公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
ここは、朱乃が昔住んでいた家だ。
その大きさは、グレモリーの屋敷というより城レベルの住処と比べると、掘っ立て小屋のようなもの。
堕天使の経済規模とその幹部が得ているであろう金銭を考えると、かなりみすぼらしく思える。前世の感覚で考えても、ちょっと辺鄙な場所過ぎだ。
といって、完全に人間社会と隔絶した山奥でもない。なんというか、中途半端だ。天界に住まう天使でもなく、人の街に紛れる悪魔でもない、堕天使らしい選択なのだろうか。
簡単に言うと、ちょっとした別荘を建ててレジャーとして過ごすのに丁度よい雰囲気。愛人を囲っておいて、息抜きに来るのにいい感じの。
「ここ……」
戸惑っている様子の朱乃の腰に手を回した。
「この辺りの土地をまとめて買っておいた。欲しがるかもしれないと思って」
場所によるのだろうが、日本の山林は結構お安い。輸入木材におされて国産木材の需要はガックリ落ち込み値段は下がっているらしい。樹木を切り出す手間と費用を考えると黒字化が難しく、放置一択になってしまう。それなのに不動産にかかる税金だけは支払う必要があるので、負動産なんて呼ばれていたりするぐらいだ。人間やっていた頃の祖父が、田舎の山を相続することになって、どうしようと悩んでいたから知っている。
ここは俺の小遣いで買えた。堕天使が権利に絡んでいるのかと思ったが、特に妨害も入らずすんなり入手出来てしまった。
「…………あ」
草が伸び放題の庭。家の見た目は完全に廃屋だ。人が住まない木造家屋などすぐダメになる。特にこんな山奥では、自然に飲み込まれていくものだ。
消滅の魔力で玄関までの草木を消し飛ばす。そうやって出来た道を、朱乃の背を押しながら進む。
鍵はかかっていないのに、なかなか開かない扉を力づくで開くと、そこにはまだ三年ほど前に起きた事件の痕跡が残されていた。
「えっ……!?」
玄関を潜らず、朱乃だけを家の中へと突き飛ばす。
そんなことをされるとは露ほども思っていなかったのか、朱乃は転がったまま呆然とした表情でこちらを見上げてきた。
「バラキエルは、本当は優しい男だったのかもしれない」
「え、なに?」
「普通に善良な夫で、妻を愛し、娘を愛していたのかもしれない」
「なに?」
膝を曲げて、目線の高さを合わせた。
「もし、本当はそうだったとしたら。どうする?」
困惑した様子の朱乃をジッと見つめ務めて平坦な声で、俺はそう言った。
「なんで……そんなこと言うの?」
「お前とその母親をちゃんと守れる場所に住まわせなかったのも、何かどうしようもない事情があったのかもしれない。お前が一人で寂しくて辛い旅をしていたときも、バラキエル本人にはどうしようもない事情があって助けに行けなかったのかもしれない」
「なんで!?」
「もし、そうだったら……どうする?」
うん、泣かせてしまった。そんな趣味はなかったつもりだが、朱乃はどうもいじめてしまいたくなる。俺はドSへと調教されているのかもしれない。
「そんなの、そんなの……」
「優しいお父さんだったら、一緒にいたいか? バラキエルのところへ帰りたいか?」
「なんで、そんなこと言うの!!?」
これから悪魔になって、一緒に楽しくエッチしようね。そんな状況から、冷たく突き放すような雰囲気を演じているつもりだ。
朱乃は立ち上がらない。転んだまま、こちらをぐちゃぐちゃの涙目で見てくる。
「俺はお前が、朱乃が欲しくて、逃がしたくなくて、バラキエルのことを悪く伝えた。朱乃が堕天使を憎むように、人間を嫌うように、そんな風にずっとして来た」
返事はない。口をぎゅっと堅く閉じて、彼女はこちらを見つめている。
「悪魔と堕天使は敵同士だ。朱乃が俺の下僕に、眷属悪魔になったら、俺はお前を堕天使と戦わせるぞ。本当は優しいお前のお父さんがそこにいたら、『殺せ!』と命令するぞ。出来るか? お前はバラキエルを殺せるか?」
「出来るよ! やれるから!」
「お前が今そう思っているのは、俺がそうなるようにしたからだ。もう一度よく思い出せ。この家で過ごした日々はどうだった? 本当にバラキエルは今の朱乃が憎んでいるような男だったか?」
「いやっ! イヤイヤイヤっ!!」
何かを拒否するように、首を何度も横に振って強く否定の言葉を吐く朱乃。
しばらくその様子を眺めて、
「ところで話はぜんぜん違うんだが、俺はこの家を壊そうと思っている。お前の思い出が残っている邪魔な家を壊して消して、その場所に新しい家を建てたいと思っている。朱乃が悪魔になって俺の眷属として過ごすようになったら、ここに別荘を建てよう。悪魔の建築技術なら一晩で建てられるが、なんなら二人で一から建ててみるのもいいかもしれない。ログハウスとかそんな感じの建てて、たまに遊びに来るんだ」
急に話を変えた。ついていけない様子の朱乃を置き去りにして続ける。
「俺も昔は人間だったから、こっちの空が恋しくなることもある。今はまだ若いから忙しいけれど、悪魔の寿命は長い。そのうち余裕ができたら、二人でそんなことをしてみるのもいいかなと、そんな風に考えていた」
「うん……」
「楽しそうだろう」
「うん……」
嫌な話ではなくなって嬉しいのか、朱乃は頑張って笑顔を浮かべようとしている。
「でも、お前はきっとそれよりも前に逃げていく」
「逃げないよ!」
「捕まえていてくれって言ってたよな? 縛ってくれ、離れられないようにしてくれって」
「そう、だよ。そうしてくれたら、ずっといるよ」
「お前が悪魔になったら、もう首輪も枷も付けない。そうすると、お前は逃げて行く」
「逃げないから……逃げない……」
「俺は酷いヤツなんだ。……レイヴェルから聞いたと思うけど、欲深くてお前たちだけでは我慢できない男なんだ。もっとたくさん女を連れてくる。そんなヤツ、朱乃は嫌だよな?」
「いや……じゃないから!」
訳が分からなくなっている感じの朱乃に、微笑みを向けた。合わせるように笑って見せようとする彼女は、実に可愛らしいと思う。
「こんなヒドイ男の所に来なくてもいい。お父さんのところでなくても、どこかにちゃんと朱乃だけを見て、朱乃のことだけを愛してくる人がいるだろう。そういう人を探しに行ったらどうだ?」
「いらないの……? リアスさまは、私のこといらないの?」
「欲しいよ。全部欲しい! 身体も、心も、魂も! 全部だ!」
「だったら、なんで!? なんでそんなこと言うの!? なるから、リアスさまのものになるって言ってるのに! なんで信じてくれないの!?」
「一年半くらいか、一年と半年、俺はお前にずっと酷いことをして来た。力づくで無理矢理さらってきて、閉じ込めて何処にも行けないようにした。鎖で繋いで、ことあるごとに叩いて、蹴った」
「でも、それは! そうしないといけない決まりだからって!」
「……あれはな、別にしなくても良かったんだ。俺は次期当主で、それなりに立場が強いから、お前に痛い思いをさせていたのは、別の考えがあったからだ」
「……え」
表情の抜けた彼女の名前を「朱乃」と優しく呼んで手で招く。おずおずと這うように寄ってきたその頬を何度も撫でた。
「お前は俺を好きにならないと生きて行けなかっただけだ。そのことを思い知らせようとしていたんだ。あの城でお前を守っているのは俺だけだ。俺の機嫌を損ねたら殺されてしまう。だから、お前は俺に好かれよう、気に入られようとして、何をされても嬉しく感じるようになっているだけだ」
分からないと、表情で語る朱乃の髪に触れ、そっと指で梳く。
「今は分からないかもしれない。でも、いつかお前はそのことに気付く。そうしたら、もう俺の下にはいられないだろう。どうにかして逃げ出すだろう、そしてお前は『はぐれ悪魔』になる」
「はぐれ悪魔」
「そう、主の下を許可なく去った転生悪魔は、『はぐれ悪魔』として処罰の対象になる。罰の内容はまず間違いなく処刑だ。捕らえるなんて面倒なことはしない。最初から殺しにかかる。一緒にアニメを観たよな、ロボットの。あれを貸してくれたシーグヴァイラの家がその辺りを取り仕切っていて、どこの家から『はぐれ悪魔』が出たから処分しろって指示が全ての悪魔に下されるんだ」
ハンカチで涙をぬぐってやる。
「お前が逃げた先の近くにいる悪魔たちが、お前を殺しにやってくるだろう。それに、『はぐれ悪魔』を出した主は一番責任が重いから、出来る限りそれを追いかけて自分で処理することが求められる」
出来るだけ優しく、包むように抱きしめた。
「俺はお前を殺したくない。お前が欲しくていろいろやってしまったけれど、最初はペットとして飼ってみようかなんて気持ちだったけれど、いつの間にか、本当に朱乃のことが好きになっていたみたいだ」
「リアスさま……」
「だから、な。俺から逃げろ、朱乃。夜になるまで、悪魔の時間になってしまうまで、俺は遠くで我慢している。その間に何処かに逃げるんだ。悪魔になる前なら『はぐれ』ではないから他の悪魔からは追われない。お前は俺がさらって来たころよりずっと強くなった。身体も大きくなった。もう一人でも生きていける。襲われても大抵の相手なら倒せるし、翼だって出したままでいて慣れたと思う。今なら、出会った頃よりずっと速く飛べるはずだ。勝てそうになかったら、飛んで逃げたらいい」
そう言ってから、俺は朱乃のあごに指を添える。
「最後に口づけをしてもいいか?」
目を閉じた朱乃の唇と、そっと触れ合わせた。
「いいか、夜になるまでだ。もし、日が落ちてもお前がここにいたら、俺はお前を悪魔にする。それからこの家を消し飛ばして、お前が俺から離れていけないように、痛めつけながら滅茶苦茶に犯してやる。──いいか、逃げるんだぞ。俺が我慢出来ている間に、遠くに遠くに行くんだ」
そう言ってから、俺は朱乃に背を向け振り返らずに歩み去り、転移魔方陣を起動した。
まぁ、本当に朱乃が逃げて行ったら、すぐに捕まえてまた監禁するのだが。
ディオドラから聞いた、ヤツがどこぞの聖女を口説き落とした時の手法を流用してみたのだが、やはりオリジナルには敵いそうもない。途中で自分でも何を言っているんだか訳が分からなくなってきていた。最後の方はかなり本音だった気もする。
俺は前世モテない男だったのだ。あんな可愛い子に経過はどうあれ、好き好き何でもしてオーラ出されたら、そんなのこっちも好きになっちまうに決まってるだろ。バカにするな、ちくしょう!
バアルの祖父さんから散々「恋愛は純血悪魔同士でするものであって、他種族は弄ぶだけにしなさい」って言われてたのになぁ。
レイヴェルとの婚約がもう少し遅く、先に朱乃とベッドインまで行っていた場合、最悪駆け落ちとかかましていたかもしれん。俺は俺が気が多い性質の男で良かったと心底思う。
もし、俺にはこの娘しかいない! みたいな性格だったら本当にそうしていた可能性がある。そうだったら……朱乃は父上に処分されていたかもしれないな。魔王の弟と堕天使幹部の娘とか、転生悪魔にしないで本気になっていたら、大スキャンダルでしかない。
兄上にも多大な迷惑を……、いや、兄上なら応援してくるかもしれないな。義姉上とは元々は敵同士だったのだから。
さて、ボディタッチに紛れて仕掛けた魔力のマーキングはと……、動いていない。
少し移動している? うろうろしているな。
飛んだ!
焦った。元の場所に戻っている。
ああーじれったい。格好つけて、日が沈むまでとか言わなければ良かった。何が「悪魔の時間」だ。アホなのか俺は。
股間が痛いだろう。ホントに。
逃げたら無理矢理スる。嫌がっても許さずにグチャグチャにしてやる。
待っていたら、朱乃の趣味に合わせて、痛めつけてやる。でもって、好みに合わせてグチャグチャにしてやる。
あれ? これ結局のところ同じなのでは……?
悶々としながら過ごすこと、数時間。
俺は自己最高速で、待ち合わせ場所へと向かった。
「ハハッ、ハハハッハハハッハ! アハハッハハ!!」
家が燃えていた。雷でも落ちたように、光の槍でもど真ん中に喰らったみたいに、壊されている。
口が三日月のように、ニタリと歪んでいるのが分かる。
なんだこれは、なんだこれは! 嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!
本当に、本当に、同志シスタスキー師匠には足を向けては寝られないな!
ああ、俺は本当に、自分で思っていた以上に、あの堕天使の娘が好きだったらしい。今、恐ろしいほどの満足感を感じている。
満足? いや、俺は全く満足していない。そうだ、これからが本番だ!
朱乃を悪魔にして、ヤる!