公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
駒王学園の女子寮は原則的には学年別だ。だが、中には原則と異なる寮棟もある。
姉妹で入寮している場合などを考慮して、一緒に過ごせるようになっている棟もあるのだ。
シグネには姉も妹もいないが、人数調整のためと説明を受け、そういった学年によらない入寮者がいる駒王学園『H棟』に入ることになった。
上は大学部の学生から下は初等部の子までいる女子寮生活。それは、これまでになかった体験をシグネに与えてくれた。
部屋はそれぞれ個室だが、各階に皆で集まるための大部屋もあり消灯時間の23時まではそこで集まってワイワイと騒いだり、自習時間に勉強を教え合ったり。
消灯時間を過ぎてもこっそり他の子の部屋に遊びに行ってみたりなど、両親が居なくなって以来、一人きりの家で寂しい思いをしていたシグネには新鮮な体験ばかりだった。
原因不明の腹痛により、シグネが体験できなかった修学旅行。それ故に生き延びてしまった彼女に転校後に訪れたのは、あるいはその修学旅行に近しい日々だったのかもしれない。
平日の朝は寮内に起床の放送が入り、身支度と自習の時間がある。その後に朝食の時間が設けられていて、あとは各自部活なりに合わせて登校だ。登校時間はほとんどかからない、というか学園の敷地内で暮らしている。
放課後は部活動(入部が推奨されているが、所属しないことも選べる)を行い、それを終え寮に帰った後は決められた夕食時間の他に自習時間と自由時間がある。
自習時間の取り組みは各人に任されていて、通常の学年別の寮棟では同級生と教え合うことも多いらしい。シグネの暮らすH棟の場合は学年が混在しているので、上級生から教わったり、下級生に教えることもある。
もう家族のいないシグネには、そのことが姉や妹が出来たように思えて嬉しかった。
あるいは、このH棟への配置はシグネの家庭環境や転校に至る事情を考慮した学園側の配慮だったのかもしれない。少なくとも、あの『ヘヴンリィ・オブ・アロハ号の悲劇』でシグネが受けた精神的なダメージを大きく和らげてくれてはいた。
高等部生の門限は夜の7時で、それがちょっと早いと不満を口にする同級生もいたが、転校から二週間を過ぎたシグネはそんな現状に概ね満足していた。今のところ部活動をしていないシグネと違って、部活のある子は部活終了後のお出かけが時間的に厳しいのだ。
少しだけの不満点は、寮の食事の量だった。シグネは大変な健啖家なので、他の子と同じくらいの量では到底満足できない。特に最近はそれが増してきていて、食べても食べてもなかなか腹が満たされないのだ。
細身の女子高校生の身体。そのどこに食べ盛りの運動部に所属する男子生徒よりも遥かに多くの食事が入っていくのか。自分でもちょっと異常だと思っているが、お腹が空いてしまうのだからどうしようもない。
他の寮生は今の量で十分満足しているし、中にはダイエットと言って残してしまう子もいる。といって、それを分けてもらうのもなんだか意地汚く思われそうで嫌だ。
そんなシグネの日課が、放課後の買い食いになったのも当然の成り行きというものだろう。
ある日の放課後、授業から解放されたシグネは早速出かけようと鞄を手に教室の扉を潜ろうとしていた。
「シグネー、今日も部活見に行かないの?」
席が近く、年度の途中で転入してきた特殊な事情持ちのシグネとも隔たりなく接してくれるクラスメイト。彼女からの声に振り向いたシグネは、「ごめん。今日もちょっと……」といつもの返事。
「また買い食い? あんたってホントによく食べるよね」
「あはは……なんだかお腹が空いて仕方がなくて」
昔からたくさん食べていたシグネだが、最近のそれは異常なレベルだ。数時間前の昼休み、学食の定食をA~Cまでの3セット全て購入して食べ尽くしたというのに、もうお腹が空いている。
「ま、いっか。いろいろあったみたいだし、そういうこともあるのかもね。じゃ、あたしは部活行くから」
シグネのそんな様子を例の海難事故以来ストレスから来るものだと判断したのか、クラスメイトはじゃあねと手を振った。
それに同じく手を振って応え、シグネは廊下を歩き始め──すぐにまた声を掛けられた。
「七滝さん、あそこ理事長いるよ」
その声の主は、また別のクラスメイトだ。
「え、どこ?」
「あそこ、ほら、あそこ歩いてる」
「あ……」
彼女が指さす先には、白い髪の背の低い女子生徒を伴って歩いている紅髪の男性の姿があった。
どこどこっとそれを聞きつけた周囲の生徒たちも、そちらに目を向ける。
「はぁ……カッコいい」
「うん……芸能人とか目じゃないよね」
「私、この学校で良かった」
「見るだけで目の保養になるわー」
周囲の声を聞きつつも、シグネの目は廊下の窓ガラスの向こうを歩く理事長と、その隣を歩いている女の子にくぎ付けだった。
「あの白い髪の子って誰だろ?」
「ああ、七滝さんは知らなかったっけ。あの子は白音ちゃんって言って、理事長先生の妹さん。この学園のマスコット的な感じの子」
「あんまり似てないような」
「ん? あ、えっと義理の妹さんなんだって。理事長夫人、えーと、理事長の奥さんの妹さん」
「理事長先生、結婚してるんだ……」
はうっと力を失い項垂れたシグネに、クラスメイトは「あー、七滝さんもか」と慣れた様子。
「七滝さんが、理事長夫人が既婚者だって知ったときの男連中みたいになってる」
この学園の男子生徒の数はまだまだ少ない。そのため男子生徒は一つのクラスに集められていて、男子のいないクラスも多い。これは体育などの男女別になる授業を考慮した生徒の配置によるものだ。
シグネのクラスは女子生徒ばかりで、実はまだこの学園の男子生徒と話したことがなかったりする。
「男の子と同じって……」
「あはは、見てみる? 理事長夫人」
「あ、うん。見たい」
クラスメイトから端末片手にたずねられたシグネは、即座にうんと頷く。
「わ、美人」
端末の画面には、綺麗な黒髪に金色の瞳をした着物姿の美女が映っていた。どこか悪戯っぽい猫のような印象を覚える女性だ。
「だよねー。見かけた男どもが、ほわーってなっちゃうのも分かるでしょ? で、そいつらがどこの誰って聞いて回って、理事長の奥さんって聞かされてさ……さっきの七滝さんみたいになるの」
はぁーと、ため息を吐いたシグネの肩をポンポンと叩くと、クラスメイトは言葉を続けた。
「そういえば話変わるけどさ、七滝さんって『H棟』の子?」
「寮の話? ならそうだけど」
「あー、やっぱり。そうだと思った」
「え、なに?」
「『H棟』には可愛い子ばっかりいるって聞いてたから、そうなのかなーって」
「そう……かな?」
言われたシグネが同じ棟で生活している面々の容姿を思い浮かべてみると、たしかにそのような気がしてくる。
「でさ、実は『H棟』には噂があって、そこのところ……って、あ、呼び出し」
生徒を呼び出す内容の校内放送、そこで告げられた名前は……なんとシグネのものだった。
「わたし、なにかやっちゃったかな?」
「あー、あれじゃない? お昼ご飯食べ過ぎだぞコラ! みたいな」
「ええー! そんなことあるわけな……いよね?」
「さぁ、どうなんだろ? とりあえず行ってみたら?」
「はぁ、うん、そうする。じゃあね」
バイバイと手を振るクラスメイトに別れを告げ、シグネは職員室に向かった。
そして、そんなやり取りから三十分ほど経過した現在、シグネは白い髪の女の子と一緒に町を歩いていた。
「白音ちゃんもたくさん食べるんだ」
「はい、でも……にいさまが過保護でなかなか出してくれないんです」
呼ばれて職員室に向かったシグネは、そこにいた校長に応接室に案内された。そして、そこで待っていた理事長からここに来てからの生活や、何か困っていること、不満なところはないかを尋ねられたのだ。
あたふたしながらそれにシグネが答え終わると、最後に理事長から頼みごとがあると白音を紹介された。
「あー、うん、でも理事長先生が心配するのも分かるわ。白音ちゃん可愛いし」
「そうですか?」
「いや、ほんとに可愛いから。小さい子を狙って写真を撮ろうとするメガネの不審者がいるんだよね」
「そうらしいです。そのせいで、こんなことを頼んでしまって……すいません」
「いいよ、いいよ。私も仲間が出来て嬉しいから」
理事長からの頼み事とは、シグネと同じく食べ歩きが好きな義理の妹と一緒に行動してくれないか? というものだった。
なんでも小さい子をつけ狙う不審者がいると近隣の公立小学校から駒王学園に連絡が入ったらしく、義妹を心配した理事長が一緒に出掛けてくれる年上の女性を探していたらしい。
「でも、私ってそんなに噂になってたんだ……」
「はい、学食の女王として私たちの間でも有名です」
「うう……でも、お腹が空いちゃうんだから仕方がないよね」
「はい……仕方がないことです」
「そうだよね!」
「そうです」
理事長は最初屈強なガードマンを護衛に付けようとしたらしいのだが──この時点で庶民とは感覚が違う──白音がそれを嫌がった。
そんなときに、どうやらシグネの噂が理事長の耳に届いたらしく、それで白羽の矢が立ったというわけだ。
「そうしたら、どこに行ってみようか?」
「そうですね、私としては……」
白音の見せた情報端末には、ガッツリ肉系のお食事処の所在地が。
「焼肉!? 白音ちゃん、ご飯前に焼肉行っちゃうの?」
「だめですか?」
「行こう!」
おやつとして焼肉を食べる。たまには、そういう日があって良い。シグネの頭には、すでにジュージューと食欲をそそる音と匂いが浮かんでいた。
「当たりでしたね」
夕方の18時半ごろ、シグネと白音は駒王学園の敷地内にある理事長邸宅付近を歩いていた。
「だったねー。値段もすごかったけど……本当に良かったの?」
大変に美味だった。さすがに普段のシグネでは寄り付こうとも思わない、高級っぽいお店だっただけのことはある。
値段も高かったのではないだろうか。
「はい、それが私に付き合っていただいている報酬ですから」
「ああ……なんだろう、私のなかでダメダメって言う声と、もっともっとっていう声がせめぎ合っているわ」
理事長からの頼み事は無報酬というわけではなかった。白音と一緒に出掛けた場合、そこでの飲み食いの料金はすべて理事長持ちなのだ。
どんなお高い店で、どれだけ食べても構わないらしい。大変魅力的だ。
でも、なんだか小さい子にタカっているようにも思えてしまって、妙な罪悪感も覚えてしまう。
「七滝先輩、欲望には素直になった方がいいですよ」
「やめて、そんな誘惑をしないで」
今日初めて見た悪戯っぽく笑う白音の声がなんだか嬉しくて、シグネはそれに釣られる形でふざけて見せた。
「食べても太らないならいいじゃないですか。にいさまは使い切れないぐらいお金を持っていますから、遠慮なく食べてあげましょう」
「うう、お金持ち」
シグネには両親の遺してくれた遺産がある。だが、それは決して限りの無いものではない。
最近の自分の食欲を考えると、ちょっと就職して稼げるようになるまでお財布の紐はもっと絞らないといけないはずなのだ。
それなのに、どんどんパクパク食べたくなってしまうのが、ここ最近のシグネの悩みでもあった。
だから、この話は渡りに船ではあるのだ。
「それでは七滝先輩、今日はありがとうございました。また、明日もお願いします」
「あ、うん。バイバイ」
白音を見送ってから、シグネは明日もまた一緒に食べに行く約束をしてしまったことに気付いた。
シグネと白音のこの関係は、次の日も、その次の日も続き、やがて周囲からもそれがいつものことと認識されるようになっていく……。
こうしてシグネが放課後に理事長の家に行くことは、周囲から見てもシグネ自身にとっても当たり前の風景になっていったのだった。
―○●○―
理事長邸宅の一室、そこに紅の髪の少年と白い髪の小柄な少女がいる。
「
「たぶんだけど、もういつ神器が覚醒してもおかしくないって感じね。もともと大食いだったらしいけど、最近は自分でも異常だって言ってたから」
「そうか、嗅ぎまわっていた堕天使連中も追い払ったことだ、
「主さんってヒドイ男よねぇ~、他の女をモノにする手伝いをさせるなんて」
白い髪の少女の姿が変わっていく、するすると背が伸び、胸が育ち、髪色が白から黒へ。
「すまないな。ただ……」
妹の姿に化けていた猫妖怪は、己の主の口を唇で塞いだ。
「んっ……言い訳は聞きたくないわ。その代わり……こっちが欲しいにゃん♡」
黒歌の手が主の股間をまさぐり撫で上げると、男の手が彼女の背に回った。
「今日のお仕事はお休みか?」
「夕方に働いたから、もういいでしょ?」
「そうだな」
男女の手が互いの性器を弄り合い始める。
「今晩は泊って行ってくれるんでしょ?」
「ああ、一晩中可愛がってやる」
「にゃぁーん♡ もう、そこ、まだダメぇ♡」
理事長と理事長夫人がベッドの上で絡み合い始めた頃、本物の白音は冥界のグレモリー城で働いていた。