公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
創世記 初めに闇=夜=黒があった。
『わたしはアルファであり、オメガである。最初の者にして、最後の者。初めであり、終わりである』
ヨハネの黙示録
※ものの本によるとこのヨハネはペンネームらしいので、見た目善子ちゃんが頑張って書いている姿を思い浮かべながら読むとほわんとする。
名前というのは重要なものだ。
名を呼ばれるとヒトは反応する。呼ばれたと考える。
人間の言い回しに『噂をすると影がさす』『名を呼べば現れる』などといった言葉があるが、これは我々幻想の存在においてはより大きな意味を持つ。
悪魔を召喚する術などでも名前というのは重要であるし、人間が神々の力を借り受ける術を行使する際にもその神名を唱えることは多い。
神の名をみだりに唱えることは神を呼びつけることに、悪魔の名を唱えることは悪魔を召喚することに繋がる。とある有名な物語で「名前を呼んではいけない」などと呼ばれている人物は、まぁ、悪魔扱いされているということなのだろう。
『聖書の神話』において
だが、人間界はそうではない。神話的には人間界も『聖書の神』の創造物になるのだが、なにぶん『聖書の神』以前から存在していた者が結構な数いることが分かっている。
そのため、裏の世界に通じている者ならば教会連中だってこれについては認めるしかないことなのだ。『聖書の神』は地球を創ってはいない、と。
教義的にはともかくとして、実際のところ天地創造はなされていないので『創世記』は最初っから大嘘ってことになる。それについては、信徒連中なりに折り合いを付けてやっているのだろう。
まぁ、天国も地獄も人間の想像物なのだろうから、どこの神話の神々も最初の創造主ではないのだろうけれど。
『聖書の神』が
『
普段は人間の老人のような姿をしていると聞くが、その真の姿は漆黒の蛇龍であるという世界最古の龍にして神だ。
オーフィス神を象徴する図案は、自らの尾を食む蛇。
そのため、かの龍神は、
『
夜や太陽、日が沈み日が昇る繰り返し、冬が来て春が来る季節の巡り、あるいは生まれて産んで死んでいく生と死のサイクル。そしてその巡りの最初はいつからなのか、終わりはあるのか、ないのか。そういったものへの想いがオーフィス神を形作ったのかもしれない。
現代人の知識からすれば、夜と朝も、春から冬までの季節も、地球の回転が関係していると分かるのだが、オーフィス神の象徴は尾を食む蛇。つまり円環である。
地球の自転と公転によって生じている夜と昼、春から冬の変化。古の人たちがそれらを地球の回転運動から来ていると理解していたとしたら……なかなか面白いのかもしれない。
まぁ、シヴァ神というかマハーカーラはブラックホールの神格化なんて説もあるくらいだからな。インドの神話にはミサイルっぽいものも出てくると言うし、もしかしたら一万二千年くらい前に現代並かそれより進んだ科学力を持った知的生命体が地球に存在していて、その古代知的生命体の記録が残されていて……そこから新たな神話が出来たという可能性もなくはない。
悪魔が現にいる以上、アトランティスだのムーだのって話もあり得なくはない。それがこの世界の現実だ。
転生も実際にあったしな……俺の前々世は一億二千万年前、外なる宇宙から飛来した超機械生命体群と死闘を繰り広げたアトランティスの超戦士だったのだ!
異次元よりやってきた超機械軍団との戦闘は熾烈を極めた! その当時の文明が、生命がほとんど失われてしまうほどの死闘だった! だが、勝った! 勝ったのだ! 我々はこの地球を守り通したのだ!
前世で一時期そんな設定のお話が流行ったことがあったような、なかったような。まぁ、いくつかの神話では文明が何度か滅んでいるとされているようだから、本当にそれっぽいことがあった可能性もなくはない。
自転と言えば案外何処かに居るとされながらも見つかっていない『666』は月の裏側にでもいるのかもしれないな。
というのも、地球に季節があるのは地軸が太陽に対して傾いているからなのだが、その原因として「ジャイアント・インパクト説」というものがある。
簡単に言えば、大昔の原始地球に他の巨大天体が衝突して砕け、その破片が現在の月になったという説だ。そのときの衝撃で地球が傾いたとかそんな話。なんなら、これがあったから生命が誕生したなんて説まである。
で、そこからどうして「666」が出てくるのかと言えば、この地球の自転軸の傾きがだいたい23.4°だからだ。垂直だった場合の90°から23.4°を引き算すると……って話。
思考を妄想の寄り道から戻すとして、『無限の龍神』がいつから存在していたのか、それを知る者は居ないとされている。古い魔王さま方ですら子ども扱いしていたという古い神話の神々ですら、気が付いたときにはオーフィス神が居たらしい。
だから、オーフィス神はこの世界の始まりから存在する者なんて呼ばれ方もしている。
この現在確認されている中で最古の異形が人間界、いや地球の歴史のいつ頃から存在していたのか、それはまったくの不明だ。
人類の祖先が知恵を得た瞬間に生まれたのかもしれないし、もしかしたら人間以前にいた知的生命体の心から出てきたのかもしれない。もしかしたら、植物や動物の心からなのかもしれない。
オーフィス神自身、自分がいつごろから居たのかも分かっていないとも聞く。
というのもこのオーフィス神なのだが、人間界ではなく次元の狭間にずっと暮らしていたらしいのだ。
『次元の狭間』
そこは人間界と冥界、人間界と天界の間にある次元の壁とも呼ばれる場所。根幹である人間界と様々な神話・伝説の異界とを分け隔てる境界領域。次元の狭間は何も無い「無の世界」と言われている。
そんなところにずっといて、地球上の事象にも人間の生活にも興味が無かったのなら、それはまぁ、何時頃から自身が存在していたのかも分からなくなるってものだ。
まぁ、そのオーフィス神も今は次元の狭間を出ているそうだが。後から現れた自分よりも強い存在に、次元の狭間の支配権を奪われてしまったそうで。住処を追われた無限の龍神は今は何処にいるのやら。
「リアス?」
とまぁ、俺が「次元の狭間」なんて場所や、そこから生まれたと言うオーフィス神のことを考えていたのには理由がある。
本日、ラティアと一緒にその次元の狭間にお出かけするからだ。何をしに行くのかと言えば、ちょっと「世界」を創って来るのである。
例のラティア用のお城代わりにする北海道ぐらいの面積の異空間創りだ。
レーティングゲームでよく使われる戦闘用フィールドと製作過程はほぼ同じで、術式にちょいと魔力とイメージを通すだけの簡単なお仕事である。
「ん、少し次元の狭間について考えていた。あと、オーフィス神とか」
そんなわけで、現在はラティアと並んでソファに座り、テレビを見ているところだ。フィールド製作業者の準備を待っているところだな。冥界に繋ぐフィールドを創るには、冥界の夜の時間が良いのだそうだとも聞いているので数時間待ちになる。
ローゼンクロイツも交えた設計の打ち合わせ最終確認は終わった。あの男はもう必要ない。転生悪魔になった嫁さんに次の子でも仕込んでろ。
ちなみにここは後宮ではない。あっちでラティアと二人きりになったら、すぐに押し倒しちゃうからね。俺は我慢弱い男なので、もうすぐオッケーになる美少女を目の前に置かれて、お預けとか辛抱たまらんのだ。ヤッてオッケーな場所だったら耐えられない。
いいじゃん、数日ぐらい前倒しで押し倒しても! となってしまう。
だいたい、くっ付いてくるラティアが悪い。腕に、むにっと来てるんだよ感触が。誘ってんだろ、オラァ! ……まぁ、ラティアはそういった気持ちではなさそうってことが分かるのがツライね。
そんな彼女は前と同じ香水を付けていた。この匂い、本人には言わないがちょっと喉飴っぽい。冷たく硬く喉や鼻がスーッとする感じ。荒ぶる股間がちょっと落ち着く。
ま、初めてのラティアには酷いこと出来ないか。
「そう、グレートレッドが出ないといいわね」
いつのころからかオーフィス神に代わって次元の狭間に住み着いたのがグレートレッドだ。
「進路予想は一応出来るんだよな」
「気まぐれで転移しなければ、五割くらいの精度で予測できるそうよ」
「それ、よく分からんって言わないか?」
このグレートレッド、特に何をするわけでもなく次元の狭間を漂い続けている。そして、ごくまれに人間界や冥界、その他の異界に顔を出すことがある。レーティングゲームの戦闘フィールドにいきなり現れたなんて話もあるくらいだ。全盛期の二天龍から見てさえ圧倒的に強い存在なので、他者のことなど何も考えてはいないのだろう。
我々悪魔など、グレートレッドから見たら車の運転手にとっての道端の蟻のようなものだ。気にする対象ではない。
「次元の狭間には何も無いもの」
風も気温も、エサも、目標物らしきものもない場所を泳いでいる龍の進路を予測しなさい。なお、その龍は気分次第で進行方向を曲げるし、ときどき空間転移だってします。
うん、そう考えると五割も当たるなら大したものだ。
「グレートレッドって何考えて生きているんだろうな」
それなりの知能があることは確認されているが、対話はあまりした者がいないそうだ。機嫌を損ねると「ガンつけやがって……コッローッス!」ってされるそうで……気が短いのかな。強すぎてどうにもならない上にどこに地雷があるのかも分からなくて、さらに短気と来たらそりゃなかなか話しかけ辛いよな。味方に付けたい勢力はごまんとあれど、敵に回してしまうリスクを考えたらね。
ラティアさんは、どうして冷えた瞳で俺を見詰めてくるんですかね。
好きだから? 俺も好きだよ。
グレートレッド。少なくとも俺みたいに「セック○、セッ○ス」とは考えてはいまい。
「楽しいのかね、それだけで」
「ドラゴンの気持ちなんて、わたくしに分かるわけがないでしょう?」
なんとなく、グレートレッドには「神」と付ける気にならない。不思議なものだ。語呂の関係だろうか。というか、
この本名不明なグレートレッドさんは、『赤龍神帝』だの『
太古の昔から次元の狭間に居たオーフィス神は、グレートレッドに住処を奪われて何処かに去って行ったそうで。
「乗騎にドラゴンを飼ってるだろうに」
「そういえばそうね。それに……ここにもドラゴンがいたわ」
ラティアはテレビに向けていた視線をこちらに向けてくる。横目で見つめてくる切れ長の瞳はいつものクールさなのだが、それがかえって流し目のようで──乗騎のドラゴンに跨るくらいなら、俺の股間のドラゴンに跨ろうよって言いたくなるね。
なんだかんだ、エッチの気分ではなくても、向こうもドキドキとはしているようだしな。ふむ……時計を見ると、予定までもう少し時間がある。
膝枕してもらうことにしよう。そうしよう。俺にはラティアの太ももの感触を頭で味わう権利がある。ご主人様だからな。下僕『騎士』のラティアには俺に太ももの感触を提供する義務がある。
「仕方のない『王』さまね」
ラティアの声音は硬いが、膝枕は柔らかい。そして、どちらも心地よい。本日のラティアは珍しいことに短パンを装備している。こう裾のところが太ももの半ばでキュッと締まった形のヤツ。なんて名前なのかは、よくわからない。俺はファッションに詳しくないんだ。
でもって、その短いズボンとオーバーニーなソックスを組み合わせているのだ。──そう、あるのだ! あるんだよ、絶対領域が、今日のラティアには!
後頭部もいいが、グルんと身体ごと回って、その絶対領域に鼻を突っ込むことすら可能なのだ。
どうしようか、やってみたいな。たぶん、怒られないと思う。いや、むしろ好感度がアップする可能性も……?
ラティアは俺の『騎士』である。眷属である。下僕である。下僕とのスキンシップは重要事項。
よし!
着衣とはいいものだ。その隙間に存在するこの僅かな領域に顔を埋める至福。全裸の方が接地面積は大きいが、これはなんとも、こう、隠されているからこそのありがたさがあるものだ。水着グラビアよりも下着チラリズムに反応してしまうようなものかもしれない。
「そんなことをして楽しいのかしら?」
「楽しい」
頭上から振って来る声音には冷たさがあるが、彼女の手は俺の頭を撫でている。髪を触れられるのはくっすぐった気持ちいい。
あーこの、エロまではいかないが、相当親しくならないと許されないだろうことをしている感覚は堪らないものがある。俺は甘えたい男だからな。
「そう、たまにはこういった服も着てみるものね」
思うにラティアの服装の趣味は、アスタロト卿の影響をかなり受けているような気がする。結構派手で、スカートに深めのスリット入ってたり、胸元が大胆だったりする感じのときが割とよくある。
正直それはそれで眼福ではあるのだが、今日は上はキリッと締めた感じで脚のラインを強調する方向性だ。
どうしたんだろうかと気にはなるが、まぁ、どうでもいいか。今はこの、膝上の感触と頭なでなでを堪能したい。
気分は猫モードの黒歌である。ゴロゴロ。
おっさんがやると気色悪いかもしれないが、今の俺なら許される。美少年は何をしたって絵になるのだ。
数時間後、転移魔方陣でジャンプした俺は「次元の狭間」にいた。
周囲には「無限」を生んだ「無」が満ちている。力の無い者がこの次元の狭間に準備もなく落ちると、「無」に溶けて消えてしまうそうだ。
様々な者や物が溶け込んでいるはずなのに、「無」とはどういうことなのか。「無限」の「無」で満ちた混沌空間、それが「次元の狭間」。俺の浅い知識で考えるところでは、ここはいわゆる集合的無意識というヤツなのではないだろうか。
物質世界である「人間界」が中心に存在し、人間たちの形にならない精神世界とでもいうべき「無限」の故郷であり「夢幻」の住処でもある「次元の狭間」が人間界を覆うように存在している。
平面的に考えると、人間界は大きな大地で、次元の狭間はその周りを囲む人の心の海だ。その海の中に浮かぶ島々が、俺たちの暮らす冥界であり、神と天使たち天界であり、文化・宗教・神話圏ごとの異界なのだろう。
あるいは人間界を地球、次元の狭間を宇宙、神話圏ごとの異界を星々と考えてもいい。
「怖いか?」
「手、繋いでいるから」
俺の隣には手をつないだラティアがいる。
ラティアは表情のいつものようにツンとしているが、身体の方は近頃よくするようにピタリとよせてくる。
空気も何もないはずの「無」の空間、「次元の狭間」でも匂いはするらしい。不思議だが、視覚も聴覚もキチンと働いているので、
もちろん隣の美少女の感触も伝わってくる。つないだ手にかかる力が少し強い。そしてちょっと震えている。安心させるように、こちらからも強く握り返した。
「まさか本当にいるとは思わなかったな」
「予測はあてにならないわね」
我が麗しの『騎士』がブルってしまっているのは、次元の狭間の光景が原因ではない。
いるのだ。いたのだ。ここの主が。
『なぁ、ドライグ』
『なんだ?』
『籠手の計測機能がエラー出してるんだが……』
俺の魂に繋がっている神器。『赤龍帝の籠手』には相手の強さを計測することが出来る能力がある。どれぐらいの力を籠めれば対象を打倒できるのかを教えてくれる便利な機能だ。
今、その機能がエラーを吐き出している。対象は、グレートレッド。この世でもっとも強いヤツは、神器では計り知れない強さってことか。ドラグ・ソボールの強さ判定機みたいに「ボンッ!」てならなくて良かった。
『「倍加」して勝てるのなら、昔の俺が倒している。……歯牙にもかけられなかったがな』
ドライグはアレに挑もうと考えたことがあったらしい。ドライグは、喧嘩大好き番長ドラゴンだしな。最強の龍に挑みたくなることもそりゃあっただろう。
「俺たちのことは気にもしていないようだ」
グレートレッドさんからすると、俺程度はどうでもいい存在らしい。助かる。姿を目にした瞬間、禁手化したくなったが、刺激するとヤバいらしいので控えて正解だったのだろうか。いや、この力の差を考えると、どちらでも同じだったかもしれない。
なんにしても、もしもこっちに向かって来ていたら緊急離脱しないといけないところだった。
「離れていくみたいね」
俺とラティア、おまけのドライグが息をひそめて見守る中、グレートレッドさんは気ままに次元の狭間を泳いでいた。
そのぶっとい尻尾がだんだんと遠ざかっていく。
「何の気まぐれでここにいたんだ」
「ドラゴンの気持ちは、ドラゴンに聞いてみたら?」
ラティアは視線を赤い籠手に向けた。
『俺に聞かれてもな。分からんとしか言えんよ』
しばらくすると、グレートレッドが完全に見えなくなった。ふぅー、ビビらせやがって。
正直、ラティアが隣にいなかったら「ひぇっ」と速攻で逃げ出していたところだ。女の子の前だから、ちょっと格好つけたくて見栄を張ってしまったじゃないか。いやまぁ、俺もお貴族様なので家臣やらが居ても虚勢は張ってただろうけどな。
いやはや、それにしてもビビった。次元の狭間なんて、無尽無辺とまで言われる広大な場所だぞ。それがなんで、俺の出てきた場所にジャストなタイミングでグレートレッドさんがいるんだよって話だ。困りますよ、ホント。
と、一安心したところで──背後から聞き覚えのない声が。
「ドライグ、久しい」
ひえっ。
『今度はオーフィスかッ!』
ドライグからの警告なしで、間近に莫大な龍のオーラを感じてしまい、思わず変な声が出そうになってしまった。敵意が無いとかそういうものではなく、これドライグも完全に気付いていなかったぞ。俺やラティアならともかくだ。
「その魂、どこかで──」
慌てて振り向くと、そこには黒髪の少女の姿をしたモノがいた。
俺の両の頬を彼女の小さな手が抑えた。有無を言わさぬ強大な力で頭を掴まれ、身動きが出来ない。エラー、エラー、エラー、計測出来ない。『赤龍帝の籠手』がまたも勝てないと伝えてくる。
オーフィス神。全盛期のドライグが敵にもなれなかった龍神。神々よりも強かったというドライグとアルビオンが二「天」龍だったのは、先に存在していた神龍と比べてあまりにも弱かったからだと聞いたこともあるが……。
「──見せてもらう」
深淵の闇のような瞳が、迫って来る。口づけ出来そうなほどの距離に、オーフィス神の顔が──。
マズイ。頭だけでなく、指も足もピクリとも動かせない。
『なんのつもりだ、オーフィス! クソっ、魂にッ!』
意識が薄れていく……。
「させない!」
「邪魔」
ラティアの悲鳴が……!
『
気が付くと、オーフィスの顔面に『滅び』の拳をぶち込んでいた。
閑話でルシア回来ないかなーと思いつつ。