彼は何を思ったのか。
ふと、リヴラクス・グレモリーはそんな考えを巡らせ、今考えることでもないかと自身の『騎士』と義理の兄の戦闘に意識を集中させた。
まだラティアに禁手の恩恵を与えてはいないが、いつ『不死身』特性の付与が必要になるとも知れないのだから。
『騎士』の速さで加速世界を歩み、全てを躱すラティア。不死身の耐久力により被弾をものともしないライザー。
両者の攻防は持久戦の様相を呈し始めていた。魔力の削り合いだ。
ラティアがライザーを倒すには、魔王クラスの強烈な一撃でノックダウンするか、精神を削り切るか。
ほとんどの悪魔の攻撃力は魔王に及ばない。その点については例外ではないラティアが取れる方法は、ライザーの魔力が切れるまで削り続ける後者の方法しかない。
魔力はイメージ、精神の力。再生を繰り返すたびに消耗はする。
しかしこのライザー・フェニックスという男。ラティアが思っていた以上にタフだった。
このままでは先に魔力が切れかねない、とラティアの心に焦りが浮かぶ。
対するライザー。実は昨年から密かに鍛え始めていた。それというのも妹が『女王』の駒を与えられたからだ。
『女王』の駒は攻撃力・防御力・スピード・魔力の全てを大幅に上昇させる。油断していると、まだ成熟を終えていない妹に追い越されかねない。兄として、未熟な妹に負けるわけにはいかん、年長者の沽券に関わると奮起していたのだ。
その結果として少々筋肉質になってきてしまったライザーだが、優男がモテたのも今は昔。最近では、『皇帝』ディハウザー・ベリアルのゲーム衣装姿のように分厚い胸板と、バッキバキの腹筋シックスパックを見せつけていくスタイルもアリになってきている。
ならばヨシ! とさらに鍛えこんだこと。それがここで活きていた。俺は鍛えたんだよ! という自己への自信が彼の精神力を強くしていたのだ。
ラティアは視認も難しいほど速いが、せめて一撃だけでもクリーンヒットを与えたいとライザーは考えていた。なにせ相手は妹より二つ年上なだけの学習期間中の小娘。これはこれで、ノーダメージでやり過ごされては面子が立たないというものだ。
フェニックスの業火は火龍の鱗すら焼き焦がし、耐性のない者が受ければ骨も残さず灰と化す。
ラティアの速度から考えて、防御障壁の展開は間に合わせてくるだろうが、それでも当てるだけで回避よりは魔力を消耗させられるという算段もあった。
たとえアスタロト家の余興であろうとも、フェニックスの看板を背負う身として勝利は奪い取られるものではなく、譲ってやるものであるべきなのだ。
ここに至って、ライザーは頭部以外への防御を捨てた。他の部位への防御に魔力を回すよりも、不死身特性の発動の方が消費が安いからだ。
頭だけは守るのは、脳を破壊されると再生完了まで物を考えられなくなってしまうし、眼や耳を潰されては知覚が働かなくなってしまうから。
ライザーはサーゼクス・ルシファーのような脳がなくても思考でき、目も耳も口もなしに見えて聞こえて話せる肉体を超越した怪物ではないので、これは仕方がないところ。いくら悪魔が超常の存在だとはいっても、オーラの凝縮体だけが活動しているような存在はそうそういるものではない。
「風よ!」
フェニックスの特性は、不死身の命と、地獄の業火だけではない。風もまたフェニックスの一族の司るもの。
ライザーは意識を闘技場内の大気に通わせた。風の術は多くの状況で効率が良い。次元の狭間や水中でもなければ、大抵の場合において空気はそこに存在するものだ。
そこに在るものを操ることと、そこには無いものを生み出し操作すること。どちらの術が高効率なのかは、考えるまでもないことだ。
闘技場のフィールド内の全ての空気がゆっくりと渦を巻き始めた。その全てにライザーの魔力が通っている。この風の中に存在する者は、ライザーの魔力感覚による位置把握から逃れられない。
「ここだッ!」
消耗を抑えるため、遠距離戦ではなく剣戟を選択したラティア。彼女の振るった剣がライザーの肩からわき腹へと抜けていく瞬間、ライザーの身体が爆散した。
ライザーが斬撃の一瞬を捉え、体内に仕込んでいた地獄の業火の種火に火を点け、自身の身体ごとラティアを爆炎に巻き込んだのだ。
肉を切らせて骨ごと爆発。不死身の特性に頼った自爆技だ。
「……やってくれるわね」
身体の再生を終えたライザーは、防御術式の魔力壁の向こうに佇むラティアの姿を見た。かなりの長期戦になっているが、ライザーが思っていたほどには疲れていないように見える。空中戦では疲労の色が現れがちな翼も、まだピンと張ったままだ。
「アスタロト家の姫君は、随分と鍛えていらっしゃったようだ」
レイヴェルとそう変わらないお嬢さま育ちだろうと考えていたライザーには、ラティアの体力は少々意外だった。
貴族的には、長い寿命の中で自然と強くなっていくことが優雅であるとされる。ラティアのような若い世代の者に鍛えていると告げるのは、少しばかりの皮肉も籠っていた。
いくら不死身の不死鳥でも、何度も何度も何度も斬られて、抉られて、体内を爆破され続けていれば、そんな言葉の一つくらいは口にしたくなるものだ。
「言ったはずよ。ゆっくりと慎重に戦うと」
少しばかり焦ってしまい、よく確認せずに斬り込んだのはラティアの失敗だった。今の攻防で、かなりの魔力を無駄にしてしまった。
魔力弾を放つよりも、剣の刃に魔力を纏わせた方が効率的だったはずが、結果が逆になってしまったのだ。
他家の特性など取り入れずとも、フェニックスの一族は強い。不死身の耐久力。業火の攻撃力。高効率の風。これらを単独で備えている。
その程度のことは、友人のソーナ・シトリーほどにはレーティングゲームに入れ込んでいないラティアでも知っている。
フェニックスの一族は、レーティングゲームにおける大きな壁だ。一族の多くの者がプレイヤーとして参加しており、そのほとんどがランキング上位につけている。
それよりも上にいるのは一握りの怪物たち、手段はどうあれ次元の異なるとも言われる領域に至ったトップランカーたちだけだ。
内戦を経て、レーティングゲームが広まって以降フェニックスを侮る者はまずいない。なぜなら、ほとんどのレーティングゲーム参加者は不死鳥の壁を越えられず、それよりも下位に甘んじているのだから。
レーティングゲームの多くの競技において『王』の撃破が勝利条件となっている。その『王』に
相手のキングを取ることのできないチェスに勝つのは難しい。
魔王クラスの攻撃力を持たないラティアは、最初から長期戦を覚悟していた。そのために体力を温存しようと、ゆっくりと戦い続けてきた。
地面の上にあっては、歩いて避けていた。翼を広げてからも、ライザーの攻撃の軌道を確認しながらスタミナを温存する飛行を心がけてきた。そうやって、削り合いに競り勝とうとしていたのだ。
自身の体力の無さは、ラティアも自覚しているところ。魔力切れ以前に疲労で倒れてしまっては、勝ちの目はないとの判断だった。
ライザーはフェニックスの一族にあって「才児」と称される男。ラティアが最初の一手から一切のミスなくこなしたとして、それでギリギリ勝てるかどうかといった相手。
たった一度のミス。それだけで勝敗の天秤はライザーの側に大きく傾いてしまった。ここからの逆転は、大きな一撃を持たないラティアには厳しい。
「もう勝敗はついたも同然、それでもまだ続けると?」
それがライザーにも分かったのか、あちらは余裕の笑みさえ浮かべて見せる。
「わたくしはリアスの『騎士』。眷属ならば、主から
餞別だと渡されたからといって、慣れない剣など振り回したのが失敗だったのかもしれない。ラティアはそう思うも、もう一度剣を構えた。
伯父のアジュカ・ベルゼブブが手を加えたというこの剣は、魔力を切断力に変換する効率が高い。得意とする遠距離戦では勝ち目が薄い以上、ここからはこれに頼るしかなかった。
「よーし、そこまで!」
ラティアが斬り込もうとしたそのとき、アスタロト卿の声が闘技場に響き渡った。
「お祖母さま、わたくしはまだ戦えます」
「これ以上は観客も退屈だろう。どちらかが倒れるまで、延々と同じことの繰り返しになってしまいそうだ」
アスタロト卿はラティアの抗議に構わず、余興の終わりを宣言する。
「さーて、これまで見ているだけだった龍帝よ。私にその力を見せてくれないか? アドバンスト・クラウンなぞ大したものではないと、そしてラティアを眷属とするに足る男なのだと、皆の目にもハッキリと分かるようになぁ!」
聞きなれない単語に内心で首を傾げつつも、リヴラクスはラティアにその力を『譲渡』した。
ラティアの身体に力が満ちる。超越者の領域にまで増大する魔力。技量は有っても魔力の足りなかったラティアから、圧倒的なパワーに満ち満ちた波動が迸る。
その強化量は、元の百倍などというチンケな数値ではない。
「おい、その剣をどうするつもりだ……」
途轍もない魔力を漲らせた剣を振りかぶるラティアから、ライザーは距離を取ろうとした。
最終的にこうなるとは聞いていたが、やはりその直前になると恐ろしさが勝ってしまう。
「どうやら、余興はお終いのようね。さすがに申し訳ない気がしてくるけれど、負けてもらうわ」
馬鹿げた威力の剣が振るわれ、ライザーは撃破された。
「やはり勝敗があらかじめ決まったゲームはつまらんな。私には興行をプロデュースする才能はなさそうだ。ああ、戦争のころは毎日が楽しかったんだがなぁ」
わざとらしい口調でそう話したアスタロト卿は、リヴラクスに抱き上げられたラティアをどこか羨ましそうに見ながら手を叩いた。
それが合図だったのか、係の者によって治療室へと運び出されていくライザー。当たり前だが、手加減はされているので死んではいない。
「さて、ここからは大人の時間だが……どうする? 遊んでいくかい坊や?」
これからは酒が盛大に入るようだ。蠱惑的な仕草をする金髪美女に向かって、リヴラクスは首を横に振って見せた。
「いえ、それではこれで帰らせてもらいます」
さすがに、幼馴染の美少女を腕に抱えた状態でその祖母の誘惑に乗ることは出来なかったらしい。これが祖母孫娘丼のお誘いなら食べて行ったかもしれないが。
「ならば、派手に連れて行け。領民にもよくわかるような形がいい」
リヴラクスのことをどこまで調べているのか、アスタロト卿は後ろ手に手を振りながら闘技場を去って行った。
「領民向けに派手に分かりやすくか。ラティアはどう思う?」
男に横抱きにされた体勢でのぞきこまれたラティアは、彼の首に腕を回し、その耳元で囁くようにねだる。
「そうね。ずいぶん前から、龍にさらわれてみたいと思っていたわ。その龍は自分からは来てくれなかったけれど」
「そうか、それは……まぁ。あー、なら、出来る限り派手にいくか」
その日、アスタロト領の夜空に天を覆い尽くすほどの巨大な龍が舞った。
広げた翼は街よりも大きく、尾の一振りで山々を微塵に砕き、吐き出す炎の一息で湖を干上がらせる。そんな巨大な紅の龍がアスタロト家の姫君を攫って行った。
「リアス、約束は覚えているわよね?」
「ああ、寿命だろう」
「ええ、わたくしがそちらに行ったら、その日から貴方には強制的に休暇を取らせるから」
「今は毎日が休日みたいなものだけどな」
「予定をレイヴェルに任せきりにしてはダメよ。話してみて分かったけれど、あの子は忙しなさすぎる。だから、時間を引き延ばしてでも休ませるから」
「そうか……?」
「ええ、貴方は週休七日ぐらいでいいのよ」
週休七日。一日を七日に延ばして休む。それは怠惰の誘いであり、同時にリヴラクスの寿命を半分に削る恐ろしい契約でもあった。
さらに言えば、今後、リヴラクスと最も長い時間を過ごすことになるのが誰なのかを決めた契約でもあった。
悪魔の女の子は、貪欲なのだ。
レイヴェル:
原作では主人公のマネージャー。30年後のイッセーくんは数百年先まで分刻みのスケジュールでぎっしりだとか。忙し過ぎて子供との交流も出来ずに反発されていたり、木場くんや、ギャスパー、ヴァーリにまで面倒を見てもらっているらしい。
ラティア:
名前と生まれ以外はほぼオリキャラなので勝手に設定。
原作開始時点で、身長・体重・スリーサイズ等は原作リアス部長と同じ。
魔力はディオドラと同じくらいで、原作リアス部長にやや劣る程度。
速さは種族の違いと家の特性もあって木場くんと同じくらいだけど、剣技遥かに劣る。
『時間』使いだが、加速、減速までなので、『停止世界の邪眼』のギャーくんには劣る。
原作の6巻にあるステータス的なもので表現すると、テクニック・サポートの高いウィザードタイプ
ライザー:
鍛えなくても強いが、鍛えたらもっと強い男。
武神級の神々も参戦しているアザゼル杯に不死鳥チームのメンバーとして参戦、決勝トーナメントまで行ってるようなので。
ディハウザー・ベリアル:
ベリアル家当主の一人息子なので、次期当主。
チャンピオンなのでモテるはず。イラストでは上着の前をガバッと開いて筋肉を見せていくスタイル。
妻子はなし。嫁さんと子供いたら、身内の結束大事なベリアル家の設定的に原作での666復活に手を貸す行動は取れないだろうと。
クリフォトの当初の予定通りにことが進んでいたら、リゼヴィムに操作された666が首都で大暴れとかありそうでしたし。