※この作品はR-18です。

公爵家次期当主好色物語   作:ルペッタ好き

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2-6 初代バアルとビッグネーム

人は、その妻エバを知った。彼女は身ごもってカインを産み、「私は、主によって一人の男子を得た」と言った。

彼女はまた、その弟アベルを産んだ。アベルは羊を飼う者となり、カインは大地を耕す者となった。

しばらく時が過ぎて、カインは大地の実りを主への捧げものとして持ってきた。

アベルもまた、自分の羊の初子の中から、肥えたものを持ってきた。主はアベルとその捧げものに目を留められた。

しかし、カインとその捧げものには目を留められなかった。それでカインは激しく怒り、顔を伏せた。

主はカインに言われた。「なぜ、あなたは怒っているのか。なぜ顔を伏せているのか。もしあなたが良いことをしているのなら、受け入れられる。しかし、もし良いことをしていないのであれば、戸口で罪が待ち伏せている。罪はあなたを恋い慕うが、あなたはそれを治めなければならない」

カインは弟アベルを誘い出した。二人が野にいたとき、カインは弟アベルに襲い掛かって殺した。

主はカインに言われた。「あなたの弟アベルはどこにいるのか」カインは言った。「私は知りません。私は弟の番人なのでしょうか」

 

(旧約聖書「創世記」より)

 

 聖書の神話に属する悪魔なんぞをやっていると、その内容が目に触れる機会もある。頭痛をこらえてそれらに取り組まねばならないときもあるのだ。

 さて、この聖書なのだが、様々な物語や歴史的事実などが入り混じって形成されていったという考えがある。実際のところがどうだったのかなんぞは神学者にでも任せておけば良いのだが、有名な天地創造から楽園追放を経て、カインとアベルの物語については、ちょっと面白い意見を聞いたことがある。

 実はこれ、隠喩を用いているが、人間の成長について書いているのではないか? という考えだ。

 楽園の中で男と女は知恵の実を食べて、男女の差があることを知る。これはつまり思春期についての記述だというのだ。それまで気にせずに一緒にお風呂に入っていたのに、急に恥ずかしくなって下着を身に着けるようになるのだ。でもって、女を誘惑した蛇というのは、まぁ形状から想像がつくと思うが、つまり男のアレのメタファーなんだとか。

 そうして、男と女がヤルことをヤレば、まぁ子供が出来る。だから女は産みの苦しみを知り、男は労働をして家族を食わしていかなければならなくなると。それまでは親の庇護下の楽園にいたんだけどな。

 

 で、カインとアベルになるのだが、農耕民族と狩猟民族がどうこうといった歴史案件を飛ばして考察する。さらにこの中の「主」を「親」と読み替えてみよう。

 ついでにカインとアベルの想定する年齢をぐっと下げてみるのだ。そうするとどうなるか──それまで親の愛情を独占していた長男だったが、弟が生まれたことで親がそちらばかり構うようになってしまい、嫉妬して弟に暴力を振るってしまった。と読めるのだ。

 つまり、ここは子育ての注意事項の話なのだな。どこの誰の考えだったか忘れたが、こんな理解をしてみると、案外身近に感じられるかもしれない。

 

 たとえば、弟の素質は称賛しても、兄のことは無視して辺境に追いやってしまう父親だとか。そんな人が親戚に一人くらい居たりするものだ。

 

 

 

「バアル領特産のリンゴを使ったパイケーキだ」

 

 現在、俺とレイヴェルは初代バアルであるゼクラム・バアルさまからパイケーキを振舞っていただいている。

 この人の料理、ほんと美味いんだよな。ソーナに教育を施してくれないだろうか。無理か。いろんな意味で。

 

「い、頂きますわ」

 

 隣の席のレイヴェルの緊張指数が半端ない。ガッチガチになっている。

 まぁ、仕方がない。実質的な大王派のトップだからなこの祖父さん。政治的な影響力では、兄上どころか四大魔王全員を合わせたそれと張り合える方だ。

 さすがに初代は年季が違う。血縁も多いし、というか俺も兄上もこの方の子孫だし。

 魔王派トップも自身の子孫、大王派も自身の子孫。どっちが勝っても、そのままやり合っていても、結局このゼクラム祖父さんにとっては、己の血を継ぐ者の勝利である。もう完全に勝ち組じゃないか。

 そりゃ余裕あるわ。

 それにおそらくだが、初代グレモリーさまはこの方にとっては妹のような感じになるのではないだろうか。たぶん、グレモリーの家訓やらも知っていることだろう。

 こうやって親し気に振舞われると、俺は簡単に懐くぞ! 何をやるにしても、「いや、祖父さんには世話になってるしな」と考慮してしまうのだ。俺をマグダランに近づけたのもこの方の差配だったようだし……。おのれ、いいようにあしらわれてしまっているじゃないか……でも、腹は立たないし、嫌いにもなれないというね。

 祖父さんの方もそれなりに融通利かせてくれるしな。やはり当代の叔父上とでは格が違うのだろう。

 

 バアル家とグレモリー家は実は結構縁が深い。現在でこそ当代の叔父上とうちの母上が不仲だったり、魔王派筆頭の兄上と大王派のトップである大王家ということで仲が悪く見えるかもしれない。

 だが、古くから共有している縄張りなどがあったりするようなので、たぶん昔はそこそこに良い付き合いだったのだろう。

 なので、このゼクラム祖父さんはグレモリーの扱いを心得ているというワケだ。

 

 情愛深く、身内に甘いことが売りのグレモリーさんは、親しくされると裏切れないし酷いことが出来なくなってしまうのだ。家訓的にもね。

 逆にそんな風に考えていた相手から裏切られたりすると、情愛が憤怒と憎しみに、甘さが苛烈さに転換したりしそうだが。少なくとも俺はそんな感じになりそうな気がする。

 こう、「よくも裏切ってくれたな、絶対に許さん! その行動、万死に値する!」とかそんなことを言って、何もかも灰燼に帰した後で泣いてしまいそうだ。

 

「んっ、んぐっ」

 

 別にエロい声ではない。レイヴェルが喉にパイケーキを詰まらせただけである。ほんとうに滅茶苦茶緊張しているな。

 失礼を働いたと頭を下げるレイヴェルに、

 

「よいよい。レイヴェル姫もそう固くならずとも──」

「いや、なかなか厳しいですよ。それは」

 

 レイヴェルの背に手を添えながらそう言うと、祖父さんは小さく笑みを浮かべた。

 

「ふむ、仲が良いようで結構。思えば、私は現当主の相手の選考を誤ったのかもしれんな」

「叔父上のですか」

「ミスラにはすまないことをした。そう思ってはいるのだ」

 

 ゼクラムの祖父さんは、『悪魔』にはそれなりの敬意を払う。ここで言う『悪魔』とは、古から続く上級悪魔、いわゆる純血悪魔のことだ。それ以外の悪魔、『悪魔の駒』で悪魔種へと転生した転生悪魔や、下級・中級の悪魔はこの方の中では真の『悪魔』ではない。あくまでも『眷属』であり、下僕、真なる『悪魔』に仕える奉仕種族の『転生者』と『平民』なのだ。

 まぁ、俺もその考えに異論はない。転生悪魔はそもそも下僕として扱うことを了承させた上で転生させるのが本来の形であるし、下級悪魔は純血種と比べて圧倒的に弱いので交配可能で姿が似ているだけの別種族なのだろう。

 ドラゴンなんかだと、種族差が大きいしな。下位の種族のドラゴンが、強大な上位種族の龍に庇護を求めて仕えているなんて普通の話らしい。タンニーン殿のところも似たようなものだろう。面倒を見てもらって居なかったら、滅んでいた種族なのだから。

 そして、下級悪魔の『平民』は人間よりは基本的に種族としてのスペックが高いくせに、戦意というものが欠けているように思える。

 魔獣に襲われても逃げ惑うばかりで、立ち向かう者のなんと少ないことか。お前ら、腐っても悪魔の端くれじゃないの? 平和な日本の一般市民みたいな行動しやがって、と思ってしまうのだ。まるで、前世の俺のようでな。 

 軍に入るヤツは見所がある。だが、それ以外の兄上たちが甘いことで調子に乗って「弱さを盾」に権利を主張する『平民』の多いこと多いこと。うんざりするね。

 最悪でも、『悪魔』は何処へ行っても生活を維持できる。断絶した元七十二柱の家系の末裔が、人間世界でよろしくやっていたなんて時々聞く話だ。しかし、『平民』は違う。庇護者がいなければ生存が難しい生き物なのだ。

 人間じゃないんだぞ! お前らは、強さがすべての異形だろうが! それが助けてもらって当然、公平な扱いをしてくれないと嫌だなんて抜かしやがって! 

 そんなことを言いながら、俺の従兄を「魔力が少なくて弱い」なんて理由で甚振りやがって、くそが。ミスラさんに止められなければ、全員消し飛ばしてやったものを……! 

 

「リアス」

「申し訳ありません。ついつい嫌なことを思い出してしまいまして」

 

 アイツら、頭悪いだろ。当時のサイラオーグがいくら弱そうに思えても、親が出てきたら皆殺し確定だったんだぞ、ホント。

 

「お前のその癖は治らんな。いや、『憤怒』を司るには丁度良いのかもしれんが」

「『憤怒』ですか?」

「なに、まだお前が気にすることではない。まずは、グレモリーの当主を勤め上げることを考えておけばいい。その先の話だ」

 

 正直気になるが、「気にするな」と言われてはこれ以上聞けないか。

 しばしの歓談の後、一通の手紙を取り出した。

 

「アスタロト家の次期当主、ディオドラからのものです……ご配慮いただければありがたいのですが」

「ふむ、受け取ろう」

 

 文面に目を通したゼクラムの祖父さんは……豪快に笑いだした。

 

「ははははははは、いやはや、若いというのは恐ろしいな。正妻にというのは、少々問題だが……いいだろう。ふふ、しかしこれは、むしろ称賛を浴びるかもしれんな」

「おや、それほど面白い内容でしたか?」

「ん? お前にも協力を仰ぐと書かれているが」

「はい、それは承知していますが、そこまでの内容だったかと」

 

 ディオドラの趣味の延長だよな? 聖女・シスター好きが高じて純血悪魔じゃ勃たんくなって、転生させた聖女を妻にしたくなっちゃったという。

『悪魔』にこだわるこの方が、そこまで愉快になるような話だったか? 

 

「読んでみなさい」

「はい……、は? はぁっ!? ……ホントかこれっ!」

 

 マジかッ! スゲーなアイツ、聖女って、えー、マジか! すっげ、こんなの見つけて来たのかよ! 

 

「リアスさま。そのお話は私が伺っても良いものでしょうか? 正直気になるのですけれど」

 

 ゼクラム祖父さんが頷いているので、レイヴェルにも内容の一部を見せた。

 

「……は!? え、まさか、ここまでの大物を……ジャンヌ・ダルクの魂を持った転生者なんて!」

「ある意味では、私よりも有名な存在だろうな」

 

 祖父さんの言うとおりだ。前世の俺は、オタク故にある程度オカルトチックな知識もあったが、正直なところ七十二柱の名前なんて幾つかしか知らなかった。

 そんな俺でも、聖処女ジャンヌ・ダルクの名前は知っていた。映画にもなっていたし、オタク界隈ではもういろんなところで使われていた名前だ。聖女としての知名度ならば、あの『聖母マリア』の次くらいになるのではないだろうか? いや、言い過ぎか? でも、俺的にはそれくらいになる。

 今までのディオドラの趣味とは異なる。大人しめの純粋な子が好きだとか言っていたのに、まさかの戦争する聖女か。

 でも、分かる! 興奮するのは、ものすごく理解できる。有名人だもの。名前聞いて、その対象にいやらしいことをすることを想像すると、うん……実際にデキル相手として存在しているとしたら、しかもヤれちゃいそうなら、そりゃ滾るわ。

 俺でも欲しくなってしまう。まぁ、さすがに友人の見つけてきた相手を取ったりはしないが。俺、グレモリーだしね。

 

 いや、とんでもないの持って来たなアイツ。すごいわ。どこから探し出して来たんだって、そりゃ教会系か……。

 

 俺の手が届きそうな位置にいる有名人って、誰かいるか? うーん、一応あの人は芸能人か。番組持ってるし。いや、でもさすがに立場的にマズそうだな。うーん。

 

「ジャンヌ・ダルクを悪魔に堕とすか……なかなか愉快な話を聞いた。お前たちがそういった者であるのなら、あれを話しても問題なさそうだ」

 

「リ(・)ヴ(・)ラ(・)ク(・)ス(・)」と呼ばれたので姿勢を正す。

 

「お前にある縄張りを任せたいと考えている。もちろんグレモリー卿にも話を通すが、場所は、日本の駒王町という少し前までバアルとグレモリーの共同地域となっている土地だ」

「駒王町……日本の土地を俺の縄張りに、ですか」

「ああ、前世は日本人だったのだろう?」

「ご配慮いただきありがとうございます」

 

 ヨーロッパの土地でやってくれ、と言われるよりはかなり楽だ。風習などもなじみ深いものになるし、なにより故郷だからな。

 

「ただ、その土地では前任者が問題を起こしているのだ。それで──」

 

 数年ほど前、駒王町をバアル家で取り仕切っていた時期。縄張り運営を経験したいという上級悪魔の女性に、土地を貸し与えたことがあったそうだ。

 しばらくの間、その運営は順調で特に大きな問題もなければ功績もない、どこにでもある悪魔の縄張りの風情だったらしい。

 だが、その悪魔女性は教会の男と恋仲になってしまった。それも、ディオドラのように悪魔側に堕とすといった形ではなく、だ。

 

「それは、また……相手の男はそのまま教会に居続けたのですか?」

 

 悪魔相手にガチ恋しておいて、そのまま教会に所属したままとかないよな? ドロップアウト組になりそうなものだが、教義的に考えて。

 いや、ディオドラに操られて内部情報を流してくれている協力者のような形ならば、あり得るか? 

 

「教会側にもそのことを知られた。皮肉な話だが、『悪魔と教会の者が、双方ともに真剣な恋愛をするなど認められない』この見解は我々と教会側とで一致したのだ」

 

 教会も悪魔も、それぞれの立場で二人を説得したが、引き離すことは出来なかった。

 そうして体裁を保つため、教会は教会側で、悪魔は悪魔側で、許されざる存在として処分したのだそうだ。

 

「その、悪魔の女性は連れもどせなかったのですか? 男もさらってきて百年ほど二人で幽閉でもしておけば、勝手に終わったのでは?」

 

 基本的に、上級悪魔の女性は美女か美少女だ。殺してしまうなんて、もったいない。いらないなら俺にくれ、と言いたいところだ。男はどうでもいいが、マジ恋モードでは話も聞かんとなると、人間の寿命が尽きるまで幽閉などで良かった気がしなくもない。男の年老いて行く姿を見て、女性が眷属化しようとする可能性もある。相手が転生悪魔になってしまえば、それはそれで問題も少なくなるだろう。

 

「教会側との政治の問題だったのだ」

「政治が絡んではなんとも言えませんが、純血の悪魔が減ってしまったのは悲しいことですね」

「ああ、まったくその通りだ」

「共同地をバアル側が扱っている際に生じた問題だ。できれば、後任はバアルの血を引く者に任せたい。だが、グレモリー家にも配慮が必要になる。そこで、その土地に関わるバアル側の権利を放棄しようと考えているのだ」

 

 ふむ、過去に問題のあった土地をバアル家の血筋の者で処理しておきたい。しかし迷惑のかかるグレモリーにも一定の配慮が必要。それで、俺になるわけか。

 

「正直、前任者の時に問題が起きていたとして、それは俺に何か関係があるのかと……そう考えてしまうのですが」

「そうだな。お前の評価には関係のない話だ。だが、バアルの面子も守らねばならない」

 

 あの土地ってー、バアル家の管理の時になんかやらかしちゃったらしいよー。えー、やだー、かっこわるーい。

 などと言われないようにバアル家ゆかりの者を置いて、

 あそこってー、あのリヴラクスさまの縄張りらしいよー、えー、そうなんだー、すっごーい。

 とか言われるようにしないといけないのか。何がすっごーいなのか自分でもよく分からないが。前任者が問題行動起こしていても、後任の営業担当には関係ないよね? え、違うのかな? 

 

「その件、一般の人間に何か被害は出ているのですか?」

「いや、我々と教会側だけで済んでいることだ」

「では、現在その土地の教会勢力は?」

「あちらも一旦手を引いたようだ。今はどちらもいない空白地帯となっている」

「教会勢力がいたということは、教会の建物はあるのですか?」

「ああ、今は誰もいないはずだが」

 

 ほう、空き教会。廃教会なのかな? 興味深い。

 こう欠けた十字架のある礼拝堂で、……そうだな朱乃がいいか。礼拝堂で、堕天使と悪魔の翼を広げて、SМプレイなんてそそるかもしれない。

 

「その教会の建物と土地の人間の法律上の権利ですが、こちらで入手できますかね?」

「ふむ……、教会側既に手を引いている建物だが、どうする気かね?」

「いえ、もし教会勢力がその建物に戻って来ようとしても、人間の法律で追い出してやろうかと思いまして」

 

 教会の戦士共は人間なので、おまわりさんには敵わないのだ。国家権力に屈するがいい。

 

「試してはみよう」

「そういうことでしたら、お受けいたします。父上には……」

「私から要請しておこう」

 

 その後、その駒王町についての話を少しばかり詳しく聞いた。

 

「さて、リ(・)ア(・)ス(・)に(・)、私からから頼みたいことがある。レイヴェル姫は──少々席を外してもらえないかね?」

「は、はい」

 

 慌てて退出するレイヴェルに、部屋の前に待機していた使用人が付く。

 レイヴェルには聞かせられないこととなると、本当にバアル家の内部の話か。俺が聞いて良い話なのやら、いや、頼まれてしまっているワケだが。

 

「サイラオーグとミスラのことだよ」

「ええ」

「どうやらサイラオーグが闘気などの技術を身につけ始めたようでね。マグダランを打ち負かし、次期当主の座を得ようなどと考えているのではないか、と」

 

 まぁ、辺境に放置していると言っても、監視くらいは付けているだろうな。ちなみに俺は、できればこの件には関わりたくない。

 他家の後継問題なんて、絶対ろくなことにならないだろ。といって、俺のグレモリー家後継者指名にはバアル家との関係性が重要視されているかもしれないので、なんともかんとも。

 

「本人から、そのような話を聞いたことはありますよ。ですが、まだ中級悪魔に勝てるようになった程度ですよ?」

 

 現状なら、マグダランの方が強い。これは確かだ。ただ、あの筋肉はヤバイね。

 

「──大王バアルは今も昔もこれからも、滅びの魔力を持った者が、宗家の跡取りでなければならない」

「それで、何をしろと?」

「現当主に、あの親子との縁切りを認めさせた。あとはあちらが了承すれば円満に解決する」

「叔父上が、サイラオーグを外に出すことを認めたのですか」

 

 元々ミスラさんとサイラオーグは、バアル家での立場を失った際に親子ともども実家のウァプラ家に戻ろうとしていた。だが、それを叔父上が「バアルの恥を外に出すわけにはいかん」とサイラオーグを手放さなかったので、息子を守るためにとミスラさんもバアル家に残ったのだ。

 たしか、グレモリー家で引き取ろうかなんて話もあったはずだが、その際も「嫁に出た女が口を出すな!」とかなんとか母上と叔父上でやり合っていた覚えがある。

 

「ウァプラをなだめておく必要がある。いまさらだが、やらないよりは良いだろう」

「力を付けて来てから追い出すとなると、サイラオーグはともかく叔母上はいい気がしないのでは?」

「サイラオーグが当主になっても、苦労するだけなのは目に見えている。違うかね?」

「それは理解できます」

 

 一万年、繋いできたのが各家の魔力の特性だ。グレモリー家はリベラル派なんて言われているが、その父上にしてもやはりグレモリーの特性を引き継げたと大層な喜びようだった。

 よりこだわりの強いバアル家ならば、存命の先代やそのまた前の御歴々が良い顔をするはずがない。何より、この目の前の初代さまがそう言っている。

 なんだろう、こう良いたとえが思いつかないが、代々剣術の流派を伝えてきた名門道場の跡取りに、剣の才能がないと追い出された長男がボクシングの世界チャンピオンになって戻って来て「家督寄こせ」と言っているような感じだろうか。 

 

「私の勘だが、サイラオーグは強くなるだろう。だが──」

「──大王バアルは今も昔もこれからも、滅びの魔力を持った者が、宗家の跡取りでなければならない。ですか」

「私やアレが言っても、ミスラは頷かんだろう」

「それで、交流のある俺ですか。一応、やってはみますが……上手くいかなくても叱らないでくださいよ」

 

 さて、悪魔である以上、何事もタダで引き受けてはいかん。ディオドラの件は、バアル家のごたごたに突っ込む対価としては低すぎる。

 ああ、よし。こうしよう。それがいい。ミスラさんには叔父上と別れたくて仕方がなくなってもらえばいいのだ。

 

「ゼクラムの祖父さん、ミスラさんですけど……頂いてしまっても構いませんか? 離婚前からになりますが」

 

 バアルの始祖殿は、俺の問いかけにニタリと笑って頷いてくれた。

 やっぱな、齢一万を越えてなお精力的なジジイなんて、助平にきまってるんだよな。

 

 

 

 

 ―○●○―

 

 

 

 

 後日、学校が普通にある日。俺はバアル領の辺境を冥界フタコブラクダのゴポリンに乗って進んでいた。本日の装いは乗騎に合わせたアラビアン貴族スタイルだ。

 

 目的地は『平民』の学校。貴族の学校に行かせてもらえなかった、サイラオーグが通っているところである。

 授業時間が終わったのか、学校から出てくる下級悪魔たちが俺を見かけて顔を伏せて逃げるように去っていく。

 魔力のオーラで分かるらしいんだよね、格の違いが。いや、見た目金持ちそうだからか? それともラクダに乗っているからだろうか? どれにしても、平民から見たら完全にヤバイ奴である。うん、全部っぽいな。

 

「リアスか……」

「やあ、サイラオーグ」

 

 呆れたような目で見上げてくる従兄に、軽い挨拶をしておく。

 上から見下ろすのが個人的なポイントだ。サイラオーグは背が高いので、ゴポリンに乗っていないと自然にこれが出来ない。

 

「今日も、持ってきてくれたのか」

「ああ、母上から預かってきた」

「すまない、いつも助かる。しかし、今回は急だったな、母上が少し困るかもしれない」

「ん? 今日は何か予定があったのか?」

「いや、口にすると恥ずかしいが、母上にも見栄があるのだ」

 

 首を傾げる気分の俺に、サイラオーグが続ける。

 

「お前が来る日と、他の日では服装が違うんだ。母上は、ウァプラの姫として育った人だ。お前であっても、やはり他家の者にみすぼらしい姿を見られたくはないのだろう」 

 

 なるほど、ウァプラからの助力も受け取れず、バアルからも放置された状況の中で、精一杯着飾ってくれていたということか。

 

「そういうことなら少し時間を置こうか。サイラオーグはこれから鍛錬というか、修行をするんだろ? この間、良い修行法を教えてもらってな」

「ああ、では先に家に連絡しておこう」

 

 家への連絡を終えたサイラオーグと山の方へと向かう。ちなみに、男と二人乗りなんぞしない。それにコイツ重いだろうし、ゴポリンが苦しむに違いない。

 

「重力ッ!」

「ああ、ドライグから習ったんだ」

「かの赤龍帝ドライグから直々の指導か!」

「お、おう……」

 

 サイラオーグがいつも独りで自分を苛め抜いている場所に到着すると、俺は彼を見下ろしながら相談を持ち掛けた。

 

「なあ、サイラオーグ。一つ教えて欲しいと言うか、相談に乗ってもらいたいことがあるんだが」

「ん、なんだ?」

「いやさ、家(うち)の当主として、ミリキャスの方が相応しいって考えている派閥があるって話はしたことがあったか?」

「ああ、聞いた覚えはある」

「それでさ、その派閥のヤツラと、何よりミリキャス本人に、俺こそがグレモリーの当主に相応しいと刻み込んでやろうと思っているんだ」

「刻み込む?」

 

 怪訝そうな顔をするサイラオーグを見下ろしながら、俺は顔に悪そうな表情を浮かべて見せる。

 

「ああ、家臣たちの前で、ミリキャスをボッコボコにぶちのめして、痛みと恐怖を刻み込んでさぁ、俺に逆らおうなんて思えなくしてやろうと思うんだが……どんな感じにしたら良いと思う?」

「リアスッ! お前は何を言っているッ!!」

 

 それで兄(サイラオーグ)は激しく怒り……、やがて力なく顔を伏せた。しかし、その拳をギリギリと強く握りしめているのが分かる。

 

「同じことだぞ。サイラオーグ」

「そうだな……本当に、その通りだ……」

「マグダランはまだ幼い」

「ああ……」

「区切りをつけるためにどうしても一戦交えたいのだとしても、二十年は待ってやれよ。それでお互いきっちり成長しきったところで勝負した方が、お前も気が良いだろう?」

 

 まぁ、二十年も置いたら、マグダランが完全に家中を固めるだろうけど。

 

「言われるまで気づかないとは……俺は自分のことばかりで」

「勝負の内容もレーティングゲームにしたらどうだ? 待つ間、お前はそっちで上を目指していればいいだろう? 力を示すだけなら、自分には価値があるのだと認めさせたいのなら、『皇帝』でも狙ってみるとか」

 

 顔を上げたサイラオーグは、なんというか両目からダーッと涙を流していた。

 はい、説得完了! 

 

「すまんな。気を遣わせて……ありがとう、リアス」

 

 そして、俺に向かって深い角度で頭を下げてくる。

 うん、なんかスマン。俺はお前が素直過ぎて心配になるよ。そんなんじゃ騙されるぞ、この先。

 

「少し一人で考えてみたらどうだ? 俺はどこかで時間を潰してから向かうから」

「そうだな……スマン。今日は山に籠って考えてみることにする。母上に」

「ああ、伝えておくよ」

 

 山奥のどこぞに向かうサイラオーグに手を振って、俺はラクダを走らせた。

 

 くくく、『あのクソムカツク叔父上の第一夫人を寝獲ってヤル!!』

 

 

 

 

 

 

 




次回『ムカツク叔父の第一夫人を寝獲ってヤル!!』
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