※この作品はR-18です。

公爵家次期当主好色物語   作:ルペッタ好き

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2-27 契約は慎重に(下)

「まだ猫のままでいるのか?」

「にゃん♪」

 

 さて、どうしたものか。駒王町を一通り見て回り、本日の夜間戦闘でも致そうかと思っているのに黒歌が猫の姿のままで人型になってくれない。

 これではヤルことがヤれないではないか。

 とある奥様によって、俺は人型形態を知っている相手であれば猫科動物形態でも興奮できてしまう立派な変態に調教されてしまった。だが、さすがに肩にのせられるような猫サイズに突っ込むのは無理がある。

 

「どうしたんだ、今日は?」

「添い寝だけじゃ……ダメ?」

 

 黒猫が可愛らしい声で、そうねだってくる。

 ふーむ、よく分からない。俺が嫌いになったというわけではなさそうなのだが……すりすりと頭をこすりつけて来ているし。

 

「ここのベッドの具合を確認したかったんだがな」

「ごめんねー」

 

 駒王学園理事長邸宅の一室、そこに設置された大きベッドの上に仰向けに勢いよく寝転がると、ぼすんと寝具が音を立てた。

 両手で持ち上げた黒歌が、くりくりとした金色の瞳で申し訳なさそうに見下ろしてくる。

 

「機嫌が悪いってわけじゃなさそうだ」

「うん、そういうことじゃにゃいのよ。でも……ちょっとね」

 

 廃棄された教会はそのままにすることにした。

 で、それなら縄張りでの活動拠点をどうしようかということになったときに、それならばと聞かされたのがこの建物だ。

 幼稚園から大学まであるこの駒王学園。それぞれの年代別の学舎ごとに結構な広さがあるその敷地内の一角に、理事長の住まうための屋敷も用意されていた。

 

 元々は来客があった際などのパーティー会場も兼ねて建設されたらしいのだが、近隣に日本各地に根を広げるホテルグループ『サーゼクス』のホテルが建てられたため、碌に使用されることもないまま維持だけされていたらしい。

 さすがに冥界の本宅のような、城の集合体規模ではないが、結構立派な和洋折衷な大正期っぽい建築の御屋敷なのにもったいない話である。悪魔貴族基準でもそこそこに良い感じだというのに。

 

 まぁ、建築時に予定していた来客の層を考えれば気合を入れて造ったのは当然だが。ここって、魔王輩出のグレモリー家と、バアル大王家の共同統治地域なのでな。

 

 あと、悪魔って種族は何故だか建築好きなところがある。冥界にもこの手の、年に一度使うかどうかって建物が結構あったりするくらいだ。父上もやたらと城建てようって言いだしたりするしな……。

 維持費用もバカにならんと思うのだが、倹約節制は悪魔的には美徳ではないので問題ないのだろう。強欲に稼いで、浪費しまくるのが良しなのだ。結果として金が溜め込まれずに回転するから経済的には良いのかもしれない。

 

 日本人に多そうな貯金思考とは違うのだよ、悪魔は。

 

 そもそもが恐ろしく長寿な種族、かつ老化を気にするほど生きている者がいない。なので老後に備えて貯蓄って考えが悪魔には希薄なのだと思う。コレクターは多いがな。

 衰えがないのならば、使った分はまた稼げばいいだけってことになる。宵越しの銭は持たねぇ、でやっていけなくはないのだ。病気や怪我はあるので、そればっかりでもマズイが。

 

「たまにはこういうのもいいか」

 

 胸の上に黒歌をのせたまま目を閉じた。

 

「おやすみ~」

「ああ、おやすみ」

 

 と、したのはいいのだが……さっぱり眠れない。

 最近はスることしないで寝たことがほとんどなかったからな。精力が有り余って、袋がパンパンだ。

 それに、どうにも落ち着かない。猫状態の黒歌がいるのは問題ないのだが、どうにも空気が馴染まない。枕が変わると寝付けないアレというか、建物が違うからダメなのだろうか。

 そこまで繊細なつもりはなかったのだが。

 シトリー家や、アスタロト家、ファニックス家に泊まったことももあるが、特に問題はなかった。仲は悪くないとはいえ、それでも他所の貴族家の屋敷なら警戒心が湧いても良いものだろうに。

 ドライグが代わりに警戒してくれているという安心感もあるのか、他家でも普通に眠りにつけたいたはずだ。

 

 となると、やはりこの人間界の空気がよろしくないのだろうか。冥界のそれとは呼吸した時の感じ方からして違うこの空気が。

 だとすると、俺も立派に悪魔になったものだ。ライザー義兄上などは、人間界の空気を嫌っていたような覚えがある。

 

「守りが薄いってのもあるか……」

 

 グレモリーの城は当然ながら警備が厚い。戦力としてはそこまで期待できずとも、警備の者が見張っているというだけで安心感があるものだ。

 それに比べて、ここはほとんど無防備と言ってもいい。

 縄張り運営のために人間界に住まう悪魔も多いと聞くが、なかなか肝の据わった者たちだったのだな。それとも、俺が小心者過ぎるのだろうか。

 

 いやいや、ドラゴンだってお宝を溜め込んだねぐらを作ってそこで眠ると聞く。寝所にこだわるのはそちらから来た性質なのかもしれない。

 

「ふにゃぁ……」

 

 そして、どうでもいいがさっぱり眠れない。さっさと寝てしまいたい。

 そんな俺の気も知らず、黒歌は安心しきったように眠ってしまっている。微妙に腹立たしい。

 おのれ、気持ちよさそうにしやがって! 

 

『なぁ、ドライグ』

 

 こういったときに、話し相手がいるのは良いものだ。

 

『なんだ?』

『赤龍帝の籠手の所有者は、争いごとに巻き込まれやすいんだったよな?』

『ああ』

『俺、これまでほとんどそんな経験がないんだが』

『お前のように、立場に恵まれた所有者はこれまでいなかったからな。歴代の中には人間の王族などもいたが、異形の、それも悪魔のように独自の社会を築いている勢力の貴族などはいなかったからな。守ろうとする周囲の者たちの力が違い過ぎる』

 

 俺に近づく脅威や争いごとは、グレモリー家の力によって排除されて来たのだろう。赤龍帝の籠手がなくとも、次期当主やら魔王の弟ってだけでも何かしらの工作の対象に成り得るのだから。

 

『となると、その守りが手薄になる人間界での縄張り運営は、何かしらの厄介ごとを呼び込みやすくなりそうか』

『だろうな。この籠手を持つ者の宿命だ』

『じゃあ、基本的には冥界に引っ込んでおくことにするか』

 

 わざわざ必要のないトラブルを招き寄せる意味もない。縄張り運営は下級悪魔どもにでも投げておいて、俺自身は冥界での活動を重視することにしよう。

 あちらならば、悪魔って勢力の力を味方につけやすいのは確かなのだから。

 

『逃げるのか?』

『ふるいにかけるって感じだな。暴れていた頃のドライグだって、有象無象の弱者から絡まれるのは面倒だっただろう?』

『それは確かにそうだったな。戦うならば、相応しい強者が良い』

『なら、グレモリー家の守りも突破できない程度の厄介ごとなんぞ相手にしなくてもいいさ』

 

 そのくらいのもめ事ならば、どうせ簡単に薙ぎ払えてしまう。相手をするだけ時間の無駄だ。そんな暇があったら腰を振っていた方が万倍も有意義ってものよ。

 

 上級悪魔の縄張り運営は、大きく分けると二種類に分かれる。間に家臣を挟むかどうかの違いだ。

 ディオドラやライザー義兄上は、事情は異なるが人間界の縄張りにあまりタッチしていない。基本的には家に従っている下級・中級の悪魔を派遣してそれらに仕事をさせ、上前をはねる形の運営だ。

 逆に『王』自ら現地に乗り込んで、眷属と一緒に人間たちから直に契約を取っている者もいる。こちらだと間に家臣を挟まないので、自分たちの取り分は多くなる。

 前者であれば、悪魔の仕事にかかる分の時間を別のことに使える。後者であれば、稼ぎの他に、悪魔としての階級昇進に影響する功績も多くなるだろう。

 

 で、ハーレム王を目指そうとしている俺は後者を選択することにしたのだ。部下だけでは対応できないような取引や、個人的な知り合いとの取引、あとは大きな案件以外は下の者にやらせても構わないだろう。

 ハーレム人員が増えて行けば、女たちをベッドで待たせることになる。だから、つまらなそうな依頼に割く時間などない。そんな暇があったら子作りしろ、父上だってそう言うに違いないのだ。

 

『そうなると、現状ではこっちの責任者は黒歌に頼むしかないか』

 

 ほぼほぼ任せるにしても、眷属の一人くらいは配置しておいた方がいいだろう。転移ですぐに行き来できるとは言え、まったくいないってのも体裁が悪いかもしれない。

 

 たしか、研究所に勤める直前ごろのアグリッパが、そんな感じで縄張りを運営をしていた覚えがある。

 

 眷属を町に置いて管理させていたときに、そのまた部下の下級悪魔が契約者に『霊を見る力』を与え、亡くなった家族と話せるようにしたところから、俺が朱乃を拾った騒動が始まったはずだ。

 霊と会話できるようになった契約者がその後にうっかり悪霊に話しかけてしまって憑りつかれ、困り果てていたところを通りすがりの朱乃が無償で助けたという。

 契約者が『どうにかしてくれ』と再度取引を願ってくるのを待っていた下級悪魔くんとその上司のアグリッパ眷属は大恥だよ。

 

 アグリッパほどの魔法使いが常駐していたらこんな間抜けなことにはならなかっただろうし、アグリッパ直属の眷属が小学生な年齢の朱乃に出し抜かれるはずもない。でも、眷属の部下までは統率しきれていなかったってことだ。

 まぁ、お陰で朱乃と出会えたのだからアグリッパの眷属くんとその部下には感謝しておこう。何もやらんが。

 

『この猫又にか』

『レイヴェルはまだ学校があるし、涙狙いの連中に襲われるかもしれん。朱乃はバラキエルがどう考えているのか分からんが、堕天使側からちょっかいをかけられる可能性がないとは言えん』

 

 リュイには、俺の秘書的な仕事を頼みたいところだ。『騎士』予定だしな。

 他の眷属が増えてくるまでは、黒歌には仙術の研鑽を積んでもらいつつ縄張りの管理も頼まないといけないわけだ。日本妖怪出身なので、ある程度はこの土地の異形連中とも話が通じやすいだろうという期待もある。

 

『俺にはどうでもいいことだ。お前の好きにすればいいだろう』

 

 とか言いつつ話には応じてくれるドライグは、付き合いのいいヤツだよ。

 

『なぁ、ドライグ』

『なんだ?』

『お前、現状に満足しているのか?』

『……どういう意味だ?』

 

 かつて思う様暴力を振るって世界中を荒らしまわった龍の帝王さまが、こんな小さな籠手の内に封じられて、俺のような若造の話し相手なんぞをしている。

 その状況に思うところはないのかね。

 

『分からないならいいさ』

『ああ、分からんな』

『なに、俺はグレモリーってことだ』

 

 情愛深く、身内に甘いグレモリー。そうあるべし、と始祖によって定められた一族。

 ならば、そうするべきなのだろう。個人的にもそうしてやりたいと思うところではあるし。

 

 ドライグと適当にぐだぐだ話していたらようやく眠気が襲って来た。

 

 

 

 

 ―○●○―

 

 

 

 

「今回は成果『0』か」

「まぁね、そういう日もあるわよ」

 

 帰還したナベリウス分家で、分家当主エダーギに報告を済ませた黒歌はそそくさと自室に戻った。

 

「はぁ……、あぁーしんどかったにゃん」

 

 術を使って周囲を探り誰もいないことを確認すると、ちょっとした防音の結界を張り巡らせる。

 

「んっ……」

 

 次の主から買い与えられた着物の帯を緩め、豊かな胸の双丘をさらけ出すと黒歌の指がその先端へと伸びた。

 

「んっ、はぁっ……」

 

 片手で乳首をいじりながら、もう一方の手を股の間へと忍ばせる。

 すると昨夜からじくじくと期待に震えたまま放置されていた割れ目が、自身の指先をぬるりと迎え入れた。

 

「んんっ……うにゃぁん……ああっ、主さぁん……」

 

 自分で弄っても、男に抱かれることで得られる快感には程遠い。それでも慰めずにはいられなかった。

 自らの胸をこね回し、ひねり、つねる。蜜壺に沈めた指の動きは徐々に激しくなっていき、ぐちゅぐちゅと音を室内に響かせ始める。

 

「んんっ、はぁぁ、ああっ、もっと、もっと、ああっ、んにゃぁん、そこぉっ……、ああっん、おく、おくに欲しいぃ……」

 

 この数か月間、とろとろに蕩けさせられ続けてきた身体が疼いて仕方がない。膣内にある肉粒を指先でまくり上げてみても、肉棒のもたらすそれには到底及ばない。

 

「んんぅん……むり、これ、む、りぃ……、がまん、できな……い。んにゃぁぁ……」

 

 挿入され、快感にビクビクと痙攣する膣内を蹂躙されたい。蕩けた身体をいいように弄ばれ、言われるがままにとった姿勢で幾度も突き込まれたい。

 イキっぱなしになったまま、いつ終わるともしれない連続射精を胎内に受けまくりたい。

 いたずらに反応してピクピクと震える肉棒をなめしゃぶり、上目遣いで快感をこらえる紅髪の少年の顔を見つめていたい。

 これまでに交わした様々な男女の営みの記憶を思い浮かべて、自慰にふけり続ける。

 

「ああっ! んんっ! はぁっ、はぁっ……んんっ、ハッ、ンンンッ、ひぃンンンッ゛!」

 

 はぁ、はぁ、と荒い息を吐きだして黒歌は、自身の愛液に濡れた指先を見つめた。

 軽くイったはずなのに、まったく満足出来ていない。

 

「むなしい、にゃん……」

 

 これは無理だ。トレードが確定するまでの残りの期間、今回のような形で何とかできないかと考えたけれど、これでは自分の身がもたない。

 思った以上にハマってしまっていたことを痛感させられただけだった。

 

「あー……、どうしよ」

 

 我慢できなくて、着物も脱がないままに自慰に耽ってしまった。その結果、かなりお高かっただろう貰い物の着物に染みが出来てしまっている。

 

 あとでどうにかしよう。対処を後回しにし、黒歌はシャワールームへと向かった。

 脱いでからすれば良かったのにと気づき、それもこれも猫を撫でるにしてはいやらしいあの手つきが悪いのだと脳内で八つ当たりを繰り返しながら、ザっと汗を流していく。

 

「姉さま、起きてますか?」

 

 サッパリした黒歌が部屋でゴロゴロとしていると、控えめなノックの後に妹の声がした。

 

 

 

 ―○●○―

 

 

 

 俺は現在、レイヴェルと並んで座っている。

 目の前にはテーブルがあり、反対側には黒歌とその妹の白音が座っていた。

 そろそろ妹を紹介したいという黒歌からの話があったので、白音の待遇も含めて話し合おうということになったのだ。

 

「あら、黒歌さん。服装が整いましたわね」

「にゃはは、さすがにこっちを着ろって買ってもらっちゃったらね」

 

 レイヴェルが言うように、最近の黒歌はきちんと服を着るようになった。というか、俺の趣味でそうさせた。メイド服は正統ロングスカート派な俺なので、和風だってきっちり着ている方が好きなのだ。

 エロい格好は、致すときだけでよい。他の男に際どい格好を見せるんじゃないという独占欲も多分にあると思う。

 妹の白音の方はと言えば、白いワンピース姿であった。白い髪に白い肌、白い服。小さい背丈や華奢な身体つき、大きな瞳も合わせて大変庇護欲をそそってくる。写真で分かっていたことだが、改めて将来性にとても期待できそうだ。

 

「そうでしたか。それは良かったですわね」

 

 隣のレイヴェルがちょっとピリピリしているのは、いつぞやの眷属にするか使い魔にするかって攻防のせいだろう。まぁ、俺としては本当はどっちでもいいのだが、一度口に出した以上は使い魔って方向で進めていくつもりだ。

 その後、まずは黒歌の今後の扱いについて話をした。仙術の研鑽を進めてもらうことと、駒王町の縄張りで活動させる悪魔達のまとめ役になってもらうことについてだ。

 仙術については問題なかったのだが、縄張りに関しては最初は結構渋られた。あまり責任のある立場には付きたくないと考えていたらしい。

 でもな、『責任を嫌うヤツは責任感があるヤツだ』ってどこかで聞いた覚えがあるので、ここは未来のご主人様権限で押し通させてもらった。別に悪い話ではないのだ。むしろ稼ぎも増えて、功績も上げやすくなるポジションである。転生悪魔ならば、なりたいと手を上げる者の方が多いだろう。

 

「学校?」

 

 黒歌について大まかに話した後は、白音のことだ。

 

「そそ、この間のお出かけで主さんの縄張りを見に行ったときの話をしたら、この子が学校に行ってみたいって言いだして」

 

 ぶすっとした顔のレイヴェルに拗ねた目付きで睨まれてしまった。黒歌だけを連れて行って、彼女を置いていったのがお気に召さなかったらしい。

 説明したんだけどな、「お前が心配だったんだよ」って。その時は、ほわんと頬を染めて嬉しそうにしていたのに、ちょっと間を置いたらやっぱり不満が出て来たらしい。なんとも可愛い嫁さんである。

 

「学校か……駒王学園に通わせたいってことでいいんだな」

「そうにゃん。私が駒王町の縄張り見てるってことなら、白音とも一緒にいられるし……。あ、もちろん、学費とか生活費は私のお給料から出すつもりよ」

 

 駒王学園はあの地では、最大の施設だ。生徒の中にこちら側の者を混ぜておけるのは都合が良い。

 

「それは構わないが、白音の生活の拠点はここにするぞ」

「え? ここって、このお城?」

「白音は俺の使い魔にするからな。人間の学校もいいが、覚えさせることがある。ああ、どうしても使い魔がイヤなら、レイヴェルの眷属でもいいぞ」

 

 俺の言葉を聞いた黒歌の顔色が変わった。陰りを帯び、まるで手ひどく裏切られた者のような瞳をする。

 

「え……なんで、主さんが、白音のことを決めるの?」

「なんで、と聞かれてもな。そういう契約だとしか言えないな」

「契約って! 私のことは好きにしたらいいけど、白音は関係ないはずよ!?」

 

 ああ、分かっていなかったのか。エダーギ殿が『商品としての黒歌の説明』に、妹の白音も付属させていたことの意味を。

 黒歌の値段はかなり高額だった。その値段の中には、白音の分も含まれているのに、だ。

 

「それがあるんだ。黒歌が結んだ契約にそう書いてある」

「そんなはずないわよ!」

 

 ちょっとばかり黒歌が興奮気味だな。黒歌が妹大好きお姉ちゃんなのは、これまでの付き合いでにじみ出ていたから、これ以上意地の悪い言い方はあまりしない方が良いか。

 とはいえ、ここが白音の処遇をこちら側に持ってくる分水嶺。悪魔らしくいかないと。

 

「まぁ、少し落ち着け。たしか、黒歌はエダーギ殿が白音に自分と同じような訓練を課そうとしていると怒っていたよな?」

「そうよ、あんたはそんなことしないって……」

「それなんだがな、エダーギ殿にはそうする権利がある……。いや、正確には黒歌にはそのことに文句を言う権利がないんだ」

「それって、どういう……!?」

 

 憤る黒歌の眼前に、契約書を突き付ける。

 オリジナルはまだエダーギ殿が保管しているので、これはトレード後の眷属悪魔の待遇について確認するために受け取った写しだ。

 

「同じものを持っているはずだが、文面をよく確認してみろ」

 

 言われた黒歌は、自身の亜空間から契約書を取り出してまじまじとその内容を確認し始めた。

 気になるのか、白音がそれを覗き込もうとしているので彼女の前に写しを置いてやる。

 

「悪魔文字は読めるか?」

「あっ、えっと……はい、少しだけ、ですけど」

「読んでみろ」

 

 悪魔の契約書の正式なものは、悪魔文字を用いて記される。

 

「黒歌……姉さまが、エダーギ・ナベリウス、様の眷属悪魔となる代わりに、衣食住の面倒をみてもらう。妹の白音も、姉の黒歌同様に扱いエダーギ・ナベリウスさまが、面倒を見る……でいいですか?」

 

 他にも細々と書かれているが、要点は白音が今意味を訳した部分だけだ。前世日本人な俺もそうだが、日本妖怪出身の白音もやはり思考言語は日本語らしい。 

 会話が自動的に翻訳されてしまうこともあって、前世持ちな俺はなかなか悪魔言語で思考できないんだよな。切り替えが出来ない、難しい。

 

「これをどう読んだら、私には白音のことで文句を言う権利がないってことになるのにゃん?」

 

 少し落ち着いたのか、訊ねてくる黒歌。その文章の解説は、レイヴェルにお願いすることにした。アイコンタクトで引き受けてくれるってのは、良いものだ。

 

「まず、眷属悪魔と言う言葉が、下僕と同義であることはご存知ですよね?」

「それくらいは知ってるわよ」

「では、下僕は主に逆らう権利などなく、服従するものだということも理解されていますかしら?」

「それも、分かってるにゃん……。でも、白音はッ……!」

「黒歌さん、この契約の内容では、白音は姉と『同様』に扱うこととされていますわよね?」

「そうだけど……って、え……それってご飯のことだけじゃなくて……?」

「ええ、この文面からだと、黒歌さんが妹ともども下僕として扱われることに同意した、とも読み取れますわ」

 

 眷属のトレードを行った場合、基本的には前の『王』との間で交わされた契約の内容が引き継がれることになっている。

 そうしないと、眷属側の立場が一方的に劣悪なものになっていってしまう可能性が高いからだ。

 

 たとえば俺が、非常に良い条件を提示して眷属に迎えた転生悪魔がいたとする。

 だが、その眷属をトレードに出した際に次の『王』が「それは前の『王』との契約だから知ったことではない」などと言えてしまうとなると、最初の条件が消えてしまうことになる。

 そうなると、好条件で釣っておいて、即座にトレードすれば無給で働かせるなんてことも可能になってしまう。

 

 それはよろしくないということで、現魔王様方が『悪魔の駒』を導入した際に定めたルールが、契約条件の引継ぎである。

 

 まぁ、死にかけるまで痛めつけてから「死にたくなければ下僕になれ」なんて勧誘の仕方もあるそうなので、劣悪な条件で働かされている転生悪魔は後を絶たないわけだが。だから、『はぐれ悪魔』がポコポコ発生するのだ。

 

「そんな……」

 

 俺は、契約書を握りしめてプルプルと震えている黒歌の後ろに立った。

 

「エダーギ殿が結んだ契約を引き継ぐ形になるから、俺は白音を下僕として扱ってもいいってことになる」

「うっ……くっ……」

「少し二人で話そう」

「う、ん……」

「悪くはしないから、そう睨むな。俺が傷つく」

 

 黒歌の脇に手を回して抱えあげ、別室へと連れ出す。

 

「レイヴェル。白音への説明を頼む」

「ええ、分かりましたわ」

 

 さて、こっちは黒歌をなだめるとするか。

 

 別室の長椅子に黒歌を座らせ、隣に腰を下ろす。

 

「少しは落ち着いたか?」

「そうね……少しだけ」

 

 まだ不機嫌そうだな。まぁ、最近かなり甘えて来てくれるようになっていたから、それを裏切られたような気分にでもなっているのかもしれない。

 だとすれば、うん、男冥利に尽きるってものだ。それだけ好意があったってことだからな。

 

「あの契約内容だがな、実のところ白音にはなんの強制力もない」

「……え?」

「当たり前だが、契約したのは黒歌であって白音ではないからな」

「そう、あ、そうよね!」

「ただ、白音を俺の使い魔か、レイヴェルの眷属にって話は本気だ。これはあの子を守るためのものでもある」

「どういうこと?」

 

 少し身体が柔らかくなったな。緊張が抜けたようだ。彼女の腰に回した手から、その感触が伝わって来た。

 

「自分で言うのもなんだが、俺は結構重要な立場でな。その眷属、それも愛妾のように扱われている者の妹となると、何かしらの企みの的になることがあるかもしれないってことだ」

「魔王輩出の名門公爵家の次期当主で、魔王の弟で、赤龍帝だものね……」

「それでだ、それこそ黒歌がしたような契約をいつの間にか結ばされていた、なんてこともあるかもしれない。あの契約を結んだのは今の白音くらいの年の頃だったんだよな?」

「そうよ……。はぁ……、悪魔との取引なんて、慎重にしなきゃいけないって分かってたのに」

 

 人間なら小学生をやっているくらいの年齢で、大戦以前から生きている悪魔と取引をしたらいいようにされてしまうのは仕方のないことだ。エダーギ殿のやり口は、まだ良心的とさえ言える。

 

「ただ、俺のその厄介な立場ってものは逆に有効でもある。使い魔なり、眷属になりなっておけば、そう手を出してくる者はいない」

 

 適当なことを話しているが、俺の目的は白音を手元に置くことだけだ。じっくり美味しく育てて、たっぷり味わってやろうという考えである。庇護下に納めようってのは、そのついでである。

 そう悪い話ではないと思うんだけどな。

 

「使い魔だと、たしか契約の更新が出来たはずよね?」

「ああ、悪魔へと転生したらもう取り返しがつかないが、使い魔契約は契約解除もあるし、内容は様々だ」

 

 一年ごとに見直しなんてことも出来るし、契約に定めた報酬が支払われなければその場で打ち切りも可能だ。眷属になる場合とは、自由度が段違いである。

 

「んっ、んっ、んにゃ……」

 

 撫でているうちに喉を鳴らし始めた黒歌の耳元で囁く。

 

「よく相談してから決めるといい。シロの様子を見ていたから分かっていると思うが、この屋敷では俺の使い魔の立場は結構良いものだぞ」

 

 

 結局、白音は俺の使い魔になるということで話がついた。

 

 仕事内容は、屋敷内の清掃メイドと同じ。平日は学校に通って、放課後と休日に働いてもらう。給料は日本円にして時給五千円程度で、有給は無いが福利厚生は一部適用。

 不満がなければ、契約は自動的に更新される。

 

 まぁ、給金が安い気もするが、見習いならこんなものだろう。

 

 

 






次回『DX―白音 はじめての発情期』


現魔王の治世になって長いはずなのに、未だに内戦前の主家であるネビロス家に忠誠を誓っているエダーギ・ナベリウスのような古いタイプの悪魔が、猫又相手とはいえ、契約を破って眷属の妹にまで手を出すはずがない。
と考えたら、黒歌との契約内容にその辺りまで含まれていたことになった。

もう少し文章に凝りたかったのですが、作者の頭が追い付かなかったので白音ちゃん使い魔化ってところだけ覚えておいてください。
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