公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
「おはようございます」
目を覚ますとすぐ近くに彼の顔があった。そっと近づけられる唇を、ぼんやりとした頭で受け入れる。
ふっと、気付いて赤面するミスラをからかうように彼は朝食を進めてきた。
「グレモリーの料理は口に合いますか?」
「ええ……ありがとう」
カートに乗せて運ばれて来た料理を寝起きのまま食べさせられるなんて、まるで病人のよう。でも、たしかにミスラは病人なのだ。
もういつ起き上がれなくなってもおかしくない。眠り病の症状はもうそこまで進んでいた。
「どうして、なのかしら」
ふと、口から疑問がこぼれた。
どうして、他の誰でもなく、彼がそばにいる時だけ起きていられるのか。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないわ」
ふと、人間界のとあるおとぎ話を思い出してしまった。いい年をして、何を夢を見ているようなことを……そう思うと自分で自分が信じられなくなってくる。
『貴女が眠り病でも構いませんよ。俺のところに来てくれさえすれば、何千年でも待ちますから』
何を言うのだ、こんなずっと年上の女に……。自分よりも年上の子供がいて、前の夫がいて、その前夫から「必要ない。いらない。欠陥品」と散々ののしられて捨てられ顧みられなかったような女に。
どうして、名門グレモリーの次期当主、類を見ない魔力量を誇り将来を期待されている男が……。
遊ばれているだけなのだと思っていた。眠り病であることを明かせば、きっとまた放り出されるのだと思っていたのに……。
グレモリー。遥か昔から悪魔の性質の一つである合理を切り捨て、その在り方を情愛に傾けてきた一族。それがこんなにも恐ろしいものだなんて。
胸が苦しくて苦しくて、眠り病になってしまったことを泣き叫んで縋り付きたくなってしまう。そして、もし自分がそうすれば、彼はきっと応えてくれるのだろう……何かしらの形で。
ミスラは自分がもう逃げられないことを悟っていた。そうする気にさえなれないのだ。むしろ、自分から溺れていきたくなってしまう。情欲で身体を支配され、愛欲に心までも漬けこまれ、何をされてもそれに悦びを感じさせられてしまう。
これが、旧いルシファーからその名を奪い取った一族。悪魔をたぶらかす悪魔。そんな言葉が浮かんでくる。恐ろしく、だからこそ愛しい。
食事を終え一息ついた後にやって来たのは、お願いの形をとった命令だった。
「ミスラさん、今日はこれを着てくれませんか?」
そう言って彼が渡して来たのは、ミスラが少女時代にすら着たことのないようなひどく可愛らしい服だった。
可愛らしい色合い、フリフリとした装飾。靴から何から、一揃い。全てが全てそのような調子で、長い時を夫人として過ごし、子供も一人いるようなミスラが着るような服装ではない。
「こ、こんな服を着るの……」
「ええ、よく似合うだろうと思って用意させました。時間がなかったので既製品ですいません」
これを着た自分の姿を想像してみる。途端、ミスラは羞恥に耳を赤く染めた。
「どうして、いつも……」
こんなに恥ずかし真似をさせようとするのだろう。初めてのときは、自分からねだるように仕向けられた。どうしようもなく疼かされて、恥も何もなくなり、彼のモノを求める声を抑えられなくさせられた。
その後も、数日おきに訪ねて来ては、何度も、何度も……。
「着てくれないんですか?」
「着るわよ……」
もう逆らえない。彼の男の猛りを埋め込まれると、反抗できなくなってしまう。それが分かっているから、言うことをきいてしまうのだ。
ただただ、快楽に流されてはしたない声を上げながら、求めてしまうのだ。もっと、もっと……と。
でも、もうすぐそれも終わってしまう。彼がこうして傍にいてくれると、何故だか目が覚める。ドラゴンのオーラのせいだろうか?
けれど、それ以外の時間はほとんど起きていられない。医者の見立てでは、もういつ眠ったままになってしまってもおかしくないそうだけれど……。
「濡れてますね」
着替えるため脱ぎ始めたところで、じっと下半身を見つめられ。そう言われてしまうと、じわじわと潤み始めていた下腹部がカッと火が付いたように熱を持ってしまう。
「こ、これは……その……あなたが……」
彼に起こされたときから既に湿りを帯び始めていた秘所から伝った愛液が、ミスラのふとももを淫靡にてからせていた。
しょうがないではないか。最近は会う度に求められて……求めてしまって、いたのだから。
「俺のせいですか」
「言わせないで……」
「なら、仕方ないですね。鎮めてから出かけましょうか。ミスラさんのせいで俺もおさまらなくなってしまいました」
そう口にする彼の肉竿が、大きくズボンの布を押し上げているのが分かる。
「もう、そんなにしているのね……」
「貴女のそんな姿を見たら、こうなってしまいますよ」
ミスラは恥ずかし気に胸元を両手で隠しながら、ふとももをこすり合わせた。そうすると自身の興奮の証の汁がぬたぬたと塗り広げられ、いっそうのこと頭の中を淫猥な
胸を覆った手をそのまま動かして、ブラを外す。それに合わせるかのように彼もまた衣服を脱ぎ始めていた。
「ねぇ……どこかに出かけるって……」
もう止められるはずもないし、止めたくもないのだが、そんな言葉が口を突いて出ていた。なんて返されるのだろうかと期待しながら。
「ええ、ミスラさんとデートに行きたいなと。そう思いまして」
「デート……って」
そんなこと、これまでしたことがあったあろうか……。第一夫人としての公務で出かけてことはあったが、ただ楽しむだけになんて……。
ぎゅうと胸の奥が締め付けれるような気がした。ミスラの心に、自尊心に深く刻まれた傷痕に、彼の言葉がじわじわとしみ込んで満たしていく。
いつもそうなのだ。ミスラの肉を辱め、心を恥辱に溺れさせながら、彼は同時に欲しいものを送り込んでくる。
「思い出を作っておきましょうよ。夢を見るのかわかりませんが、もし見られるのなら、眠りの中で思い出せる何かを」
「そう……ね」
下着を脱ぎ落すと、ミスラは己の肢体に指を這わせた。唇から胸へ、そこから腰のくびれを通って蜜を垂らす秘所に両手の指を揃える。それは隠すためではなく、男を誘うためのみだらな仕草だ。
彼女の唇には、彼のもたらす情欲と愛欲を求める笑みが自然と浮かんでいた。
「んっふ……んぅ、じゅぅぷ……」
彼の逸物を咥えるのも慣れてしまった。子供を作るだけならば必要のない行為だ。
それを彼に覚えさせられ、自ら彼の股間に唇を寄せ舌を這わせるような女に変えられた。ほんの少し前の自分とはもう違うのだと、否応なく実感させられてしまう。
ベッドに腰かけ跪いて口奉仕するミスラを見下ろす彼の目を見ると、そこにはいつものように女を支配する欲が滾っている。
その目で見つめられると、背筋がゾクゾクとしてしまう。赤龍帝、かつて三大勢力に多大な被害を与え時を経た今もなお恐れられ忌まれる強大なる龍の帝王。
その龍気が、悪魔の超越者になるだろう膨大な魔力と入り混じって注がれ、圧倒的な強者に求められ隷属する悦びがミスラの内を駆け巡る。
「んんっ……んんっっく……」
後頭部に手を添えられ、髪を撫でられる。もっと奥まで呑み込めと、そう催促する彼の仕草だ。
口の中一杯に感じる男の性器に舌を絡め、ミスラはうっとりと喉を鳴らす。
服従させられ、奉仕させられているというのに、ミスラの自尊心はこの状況にあってひどく満たされていた。
相手が強大であるのなら、隷属は必ずしも屈辱ではない。むしろ、そうした存在から欲し求められることに昂揚を覚えるのだ。
貴族に仕え下僕となることに喜びを見出す平民は、あるいはこんな気持ちなのかもしれない。
ああ、すごい……また、おかしくなってしまう。
「ああ、気持ちいいですよ。ミスラさんのフェラ」
「んふっ……ん……んっん……」
ミスラの頭を前後させる動きが早くなった。垂らした髪がそれにつられて揺れ、ねだる様に胸の双丘を彼に押し付け始める。
強烈な牡の精気にあてられて、頭が悩乱し、心が染まっていく。
咥えた逸物の大きさがミスラの喉を塞いで呼吸を苦しくするが、その感覚にすら官能を覚えてしまう。
夢中になって肉棒をしゃぶり続ける女の姿に満足げな笑みを浮かべ、彼は腰を突き出した。
「出る! おおっ!」
怒涛の勢いで発射された精液が、ミスラの口内を染め上げた。強烈な最初の一度に続いて、びゅるびゅると何度も撃ち込まれる白濁を目を閉じ受け入れる。
充満する牡の匂いに顔をほころばせ、ミスラは舌をくねらせ粘液を味わい続けた。
「んあっ……ああぁ♡」
「身体を洗いましょうか」
「え……?」
いつもならこのまま……。膝を合わせて床に座り込み、潤んだ瞳を向けるミスラを魔力に物を言わせて抱えあげると、彼は浴室へと向かった。
グレモリー家の客間には、ほとんど浴室が用意されている。その一人用としては無駄に広いスペースに連れ込まれると彼の手がミスラの身体をなぞりはじめた。
「ミスラさん、もう俺のが欲しくて仕方がないって顔してますね」
「ふぅん……♡ そんなこと……ああっ♡」
ない。とは言えなかった。胸をこねくり回され、尻肉を鷲掴みにされ、開発されてしまった耳の穴をほじくられる。
もう、どうにかなってしまいそうだ。彼によって変えられてしまった身体は、どこに触れられても気持ちよくなってしまう。
「上に座って」
浴室内の椅子に腰を下ろした彼は、蜜壺を煮え立たせるミスラに向かって、己の膝上を叩いて見せた。
「ええ……」
ようやく、挿れてもらえる。唾を飲み込むと、まだ彼の味がした。
「そう俺に背を向けて……。好きでしょう? 鏡」
湯気の中でも曇らない鏡に、脚を広げて陰部を晒している自分自身の淫らな姿が映っている。その後ろで、二ヤけた笑みを浮かべる彼の姿も。
ミスラが腰を下ろしていくと、彼の怒張の先端が粘つく音を立てて埋まり始めた。ミスラを牝にした、女を狂わせる欲望の槍を自ら望んでズブズブと飲み込んでいく。
淫蕩に蕩けた顔で、男のモノを歓喜とともに受け入れようとしている女がいる。鏡に映るその女は、より大きな快感を得ようと挿入しながら円を描いて腰をゆすっていた。
たゆんたゆんとミスラの胸が揺れ、先端のピンクの尖りが跳ねる。そこに彼の指が伸びて中指と薬指できゅうとつねり上げながら、全体をこね始める。
「んあぁぁ……♡ ……っぁぁァんあぁあ゛♡♡」
彼のモノにされてしまった双丘への刺激にたまらず、腰を落としてしまう。すると勢いよく突かれた膣奥が悲鳴をあげて、ミスラの脳天まで甘い官能が突き抜ける。
串刺しにされてなお跳ねるカエルのように、白い両脚を広げたままミスラは肢体を躍らせた。
「ああっ、あなたっ、あなたの、ああっ、すごいの♡」
勝手に円を描きだし、奥まで咥え込んだ肉棒を気持ちの良い場所にこすりつけようとしてしまう自分の身体。それに合わせて彼もまた身体をゆすってミスラの膣奥を責め立ててくる。
胸を躍り狂わせ、背をのけぞらせてミスラが鳴きだすと、彼の肉棒が急に大きくなってきた。
「ああっ、大きくなって……はああん、ああっ、いいの♡」
「はは、ミスラさん……いや、ミスラ。鏡を見てみろ」
快感に痺れ、天井を見上げるように喉を晒していた視線を正面の鏡へと向けると、
「ああっ、わた、わたし、また……いやぁ……ひぁあ♡」
少し高くなった自分の声が、快楽によるものだけではないと分かってしまった。
ああ、また……またこの人に合わせようとして……。
「ミスラはそんなに俺のことが好きなんだな」
「ああ、お願い……言わないでぇ……」
「嫌いなのか?」
「違う……違うの……恥ずかしいのよ……ああっ、あなたぁ♡!」
いつもの人間でいうところの二十後半から三十前半程度の外見から、彼と同じくらいの肉体年齢に変わってしまった身体。自分のあさましさを見せつけれらているようで、そうなってしまった自分自身に昂揚してしまう。
そこを突き上げられてはたまらない。
「あぅっ……イイ♡ イイのぉ、すてきぃ♡ ああっ、すごいわぁ♡♡」
「ミスラはこっちの姿だと可愛いな」
「ひっぃ、んあぅあう♡ こっちのほ、う、が好き……なの?」
「いえ、普段のミスラさんはエロくて好きですよ。今のミスラさんは可愛くて好きってだけです」
「えろ、いっ、てぇっ♡」
「まぁ、ここまで来たら姿かたちなんてどうでもよくなるんですよ。ウァプラ家なら、ライオン……獅子の姿になれたりするんじゃないですか?」
「え……ええ、なれるけど……?」
「俺、相手がミスラさんなら、雌獅子でもいけますよ?」
「ウソでしょ……なんてことを言うのよ……。そんなのおかし、イイイっん♡」
「ミスラ……いま、ぎゅぅうと締まったぞ。想像してよくなったのか?」
「いえ、いやぁ、そんなの……ダメよぉ、ああっ♡ つきあげあいでぇ……♡ おかひ、おかひくなる♡」
「俺がドラゴンになって、獅子の姿のミスラを犯すんだ。後ろから抑え込んで、ケツを上げさせて、無理矢理ねじ込んでやる」
「ああっ、あなたぁっ♡ いやぁ、へんなことかんがえさ、せないでぇ♡」
その光景を想像して、それでもいいかもしれないとそう思ってしまう自分が信じられない。
相手が彼なら、もう見た目なんてどうでもよくなってしまっているなんて……。
「んぁん♡ イイっのぉ、あなたなら、それでも、あんっ♡」
おかしい。おかしくなる。おかしくなっている。
彼に合わせて、見た目をかえてしまっているのに、彼の外見はなんだっていいだなんて……もうわけがわからない。
「んんぅ♡ ぁああっ♡ ああっ♡ ねぇ、ねぇ……もう、ああっ♡」
「イクのか? イクんだな?」
「ええ、ええ、ああ、あなたがへんなこと、想像させるからっ……ああっイクっ♡ あなたの、ほしいのぉ……」
「ああ、俺も、俺もイクぞ!」
腰を強く掴まれ、子宮の口に肉棒の先を強く突き刺される。グイグイと扉をこじ開けるようにして、彼が精を放った。
「んぁぁぁっん♡ あ、あ、あ、イクっ♡ イッてる♡ すご、すごいんぉお♡♡♡!!」
背を何度も波打たせて、ミスラは達した。足の先から頭のてっぺんまで、痺れが奔り、ドクドクと注がれる度に意志とは無関係に肢体が暴れまわる。
恍惚に染まった視線が鏡に映る淫らな少女の姿を捉え、見返してくる彼女がドロリと口元を蕩けさせる。
「なに、なにを、する、の……?」
若い姿になってしまったミスラを一通りもてあそぶと、彼は浴室のシャワーヘッドを魔力で手繰り寄せ手に取った。
噴きだす湯の加減を調整する彼の姿に、息も絶え絶えなミスラはさらなる恍惚の予感を感じて身を震わせる。
ザァーと吹き出す水流が、ミスラの秘所を中心に当てられる。
「ああ、あ、ああ、あっああん♡ やめぇ、やめてぇっ……♡」
「身体を洗いに来たんだから、ちゃんと流さないと」
「そん、な、こんあの……」
彼のモノを受け入れたまま敏感な箇所にこんな刺激を与えられたら、綺麗に絶対にならない。
あとからあとから、湧き出してきてしまうに決まっている。
「あ、ダメっ、ダメっ、やめ、やめてぇ……んひん♡ わたしで、あそばない、で……」
ザァザァと当てられる湯にもてあそばれ、ミスラはわななき、身悶えする。逃れようにも身体に力が入らず、それでもと身をゆらせば串刺す肉棒が、身体を内側から官能で支配し逆に痺れてしまう。
シャワーと指、肉棒によってもてあそばれたミスラから、がくりと力が抜け前に倒れ込みそうになると、そのまま浴室の床にゆっくりと押さえつけられた。
「ンんぅ……ああ♡ ぬかない、で……」
「まさか、これからですよ」
体重を支え切れなかった両手を床の上で這わせ、胸が潰れて尻だけが高く持ち上げられた。きゅと音がして、シャワーが止まり、代わりに蛇口から湯が流れ出る。
ミスラの倒れ込んだ床上をやや熱い湯が通り過ぎていく頃、ズン、ズンと秘所から背骨を伝うストロークが始まった。
「んぅっ♡ ああ、ん♡ あん♡ イイ♡ あ、これ♡ んぁ♡ これぇ♡♡」
膝立ちになった彼のピストンがミスラを後ろから責め立て、艶めいた声が浴室内に響いた。
細くしなやかで、どこか儚さを感じさせる白い裸体が、男のリズムに合わせてしなる。
「ひぅ♡ あなたの、ああ♡ ああ、あっ♡ んぁあ♡ 私、あ、ああ♡ イイ、い、これ、ん、気持ちイイ♡♡」
待ちわびていた快感にミスラの身体は激しく燃え上がった。頬が浴室の床に当たるのすら気持ちいい。押し付けられ潰された胸の先端、乳首がざりざりと擦れる。
骨の髄、頭の芯を快感が蕩けさせ、ミスラのだらしなく開いた口元からよだれが垂れて湯の中に溶けて行った。
結局、彼が起こしに来てくれたのは朝だったはずなのに、出かけるのは昼過ぎになってしまった。
「ミスラが魅力的だから悪いんだ」
「私のせいにするの……」
恥ずかしい。いくらあの可愛らしい服を着てもおかしくない年頃の姿とはいえ、精神的な年齢というのはそう変わるものではない、はずだ。
手を繋いで歩くだけで赤面してしまうなんて、本当におかしくされてしまっている。きっと、そう、この妙に少女趣味な服装のせい。
「とりあえず、城の進捗を見ておこうか」
「本当に城を建ててしまうなんて……私なんかのために」
この先、ミスラはただ眠り続けるだけなのだ。もうすぐその時はやってくる。
その眠る場所のために城を一つ用意しようなんて、グレモリーは頭がおかしい。きっと、そう。
それを嬉しいなんて思ってしまっている、そんな女もダメになってしまっているのだ。
彼がよく連れ歩いている角のあるメイドの運転で、車を走らせる。グレモリー本邸からは少し離れた森に囲まれた場所、そこで城の建設が行われていた。
ミスラは何故だかそのメイドが気になって、彼の腕を胸にかき抱いた。そうしてから、その仕草が彼の小さなくるくるとした金髪の婚約者が、グレモリーの屋敷でミスラと出会ったときにしていた仕草と同じものだと気づく。彼の腕に抱き着いて、離すまい、取られまいとしているそんな女の子の行動。
ああ、なんてこと。身体に合わせて心まで戻ってしまったの?
十代の前半、悪魔としては赤子のような年齢の子供と同じことをしている。しかも、彼を取られまいとして意識してしまっているのはただのメイドなのだ。使用人にすら嫉妬してしまうなんて……。
車に揺られることしばし、車中から解放されるとそこには大柄な男性──息子のサイラオーグが立っていた。
「は、母上……?」
ミスラは今の自分の年恰好、服装、そして彼に抱き着いたままの体勢を思い出しどうしていいか分からなくなった。
サイラオーグがいるのならいると、どうして先に教えてくれないの。
頭から湯気が噴きだしそうになって、なんと声をかけていいのか困ってしまう。すると、彼の胸元に顔を埋められた。
「サイラオーグ、実はこれからミスラさんとデートに出かけようと思っていてな。俺の見た目に合わせてもらったんだ」
「ああ……そ、そうなのか」
「ずいぶん恥ずかしがられてしまったが、さすがにいつもの姿だと親子のように見られそうで俺の方が恥ずかしくてな」
彼は私を恥ずかしさで殺すつもりなのだろうか。
そのまま抱き上げられてしまったミスラは、いわゆるお姫抱っこの体勢にされてしまい、茹で上がりそうになってしまう。
それでも、嫌とは言えなかった。言えないことが分かっていてやってくるのだから性質が悪い。
「はは、うえ……その可愛らし」
「サイラオーグ……なにも、なにも言わないで」
「ええ……はい」
やや顔を赤くしている息子をミスラは睨みつけた。
「これはこれは、ミスラお嬢様。そうしていらっしゃると、昔を思い出しますな」
「トラーバ……これは」
人間でいう中年男性の外見をしたトラーバは、ミスラの執事を長年務めてきた中級悪魔だ。母親が下級悪魔で、父親がウァプラ家の純血悪魔。
ミスラが生まれた頃からずっと仕え続け、バアル家で過ごした間も、辺境で過ごしていたときも、ずっと傍らにいた。
当然、ミスラが今の姿だった頃のことも彼は知っている。
「いやはや、懐かしい。私も旦那様に協力した甲斐があったというものです」
「トラーバ……貴方まさか」
「ああ、ミスラさんの服のサイズはコイツに聞いたんだ」
「トラーバ! 貴方はなに、を……」
叱ってやろうとしたが、彼の顔に浮かんだ悲哀を見て、その気が失せる。
「旦那様がミスラさまが夢に見られるような、そんな時を最後に過ごしたいとおっしゃられまして、手伝わせていただきました。申し訳ありません」
深々と頭を下げる執事と、ニヤニヤと見下ろしてくる彼を交互に見つめ、ミスラはため息を吐いた。
「トラーバ……私付きの執事の任を解きます。もう、私に仕える必要はありません」
「……はい」
「母上!?」
長年仕え続けてきた執事の解雇に、サイラオーグが反対の声を上げた。
彼にはからかわれてばかりのミスラだが、息子ぐらいは騙せるのだと内心で少し得意になっていた。
これも肉体年齢を下げたせいかしら?
「サイラオーグ、貴方は旅に出たいと言っていましたね?」
「ええ、そうですが……今はそんなことより――」
「トラーバ、息子を頼みますよ」
え、と驚きミスラとトラーバを交互に見つめる息子の姿に、あまりに素直に育てすぎてしまったのではないかと心配になってしまう。
「サイラオーグさま、どうかこのトラーバめをお連れ下さい。戦う力はさほどございませんが、必ずやお役に立ちますので」
「は、母上ッ!?」
「サイラオーグ、お前、悪魔向いてないんじゃないか?」
彼がぼそりと言った言葉に衝撃を受ける息子の姿に、ミスラは笑みを浮かべながら紫の空を見上げた。
サイラオーグ・ウァプラ眷属
『王』:サイラオーグ・ウァプラ
『兵士』(1駒):トラーバ
トラーバ:
原作で出てくるミスラの執事。魔力が低すぎるサイラオーグだけだと転移や通信などでいろいろと不便そうなので、誰かつけないとということで採用。
名前はバトラーから。
おかしいな、遊園地デートックスを書くはずが、まだ出かけてすらいない。