公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
「戦後残されたのは、神を失った天使、魔王全員と上級悪魔の大半を失った悪魔、幹部以外のほとんどを失った堕天使。もはや、疲弊状態どころじゃなかった。どこの勢力も人間に頼らねば種の存続ができないほどにまで落ちぶれたのだ。
自分も人間の女性と交わらないと子孫残せないし、それがしたくて堕天したはずなのに、朱乃をゲテモノ呼ばわりしている――3巻コカビエル氏
さらわれたお姫様と魔王ごっこは大変楽しかった。拉致されたお姫様が魔王の手練手管により徐々に快楽に目覚めていき、最終的には自分から妻になりたい子供を産みたいなんて言い出して堕ちてしまうロールプレイである。
さて、寝起きのまどろみの中、俺と堕ちたお姫様とがイチャイチャ乳繰り合っているとメイドに起こされた。起床の時間である。予定もあるので、「嫌だ、まだこれから一戦する」とは言えない。
フェニックス卿ご夫妻は昨夜も泊っていったのだ。けれど、それなりに忙しい身の上なので、朝食を共にしたら家に帰るらしい。
「ん? またお前か。よく見かけるな」
「はい、その……」
本日もあの角メイドがいた。どうもよく口淫奉仕をさせているので、「お気に入り」扱いになっている気がする。名前も聞いていないのだが。
角メイドは、レイヴェルの様子を大変気にしている様子。それはそうだ、未来の夫がお気に入りにしているご奉仕メイドなんて、レイヴェルの立場からすると複雑だろう。
しかし、メイドたちの顔が赤いな。こうエロい期待とは少し違う感じで。
「構いませんわ。あなた、名前は?」
「ろ……リュイと申します」
「そう、リヴラクスさまによく仕えなさい」
「かしこまりました」
ふん、と上から目線のレイヴェルと、ペコペコしている角メイドのリュイ。うん、余計なことは言わないでおこう。
いや、ハーレム許可は出てるからいいはずなんだけどね。一応。
角メイドは舌遣いが恐ろしく上手いのと、女体の声が面白いんだよな。
(こんな、人間混じりにぃ♡)(ああ、年下の子に逆らえなくされちゃってるぅ♡)(この私の口が、ご奉仕専用にされちゃう♡)
などと、いろいろ楽しんでいるようなのだ。コヤツめ、ハハハ。俺は気持ち良ければそれで良いぞ。
メイドに手伝わせて手早く入浴を済ます。今日はレイヴェルが「私も一緒がいいですわ」と言ったので同じ浴場だ。といっても、そこでアワアワックスや、メイド三人おっぱいスポンジ洗いなどのサービスは受けられない。婚約者がいるからね。仕方ないね。
でもちょっとだけレイヴェルに悪戯したところ、「メイドとはいえ、見られていますから」とハートマーク付きのセリフで怒られてしまった。まだ、少しふざけてみたいお年頃なんだ。
そんなこんなの後、両家交えての朝食となった。なったのだが、なんというか我が両親も、レイヴェルの両親も、実に機嫌が良さそうだ。ツヤツヤしておられる。
「ふふ、昨日はあなた達にあてられちゃったのよ」
母上が何やら恥ずかしそうに頬に手を当てている。可愛いんだよなぁ。
「しかし、あれだぞ、リヴラクスくん。あんなオーラをやたらと放ってはいかんぞ」
昨日よりも仲の良さそうなフェニックス夫妻。
食後のひと時、俺はミルク多めのコーヒーを飲みながら、何があったのかを聞いていた。
「レイヴェルもですよ。仲が良いのは喜ばしいことですけれど」
どうも、俺とレイヴェルでオーラを絡めてぽわーんとやっていたときの気配が、このグレモリー邸内どころか、周辺の領都全体を覆うほどに広がっていたようだ。
御用商人などはさっそく婚姻関係で入用な物の注文を取りに来て、あとは平民のなかでも金のあるヤツなどから献上品などの話も出ているらしい。
「は、恥ずかしいですわ……」
「リヴラクス……レイヴェルくんが必要な学習過程を終えたらすぐだな!」
父上はめちゃくちゃ機嫌がよろしいです。
いや、そうか。あのオーラが広範囲にな……俺の魔力総量多いから、そういうこともあるか。
そんな感じで冷やかされるやら、からかわれるやらしながらした後、フェニックス夫妻は帰っていった。
「朱乃に会わせるから」
「はい。バラキエルの娘に与える駒は、どうするおつもりですか?」
レイヴェルと連れ立って、監禁している部屋へと向かう。
「本人は『戦車』がいいそうだ」
「あら、『戦車』とは身の程をわきまえているのか。それとも、ただ駒の価値が高いものを選んだのか。どちらでしょうね」
悪魔社会において、特に女性貴族は『騎士』を護衛として近くに侍らせる。そんな文化がある。
『僧侶』は知恵袋。『王』の問いに答え、あるいは調査などもする。
『兵士』は小間使いだ。他の駒の者が出向くまでもない事柄全般に渡って奔走する役どころ。兄上のところの『兵士』を見ているとホントにそう。
これらもあくまで大まかなイメージで、『王』の考え方次第で変わってくるが、なんとなくそんな風潮がある。
「盾になりたいって言ってたな」
膨大な消滅魔力で身を守れる俺や、不死身の特性を持つレイヴェルと比べると朱乃は脆い。
「そうですか」
レイヴェルは何やら考えている様子だ。最初に『女王』を欲しがっていたことは、言わない方が良いのだろう。
チェスの『王』、『女王』、『僧侶』、『騎士』、『兵士』これら他の駒と『戦車』は趣が違う。なんというか、『戦車』以外の駒は人なのだ。役職があるというか。
それに対して、戦車あるいは塔、城塞は、兵器や建物だ。どうして戦車に乗る、あるいは城を守る『将軍』ではないのか不思議だが、詳しく調べてみたことは無い。
まぁ、なんとなく他とイメージが違う駒であるというだけだ。戦争専門、他のことは任せた! といった感じか。
「とにかく、会ってみてくれ」
「もう決めていらっしゃるのですよね?」
「まぁ、そうだな」
「もう……『王』が既に決断されているのでしたら、私はそのバラキエルの娘を上手く扱えるようにするだけですわ。ただ、一応『戦車』に相応しい“力”があるのかどうか、それだけは確かめさせて下さい」
俺の魔力増大とはやり方が異なるが、朱乃にも前世知識による訓練はさせていたのでそこは大丈夫だと思いたい。あれだけ『戦車』を握りしめていたのに、「やっぱり、お前は『兵士』な」とはちょっと言い難い。
比較対象が俺になると見劣りするが、朱乃の『雷光』は並みの上級悪魔を一撃で葬れるだけの威力はあるように思えるから大丈夫だろう。
―〇●〇―
何も知らない、小さなころは幸せだった。すぐそばに怖いことがあるなんて何も知らなくて、母とバラキエルが居てくれたらそれだけで安心だって思って居られたから。
『父さまの羽、嫌いじゃないよ。黒いけど、つやつやで朱乃の髪の毛と一緒だもの!』
『そうか、ありがとう。朱乃』
バラキエルとお風呂に入るのが好きだった。
『ねぇ、母さま。父さまは朱乃のこと好きかな?』
『ええ、もちろん』
やさしく髪をとかしてくれる母が好きだった。
『バラキエルは留守か……。ならば、その子を渡してもらおう。忌々しき邪悪な黒き天使の子を』
でも、バラキエルが今日は休みだって言っていた日。一日中いるよと言っていた日。アイツは家から出かけて行った。
急な用事が出来たから。どうしても外せないから。早く帰ってくるから。そう言って、バラキエルは居なくなった。
『母さま! いやぁぁぁっ! 母さま、母さまぁぁっ!!』
私の目の前で、母は殺された。バラキエルを憎む人間たちから、私をかばったせいで殺された。
『黒き天使に心を穢された者は死んだ。次はお前だ、バラキエルの娘』
母が死んで、泣きわめく私に向かって刀が振り下ろされる寸前。雷が光って、部屋の中が血でいっぱいになった。
バラキエルがやって来て、人間たちを殺したのだ。簡単に、いともたやすく。
あと一分バラキエルが来るのが早ければ、母は殺されなかった。あと五秒、バラキエルが来るのが遅ければ私も殺されていた。
『すごい偶然だな。まるで見計らっていたかのようなタイミングだ』
あの人はそう言った。たしかに、そうだ。
一分、たったの一分で結果は全く違ったはず。それだけで、母が死んで、私は生き残った。どうして、そんな……。
『嫌い! 嫌い! こんな黒い翼大嫌い! あなたなんか嫌い! 皆嫌い! 大嫌い!』
人間も、堕天使も、みんな怖くて、嫌いで、憎くて、走り出した私をバラキエルは追いかけてこなかった。
何日もさまよって、持っていた少しのお金を使い切って、ひもじくて、辛かった。寂しかった。
『普通の親なら、家出した娘を探すだろう。それで大嫌いなんて言われようが、無理矢理連れて帰るはずだ』
あの人の言うことは、きっとその通りで、冥界の、邪悪と言われている悪魔のテレビ番組の中でさえ、親はそうしていた。
でも、バラキエルはそうしてくれなかった。逃げた娘なんていらなかったのか。好きと言わない娘なんて必要ないのか。大嫌いなんて言う娘は嫌いなのか。
そうだったら……良かったのに。
『見つけたぞ、バラキエルの娘。今日こそ死んでもらう!』
姫島の、母の家の人間たちに殺されそうになった。
『その力……人に非ざる化生の類か。見た目は童女といえども、見過ごせぬ』
優しそうなお坊さんが、強い力のこもったお札を投げつけてきた。
『堕天使か。可哀そうに思えるが、天に逆らう者に容赦はできん』
天使の、教会の、正義を名乗る人たちに剣を振りかざされた。
『聖書の者は好かん。去れ』
妖怪は冷たかった、けど襲ってこなかった。
『ああ、堕天使か。いや、困るんだよね。ボクって転生したばっかで下積み中だしさ。余計なことされると、主さまにオシオキされちゃうから』
転生悪魔だという人は怖かったけれど、すぐに出て行けば許してくれた。でも、もめごとの種はごめんだからって、悪魔の縄張りには絶対に入るなと何度も言われた。
元は人間の悪魔はともかく、純血の上級悪魔はプライドがとても高いので自分の縄張りに堕天使がうろつくことを酷く嫌うらしい。そういったことをこの時に知った。
悪魔の縄張りを避け、教会の近くに寄らず、山や森に入っては妖怪に追い出され、人間に何度も殺されそうになった。
もうダメだ! そう思う度になぜか分からないけれど、ギリギリ、本当のほんとうに死んじゃうちょっと手前で助かった。
その理由を知ったのは、ここに連れてこられる直前と、ここに来てからだった。
『すまぬな、後生だ。此度は黒き天使たちの邪魔も入らぬようだ。せめて、苦しまずに送ってやろう』
大叔父、母の親類の人間がそう言っていた。いつも堕天使たちが邪魔をしていたのだと。それがなければ私はずっと前に殺されていた。
『朱乃を見つけていたのに、保護するわけでもなく、何度も何度も死にそうな目に合わせて、ずっと一人で苦しい生活をさせていたんだな』
あの人から、堕天使の組織はとても大きいと教えてもらった。悪魔や教会と同じくらいには強大で、私を一人を見つけだして捕まえるのなんて簡単なのだと。
『それなのに、そうしていたとすると……』
言い淀むあの人に、私は教えて欲しいとすがった。
『朱乃を苦しめるのが目的だったのかもしれない』
ガラガラと音を立てて、心の中の大事なものが崩れ落ちて行った。それでもと、もしかしたらと、頼りにしていた何かは粉々になって。その砕けた欠片を必死でかき集めて、私は私を繋ぎとめた。
『これを見てみろ』
そう言ってあの人が見せてくれたのは、昔、母と私が住んでいた家。バラキエルが時々やって来ていたあの家屋。その奥にあった、あの部屋の扉。
そしてその扉の奥。バラキエルが家に来た日、まだあの男を信じていた私は、母と三人で一緒に寝ていた。そうした日に、ふと夜中に目を覚ますと──母とバラキエルが居なくなっている。
不安になった私は家の中をあちこち探し回った。小さな家だ、すぐに見て回ってしまえる。
『これは……拷問の道具だ』
入ってはいけない。決して中を見てはいけない。近寄ってもダメ。
もしかしたら……そう考えた私は、母とバラキエルを探してそこに行ってしまった。
そうして、聞いてしまった。開けてはならない扉の向こうから聞こえてくる、野太いバラキエルの呻き声、聞いたこともないような母の甲高い叫び。
怖い、怖い、怖い。私はそろりそろりと扉から離れて、急いで布団に潜り込んだ。それからガタガタと震えながら、一夜を明かしたのだ。朝方になって戻ってきた二人は、寝たふりをしている私の横に何事もなかったように入って来た。
バラキエルは、ニタニタと何やら満足そうな顔をしていたような気がする。そして、母はどこか疲れた顔をして身体のあちこちをさすっていた。
その意味は、このときの私にはよくわからなかった。ただ、なにかとても怖くて、でもどこか……。
『お前の部屋はここだ。食事はきちんと取れ、風呂とトイレはすまないが用意してやれないから、俺の使い魔で代用してくれ。ちゃんと運動もしろよ。それから、暇だろうから何かいるようなら言え』
大叔父に殺される直前、私はあの人に捕まえられた。大叔父とあの人の会話からすると、どうも二人はどちらが先に私を捕まえられるか競っていたらしい。
首根っこを掴まれた私は逃げ出そうとしたけれど、あの人の魔力の波動を受けてすぐに諦めた。どうしようもない、こんな子がいるんだ。一瞬で、私は逆らうことの出来ない絶対的な差があることを思い知った。
震えながら何事か言い募る大叔父を、あの人はジオティクスさまの眷属のアグリッパさまに任せて、私をジロジロと観察していた。そうして、ひとつうんと頷くと私をペットにすると言って、そのままここまで連れて来たのだ。
『だいぶ顔つきが良くなったな』
飼われる生活は正直、家を飛び出してからと比べたらまったく悪くなかった。屋根があって、布団があって、寒くなくて、暑くなくて、安心して眠れて、ご飯の心配がいらない。
部屋の外に行けないことと、あの人以外はほとんど口もきいてくれないのは辛かったけれど。殺されそうになる毎日よりはずっと良かった。
それに、あの人がいっぱい構ってくれた。
『朱乃の翼は綺麗だな』
『薄汚い堕天使の羽だよ……』
『お前の髪と同じ色だ。汚いなんて言うな。ああ……ただ、俺が堕天使の翼を褒めたなんて誰にも言うなよ』
あの人は、他の悪魔が居る時は冷たかった。ついつい甘えてしまうと叩かれたり、蹴られたりして、叱られた。でも、二人だけの時は優しい。
『私の髪、好きなの?』
『ん? こうしていると気持ちいいから』
『私も!』
髪をよく梳いてくれた。櫛で丁寧にした後で、頭を撫でながら何度も何度も手櫛で指を通して。一緒に冥界のテレビを見た。ゲームをして、シーグヴァイラさん? さま? の布教用とかいうアニメも観た。
よく覚えておいて、将来、シーグヴァイラさまの相手をしてくれと頼まれた。だからあの人のいないときに張り切って観て、その話をたくさんした。お気に入りは、紅い機体だ。強いんだけど、でも最後はやられちゃうことが多いのがちょっと残念。
あと、テレビには、えっちな番組ばかりのところがあった。
男の人と女の人が、ずっと絡み合っている映像ばかりが流れていて……。あの人のいる時は見ないけれど、ひとりのときに……。
最初に気づいたときは、びっくりしてすぐに切り替えた。でも、少ししてやっぱり気になって、えっちなのにしたら、音が大きくて、すごく小さくして、布団にもぐって、でもちょとだけ布団を持ち上げた隙間から覗いてた。
『ヘッドホンが欲しい?』
お願いして、ドキドキしながら観ていたら、男の人が鞭を振ったり、ロウソクとか、縄とか、口に穴の開いたボールみたいなのとか……そんなものが画面に出てきた。あわあわしながら、でもドキドキして、そしてそれが……あの怖い部屋の映像に出ていたものだと、私は気づいた。
男の人が女の人を責め立てて、最後は、嫌がっていた女の人が、男の人のいいなりになってしまう。他の叩いたり縛ったりしないのも大体そんな感じだったけれど。
ああ、母は……そうだったんだ。私は、姫島の人間たちが言っていた言葉を思い出した。
母は、バラキエルに騙されて、優しさにつけ込まれてさらわれて……そうして、あの部屋で……心を穢されてしまったんだ。
バラキエルは、母が殺されてすぐに現れた。バラキエルがいたはずの日に、急にいなくなったバラキエルを狙って襲って来た人間に母は殺された。母を本当に大事にしているのなら、恨んでいる人間の来ないところに連れて行くことだって出来たのに。
バラキエルは、逃げ出した私を捕まえなかった。連れ戻さずにずっと死なないギリギリで……アハ。
急に快適なこの部屋から逃げ出したくなって、私は食事を運んできた使用人を突き飛ばし、外へと飛び出した。
走って、走って、あの人が褒めてくれた翼を広げて、飛び出して──捕まえられた。
捕まえてくれた。逃げられなかったことが、嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!
怒ったあの人に叩かれた、叱られた。嬉しい!
あの人は私に首輪を付けてくれて鎖で繋いでくれた。それから、どうして逃げ出そうとしたのか聞いてくれて、慰めて、抱きしめてくれた。嬉しい! 嬉しいよ!
『やっぱり閉じ込めたままだと、ストレスが溜まるか』
それから、散歩に連れて行ってもらえるようになった。首輪を付けて、鎖を引っ張られて、私が違う方向へ行こうとすると、グイッと引っ張ってくれる。首が苦しくて、そのぎゅっと締まる感じがドキドキして、わざと何回もやった。その度に、あの人は私を痛めつけて、冷たい声で叱って、その後二人だけのときに困った顔で抱きしめてくれた。
私は何度も何度もあの人を困らせた。ダメって言われたことを繰り返して、何回も叩かれて、慰められて、それがどうしようもなく嬉しかった。
『朱乃、堕天使の光力を見せてくれ』
あの人は、私に堕天使の力を求めた。バラキエルの血からくる、『雷光』の力を。
この力は憎い、嫌いだ。でも、あの人がそれを求めてくれるのなら、私の価値がそこにあるのなら。黒い翼のように褒めてもらえるのなら、そんなことはどうでも良かった。
『うん、でも、出せないよ』
堕天使の力を抑え込むという、大戦時代に作られた枷。私の手足にはそれがはめられていた。『雷光』の力は、悪魔にとって毒だから。光の槍の一刺しで、弱い悪魔は簡単に死んでしまう。
だから、枷を付けられているのは仕方がないこと。
むしろ……。
『おお、やったな。枷を付けたままでも槍が出せたな』
『うん、リアスさまの言ったとおりにしてたら、出来たよ』
枷があるから使えないのではない。枷をトレーニング用品として使う。一緒に見たドラグ・ソボールのアニメでやっていた。
ホントにできるの? って思っていたけれど、ホントにできた。最初は何も出せなかったのに、頑張っていたら鉛筆くらいの光の槍が手のひらに。
『それじゃあ、次行くか』
そう言って、あの人は私につける枷を増やした。手足にかかる重さが増して、それがあの人に縛りつけられているようで……嬉しい!
『朱乃』
名前を呼んでもらえるだけで、嬉しくなる。他に誰も呼んでくれない私の名前。堕天使バラキエルの娘じゃない。人間の姫島でもない。私の名前。
『ん、ちょっと』
ここに来てどれぐらい経った頃だっただろう。窓のない部屋の中で、私の時間の感覚は曖昧だ。一日三回の食事だけが、時の流れを教えてくれる。
どれぐらいなのかよく分からないけれど。結構な時間が過ぎた頃から、私とあの人の関係は変わった、のだと思う。
あの人が私を避けるようになった。寂しい。
いつものように甘えようとすると、もにょもにょとよく分からないことを言って離れようとする。前まではあんなに構ってくれたのに、触ってくれない。
でも、悲しくて私が泣くと、ギュッとしてくれる。嬉しい。
後ろから抱えてもらって、一緒に座るのが好きだ。髪を梳いてもらって、羽を撫でてもらって……そうして、お尻に当たるあの人の両脚の間が、硬くなっているのに気付いた。
ドキドキする。心臓が爆ぜそうで、顔が真っ赤になっているのが自分でよくわかった。とっても嬉しい!
あの人の視線が、大きくなってきた私の胸に向いている。ジッと見つめて、それからすぐに逸らす。
あのテレビの男の人と女の人みたいなことがしたいのかな。だったら、嬉しいな。
あんな風に、縛られて、叩かれて、いろいろされたら、私はどうなっちゃうんだろう。
でも、それなら、どうして避けるの? もっとくっついて欲しいのに。触って欲しいのに。撫でて欲しいのに。なんだっていいのに。なんだってするのに。
あの人は私がそう思ってくっつくと、突き飛ばして、苦しそうな顔で部屋からいなくなってしまった。悲しい、寂しい。なんで……?
私、なんでもするよ? なんでもしていいよ? だから、だから……。
あの人が来なくなって、どれぐらいだろう。
私は悲しくて悲しくて、寂しくてたまらなくなって、あの人の使い魔をずっと触っていた。私の身体を綺麗にしてくれる子たち、最初は気持ち悪かったけれどプルプルして可愛いかもしれない。
あの人の使い魔に包まれていると、気がまぎれた。あの人を感じたくて、体中たくさん掃除してもらった。えっちなテレビみたいに、身体の中でも感じたくて飲み込もうとしたけど、嫌がって入ってくれない。
どうしようかといろいろ試していたら、お尻の穴には入ってくれた。お掃除好きだから。
頑張って、全部押し込んだ。お腹が痛くなって、ぐるぐるして、でもそれがあの人の使い魔の感じだから……嬉しかった。寂しいけど、ちょっとだけ慰められた。
久しぶりに、あの人が来てくれた! 嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!
婚約者が出来たって言われて、もう私はいらないのかと思ったけれど、ずっとずっとずっとずーっと縛って捕まえて離さないでいてくれるって、やった!
前に教えてもらった『悪魔の駒』の話。『女王』の駒はレイヴェルさまのものだからダメって言われたけれど、『戦車』ならいいんだって! 嬉しいな。下僕にしてくれるんだって、嬉しいな!
お腹をぎゅーっとされて、とっても恥ずかしいところ見られちゃったけど……でも、そんな汚い私を見て、あの人は大きくしていた。ドキドキする。ぎゅってなる。
ベッドに運ばれたときは、これから、ああいうことされちゃうのかなって思ったけど……嬉しかった。違ったけど、嬉しかった。
私は勉強してなくて、頭がよくないから、きっと難しいことは考えられない。十まで母と二人だけで、それからはあちこちさまよって、そのあとはずっとこの部屋。私とあの人だけの部屋。
だから、『僧侶』はきっと無理。『騎士』は礼儀作法が大事って聞いた気がするから、これも無理。『兵士』はあちこち忙しいんだって、それだと構ってもらえないから無理。
無理でも『女王』に憧れたけど、悪魔の知り合いがいなくて、何も分からない私じゃ無理だってそんなことわかってるもん。憧れたっていいじゃない。
『戦車』でいい。『戦車』がいい。余計なことは何も考えない。操縦する『王』さまに言われたとおりに真っすぐぶつかっていく、そんなのでいい。
ホントはね。それじゃダメだって知ってる。頭が悪いよりは、賢い方がいいと思うよ。でもね、テレビで言ってたんだ。バカな子の方が可愛いって。
命令して欲しいから、たくさん、たくさん。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
昨日の、たぶん昨日の? 嬉しかったのがどこかに飛んで行っちゃった。
なにあれ、なにあれ、なに、なんで。あの人と誰かの、気配、魔力の波動、オーラなにかそういうもの。それがブワーっと大きく広がって来て……。
ああ、敵わないんだなって、分かっちゃった。
きっと、昨日言っていたレイヴェルさまだ。もう一人のオーラは。
私は悪魔じゃないから、あんな風にはできないけど、でも、きっと悪魔にしてもらってもあれ以上にはなれない。過ごした時間は私の方が多いはずなのに……なんでだろう。
やだな。やっぱりイラナイって言われちゃうのかな。下僕にはしてくれても、もう構ってくれなかったりするのかな。
怖いよ。寂しいよ。違うって言って。
あっ! あの人が来た。ゾクゾクってする魔力の波動が近くなってる。
扉が開いた瞬間、私はリアスさまに向かって駆け出した。ぎゅーっとしたい、して欲しい。
「レイヴェル。この子がバラキエルの娘の朱乃だ」
「はぁ、随分と懐かれていますわね」
今日は叩いてもらえなかった。頭は撫でてくれるけど、隣の金髪の女の子と話してる。
「ほら、朱乃。昨日話した、俺の婚約者のレイヴェルだ」
くっついたのを離されて、紹介されたのはお姫さまだった。アニメでしか見たことのないような、くるくるした髪型。動き? 所作? とにかく、何かが私とは違う。品があるっていうのかな。
「朱乃です」
「レイヴェル・フェニックスですわ」
レイヴェルさまは亜空間から取り出した扇の先で、頭を下げた私のあごを持ち上げた。それから私のあちこちを見て回って、ふうんと鼻で笑らう。
「リヴラクスさま、少し彼女と二人で話させてもらえませんか?」
「いや……」
「私の『王』さまの大事なハーレム計画に必要なことですわ」
リアスさまは、レイヴェルさまにそう言われると、うーんと唸って外に出て行っちゃった。
「さて、朱乃──」
…………。
レイヴェルさまとの話が終えて、私は少し安心していた。
ハーレム! リアスさまはたくさんの女の人を愛したいから、それにちゃんと協力すればいいんだ! でも、一番はレイヴェルさまってことを忘れたらいけない、ということらしい。
もし、一人しか愛さないってことだったら、私はきっといられなかったから、良かったんだ。
私が『戦車』の駒をもらったら、レイヴェルさまは私の先生になってくれるみたい。私の言葉遣い、立ち居振る舞いが悪いと『王』の恥になってしまうから。うん、頑張る!
「それじゃあ、ちょっと朱乃を連れて行くから」
「行ってらっしゃいませ。明日には戻って下さいね」
首輪と枷を外された私は、悪魔になるまえにすることがあると言われて、部屋の外に連れ出された。
手を繋いで、ギューッと握ってもらえて、嬉しい。
「これは転移の魔方陣だ」
魔方陣で連れていかれた先は、どこか見覚えのある場所だった。山と木々に囲まれたそこは――昔住んでいた、あの家だった。
私はドМを描くつもりだったが、気が付いたら病んでいたような気がする。
でも、原作でもがっつり依存していた気がするのでこれはこれでヨシとした。
朱乃:名字は悪魔に捨てさせられた。人間嫌い。堕天使憎い。
頭が悪いふりして甘えると構ってもらえると学習した地頭は良い子。人間関係壊滅的で、学校に行ったことは無いが、放浪中に見ず知らずの人に除霊を持ちかけて報酬を得るくらいのことはやってのける。生きるためなら泥水啜って草や虫食んで、這ってでも逃げたりもする。たぶん構って系
レイヴェル先生:『王』からハーレム管理してと頼まれ、翌日いきなり二歳年上の堕天使ハーフを任された子。まず尽くす系