公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
「さて、それではこちらはあと俺だけですし、全員まとめてお相手させてもらいましょうか」
義兄上から借りた眷属も、レイヴェルも朱乃もやられてしまった。あとこちらに残っている戦力は俺だけだ。
ならば、もういちいち少しずつ相手をするまでもない。残ったナベリウス眷属を倒して終わらせてしまおう。
目当ての黒歌の能力はある程度見させてもらったが、やられっぱなしで試合終了では『王』の威厳も薄れてしまう。『力』を示しておかないとな。
「おや、リヴラクス殿の評価は『12』相当とされておりますが、こちらの残りの合計はそれよりも上ですがよろしいのですかな?」
この試合に当たって、グレイフィアの付けた俺の評価は『12』。これはただ単にダイスの合計がこれ以上ないからそうなっているだけだ。
うぬぼれでもなんでもなく、俺の戦力はナベリウス眷属全員を合わせたよりも大きいのだ。
「構いませんよ、バランスブレイクの必要もありませんし」
エダーギ殿にそう返すと、ややむっとした様子の彼の眷属たち。
これだよ。いちいちこういう顔をされるのが面倒なのだ。仮に今俺が言ったことを魔王である兄上が口にしたならば、こいつらもこんな表情はしないだろう。
「気に食わないなら、かかってこい。死なないように気を付けてな」
黒歌は技量で朱乃のパワーを翻弄して見せた。柔よく剛を制すってヤツか。
だが、剛もまた柔を断つのだ。
圧倒的なパワーの前には半端な技など無意味。合気道を習った子供は人間の大人を投げ飛ばせるかもしれないが、大型の肉食恐竜を倒せるわけではない。
戦闘フィールドへと転移する魔方陣の上に立って挑発してやると、エダーギ殿が頷く。
かくて試合は始まり、あっさりと終わるのだ。
『それでは最終試合、開始ししてください!』
戦闘開始の合図とともに、両手でバスケットボールを抱えるような姿勢をとった。手と手の間に生まれる不思議な滅びのエネルギー。
紫と紅のスパークを発する漆黒の球体は、最初はピンポン玉ほどのサイズだったがすぐに膨張を開始。俺をすっぽりと覆う球状結界となった。
これでもう、敵からの攻撃のほとんどが通らない。滅びのオーラは攻防一体の特性。この魔力特性を繋いできたバアル家は、伊達で七十二柱序列一位の大王家やってきたわけではない。
物理的な強度にしろ魔力や光力、妖力、聖なる力などにしろ、『滅び』に対して有利で有効な防御手段は非常に少ない。精緻な防御魔術も、磨き抜いた体術に捌きも意味はない。消滅魔力に触れたら消えてなくなるのだから。基本は回避一択だ。
防いで耐える方法としては、こちらの『滅び』よりも高い出力のオーラを放出して相殺するか、もしくは一点集中した刺突や斬撃などの形態の攻撃で
この『滅び』の特性は守りに使った場合も非常に効果的だ。なにせ実態のある剣やら矢、弾丸などは消滅魔力で形成した防御膜に触れるだけで消えてなくなる。魔力や魔法、オーラ攻撃などもこちらの出力以下ならば複雑な式など組まなくとも消し飛ばしてくれる。
兄上の真の姿が滅びのオーラの集合体であり、それが途轍もなく強力だというのも納得だな。
ま、俺の場合はグレモリーの魔力特性の割合も結構あるようなので、ちょっと工夫して
さて、悪魔らしく驕り高ぶり余裕ぶっている間にも滅びの球体は膨張を続け、ドクンドクンと脈動を繰り返しながら巨大化していく。
この間、相手からは様々な遠距離攻撃が飛来して来ていたが、一発も俺まで届いてはいない。当然だな、俺は魔力量・オーラの強大さがそのまま強さに直結する『滅び』の使い手にして、『力』の象徴たるドラゴンの中でも屈指の存在である赤龍帝を宿す者。
「このくらいでいいか」
目算で直径100メートルほどの消滅魔力の球体を形成したところで、膨張を一旦止める。
『いや、まだ強すぎるな。これでは外縁に触れただけで死んでしまうぞ』
我が頼れる相棒ドライグの言うことには、ここまで広げて薄めてもまだまだこの滅びの魔力球は威力が高すぎるらしい。
俺の神器である『赤龍帝の籠手』には、標的の戦闘能力や耐久度を読み取り計測するという便利機能が発生している。俺以前の多くの赤龍帝たちの中には、この機能で
ま、元が力の低い人間ならばそういった使い方になるのだろうが、俺のように素の力が高いと逆の使用法になる。
つまり、どの程度手加減してやれば相手をギリギリ殺さずに済みそうか、といったことを知りたいのだ。
「それじゃあ、大雑把に倍に広げてみるか」
ぐぐんと魔力球が巨大化し今度は直径200メートルほどになった。
『まぁ、そんなものか。このくらいの濃度ならば一瞬で消し飛ぶことは無い。外縁部に触れた時点で体表面が消滅し始める程度だろうから、それで気づくだろう』
最初に両手の間に発生させた濃縮した『滅び』を薄く広げて巨大な球と成す。兄上が小さな魔力球に圧縮した『滅び』を込めるのと反対の方向性だ。
大きくすればするほど、中心である俺から遠ざかれば遠ざかるほど『滅び』が薄くなるので殺傷力も低下する。逆に中心であり核でもある俺自身に近づくほどに『滅び』は濃くなり、死にも近づくってわけだ。
器用な兄上と違って、俺は自分を中心核にして動かさないと急な方向転換とか急停止が出来ないのだ。
「じゃ、轢き潰すか」
さすがにこれに轢かれそうになってもリタイヤしないヤツの面倒まではみられんぞ。速度は遅めにしておくが。
戦闘フィールド内の大地に半円を描く轍を刻みながら、直径200メートルの滅びの球体が動き始めた。
巨大な力の塊を誰も止められない。圧倒的な破壊力がナベリウス眷属たちを次々とリタイヤへと追い込んでいく。
『エダーギ・ナベリウスさま、
―○●○―
勝ったな。レイヴェルと寝て慰めて、朱乃の尻を叩いてお仕置きと言う名の御褒美をくれてやろう。
そういえば、朱乃に本当にお仕置きするときってどうしたらいいんだ……?
体罰は悦ばれる。言葉責めも感じてしまう。どこかに閉じ込めるのも、放置ってはぁはぁ言いそう。ふむ……無敵か。
「捨てる」とか「もういらん」とか言って追い出すフリをしたら精神的なショックを与えることは出来るかもしれないが、そんなことを俺がするはずもないから騙せないだろうし。ふむ……やはり、無敵か。
エダーギ殿との話し合いで、黒歌とは後日話し合うことになった。トレードに関する交渉だな。エダーギ殿自身は提示されていた金額だけで問題ないということなので、黒歌個人の眷属入り条件について決めるわけだ。
一応、交渉期間は半年。これが最低ラインで、伸びても構わないらしい。ただし、半年間はあちらの所属のままで、トレードは出来ない。
だから黒歌を正式に迎えられるのは、年が変わったころになるのだろう。干支に猫はいないが、俺にとっては猫年の姫始めってことか。晴れ着でも着せてみるのもいいかもしれないな。
どうして即座にトレード成立ってせずに、手付金だけ入れて半年の間を設けるのか訊ねたところ、
『いや、以前にトレードした下僕が「はぐれ」になったことがありましてな。あちらの扱いの問題だったように思うのですが、それでこちらに苦情が来まして……。それで学んだのですよ。新しい「王」との相性などもありますし、一定期間はその具合を確認する時間が必要なのだと』
まぁ、納得の答えだった。たしかに、俺は黒歌のことを書類でしか知らない。七割見た目、残りは記された能力のスペックで決めたから、性格とかよく分からん。
理由はよく分からないが生理的に合わないってこともあるだろうし、そういった期間も必要なのだろうな。
思えばレイヴェルとは事前に何度も会って話していたことになる。ついでに婚約者の間柄だ。
朱乃は拾ってから眷属にするまで年単位で交流があったから、特に気にしてもいなかった。
しかし、ここに来て半年間お預けか、と思っていたら、
『もちろん、身体の相性や具合も事前にお試ししていただいて構いませんぞ』
ぐへへと笑ってエダーギ殿がそう言っていたので、俺はそれでまったく構わないがな! 半年のお試し期間、結構じゃないか! 良心的な決め事とさえ言える。『はぐれ』を作らないようにと考えているのだから。
『悪魔の駒』を開発して配布したはいいが、あとは特に『はぐれ』対策をしていないベルゼブブさまとは違うってことか。悪魔にこんなもの持たせたら好き放題するに決まっているし、それでやたらめったら『はぐれ』を生み出しているわけだから、あの人もよく分からん。
むしろ、あえて、狙って、『はぐれ悪魔』が発生するようにしたのではないかとすら思えてくる。
ふむ、そう考えると『はぐれ』の発生も悪魔のイメージ戦略としては間違っていないのか?
悪魔と言えば怖くて悪いヤツだ。少なくとも人間やってた頃の俺にはそんなイメージがあった。しかし、悪役ってのはヤラレ役でもある。ヤラれたら死んでしまうことが多いだろうから、大昔と比べて数の減った純粋な悪魔は死なせたくない。
だから、あえて『はぐれ』を生み出して、そいつらが暴れることで悪魔の悪くて怖いイメージを維持しつつ、真の『悪魔』の数の減少を抑える。
ほう、なかなか考えられているのではないのかな。神々が信仰を必要としているように、我々のような『
契約を守って取引のできる貴族的な悪魔。それとそんな
ふーむ、そんな感じなのだろうか。兄上からは何も聞いてはいないが、現政府がそういった方針でやっているって可能性はあるのか。
まぁ、それで苦労しているのは、討伐任務などの割り振りで忙しい中立派のシーグヴァイラの家とその一派になるのだけれど。兄上たちはアガレス家に、レアなロボのプラモとかを贈ってあげるべきだな。
この想像が本当かどうかもわからんが、というか俺が陰謀論好きなだけかもしれんが。
数日後、俺は城内にある和風な応接用の一室で、ちょっとそわそわしつつ来客を待っていた。本日の衣装は和装である。紅髪の北欧風傲慢王子顔な俺に似合うのだろうかと思っていたが、案外イケている。
やっぱ、素材がいいとどうにかなるものだ。和服なんて昔の日本人体型に似合うように構成された衣服だろうに、ちょっといじってやるだけで悪くない感じになるのだからな。顔のいい奴は何を着ていてもイケメンってホントだわ。ブサイクがどんなにお洒落したって、よれよれジャージの美人には勝てないって、それ俺の欲棒の反応で確定しているから。
うーん……この後を考えると思わず勃起してしまいそうになるが、まだおっ立てるわけにはいかんのだ。
くっ、鎮まれ、鎮まるのだ、俺の中の
「若さま、黒歌さまがお見えになりました」
今日の御付きメイドはリュイだ。いろいろと引退準備で忙しいらしいが、よく顔を出してくれるので、よく顔に
それでもまだギンギンになってしまうのだから、悪魔ボディってやつは底なしだぜ。
黒歌は時間きっちりに来るタイプか。現在の悪魔貴族社会的にはちょっと遅れるぐらいが良いという風潮らしいが、下の立場の者が遅れるのはよろしくない評価を受けることもあるので、妥当な到着時刻である。
「ああ、ではここに通せ。あちらの準備は問題ないな?」
「かしこまりました。準備の方も滞りなく」
いずれは俺の眷属となる予定の黒歌だが、今はまだナベリウス眷属なのでお客さん扱いだ。
これまたいずれ同僚となる予定のリュイはともかくとして、他のメイドからしたらどっちにしろ上の立場になるのだが。
時刻はそろそろ昼時、一緒に昼食を取ってから雇用条件的な話をしていこうってつもりだ。
ちなみに準備ってのは、まぁアレ用の部屋だな。相性と具合の確認は重要事項。黒歌は今日も和服で来るらしいし、俺も和服にして部屋もそれに合わせたいではないか。
幸い、グレモリー家はちょっと間違った日本びいきな御家。和風寝室ぐらいはあるのだ。畳の上の布団でってのも良いものだ。クフフ……。
「いいぞ」
本日の俺付きメイド用の独特な扉を叩く音──つまり、リュイのノック音がしたので入室を許可する。
メイドに案内されて入って来た黒歌は、先日と同じような黒い着物姿だ。はて、同じってことは無いと思うが、いや、もしや一張羅だろうか。
うーん、相変わらず着物を盛大に着崩し、両肩出して胸元ぱっくり開いて上乳を惜しげもなく晒していやがる。ブラも着けていないようだから、ちょっと下に引っ張ったら乳首がポロリとしそうだ。
女の子の肩のラインっていいよね。首から続いて腕に繋がるあの曲線がなんともそそる。無論、胸は言うまでもない。
この格好で『誘っていない』ってことはないだろうから、今日は美味しくいただけそうだ。おっと、涎はいかん。鼻の下を伸ばすのもNG。俺はカッコつけた傲慢王子キャラなのだから、そこは崩さないように気を付けて行かないと。
「先日も思ったが、綺麗な色の瞳をしているな」
肩やら胸もいいが、やはり女は顔のパーツだろう。黒歌は金色の瞳が良い。それに、割とその目付きの表情が豊かだ。
無表情系も好きだが、ころころと変わるのもそれはそれで好きである。
「にゃん♪ ありがと……ございます?」
ジッと瞳を見つめて褒めると、少し照れ混じりに黒歌はそう言った。
「ああ、言葉遣いは身内の席でならいいぞ。そう気にしなくてもな。ただ、来客があった場合や社交の場では気を付けてもらわないと俺が恥をかくことになる。今日はそういった席でもないから構わない」
もうトレード決定のような物言いだが、まぁ見た目は好みだし、強さに文句はないし、今のところマイナスな印象はない。
レイヴェルは自然に丁寧だし、朱乃は堕天使幹部の娘って素性があるのでどうしても目立つし注目されてしまうのでマナーには気を付けさせないといけない。だが、俺としてはタメ口というか、そこまで丁寧でもないくだけた口調で会話できる女が欲しいのだ。といって公式の場でもそれでは困るわけだが。それくらいはこなしてくれるだろう。たぶん。
黒歌に着席を促すと、彼女はマナーを気にしている素振りを見せつつ腰を下ろした。
「うー、緊張するにゃん……」
「そのうち慣れるだろう。ところで、俺は正座が苦手なので椅子とテーブルを用意させたが、日本妖怪出身としてはそこのところはどうなんだ?」
「にゃはは、実は私も苦手で……正直助かるわ」
正座にはな……母上からのお仕置きの思い出が……。石を抱かせるのはやめてください。重い、下のギザギザ石床が脛に食い込んで、ぐあああってなるのを思い出すから嫌なのだ。
そうこうするうちに食事が運ばれて来たので、会話を挟みつつ口に箸を運ぶことにする。食事中に会話をするのかどうとか、そういうのもお国によってマナーが違うんだよな。地域によっては、口を大きく開けて咀嚼音を聞かせるのが「このご飯美味しいですね」って意味合いを持っていて、マナーとしてそうしなければならなかったりするそうだし。
俺、あれ苦手なんだよな。まぁ、日本文化の麺類なんかを「すする」ってのも、他の文化圏からすると「うわー」って思われていたりするそうだが。ホント、難しいわ。
悪魔的には、「俺はこうなんだよ!」で押し通すのと「主催の御家に合わせます」ってのはどちらでもよいそうだ。自分に自信があるヤツは前者な。でも大概の場面で、現状トップの家格の『大王家式』に合わせておけば間違いはない。
御家ごとに違っていると面倒なだけなので、そのうち一本化されていくのだろう。
「こ、これはお刺身……ん~、美味しい」
黒歌は、現状あまり食生活が豊かではないのだろうか。
冥界には海がないので、海産物を食そうとすると人間界からの輸入になりがちだ。なので日本で食べるような刺身はちょいと高級品になる。輸送に転移が必須だからな。冷凍ならまだしも、生となるとなかなか大変らしい。
といってもそれは平民の中でも下層・中層の連中の話であって、上級悪魔の眷属ならばどうということのない代物のはずなのだが。まぁ、幸せそうな顔をしているのだから良しとしておこう。
「黒歌さま、お酒はどうなさいますか?」
とリュイに聞かれ、黒歌はこちらを伺うように見てくる。
「酔わない程度にな。この後、まだ話がある」
「にゃはは、それじゃあお言葉に甘えて……あ、おいし」
残念ながら、俺はまだちょっと酒の味がよく分からない舌なのだ。
だが、まぁ日本酒なら少しくらいって気もしてくる。
そんな俺の心情を汲み取ったのか、リュイが杯を差し出してくれたので少しばかり黒歌に付き合う。
「ああ、これは呑みやすいな」
これはアレだ。いかん酒だ。ついついグイグイ呑んでしまって、気が付いたら一気に回ってきて泥酔って系統の代物だ。
今日はしないが、黒歌も気に入っているようだしそのうち酔い潰してってのも乙かもしれん。
「さて、俺の眷属になった場合の扱いだが」
と、そんな感じに和やかに食事を終えたところで本題だ。眷属入りした後の待遇面の説明だな。こういうのキッチリしておかないと、後で話が違うとか言われても困るし。
なにせ上手く行けば一万年近い付き合いになってくるかもしれないのだ。延々とグチグチ言われ続けてはたまったものではない。
「え、これ本当に……?」
金色の瞳をくりくりっとさせて、マジで!? みたいな表情を向けてくる黒歌に頷いて返す。
我がグレモリー家は身内に甘いホワイトな職場で売っているのだ。そこの次期当主の眷属ともなればそりゃ扱いは良い。失礼だが、ナベリウスの分家とはかなりの差があるはずだ。
渡した資料に必死で目を通す黒歌の様子に、とりあえず給料とか福利厚生とか、そちら方面は問題ないようだなと確信した。
あとは……まぁ、俺がハーレム作る系の男性貴族悪魔ってところか。その辺りは織り込み済みのはずだとは思うのだが。
とりあえず、真面目な説明の方を続けていくとするか。夜まではまだ時間があることだし。
次回:就職面接に来た新人OLの黒歌、採用担当の次期社長に……