※この作品はR-18です。

公爵家次期当主好色物語   作:ルペッタ好き

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長い前書き:原作から拾えた設定について


「ところでイッセーくん。ディハウザー・ベリアルって知ってるかい?」
「名前だけなら。王者だろ? レーティングゲームの」
「そう、正式なレーティングゲームのランク一位。現王者(チャンピオン)。ディハウザー・ベリアルだよ。ベリアル家現当主であり、ベリアル家始まって以来の怪物。も(・)う(・)長(・)い(・)こ(・)と(・)頂(・)点(・)に(・)君(・)臨(・)し(・)続(・)け(・)る(・)本物のゲーム覇者。──皇帝(エンペラー)ベリアルと称されている方さ」 

 10巻:文化祭準備中の木場とイッセーの会話


 事件を知りながらもそのことを表に出せなかったベリアル家(と言っても真(・)実(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)は(・)先(・)代(・)の(・)当(・)主(・)と(・)ご(・)く(・)一(・)部(・)の(・)者(・)の(・)み(・)で(・)あ(・)る(・)と(・)い(・)う(・)。(・)あ(・)と(・)の(・)者(・)は(・)「(・)分(・)家(・)の(・)ク(・)レ(・)ー(・)リ(・)ア(・)が(・)罪(・)を(・)犯(・)し(・)た(・)」(・)程(・)度(・)の(・)認(・)識(・)だ(・)そ(・)う(・)だ(・))。

 18巻:クレーリアと八重垣の件についてゼクラムが話した後(ベリアル家でもごく一部の者しかクレーリアと八重垣の関係は知らない)



『私(・)の(・)世(・)代(・)は(・)、(・)豊(・)作(・)と(・)さ(・)れ(・)る(・)ほ(・)ど(・)、(・)実(・)力(・)の(・)あ(・)る(・)若(・)手(・)の(・)悪(・)魔(・)が(・)現(・)れ(・)て(・)、(・)レ(・)ー(・)テ(・)ィ(・)ン(・)グ(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)の(・)前(・)線(・)に(・)立(・)っ(・)て(・)試(・)合(・)を(・)盛(・)り(・)上(・)げ(・)て(・)き(・)た(・)。現二位であるロイガン・ベルフェゴールとも、現三位であるビィディゼ・アバドンとも、互いに切磋琢磨して力を、ゲームの内容を、高めあってきた』

 20巻:民衆に向けて『王』の駒について語るディハウザー・ベリアル



 ディハウザーがレーティングゲームに参加し、結果を出すようになってから、ベリアル家は一気に財政が回復した。ディハウザーが自らPR活動したかいもあり、領の特産品も冥界全土で売れるようになった。

(中略)

 ディハウザーはベリアル家とベリアル領が愛しかった。
 デ(・)ィ(・)ハ(・)ウ(・)ザ(・)ー(・)も(・)幼(・)少(・)期(・)か(・)ら(・)、(・)い(・)と(・)こ(・)、(・)は(・)と(・)こ(・)と(・)会(・)う(・)こ(・)と(・)が(・)多(・)く(・)、(・)ク(・)レ(・)ー(・)リ(・)ア(・)と(・)は(・)本(・)当(・)の(・)兄(・)妹(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)過(・)ご(・)し(・)、(・)育(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)。

(中略)

 クレーリアを人間界に送れたことが、自分のことのようにうれしかった。
 それからすぐだった。クレーリアの訃報が届いたのは――。
 原因を探り、誰かに恨まれようとも、狙われようとも、大事な家族の命を奪った者がいるなら、そいつをあぶり出したかった。ク(・)レ(・)ー(・)リ(・)ア(・)が(・)粛(・)清(・)さ(・)れ(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)失(・)態(・)を(・)す(・)る(・)は(・)ず(・)が(・)な(・)い(・)と信じていたからだ。

(中略)

 面会室に入ると、そこで待っていたのは──初老の男だ。自分によく似た男性。
 ……ベリアル家現当主──父だった。
 面会室で久方ぶりに会う父の姿は──少しやつれて見えた。

(中略)

 現当主は続ける。
「それを見て、私は決めた。何があっても、何をしようとも、おまえを大会に送りたいとな。なに、領民とおまえが無事であるなら、またあの山奥の館から始めればいい。ハハハ、貧乏貴族の暮らしには慣れている。あ、こんなことを言うと、ご先祖さまに怒られるな」

 23巻:獄中のディハウザー・ベリアル


「私、ベルフェゴール家を追放されているも同然だから、お嫁にもらってくれるところは必須なのよね。けど、歳が離れすぎているでしょうし、やはり、元人間の男性からしたらおばあちゃん同然よね」

 DX6:喫茶店でレイヴェルと話すロイガン・ベルフェゴール


 〇クレーリア・ベリアルの年齢について

 人間の男性からしたらおばあちゃん同然のロイガンとディハウザーは同世代で、長いこと頂点に君臨し続けてきた。
 ディハウザーとクレーリアは幼少期から本当の兄妹のようにして育(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)ので、クレーリアとロイガンもほぼ同世代ということになる。(年齢差の大きいサーゼクスとリアスの兄妹を一緒に育ってきたとは言わないでしょうから、ともに育ったディハウザーとクレーリアは年齢が近いはず)
 このことから、だいたい『ロイガンの年齢=クレーリアの年齢』となり、ロイガンは十代後半の人間男性から見て「おばあちゃん」な齢なので……。

『クレーリア×若手教会戦士』=『おばあちゃん×ショタ』。

 クレーリアはリアスの前任者ってことで、リアスくらいの年齢だと勝手に思い込んでいましたが、原作を読み直してみると若い男にハマったおばあちゃん(見た目は若い)だったことが分かりました。



 〇ベリアル家の財政

 ディハウザーが活躍するまで財政難。活躍後に一気に財政回復。
 ディハウザーが投獄された後は、苦しい時期を過ごした山奥の館で慣れ親しんだ貧乏貴族暮しに戻るらしい。
 ということは、回復した財政で買うなり建てるなりしたはずの城を手放すってことなので……。ディハウザーがいないと一気に住居を売りに出すほどの財政難に陥る状況ということになりそうです。
 なお、ディハウザーが666復活に協力したことによって、ベリアル家が666被害の損害を賠償したとかは考慮していません。悪魔はともかく他勢力の被害が大きすぎて支払えそうにないので。

 〇ディハウザーは当主? 次期当主? 
 木場くんは10巻で現当主と言い、本人は23巻で父親を現当主と言う。
 23巻のディハウザーは逮捕後なので、解任されて先代だった父親が当主に戻ったってことなのかもですが、ちょっとどこにそれが書いてあるのか分かりませんでした。リゼヴィムは20巻の時点でディハウザーを「ベリアル卿」と呼んでいますけど……。ディオドラが旧魔王についたときは、次期当主の罪でアスタロト家当主が解任されラティアが次期当主になってます(たぶんラティアパパが空席の当主の座についた)。
 とりあえず、原作開始から4年ちょい前のココではま(・)だ(・)次期当主ということで。
 原作18巻でクレーリア粛清の理由(恋愛の方だけ)を知っていると書かれている先代当主は、ディハウザーの父親ということにします。
 クレーリア粛清時にディハウザーが当主だったなら(恋愛方面の)粛清理由は当主として聞いていたはずなので、「クレーリアが粛清されるような失態をするはずがない」って思考にはならなさそう。

 ベリアル卿とディハウザーで呼び分けないと書きづらいって理由もありますが。







『無価値(ベリアル)』の価値

 弱い犬ほどよく吠える。自然界には、生き残るために強そうな見た目、ヤバそうな色合いしている生き物も多い。

 俺の禁手は魔王の装束のような外観をしているが、これで俺の魔力が並程度だったならば大いにバカにされていたことだろう。

 虚栄、虚飾、虚勢。多くの人間はそれを侮蔑するが、逆のことをされてもやはり困惑する。

 ヒトには身分や立場、身に着けた力に相応しい見た目ってものがあるのだ。 

 

 

 日本人をやっていたことがあるなら、一度くらいは聞いたことのありそうな話に『一休禅師と金襴の袈裟』という話がある。

 あの有名な一休宗純、いわゆる一休さんの逸話だ。

 

 ある日、一休の寺に若い男がやってきて、「去年なくなった大旦那さまの一周忌の法要を有名な貴方にお願いしたい。なに、礼金はたんまりと弾みますぞ」といったようなことを頼んできた。

 金持ちが金の力で有名な僧侶を呼びつけ、箔を付けようとしていたのだ。取り次いだ者からその話を聞いた一休は、よろしいと日時を決めて伺うと返事をした。

 そうしておいて、決めた日時の前日にボロボロの薄汚れた衣服を着て、その家に足を運んだ。

 

「どうかお恵みをくだせぇ」

 

 物乞いを装った一休は、そんなことを言って金持ちの家の戸を叩く。

 するとその家の使用人たちは「ええい、なんだこの小汚いヤツは、かえれかえれ!」と寄って集って一休を追い払おうとする。

 それでも一休ねばる。「どうぞお慈悲を」と食い下がった。

 やがて騒ぎを聞きつけた家の主人が顔を出して「さっさと追い出せ、手荒にしても構わん、叩き出せ!」と命じたので、一休は叩かれ蹴られ、ボコッボコにされて道端に捨て置かれたと言う。

 

 開けて翌日、今度は一休、豪華な法衣と金襴の袈裟を身に纏って同じ家に足を運んだ。

 するとお金持ちの家では大層な歓迎ぶり、一休が事前に伝えた時間までに家の中は綺麗にされていて、皆が皆行儀よくし、多くの者が集まって出迎えたのだ。

 門の外まで身なりのきっちりした一休を出迎えに現れた家の主人は、「ささ、どうぞ仏間へ、よろしくお願いいたします」といたって丁寧に頭を下げてくる。

 

「いや、いや、わしはこの家に入ることはできん。このむしろの上で十分よ」

 

 主人に丁重に招かれたにも関わらず、一休は門前のむしろの上に腰を下ろしてしまい、屋敷の中へ入ろうとしない。

 有名な一休が来ると聞きつけ、多くの人が集まっている中でそのようなことをされては家の主人も困ってしまう。

 するとそんな主人に一休は「仏間に行くのはこの法衣と袈裟だけでよろしいでしょう。わしの身体はこの屋敷に入るに相応しくない」などと言いだすではないか。

 驚く主人に向かって一休は続けた「ご主人、昨日の夕暮れに訪れた物乞いはわしだったのよ。昨日は叩かれ蹴られ追い出されたが、今日はどういうわけかもてなしてくださる。昨日と今日、違いはこの衣装だけよ」

 

 将軍、大名にも名が知れ交流のある一休に対して、殴る蹴るの真似をしてしまった……。その事実に青ざめ震える主人。

 その主人に一休は笑いながら豪華な法衣と金襴の袈裟を手渡した。

 

「お前さんらがありがたがっているのは、わしではなくこちらのようだ。ならば、この法衣と袈裟に法要をたのみなされ」

 

 

 とまぁ、だいたいこんな感じの話で、見た目じゃなくて中身で判断しようねって教訓話という解釈が一般的だが、ぶっちゃけ世の中見た目が大事だとも受け取れる。

 一休禅師ですら、ボロを着ていればボコられるってことだからな。いわんや凡人をやってことだ。

 

 醜女がやってきて「お恵みを欲しいにょ」と丁寧に願ったところで「うぇぇ」となって追い返すが、美少女がやってきて「お恵みをくださいまし」としどけなく言うのなら喜んでギンギン棒をぶち込み可愛がる。

 

 見た目で対応を変える男。それがこの俺、リヴラクス・グレモリー。

 

 想像したら分かる、やはり世の中見た目なのだと。可愛いは正義とも言うし、イケメンだけに許されていることも多い、美少女ならば外道でも愛される。世の中そういうものだ。

 

 だいたいこの一休さんの話、やったのが主人に対して圧倒的に格上の有名人だったから通用しているだけで、立場が違えば「バカにしやがって!」となったに違いない。一休ならば、将軍さま相手に同じことをやっても許されたかもしれないが、それは一休のキャラクターあってのことであって、他の者には無理な話だ。

 ということで、俺はこの話を「一休さんsugee!」の一つとして受け取っている。

 

 やはりどこかにお呼ばれして出かける際には、身なりに気を遣った方が良いってことだな。こっちが迎える側でもそう。

 TPOとかそういうのは守れるなら守っておいた方が無難ってことですよ? 聞いてますか? 魔法少女コスで我が家に遊びに来る魔王お姉ちゃん。

 

『でも、リーくんそっちの方が嬉しそうだよね?』

 

 それはそう、パンツ見えるしね。会う相手の趣味嗜好に合わせるってのも大事なことだ。

 ……まぁ、セラフォルーさん仕事の時はちゃんとしてるけど。

 

『えっへん♪』

 

 セラフォルーさんとこんな話をしたのは、さて、いつのことだっただろうか。

 

 

 ラクダがぽこぽこゼクラム祖父さんの城へと向かって道を行く。後ろから俺の腰に腕を回してくるリュイの感触を楽しみつつ、俺はちょいと昔のことを思い出していた。

 ゼファードルのヤツに「ゲテモノ好き」とか言われたせいだろうか。

 

 いいんだよ、見た目が一般的な美醜の判断からすると厳しくても。俺がイイって思えばイイのだ。

 

 ま、グラシャラボラス家では収穫もあった。次女のイリューカに俺の印象をガツンとグレモリーの魔力と一緒に叩き込んでおいたからな。とりあえずこれで、彼女にとって俺という存在は忘れがたいものになったことだろう。

 フハハ、ドラゴンモテオーラとグレモリーのエロ魔力さえあれば、強引かつ唐突に唇を奪ったとしても好感度アップ間違いなしだからな。

 さて、何故俺が祖父さんの城に向かっているかと言えば、それはバアル家のパーティーに参加したときに叔父上からそう言われたからだ。 

 

「なぁ、リュイ。どうしてベリアル卿が出てくることになったと思う?」

「分かりませんが、ゼクラムさまも交えての会談となると一筋縄ではいかない何かがあるとしか」

 

 グラシャラボラス家への訪問を終えた俺は、いよいよ本丸のバアル家へと向かうことになった。

 今回はレイヴェルとラティアもお留守番。お供はリュイことロイガン・ベルフェゴールだけだ。

 本来ならば『女王』か『騎士』を連れて行くのが礼にかなったやり方だが、場合によっては荒事になる可能性もあるからな。

 俺のことを知っているバアル家はどうこうしようなどとは思わないだろうが、大王派は最大派閥で数が多いので俺のことをよく知らない者もまた多い。その上、今回の件での利害関係者も多いので警戒して出向いたわけだ。俺とリュイだけならば、大概のことはどうとでもなるからな。

 と、意気込んで向かったバアル家の大王派が集う会場では、こっちが拍子抜けするほどのトントン拍子で話が進んでいった。

 どうも、バアル家当主の叔父上が率先して動いてくれていたようだ。

 なんだったら、リュイに全力『倍加』からの『譲渡』を行って、「こっちがその気になればバアル領ごと全員『裂け目』で真っ二つだぞ!」くらいの脅しも辞さないつもりでいたのだが、特に何事も無かったぜ。

 

「アジュカさまの条件を受け入れるつもりだが、その前に話し合いが必要。これは分かる。叔父上もいろいろと調整が必要だろうからな。だが、叔父上と魔王さま方とが話し合う前に、ゼクラムさまの前でベリアル卿と話をつけておく必要があるとは……なんなんだろうな本当に」

 

 大王派の中でのベリアル卿の地位はそう高いものではなかったはずだ。正直、一人息子のディハウザー殿の武威と名声だけで立場を作っているようなところがある。

 これは、他の派閥の者にも知られている話だ。ベリアル卿自身が正直にいつもそう言っているらしいので。

 ベリアル卿は丁重に扱われるが、それは彼がすごいのではない。息子のディハウザー殿を見てそう扱われているのだ。

 

「ディハウザーに関係することでしょうか?」

 

 悪魔の貴族は謙遜を好まない。誇張が過ぎれば笑われるが、卑下するよりはマシだと考えるものだ。

 己の功績、名誉、強さは誇らしげに掲げることが良しとされている。自分を低く言うことは、自分自身だけではなく御家や同じ血を受け継ぐ一族をも下げることに繋がるからだ。

 ということもあって、あちこちで「息子のおかげ、息子のおかげ」と言っているベリアル卿本人はディハウザー殿おかげで大きな顔をしていられる者として見られている。

 

 まぁ、事実なんだが。

 

 母上から以前聞いた話では、ディハウザー殿がレーティングゲームで活躍していなかったらベリアル領はヤバかったらしい。信用がなくて財政破綻寸前だったとか。

 現状でも、『皇帝』の信用一本で保っているというのが実際のところらしい。もしもディハウザー殿に何かあったら、一気に傾く可能性が高いのだとか。

 とまぁ、そんな風に言われてしまっているベリアル卿自身には、そこまで武力的にも権力的にも大きなものはないのだろう。なので、リュイが言うようにディハウザー殿絡みの話なのだろうか。

 父親のベリアル卿と違って、『皇帝』の影響力は大きいからな。

 

「それにしても、俺が呼ばれた理由が分からない」

 

 叔父上は大王派の表向きのトップ。ゼクラム祖父さんは派閥の真の首魁。ベリアル卿は大王派最強の男ディハウザー・ベリアルの父親。

 この大王派内部の話し合いらしき席に、俺が呼ばれた理由がよく分からない。

 

「まぁ、ゼクラムさまには世話になっているから、行かない選択肢はないんだがな。……リュイはディハウザー殿と長年競り合ってきた間柄だ、何か思い当たることはないか?」

「そうですね。ディハウザーと言えば──」

 

 バアル家パーティー会場で拍子抜けした翌日、ゼクラムさまの城に向かうラクダの鞍上で、最高級の正装に身を包んだ俺はリュイの話を聞き始めた。

 

 

 

 

 

 ―○●○―

 

 

 

 

 

 時は数日遡る。

 

 新年のレーティングゲームイベントを終えたディハウザーは、ベリアル本家の城で遠征の支度を始めていた。堕天使領と悪魔領の境界付近で軍務につくことになったからだ。

 本格的な戦用の装備はゲームで用いるそれとは異なる。悪魔にとって最も敵対する機会が多いと想定されているのは、同じ冥界に拠点をおく堕天使たちだ。次いで天使とその加護を受けた教会の戦士たち。

 マネジメントを任せている者から「女性ファンに受けます!」と強く言われて着用し始めたゲーム用の衣装は上半身前面の露出が多いが、あれはあくまでファンサービス。

 対堕天使用の装備はある程度光力への防御能力を備え、露出の少ない鎧姿だった。

 

 鏡に灰色の髪と灰色の瞳の男の姿が映っている。鍛え上げた肉体を持つ、戦士の姿だ。出陣に際して民衆に見せる姿として十分なものだろう。

 

 現在、境界地域に陣取っている堕天使側の将バラキエルは、堕天使幹部の中でも特に武力に秀でた者。その抑えとして『皇帝』以上に相応しい者はいない。

 

 所属する派閥からそう望まれ、民衆から頼りとされ、政府から命を受けては断る選択肢などなかった。そして、ディハウザー自身にも断る理由はない。

 

「なぜ貴方が、そのような危険な場所へ行かなければならないのですか」

 

 だが、ディハウザーの母カルファは息子が危険な地に赴くのを嘆いていた。

 戦支度を整え、家族に確認してもらおうと姿を見せたディハウザーに、彼女は憤り悲しみ怯えの混じった複雑な顔を向けてくる。

 

「有事に際して活躍を求められる。最上級悪魔の位にある者の務めですよ。母上」

「最上級悪魔は貴方だけではないでしょう」

 

 母はディハウザーがレーティングゲームに参戦することすら嫌がっていたヒトだ。

 長年ランキング1位を独占し続け、不敗の王者とディハウザーが呼ばれるようになった今でも、試合会場に足を運ぶことはなく、試合の映像を見ることもないヒトだ。

 それはディハウザーを嫌ってのことではない。戦争を知る世代の母は、息子が戦う姿を見たくはないのだ。ディハウザーが傷を負うことを恐れているだけだ。

 息子が戦争で亡くなった親類や友人のようにならないように……と。

 

「大王バアル派の意向ですから」

 

 言外に他の最上級悪魔と代われないのかと告げてくる母に、ディハウザーは一言だけ返した。

 

 この機会に魔王を擁さぬ大王派の武威を示しておきたい。そのために『皇帝』ベリアルの出陣を──。

 

 バアル家現当主から、ベリアル家当主である父はそう言われたという。

 

「ですが……」

 

 ベリアル家は他の多くの貴族家とは異なり、一族全てが一つの派閥、大王派に所属している。そのこともあって、大王派の意向に反することは難しい。他派閥との繋がりに乏しいためだ。

 これは他家から嫁いできた母もよく知っていることだった。

 

 七十二柱の他の御家は、分家ごとに属する派閥が異なることも多い。それは場合によって立場を切り替えられるようにするためでもある。

 しかし、ベリアル家は違う。一族すべてが大王派でまとまっている。

 これにはベリアル家の歴史が関係していた。

 

 三大勢力の決戦、そしてそれに続く旧政府との内戦の折、当時のベリアル家当主は大きな失態を重ね続けた。この失態の連続によってベリアル家は兵力のほぼすべてを失い、御家の権威は地に落ちた。

 

 権威とそれを支える兵力、信用、多くのモノをなくしたベリアル家は財政難に直面し、断絶寸前にまで追い込まれてしまう。

 戦後に当主の後を受け継いだディハウザーの祖父は、その御家存亡の危機にあたって、

 

『一族と領民は大事にしよう。親族の繋がりを強め、領民の生活を守らねば、ベリアル家とベリアル領は立ちいかなくなる』 

 

 との理念を掲げて復興に努めた。

 その理念はディハウザーの父である現当主にも受け継がれ、ベリアルの一族は戦争から数百年が過ぎた今も領内の一か所に集まって暮らし、共に家を盛り立てていこうと尽力し続けている。

 

 しかし、その努力はなかなか実を結ばなかった。

 税を低く抑えていることもあり、領民が日々の暮らしに困るような事態は訪れてはいない。

 だが、その分税収の少ないベリアル家は貧乏だった。貴族家の目に見える権威の象徴である城を維持することさえ出来ないぐらいに困窮していた。

 今では『皇帝』と呼ばれ、英雄と呼ばれるディハウザーも、領の中心である都市部ではなく、山奥にある小さな館で育ったのだ。

 ベリアルは聖書及びその関連書籍にたびたびその名を記されてきた名門中の名門で、かつてはバアルの『大王』に次ぐ『王』の位階にあったほどの一族だった。しかし、ディハウザーが育った頃のベリアル家は、過去の繁栄の影すらない状況だったのだ。

 

 税収だけではディハウザーが貴族向けの名門学校に通う費用を賄えず、教育費のために父は社交用の服を極力減らし、母は大切な宝石類を売り払ったほどだ。

 悪魔は見栄を張りたがる種族だ。自身よりも下だと認識している相手から馬鹿にされることを極端に嫌う。

 その傾向は貴族階級では特に顕著で、貧乏に喘ぎ周囲の貴族家と比べて何段階もランクの落ちる生活をしていたベリアル家の者は侮蔑を受け続けた。

 

『自分たちの暮らしのレベルを落としてまで、領民を取るのか。このような者が、我々と同じ純血の上級悪魔だとは……。仰ぎ見られるべき立場にある貴族として、恥ずかしいとは思わないのか?』

 

 ベリアル家は名門である。貧乏ではあっても元七十二柱の名家だ。

 その名家の者、本家の跡継ぎであるディハウザーの惨めな姿は、他の上流階級の悪魔達にとって酷く目障りに映ったらしい。

 特に他の御家の分家筋の者たちにとっては、名門ベリアル本家のただ一人の子でありベリアル家次期当主であるディハウザーが、貧しさを滲ませた暮らしぶりをしていることが癇に障って仕方がなかったようだ。

 

『カルファさまがお可哀想ですわ。ベリアル家に嫁ぐ際に持ち込んだ宝飾までも手放さなければならないなんて……。あれらは、カルファさまが社交の場で恥をかかぬようにと、御家から、ご両親から贈られたものではありませんか。ベリアル家のなさりようはあまりに酷いですわ。嫁いだ女にこのような仕打ちをしているようでは、ディハウザー、あなたには婚約話の一つも来ませんよ。今からでも遅くはありません、ベリアル卿にそう伝えて税を上げてでも買い戻すべきです』

 

 ときには母のことを、母の実家のことを持ち出してまでベリアル家の方針を非難する者もいた。

 何度もディハウザーにそうした苦言を告げてきた同級生の彼女は、これみよがしに母が手放した宝飾品を身に着けていたことすらあった。

 

『上の者には、上の者に相応しい姿が求められる。今のままでは信用を得られず、いつまで経ってもベリアルは変わらんぞ』

 

 忠告めいた言葉の中に嘲りを潜ませる者もいた。

 それでも、ディハウザーはその暮らしを変えようとは思わなかった。それは、祖父を、父を尊敬していたからだ。どちらも特別魔力が高いわけでもなく、貴族としての器量も並程度。だが、領民から慕われ、一族を大事にする姿を誇らしく思っていたからだ。

 このディハウザーの考えは、彼一人だけのものではない。祖父も父も、叔父も、親戚一同、ベリアル家は一丸となって御家と領土、領民たちを守り通してきていたのだから。

 

 ディハウザーがレーティングゲームで活躍し始めてから、ベリアル家の状況は良くなり始めた。父母が身を切ってまで最高峰の教育を受けさせてくれたから、今のディハウザーがある。侮蔑の中で過ごした学生時代は無意味ではなかったのだ。 

 悪魔社会でのディハウザーの評価が上がるにつれ、その後押しを受けた現当主である父の派閥内での地位も上がっていった。

 レーティングゲームで活躍して得たディハウザーの評価とは、つまるところ「強さ」だ。戦いに強いディハウザーのいるベリアル家の当主。それが父の派閥内での立場を支えている。

 それなのに、母が嫌がるからなどと言う理由でディハウザーが出征を渋っては、高いものとなってきた父の派閥内での地位も揺らいでしまうことだろう。

 

「ですが……私は……」

 

 ディハウザーはそのことを口にはしなかったが、母には伝わったようだ。

 

「申し訳ありません、母上」

「ディハウザー……」

 

 母は辛そうに表情を歪めると、戦装束の息子の姿など見たくないと足早に立ち去ってしまった。

 

「カルファのことは気にするな。何度も言っているが……」

「分かっています、父上」

 

 母が去ると、それまで黙っていた父が口を開いた。

 どれだけ活躍しても試合を見に来てはくれない母だが、ディハウザーはその心の内を良く知っている。

 いつも母のことで父から謝られて来たが、そんな必要はないのだ。

 

「ディハウザー、このことが終わってからになるが──」

 

 父の顔つきが変わった。

 

「おまえに当主の座を渡そうと思う」

「──っ」

 

 咄嗟に言葉の出てこなかったディハウザーに言い聞かせるように、父は話を続けた。

 

「貴族家の当主の最も重要な役割は、領地を守ることだ。当主となれば、それを理由に出来る」

「……父上」

 

 ディハウザーは戦闘を楽しむことの出来る男だ。そうでなければ、レーティングゲームの王者で居続けることなど無理だ。

 だから、この父の言葉は、戦地に息子を送ることを厭う母のことを考えてのものだろう。

 そんなディハウザーの考えを見て取ったのか、父はゆっくりと首を横に振った。

 

「これはなにもカルファのことだけではない。おまえが当主となったなら、伝えたいことがあるのだ。ベリアル家では、当主である私の他にはごく一部の者にしか知らないことだ」

「伝えたいこと……ですか?」

「ああ……そのときになったら話す」

 

 その内容は気になるが、ベリアル家次期当主であるディハウザーが知らされず、当主の父とごく一部の者だけが知ることとなれば重要な話なのだろう。

 

「当主……私が」

 

 ディハウザーはレーティングゲームを愛している。ずっと続けていきたいと思っていた。

 しかし、当主ともなれば領地運営に比重を傾ないわけにはいかない。

 

「なに、当主になってもレーティングゲームは続けて構わない。領地のことは私に任せておけ」

「しかし、それでは……」

 

 領民に対して、領主が片手間で相対しているようではないだろうか。

 

「いくつかの家ではやっていることだ。そう気にせずともいい。ただな……」

 

 その後に父が続けた言葉は、ディハウザーにとって衝撃的な内容だった。それまでの会話の内容が吹き飛ぶようなものだった。

 

 

 

 

 遠くに堕天使軍の前線基地の影が見える。ここは悪魔と堕天使の領域の境界線付近。

 魔力も堕天使の技術も、どちらの影響下にもないこの地は、冥界本来の姿である地獄の様相を呈していた。

 草一本生えぬ不毛の地に、様々な方向から乾ききった暴風が吹き荒れる。その風は止むことなく、風に削られた岩が砂粒となって暴風にのり、砂嵐が肌をこそげ肉を削り落とす。

 地獄に落とされた亡者の一部は、再生する骨だけの姿となってこの地で永遠の苦痛に苛まれ続けるという。

 ここはそんな場所だ。

 

「当主となるにあたって、妻をとれ……か。しかし、まさか彼女が……」

 

 悪魔の建造技術で建てられた悪魔軍の基地。その城壁の上でディハウザーは呟いた。

 魔力を纏えば、砂嵐ぐらいはどうということもない。罪ある者に地獄の責め苦を与えるこの地も、悪魔ならば快適とは言い難くとも過ごすことに支障はない場所だ。

 対峙する敵軍の将・バラキエルは今のところ攻め寄せてくる気配はない。

 堕天使側としても悪魔によって略奪を受けているため軍を動かさなければならなかったのだろう、という政府の推測は間違っていなかったようだ。

 堕天使に攻撃を加えているのは、内戦に敗れ辺境へと逃れた前魔王勢力の残党。堕天使側でもそう判断していると、政府は見ていた。

 ただ、何もしないのでは堕天使の上層としては下の者に示しがつかない。そのためのバラキエルの出陣だったのだ。

 これは悪魔側も同じこと。バラキエルが出てきているというのに、何の対処もしないということは出来ない。

 

 自分たちは略奪を行って物資を得、現悪魔政府と堕天使勢力の双方に消耗を強い、強者を辺境地域に張り付けにする。

 開戦すれば双方に被害が発生して前魔王派の思うつぼ。開戦せずともこうして対陣しているだけで食料その他の物資を消耗していく。

 

 これが前魔王血族の策だと分かっているのに、ディハウザー軍とバラキエル軍はこの地でただ睨み合っていた。

 

 こんなことをしていて何になる。無意味だ。そんな想いを抱きながらも油断はできない。いつ堕天使側が態度を変えるか分からないのだから。

 そんな緊張感と、睨み合うだけで何も起きない状況。その中にあって、ディハウザーには戦以外の悩み事があった。

 

 当主の座を譲るにあたって、嫁を取って欲しい。

 

 現当主である父からそう告げられたのだ。なぜかその気に成れずに独身のまま長いこと過ごして来たディハウザーだが、ついにその時が来てしまったのだ。

 本家当主ならば、跡継ぎを作る必要がある。それは分かっている。

 貴族主義、純血主義の根強い大王派に属している以上、ディハウザーの妻となる女性は純血の上級悪魔しかあり得ない。それも分かっていたことだ。

 

「しかし、まさか彼女とは……」

 

 ディハウザーは同じ言葉を繰り返した。

 父から伝えられた結婚の相手は、かつてディハウザーが学生時代を共に過ごした女性だった。母が手放した宝飾品を身に着けていた、あの同級生。

 彼女はバアル家の分家の姫だ。そういえば、彼女もまだ結婚していなかったのかとディハウザーは思い、すぐにそれは自分も同じだったことに気付いて苦笑い。

 学生時代、ディハウザーは彼女が苦手だった。顔を合わせればいつも見下しながら小言を言ってくるような相手だったからだ。

 

 それなのに何故か今も交流があった。

 ディハウザーがレーティングゲームで活躍し『皇帝』と呼ばれるようになると、昔とは接し方を変えた者が多かった。その中で彼女の態度は、昔からずっと変わらなかった。

 相変わらず、ディハウザーに対して長々と苦言を呈してくる。その内容は、試合はもちろん、インタビューから雑誌の対談にまで及んでいた。

 だからだろうか、交流が続いているのは。彼女とのやり取りは手紙だけだった。通信魔方陣を用いたことは無い。

 もう長いこと顔も見ていないのに、今もあの頃の、あの口調のままなのだろうと想像だけは出来てしまう。

 

 バアル家の、大王派の意向が存分に働いている縁組なのだろう。それを理解しながらも、ディハウザーはそう悪い気はしていなかった。

 

 

 








タグ通りのご都合主義です。


ディハウザー・ベリアル:モテるでしょこのヒトと思ったので、学生時代にはそれっぽい子がいたことにした。

ディハウザーの同級生:最大派閥の大王派ならそれらしき未婚女性は居そうですが、原作にない家の娘にしてもややこしいだけなので大王分家ってことにした。学生時代にディハウザーと婚約したいって親に話したら「嫁入りした妻の大切な宝石類を売らなきゃいけないような家はダメ」って言われてしまった。
原作でクレーリアの代わりに前任者としてリアスに(捏造)経験談を語ったヒト。



叔父上:
王の駒が表に出るとなると、クレーリアの粛清の件も芋づる式にヤバそう。
これがバレたらディハウザー怒りそうで怖い。
でも、大王派内部に旧魔王と繋がってるヤツいるし、そっちからバレる可能性もある。それよりは自分から伝えた方がマシだろう。
でも、保険は欲しい。
どうしようか……。そうだ! ベリアル家は結束が固いようだから嫁送っておこう。そうしよう。

クレーリア&八重垣の魂

  • オリ主が頂いていく
  • バアル家が確保する
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