※この作品はR-18です。

公爵家次期当主好色物語   作:ルペッタ好き

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「もともと、セイクリッド・ギアは身から生じたものだ。主と独立具現型の体が適合したとしても驚くことではないよ」

 ヴァーリ・ルシファー(SLASHDOG-1)


「連携や命令、それは独立具現型を操る上で当然の節理。けれど、自分の分身たるセイクリッド・ギアを真に操るとしたら、それは同調、共鳴、体だけでなく、心から、魂からひとつとなるしかないのです。セイクリッド・ギアの深奥、そこを目指して潜り込むだけ、真の理に近づけるとされているのです」
「──セイクリッド・ギアを真に操るため、一体化を目指して、真理を探ろうとすればするほど……お人形に呑み込まれそうになるのです。お人形を、姫君を操るはずの私が、実はその姫君の操り人形なのではないかと……。そう感じてしまうことが、とても怖い……」
「──独立具現型は、内に眠る力を探ろうとすればするだけ、真理に近づける分、その力に呑み込まれる可能性も高まるのです。分身は自分の一部であり、もう一人の自分。もう一人の自分は、隙あらばいつでも入れ替わろうとしてくるのですよ」

 ラヴィニア・レーニ(SLASHDOG-2)



DX-4-4 援助交際の饕餮 -SLASHDØG-

 とある筋から入手した堕天使どもの研究資料。そこには神器の種類ごとの大まかな分類が記されていた。

 その分類は非常に大雑把というか一つの神器が複数分類にまたがることも多く、一概に「この系統はこう!」と言い切れるものではない。

 たとえば、『赤龍帝の籠手』は下位にあたる『龍の手』と同様のドラゴン系・魔物封印型・状態変化系統に分類され、なおかつ神滅具でもある。資料内で用いられている「系統」と「型」の違いや区分などを理解するには堕天使の言語をより詳しく理解する必要があるのだろう。

 それでも、ローゼンクロイツやフェニックス家のコネなどから神器所有者の転生悪魔たちへの聞き取り調査をした結果、この資料がある程度は参考になりそうであることは分かった。

 

 そんな堕天使の資料によると、七滝詩求子の神器である『饕餮(トウテツ)』は、四凶系・魔物封印型・独立具現型神器ということになる。

 封印されている魔物はそのままの『饕餮』。四凶と呼ばれ恐れられた四種の不吉で強力な妖怪の中でも、特に危険度が高いとされているあらゆるものを喰らう大妖怪だ。神々をも焼き殺した二天龍の一であるドライグですら警戒を促すほどなのだから、その凶悪さは折り紙付きと言えるだろう。

 しかし、堕天使の資料にはよく分からないところが多すぎる。『饕餮』のような独立具現型神器と『赤龍帝の籠手』のような魔物封印型は別のものと記している部分もあれば、『饕餮』は魔物を封じたタイプの神器とも書かれている。

 

 魔物を封じているのなら、それは魔物封印型ではないのか? よく分からん。

 子供のこともあって神器に興味津々のローゼンクロイツにも解読させているが、彼によるとこの資料はどうも何人かの研究者の成果を持ち寄って作られた物のように思えるそうだ。そのため、研究者ごとに見解や用語の定義が異なっている可能性があると聞いた。

 まったく、手間を掛けさせてくれるものだ。

 だが、それでも今回のシグネの件では役に立つのだから良しとしようじゃないか。

 

 シグネの過去の経歴などをザっと調べてみると、彼女のこれまでの人生はあまり幸福とは言い難い。家族関係の凶事なども考えると……やはり災いを呼ぶ存在を身に宿してしまったことが関係しているのではないだろうか。

『赤龍帝の籠手』を持つ者が争乱に巻き込まれやすく『白龍皇の光翼』を持つ者とぶつかり合う宿命と言われるように、『四凶』の神器を持つ者は同じ『四凶』の神器持ちと出会いやすく災禍に巻き込まれやすいようだ。

 

 シグネがこの先まともな人としての生を過ごしていくことはまず不可能だろう。神器に宿る魔が災いを呼び寄せ、生きているだけで必ずこ(・)ち(・)ら(・)側(・)に落ちてくる。

 もしくは、身に宿した大喰らいの魔物を飢えさせ暴走を招き……神器の中の饕餮に喰われて死ぬか、だ。

 

 仮に素質に恵まれて制御に成功し続け、災いを乗り越えて行けたとしても、シグネの前にはもう一つの難関が立ちふさがっている。

 

 それは──食費だ。

 

 独立具現化した饕餮は、途轍もなくよく食べるらしい。饕餮の『饕』の字は財産を貪るの意であり、『餮』の字は食物を貪るの意なので──まさにその名の通りの力を発揮して所有者に負担をかけまくるのだ。

 現代日本では輸入により食料が豊富なので金さえあればなんとかなるが……飢饉などに襲われた地域・時代にこの『饕餮』の神器の所有者が居たとしたら、まず確実に不幸になることだろう。

 飢えた者たちの前で独立具現した饕餮に貴重な食料を貪り食わせねば、代わりに自身が喰われてしまうかもしれないのだから……。 

 

 災いを呼び寄せ、暴走しやすく、所有者の身体も財産も喰い尽くし、時勢によっては周囲からの悪感情すら招きかねない神器。聖書の神のロクでもなさを証明するような代物だ。

 悪魔の方がマシとは言わないが、俺にはそんなシグネを養うだけの財と権力、そして何より力がある。

 

 聖書の神話において人類に最も災禍を振りまく存在は他ならぬ聖書の神であるが、悪魔もまた災いを司る闇の種族。

 自らが司る災いを自分たちに向けるワケもないので、冥界/悪魔領の農業や畜産業はかなり安定している。備蓄も十分にある。なので、そうそう食い物に困ることは無い。

 加えて俺はグレモリー家の次期当主であり、個人的にも多くの財産を保有している。食料を購入する資金に困ることはないし、駒をぶち込んで眷属としたならば領地だって与えてやれる。自身の領地で農業でもさせてやれば、大食い饕餮の食糧問題も解決だ。

 

 そして、俺の持つドラゴンモテオーラとグレモリーの愛の魔力をもってすれば、饕餮を制御することも叶う見込みが十分以上にある。

 凶悪とはいっても所詮は神滅具に届かないのが『饕餮』よ。我が幾柱もの神を滅ぼした龍のオーラと、ルシファーを優に上回る我が愛欲の魔力の前にひれ伏し腹を見せるがいい。

 

 独立具現型神器によって現れる魔物の姿の分身は、主の体より生じ、主と同調する肉体を持つという。つまり……女のシグネより生れた饕餮は、女の身体を持つということだ。ならば、主であるシグネの肉体を篭絡してしまえば、そこから生じる饕餮もまた同じということ。これは俺の得意分野だ。イケルイケル。

 

 そして、独立具現型神器に封じられた魔物とその神器の所有者の魂は、他の型の神器のそれよりも遥かに一体性が高いらしい。資料を読んだ限りでは、それはユング心理学で言うところの『影=シャドウ』に近いのではないか……というのが、最近俺が与えた仕事のために心理学のおさらいを始めているローゼンクロイツの意見だ。

 ま、もともとローゼンクロイツは(本人基準で)ある程度は心理学も修めていたようだが、メンタルケアしろと命じて以来また詳しく勉強しているところらしい。神器が所有者の想いに影響されることは周知の事実なので、俺からの命令は同時にヤツの息子のためでもあったわけだな。感謝するがいい。ふはは。

 まぁ、ローゼンクロイツのことはどうでもいいとして。

 女であるシグネの心の影、魂の闇の部分、他者には見せられない汚いものだと抑圧され、倫理と反するが故に自身でも認められないドロドロとしたもの。神器の心奥に眠る魔物と一体化した、シグネの深層にある心理。

 人が表に見せる様々な言動、それらを裏側から支配する暗く濁った情と欲に満ちた心の奥底。

 

 そここそ我らが領域、悪魔の領分。

 

 独立具現型神器に宿る者は所有者にとっての『もう一人の自分』であるのなら、饕餮にとってのシグネもまた『もう一人の自分』。

 

 詩求子(トウテツ)は饕餮(シグネ)、饕餮(シグネ)は詩求子(トウテツ)。

 

 シグネを愛欲で縛り上げ、情欲に溺れさせ、心の深奥から俺のものにしてやろう。そのとき、女の身に宿った饕餮もまた俺のものとなるのだ。

 

 魔物を封じた神器持ちを眷属とするのならば、神器に宿る魔物もまた俺の下僕であり身内。美少女が傷つくのは困るので、ここはひとつ体も心も魂も全て一体化、融合してもらうとしよう。

 

 シグネはこの先にある破滅の可能性が非常に高い絶望的な人生を過ごさずに済む。

 饕餮は聖書の神に封じられ宿主が死ぬ度に転生し延々と疎まれ続ける呪われた神器の身から解放される。大いに食を貪らせてやろう。なあに、財はある。

 そして俺は美少女と怪物、この二つの心と魂が融合した『饕餮(シグネ)』という強くて美しい眷属を手に入れられるわけだ。

 

 もちろん、利と理を説いたところで気に喰わないとはねつけてくるかもしれない。だが──

 

「ククク、ハハハ、ハハハハハハハッ!」 

 

 ──女では『紫紅の龍帝』には勝てない。牝に宿ったのが運の尽き。

 神器の主も、その中身も、まとめて我が眷属に下してやる! 

 

「主さん、急に悪役笑いしてどしたの?」

 

 猫姿で膝の上に乗せ、資料を読みながら手慰みに撫でていた黒歌が呆れたように見上げてくる。

 

「おっと、口に出してしまったか。いや、思わず」

「んふふ……にゃん!」

 

 にゃんと鳴くと猫黒歌はバク転しながらボフンと煙を出して、人形態に変化した。

 膝の上に女の体重と温もり、柔らかな感触。発情した雌猫の匂いが鼻をくすぐる。彼女の両脚が俺の腰を挟んで絡みついてきた。

 

「ここ、おっきくなってる……♡」

 

 正面から猫耳の美女に抱き着かれ、胸板の上で黒歌の巨乳がぐにゅりと潰れる。くいくいと彼女の股間が、ズボンのファスナーのあたりにこすりつけられる。

 するとシグネとのこの後を想像して大きくなり始めていた俺の股間は、たちまちのうちに力強くズボン布を内側から押し上げ始めた。

 

「黒歌といると仕事が進まないな」

 

 そうつぶやいた後、俺ははだけられた着物からのぞいた黒歌の太腿に手を伸ばす。毛皮の手触りもいいが、生肌の感触はまた別格だ。

 

「にぁん……♡ やらしいさ・わ・り・か・た♡」

 

 どうやら色々と考えるのはしばらく後になりそうだ。

 

 

 

 

 

 ―○●○―

 

 

 

 

 

『虚蝉(うつせみ)機関』本部。

 日本のいずこかの山中に、『百鬼(なきり)』、『櫛橋(くしはし)』、『真羅(しんら)』、『童門(どうもん)』、『姫島(ひめじま)』ら『五大宗家』と呼ばれる一族から追放された者たちが築いた隠されたアジトが存在している。

 そのアジトの一角、無数の培養槽が並ぶ異様な空間で、三つ揃いの背広を着た初老の男がつぶやきをこぼした。

 

「困ったことになったものだ」

 

 精悍な顔をした大柄な男だ。太っているわけではなく、肩幅が広く鍛え上げた身体つきをしている。

 男の名は、姫島唐棣(はねず)。『虚蟬機関』を束ねる立場にある者だ。

 

「黄龍、青龍、白虎、玄武……朱雀。五大宗家のバケモノに対抗するための四凶だったというのに」

 

 唐棣の目が培養槽に向けられた。

 培養槽はその横に設置されたカプセルと繋がっており、培養槽の中を満たす緑色の液体には中年の男女、あるいは若者が浮かんでいる。そして、その培養槽と繋がる横のカプセル内には、世間で『ヘヴンリィ・オブ・アロハ号海難事故』によって死亡したとされている陵空高校の生徒たちが納められていた。

 彼ら彼女らは『ウツセミ』。

 独立具現型の人工的なセイクリッド・ギアの試験体。五大宗家に生まれながら、その家々が求める力──神仏の加護などの素質──を得られなかったがために不遇な扱いを受け、罵られ、追われた者たちがその恨みを晴らそうと企てた『四凶計画』のための実験台たちだ。

 

「室長」

 

 カプセルに眠る『ウツセミ』たちを前に考えを巡らす唐棣。そんな彼の下に駆け寄ってくる影があった。

 

「計久(かずひさ)か。どうした?」

 

 自身を探していたらしい二十代後半の男、『虚蝉機関』の同胞である童門計久に唐棣は静かに目を向ける。

 

「『饕餮』への手出しを禁ずるってのは、どういうことです!?」

「言葉通りだ。アレはもはや我らが手を出してはならない場所にある」

 

『四凶計画』。五大宗家を見返すためには、宗家が有する聖獣たちを退ける必要がある。そのための戦力として、『虚蟬機関』は四凶と呼ばれる怪物たちに目を付けた。

 それらの怪物が封じられた独立具現型セイクリッド・ギアの力を手に入れ、その力を以て宗家のバケモノたちを討ち果たさんがために。

 そのために、そのためだけに、唐棣たちは四凶のセイクリッド・ギアを宿した者たちが集っていた学び舎の生徒たちを豪華客船ごと海に沈めて手中におさめようとしたのだ。

 

「しかし、『饕餮』の、『四凶』最強の力が無くては……!」

「アレを……『紫紅の龍帝』とその背後にある勢力を敵に回して『饕餮』を奪えるだけの戦力があるのならば、『四凶』がなくとも我らは五大宗家を潰せるだろう」

 

 しかし、その『四凶計画』は始まりの時点でのミスにより、大幅な変更を余儀なくされていた。

 肝心要の『四凶』の神器を宿した者たちは、こちらの企てを察知したのだろう神器が起こした体調不良により修学旅行を欠席。『堕天使の一団(グリゴリ)』の妨害もあってそれを知らずにいた『虚蝉機関』は、彼らの同級生だけを入手する形になってしまった。

 回収し損ねた『生き残りの生徒たち』は、それぞれがバラバラに転校していくことに。

 

「それほど、ですか。室長がそこまでおっしゃるほどに、その悪魔は……」

 

 転校していった生徒たちの中で、最も問題となったのが最強の四凶『饕餮』の所有者と目される七滝詩求子だ。

 彼女は『虚蝉機関』や、おそらく有っただろう堕天使たちの介入を超えて、よりにもよって悪魔の公爵家が運営する学園に転校してしまった。それも学園敷地内にある寮住まいの生徒として。

 悪魔は、そして駒王学園理事長リヴラクス・グレモリーは、七滝詩求子が神器所有者であることに気付いていた。おそらくだが、『悪魔の駒』を用いて眷属にでもするつもりだろう。ここ数百年、悪魔たちは神器を所有する人間を下僕とすることに熱心だ。

 

「あれは龍だ。我らが鼠とした場合のな」

 

 同じ姫島から追われた者がリヴラクス・グレモリーの下にいる縁をたどり、唐棣は先日彼と面会してきた。悪魔との取引という体裁でだ。

 そして、相対して分かった。

 

 勝てない、と。

 

 戦闘経験、修練に費やした時間、死線を潜り抜けた回数。それらは唐棣の方が圧倒的に勝っているだろう。

 だが、どれほど鍛え上げ研ぎ澄まそうとも、鼠では龍に勝てない。

 唐棣にとっては、五大宗家の聖獣ですらバケモノと呼ぶにふさわしい脅威だ。

 だが、『紫紅の龍帝』は元々の悪魔としての力だけで神すら屠れるだろう強大な純血悪魔。それが神を滅ぼす力の具現までも手にしているというバケモノの中のバケモノ。

 五大宗家の総力すら上回りかねない龍の帝王を敵に回すことなどできようはずがない。あの悪魔の龍の手にかかれば、宗家の聖獣程度一捻りだろう。

 

「では、どうすると……?」

「先に伝えた通り、計画を変更する」

 

『饕餮』には手を出さないが、残る三凶にはこれまで通り『ウツセミ』たちをけしかけ続け入手を試みる。

 

「あの《狗》を?」

「そうだ。お前が殺されかけたあの《狗》を禍々しき刃に仕立て上げる。幾瀬鳶雄(いくせとびお)は五大宗家『姫島』より出でた黒き穢れ。そして、それを保護する堕天使たちと五大宗家の関係は良好とは言い難い」

 

 童門計久は嫌らしい笑みをカプセルと培養槽の中に眠る者たちに向けた。

 

「ならば、これらは《狗》の餌ですか」

「そうだな。幸いと言っていいのかは分からないが、龍帝との取引は上手く行った。現世、この人間の世界には存在しない冥界の強力な魔物も入手できるだろう」

 

 悪魔との取引によって得た強力な魔物たち。それを用いて『ウツセミ』を強化し、《狗》に喰わせるのだ。

 

 

 

 

 

 ―○●○―

 

 

 

 

 

 放課後。

 いつものようにシグネが理事長の邸宅へと白音を迎えに行くと、白い髪の小柄な友達ではなく紅色の髪の青年が玄関に現れた。

 紅髪紫瞳の男性、駒王学園理事長リヴラクス・グレモリーの人とは思えないほどの美形っぷりと、なんだかよく分からないがくらりと来てしまう雰囲気にシグネの頬に瞬時に紅がさす。

 

「あ……理事長先生。こ、こんにちわ」

「ああ、こんにちは七滝。せっかく来てもらってすまないが、実は白音に急用が出来てしまってな」

 

 サマージャケットにTシャツ。いつもと違う普段着らしき理事長が、シグネを見下ろしながらジッと瞳を覗き込んでくる。

 そうされるとなんだか気持ちがふわふわとしてしまって、シグネは少しの間言われた内容が頭に入ってこなかった。

 

「…………え、あ……そう、です、か」

 

 ようやく返した言葉もしどろもどろになってしまい、そのことが恥ずかしくなって顔が赤くなってしまう。

 もちろん残念な気持ちもある。最近のシグネの一番の楽しみは放課後に、新しく出来た年下の友達とお出かけすることだったのだから。

 でも、それ以上に……理事長と話せたことが嬉しく思えてしまっていた。

 

「それでどうだろう。お詫びと言ってはなんだが、今日は俺と出かけないか?」

「へ? え、あ、えっと……」

 

 憧れの──たぶん、ひとめぼれだった──相手からの突然の申し出に、シグネの頭の中はぐるぐると空回りしてしまい上手く言葉が出てこない。

 

「俺ではダメだったか?」

 

 目の前に理事長の手が差し出されていた。いつの間にか、二人の間にあった距離が詰められている。

 

「い、いえ……その……はい」

 

 思わずシグネがその手を取ると、理事長はふっと微かに嬉しそうな笑みを見せ彼女を自動車へと誘った。

 あれよあれよという間にのせられた自動車の運転は、理事長専属の運転手がしている。後部座席に理事長と並んで座る形になったシグネは何故だか無性にスカートが気になってしまい、その裾をしきりに指でつまんではいじってしまう。

 そんなシグネの服装は、シンプルな白いシャツと膝上丈のチェック柄スカートにスニーカー。と、少しだけどこかの学校の制服のようにも見える格好だ。

 

「普段、白音とはどんな場所に行っているんだ? あの子はなかなか俺に自分のことを教えてくれなくてな」

「あー、えっと、いろいろです。ケーキだったり、ラーメンの日もあったり、その……」

 

 以前、駒王学園を見学に来た時に乗った車とは異なる、だがやはり高級そうな車内での会話は白音のことが中心だった。

 

(ちょっと、うらやましいかな)

 

 二人の共通の話題となると、やはりどちらも知っている相手の話に自然となる。

 ただ、理事長が義理の妹のことを気にかけていることも本当のようで……。もう家族のいないシグネは、心配してくれる相手がいる白音をうらやましく思った。

 

「どうかしたのか?」

 

 知らず俯いてしまっていたのか、シグネの様子を気にかけた理事長が下から覗き込むようにして声をかけてくる。

 

(ふわわっ! なんだか、いい匂いがするわ。それに近い、近い!)

 

 互いの背丈の関係なのか、俯くシグネに顔を寄せて来た理事長。そのことにシグネの心臓がドキドキと高鳴ってしまう。

 

「なんでも、なんでも……ないです」

 

 それに、なんだか嬉しい。胸のドキドキとは別の感情がシグネの中に生まれていた。

 

「ならいいが、ああ……ところで、今日は何処に行きたい? 何処と言うよりも、何が食べたいか、か?」

 

 まだ見学の時のことを引っ張られるの!? とシグネは一瞬むくれたけれど、よくよく考えなくても彼女の大食いは既に周知の事実。シグネはもう学園の有名人だ。

 

「あ、うー……せんせいのいじわる」

 

 理事長が甘やかすような笑みを浮かべながらからかってくるので、シグネもついつい小さい子のような甘えた声と仕草を返してしまう。

 それを口にしてしまってから、少し馴れ馴れし過ぎたかなとシグネは思った。

 けれど、理事長は特に気にしていない様子で、

 

「ほら、どこに行きたいんだ? とりあえず走らせているが特に目的地は決めていないんだ。白音と出かけて印象に残っているところでいいから」

「えっと……あっ! じゃあ、焼肉でッ!」

 

 車が無駄に走っていると急かされて、慌てたシグネは最初に白音と出かけた日のことを思い出してついそう言ってしまった。

 

「焼肉か、分かった。──聞こえたな」

「はい」

 

 あ、ああっとシグネが口を開きかけていると、止める間もなく運転手はいつぞやの高級焼き肉店へとハンドルを切ってしまう。

 

(焼き肉は食べたいけど……ああっ、でもでも、臭いがついちゃうし、お口の中臭くなっちゃ……って、私、何を考えてるの。先生には……あの人が、いるのに)

 

 自動車の後部座席、隣に座る理事長をチラチラと横目で伺うシグネ。彼女の視線はいつの間にか、理事長の端正な横顔や、色気のある声を紡ぐ口元、Tシャツの上からでも見て取れる細身だが引き締まった彼の身体付きをなぞってしまっていた。

 

 






SLASHDØG組はシリアス風味ですが、そんなこと関係ない理事長先生はJKと焼き肉デートして、その後にホテルに連れ込む気満々の平常運転。





SLASHDØGの独立具現型神器って、原作者さんがポケモン好きのようなのでそこからかなと思っていたのですが、よくよく設定を読んでみると「ペルソナ」っぽい。

シグネ「トウテツ!」

みたいな。

なので、P4っぽい感じがあるかもしれませんが、ペルソナシリーズの用語の元ネタになっているユング心理学はこの世界にも普通にあるってことで、「シャドウ」とかの言葉が出て来てもそっち由来なのでクロスオーバーってわけではないです。

ちなみに私はD×Dの女性キャラの中では、ニュクス神がかなり好きです。
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