※この作品はR-18です。

公爵家次期当主好色物語   作:ルペッタ好き

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操作ミスっていたようで文章が3000文字くらい繰り返しになっていたので、一旦削除修正からの再投稿です。










2-終 龍帝の契約(後)

 

 姫初め、姫納め、という言葉がある。文字の表記であったり、元々の意味であったりが実は不明な言葉らしい。

 だが、俺の中では年の初めに性交することと、年の終わりに性交することの意味合いになっている。

 

 というわけで、我が姫といえば将来の正妻たるレイヴェルなので、昨晩は着物を着せて姫納めを致した。

 年の初めと終わりくらいは、正妻さんを立てるものだと、昔のエロい日本人も考えたのだろう。

 

 姫納めの前には、兄上を除いた我がグレモリー家の面々が集まってのパーティーだったわけだが、メイドモードではない義姉上が酔っぱらって不貞腐れていたのが印象的だった。

 ローゼンクロイツの歓迎会も兼ねていたので、俺の眷属や、父上の眷属とも同時に行われたわけだ。

 ちなみに、俺は母上の眷属と会ったことがない。いないとも聞いていないし、いるとも聞いていない。

 実はヴェネラナ眷属が我が家の裏方というか、汚いところを担当していたりする可能性があるかもしれない。まぁ、貴族なのでそういうこともあるかもしれないし、ないのかもしれない。

 世の中には知るべき時まで知らない方がいいこともある、そんなセリフをどこかで聞いた気がするしな。

 

 さて、そのローゼンクロイツの電撃的な引退と移籍についてだが、父上や母上、それからマスコミ関係にも顔の聞くフェニックス家の協力もあり世間的には好意的に受け止められたらしい。

 

 最愛の息子の治療に専念するため、長年かけて築き上げた地位も財産も投げ打った情愛深き最上級悪魔リュディガー・ローゼンクロイツさんというわけだ。

 

 俺が去年の記者会見で言い放ったセリフも絡めて、上手いこと美談に仕上げたんだとか。

 

 まぁ、たしかに、『子供を助けたいなら力を付けて、対価を用意して、紹介者とツテを作ってここまで来てみろや!』みたいなことを言ったわけだが、それを一週間と経たずに実現されてしまったことになる。

 今後はアレか「リュディガー・ローゼンクロイツはやってみせたぞ」とでも言ってやればいいのかね。

 ローゼンクロイツは、元々はさして有名でもないそれなりの実力の魔法使いでしかなかったので、割とそのまま当てはまってしまったという。千年も生きていない元人間に出来たのだ、下級悪魔だろうとローゼンクロイツより年上のヤツは、これまでの積み重ねが足りなかったってことだ。

 自分で考えてみて、「条件厳しいな」とは思う。だが、また同じようなことを聞かれたらそう答えておこう。

 

 とまあ、ここまでは平民向けに上手いこと情報を操作してもらった話。

 

 

 貴族界隈では、「これでもう、あの悪魔より悪魔をしている『番狂わせの魔術師』と試合しなくてもいいぞ!」といった流れに持って行ったらしく、まぁまぁの好評を得たのだとか。

 どれだけローゼンクロイツとの試合が嫌だったんだ。

 実際に体験していない俺には、その本当のところはよく分からない。ただ、あの人格者のタンニーン殿ですらホッとしていたので、まぁ、そういうことなのだろう。

 

 ローゼンクロイツにはとりあえず子供のことに集中してもらって、それが片付いたら神器の研究やメンタルケアの仕事に励んでもらうとしよう。なんか、そんな流れになってしまったことだし。

 

 そして、グレモリー家年末のパーティーに参加できなかった兄上なのだが、なんでもレーティングゲーム関連で大晦日に大事があったらしい。そのせいで仕事が急に増えてしまったため、こちらに来られなかったようだ。

 ……半分ぐらいは俺のせいのような気がするので、心の中で「ごめんなさい」しておこうと思う。ごめんな、ミリキャス。叔父さんからのお年玉で許してくれ。

 

 他所の御家は知らないが、微妙に歪んだ日本贔屓を患っている我がグレモリー家ではお年玉なんてものもあるのだ。

 ちなみに、俺はもうもらえなかった。大人になった(ヤルことやった)かららしい。なるほどね。

 つまり、俺がお年玉をあげたミリキャスはまだ大人ではないということだ。当たり前だな。

 

 今月は、『年に一度くらいは一族で顔を合わせておこうぜ』的なグレモリーの一族の会という名の宴会などもあるので結構忙しい。レイヴェルに聞いてみると、フェニックス家でもそれっぽいことはやるらしいので、俺とレイヴェルはどっちにも顔を出さねばならんわけだ。

 去年の婚約以来、(主に俺が)様々な話題を世間に提供してきたので、質問攻めに合うこと確定である。

 

 なお、母上はバアル家にまったく顔を出さない。そのことを母上に「ずるいですわ」とレイヴェル風味に告げてみたところ、「なら、貴方が行きなさい」と上機嫌な笑顔で言われてしまった。

 俺、いつの間にかグレモリー本家の中で、バアル家担当みたいな立場にされてないか? 叔父上との仲、よろしくないんですけど。

 ちなみに、母上が上機嫌だったのは稼いだ金で贈り物をしたからだったりする。悪魔でも息子からプレゼントもらうと嬉しいんだなって。

 ついでに言えば、父上には渡していない。「なぜ私にはないのだ」とかチラッと言われたが、男に物を贈る趣味はないのだ! ……というのはパーティージョークってやつで、以前治療費のドライグ分の分け前として見繕っていた世界の酒コレクションからよさげなのを渡しておいた。

 なに、いっぱい買い漁っているので物はたくさんあるのだ。金もあるので俺が買い取った形で再度補充しておけばいい。

 我ながら適当だな。まぁ、今のドライグに金を使う機会なんてないのだけれど。

 

 そのときに父上から、「そのうち父と子で飲もう」と言われたが、俺の舌はまだ甘口なので味の好みが合うにはもう少し時間が必要だろうな。ラティアと話した、時間を加速して速攻成熟悪魔になろう! を実際にやったら、半年くらいか? 意外に早い。

 

 

 で、母上の実家であるバアル家の方だが、任されたのならしょうがない。

 マグダランへのお年玉はいつもの魔力増強トレーニングの日ではなく、バアル家の催しのときにでも渡すことにするか。

 旅先のサイラオーグから届いた手紙もあるしな。アイツの手紙は、俺宛のものは主に旅日記風味だ。でも、マグダランにはどんなことを書いているのやら。

 

 

 しかし、サイラオーグと言えば思い出すのは、いつぞやの『お従兄(にい)ちゃんどいて! その聖女殺せない!』事件だ。

 

 我が従兄にして義理の息子くんは、人間界に行って間もない頃、案の定聖剣使いにぶっ殺されそうになった。犯人は聖剣ガラティンだったかの使い手のダヴィードだかフリードだかって名前の野郎だ。いつか会ったらぶっ殺してやる。

 

 まぁ、その聖剣使いへの報復はおいておくとして、問題はレイヴェルからもらったフェニックスの涙も使用して、からくも逃げおおせたサイラオーグだった。

 あの頃のサイラオーグは、中級悪魔に勝てるようになった程度。名うての聖剣使いから逃れられたのは、奇跡みたいな状況だったらしい。

 なんとか逃げおおせたものの大きな怪我を負ってしまい、このままでは死んでしまう……という状態のところに通りかかったのが、なんと教会の聖女だった。

 これまでか、サイラオーグはそこで覚悟を決めたのだが、なんとその聖女は回復系の神器をサイラオーグに使用して助けてくれたらしい。

 

 と、まぁここまでなら、いやー助かって良かったねで済んだのだ。

 その後がよろしくなかった。いや、結果的には良かったのだが、そのときは焦ったね。

 悪魔であるサイラオーグに治療を施したその聖女は、『悪魔を癒せる神器なんて!』とか『裏切り者め!』みたいなことを教会の連中から言われて、追放刑を言い渡されてしまったのだ。

 そのことをどうもディオドラから聞かされたサイラオーグは、手のひらを返した教会の信者から罵倒され、石をもって追われたりしていたらしいその聖女に会いに行った。

 で、そこでどういうやり取りがあったのか知らないが、そのまま一緒に旅をすることになったようだ。

 

 と、ここまではまだなんとかマシとしよう。

 ただ、その後のサイラオーグから来る手紙の内容がどうも……こう。

 これはいかん。俺はそう思った。いつぞやゼクラム祖父さんから聞かされた、教会勢力の男とマジ恋して粛清された女性悪魔のことが頭によぎったのだ。祖父さんはあのとき名前をボカシて話していたが、我が家の方の記録にその女性悪魔の名前が残っていたので、うん、これは本格的にマズイなと思ったね。

 あのディハウザー・ベリアルの身内ですら粛清されるほどの事態。サイラオーグの現在の立場だと、判定基準がもっと緩い可能性が大いにある。このまま放っておくと処されてしまうかもしれない。

 ということで、俺はサイラオーグとその聖女に会いに行くことにした。旅の危険はある程度自己責任だが、悪魔の事情でサイラオーグを粛清されるわけにもいかん。

 会ってみると、噂の聖女はなんとも小さかった。聞いてみれば年齢は俺より一つ下なのだとか。いや、レイヴェルより背丈はあるのだが、隣の大男と並べると物凄く小さく見える。人間なのでオーラもないしな。

 

 サイラオーグめ、ロリコンに目覚めたか……。

 

 サイラオーグが旅に出る前ディオドラのところで勉強していた頃、ライザー義兄上も呼んで四人で男子会をしたこともあった。そのとき、サイラオーグの話も聞いたのだが、ストイックぶってはいるが、普通にエロ思考もあったしな。なるほど、こういうのが好みだったのか、はーん。

 で、俺はサイラオーグに説明した。悪魔の社会では教会女とのマジ恋は禁止、「教会から石もて追われながら未だに十字架を下げ、聖書を携える女とは別れろ」と。弄ぶのは構わない。利用するだけ利用して、しゃぶりつくしてから捨てるのもいいだろう。だけど、敵対勢力の者との真剣交際はいかんのだ。

 どうしても一緒にいたいのなら、とサイラオーグの『悪魔の駒』を出させてその聖女に持たせもした。「お前が神への信仰を捨て自ら悪魔になるのなら、生かしておいてやる」と。

 だが、聖女もサイラオーグもどうにも返事がはっきりしない。

 ならばもう、悪魔政府の処刑人かなにかしらにサイラオーグと聖女のことがバレる前に、始末をつけるしかない。

 

 こうして、聖女を殺そうと魔力を手の中に集める俺、怯える聖女、そして両者の間に立ちふさがるサイラオーグという図になったのが『お従兄(にい)ちゃんどいて! その聖女殺せない!』事件だ。

 

 まぁ、結果としては、ボロボロになっても自分を守ろうとするサイラオーグの姿に絆された聖女が、自ら悪魔へと変じた。

 サイラオーグの眷属として転生悪魔になったということなら、もう何も問題ない。十字架を壊させ、聖書を焼かせて任務完了だ。

 

 その後、「上手いことやれよ」とサイラオーグに言い残して俺はクールに二人の前から飛び去った。

 やれやれ、手間のかかることだ。『駒』が機能したってことは、サイラオーグにもその気があったってことだろうに、ぐじぐじしやがって。あれなら強引にぶち込んでもいけただろうによ。

 しかし、俺の演技力も捨てたもんじゃなかったな。聖女抹殺はともかく、それを邪魔したくらいでサイラオーグを殺すわけもないってのにアイツときたら本気だと受け取ったのか、重力倍加で地べたに這いつくばらせてやったら……なんかこう物語の主人公めいた『覚醒』をして、急に闘気の量を増やしやがるの。ビックリしたわ。

 

 ま、それでもまだ上級悪魔クラス。俺をどうこうできるわけもなく、立ち上がっては潰され、立ち上がっては潰され、と繰り返すサイラオーグの姿を見かねた聖女が悪魔化したって寸法よ。

 サイラオーグの執事で『兵士』のトラーバには事前に話を伝えてあったので、余計なこともしなかったしな。 

 

 今頃我が従兄は、旅の空の下でズッコンバッコンやってるのかね。アイツのデカそうなんだけどなぁ……。

 体格差考えると、ミリミリミリィ、ぼこぉ! ひぎぃ!! ってなっちゃいそうだが……大丈夫なのかね。あ、いや、悪魔でも治療できる神器があるから大丈夫なのか。

 案外、プラトニックな関係でじりじりラブコメチックにやってるのかもしれんが……、いや、アイツは俺の従兄だ。そんなことはあるまい。

 ヤルときはヤル男だと信じているぞ。

 うん、まぁ、あれだ、サイラオーグは近接戦闘しかないからよく傷だらけになるし、回復能力に優れた『僧侶』ってのは丁度良かったのかもしれないな。某ドラゴンでファンタジーなRPGなら、サイラオーグが武闘家で、あの元聖女の魔女アーシア・アルジェントが『僧侶』、『兵士』のトラーバが太った商人で、時々呼び出される『戦車』のリキーゴが怪力の召喚獣みたいなものか。他にも仲間が増えているようだし、よいよい。

 ヨーロッパ近辺抜けて、天竺目指すとか言ってたが、西遊記かな? 逆向きだが。

 

 

 

 

 

 とまぁ、元日の午前中につらつらと考え事をしている俺は、現在コタツに入っている。 

 我が後宮に用意させた、日本風味の部屋だ。キングサイズベッドほどの無駄にデカイコタツの周囲には俺の眷属が集まっている。あと、オマケで使い魔が少々。

 これまた無駄にデカイテレビの画面には、年末年始は大忙しのレーティングゲームのトッププレイヤーであるリュイことロイガン・ベルフェゴールの戦闘風景。がんばれー、今日も賭けてるぞー! 

 

 膝の上には黒猫と白猫。黒い方は黒歌で、白い方は使い魔のシロちゃん。テーブルの上に並べられたそれっぽい料理やらおせちの中から、猫の食べそうなものをやってみたり、撫でまわしてゴロゴロ言わせてみたりだ。

 

 もう一匹の白猫であるところの白音は、俺からずっと離れたコタツの反対側にちょこんと座っている。いや、大人しくはしていない。目の前に並んだ料理をみて、食べたい食べたいと目で訴えてきたので、しばらく『待て』したあとに許可を出したらバクバク食べている。ふっ、いやしい雌猫め。

 今は姉を盗られたと思ってやや反抗的だが、いずれお前も俺の膝の上でにゃんにゃんあんあん言わせてヤル。くくく。

 

 ミスラさんは寝正月だ。これはどうにもならん。

 

「白音」

「はい、なんですか?」

 

 俺が声をかけると、ジト目で返事をして来たので、くいと部屋の隅にいる触手くんを指さした。

 

「ミルクの追加だ」

 

 今日は大盤振る舞い。触手くんにもメスの体液をたらふく喰らわせてやろう。

 

「わかりました。──はい、触手先輩、ミルクの時間ですよ」

 

 白音が触手にミルクをやっているところを眺めつつ、俺は足を動かした。

 このコタツは掘り炬燵なので、中が結構広い。その中に潜り込んで遊んでるとか、お前は子供か! お前のことだよ、朱乃。

 

「ああん♡」

 

 足の裏に感じるぐにいとやわらかい触感。それとともに、くぐもった声がコタツの中から聞こえて来た。

 こんなのでもお外ではちゃんと出来る子なのだ。身内しかいないと油断してこんな風になってしまうだけで。

 

「御用でしたか?」

 

 俺の股の間から顔を出すな。猫と一緒に撫で繰り回すぞ。

 

「にゃん」「にゃん」「あぁーん」

 

 まぁ、たまにはこういう時間もいいだろう。

 午後からはお出かけなので、午前中ぐらいはのんびり過ごしたいものだ。

 

 レイヴェルはこの部屋にいない。

 

「これからは、毎年初めの食事はレイヴェルの作ったものが食べたい」

 

 こう言ったら、嬉しそうな笑顔で「はい!」と手を上げてキッチンに向かってくれたのだ。

 リクエストしたのは雑煮である。雑煮って日本の宗教関係の食事なので、悪魔的にはどうなのかとも思うがまぁいいだろう。前世でも、それほど意識して食べてはいなかったし。

 と、思考がそのことに戻ってきたところでタイミングよく扉が開いた。本日は和服仕様のメイドたちを引き連れた、ニコニコ顔レイヴェルの登場だ。

 

「お待たせいたしましたわ。少し調べてみましたら、いろいろと土地ごとに違いがあるようでしたので、人口の多い地域のものにしてみましたけど」

 

 前世の俺が日本の何処に住んでいた何者なのかは、誰にも話していない。レイヴェルにもだ。あるいはドライグならば知ってしまっているのかもしれないが、ドラゴン的にはさして気になることでもないのだろう。

 

「うん、これだ。ありがとう」

「どういたしまして。──朱乃……貴女はそこで何をしていますの?」

 

 見ようによってはフェラってるような位置にあるからな、今の朱乃の顔。

 

「ちょっと遊んでいただけだ。ほら、黒歌も席に付け」

 

 年の最後の姫納めと、年の初めの姫初めはレイヴェルだぞと言っていた。

 それなのに、朱乃と致していたんじゃないかとプッと膨れたレイヴェルを隣に座らせ。皆で挨拶の後に食べ始める。

 白音や黒歌は先につついて食べていたが、まぁ俺が守っていれば『女王』様的にはよいのである。ヤキモチはちょっと膨らませた方が美味しいしな。

 

 さて、今年も一年よろしくやっていきますか。

 

 

 

 

 午後というか、魔力とその術式で運行されている冥界の太陽が沈みかけの夕方。

 俺とレイヴェルは二人で冥界フタコブラクダのゴポリンの背で揺られていた。

 

 どこに向かっているのかと言えば、魔王ルシファーつまりは兄上のところに新年の挨拶だ。

 朱乃は置いてきた、兄上がなんだか気にかけているようなので、あまり会わせたくない。黒歌も置いてきた、偉い人とのやりとはなるべく遠慮したいそうだ。

 グレモリー領から転移魔方陣で跳ぶこと数回、その後に車で城門まで移動し、そこからまたかなり距離のある城の建物までをラクダの背に乗って進んでいるワケだ。

 護衛連中も城門の所で置いてきた。ここから先には連れていけない。

 

 ふと、俺の前に座ってゴポリンの手綱を操るレイヴェルを両手で抱きしめた。

 いつか、こういうことが出来なくなるのかと思うと、なかなか辛いものがある。

 

「リアスさま……どうかなさいました?」

「いや、また時期を見て話す」

 

 こてんと首を傾げるレイヴェルを抱きしめながら、俺は昨日ドライグを交わした契約の内容を思い浮かべていた。

 

『「自由」か……。「自由」な……ああ、欲しいとも、こうなってから、それを思わなかった日はない』

 

 赤き龍の帝王ア・ドライグ・ゴッホ。

 かつて多くの神々を恐れさせ、世界中を飛び回って好き放題に暴れていたという二天龍の一。

 

『神器の内に封じられ、人間のための道具として力を引き出されて利用され、出来ることと言えばこうして宿主と話すことぐらい』

 

 話を聞くと、その宿主にしてもドライグとの会話をする者は少なかったようだ。

 ただ、その辺りはやや疑問が残るが。なにせ、コイツはおそらく精神に干渉を受けている。聖書の神の恐るべき技術は、天龍の精神さえ弄り回せるということだ。

 

『なぁ、ドライグ』

『ああ』

『お前の本来の力は、「倍加」と「譲渡」の二つだけではなかったそうだな。様々な守り、障害を「透過」する力、そして神々も恐れた消えることの無い炎の吐息』

 

 これらは、封印前のかつての二天龍と戦ったことのある者ならば知っていることだ。なにせ、ドライグは『透過』の力を隠してはいなかったようだし、焼き尽くすまで消えることの無い業火に関しても、本腰を入れて戦うまでもない相手を蹴散らすために使用していたらしいのだ。

 悪魔、天使、堕天使は三つ巴の大戦の際、神話に記された決戦場に割り込んできた二天龍との戦いを経験している。つまり、大戦から生き残った連中は皆ドライグやアルビオンの神器に反映されていない力を知っているのだ。

 そのことは大戦の内容を記した書物にも記されている。なにせ、二天龍に対抗するために三勢力が手を結んだとか言う前代未聞の事件のことなのだから。

 

『そう……そうだった。なぜ、俺はそれを……?』

『おそらくだが、明日にはもう覚えていないかもしれないぞ。俺がこのことを大戦を経験した方々から聞いた後も、書物で調べたときも、お前はそこにいたんだから』

『記憶を操作されているのか、この俺が』

『ああ、このまま神器を通して聖書の神の影響下に居続けると、どうなっていくのか分からない』

 

 俺としても、この『神器(セイクリッド・ギア)』って代物には色々と思うところがある。

 たしかに便利だ。俺は『赤龍帝の籠手』の恩恵を多大に受けている。

 だが、これは聖書の神の創った代物だ。どこに何が仕掛けられているのか分からない。アジュカ・ベルゼブブさまが『悪魔の駒』に公表していない機能を盛り込んでいるように、聖書の神も神器に何かを仕込んでいる可能性は十分にある。

 ある日突然、この籠手が大爆発を起こすってこともあり得なくはないのだ。魂に繋がっている神器を通して、聖書の神に俺の魂が遠隔操作されてしまう可能性もある。

 戦闘能力だけなら、この世界のトップ層にいた全盛期のドライグ。それが精神を弄られているのだ。俺なんぞでは、一瞬で操り人形されてしまうかもしれない。

 

 便利ではあるが、空恐ろしい。それが俺が『赤龍帝の籠手』に抱いている感情だ。ま、使えるうちは使い倒すがね。

 

『つまり、お前はこの籠手をどうにかするつもりなのか?』

『ああ、ただ、それはドライグを開放することと同じではない。神器だけを魂から切り離す術は、ローゼンクロイツが探している。もしそれが上手く行って、俺がそちらを選んだ場合、お前はまたどこかの誰かの所に渡っていくわけだ』

 

 ドライグが押し黙った。沈黙の中から強烈な重圧を感じる。

 

『……何が望みだ。強欲な悪魔よ』

『取引を──お前に「自由」と、俺の片腕をやろう。それに合わせて、腕の分の俺の力もくれてやる。その代わり、お前の力の九割を俺に寄こせ』

 

 神器の研究には長い年月が必要だろう。それが終わるまでは、天界そのものにちょっかいを掛けづらい。聖書の神がブチギレたら困るからな。

 そして、神器に一番詳しい聖書の神をぶちのめしてどうにかさせるって最短経路が取れないとなると、もう地道にやっていくしかない。

 堕天使は悪魔よりも深く神器研究を進めていると言うから、その資料を略奪するのもありだが、基本は時間をかけてやっていくしかないだろう。

 そうなると、俺とドライグの付き合いはかなりの期間に及ぶはずだ。その頃には、ドライグにとって最も相性の良い肉体は、おそらく『赤龍帝の籠手』を使いまくっているだろう俺の身体になっていると思う。

 

『だから、この籠手の付いている方の腕を一本やろう。その対価に力が欲しい』

 

 便利だからな、籠手の能力は。今でも手放し難いのに、数百年後にはもっと慣れ親しんでしまっているだろう。

 ま、腕一本分の俺の力ってなると、大体前ルシファーさまの魔力と同じくらいになるんじゃないだろうか。解放出来るようになるころには。

 そこにドライグの元々の力の一割が残れば、竜王クラスとは十分に渡り合えるはずだ。

 

『契約の対価に差し出したものは、フェニックスの特性でも戻らんぞ』

『まぁ、仕方がないな。お前のためだ。もちろん、俺のためでもあるが』

 

 片腕になると、抱きしめたり、おっぱいを両方同時に揉んだりとか、色々と出来ないことが発生してしまう。それはとても痛い。

 なんなら、こんな話すぐにやっぱなしと言ってしまいたくもなる。が、神器への不安とドライグの自由、なにより俺自身の強さのためだ。

 

『いいだろう。──このままこんなところでお前たちが乳繰り合っている様を見続けるのもたまったものではない。それに、強さはまた鍛え直し高めればいいだけだ』

『なら、正式な契約はいずれ立会人を立てた場で結ぶとしようか。俺やお前でも勝てないような相手に頼んで』

 

 グレートレッドか、オーフィスか、あるいはサマエルか。その辺りの名で契約の書面を作らせてもらわないとな。

 こういうことは、たとえ身内でもキッチリやっておかないと。

 

『ふん、用心深いな兄弟』

『ああ、悪魔だからな』

 

 ドライグとのやり取りを思い出し、俺はより一層強くレイヴェルを抱きしめた。

 

「リアスさま、ちょっとキツイですわ」

「ああ、すまん。日付が変わったら『姫初め』だなと思ったら……ついつい」

「もう、こんなところで言わないでくださいまし」

 

 さあて、とりあえずは本日の兄上への御挨拶から済ませていくとしようか。

『王の駒』の話もあることだしな。忙しいところにさらに問題をぶち込んでしまうわけだが、きっと笑って許してくれるさ。

 なにせ、アジュカ・ベルゼブブさまの技術開発。セラフォルー・レヴィアタンさまの外交。ファルビウム・アスモデウスさまの軍事。

 他の三魔王が担当しているところ以外をこなしている兄上だもの。

 

 

 

 

 

 




二章終わり



三章は章タイトルは『魔女裁判のラ・ピュセル』の予定
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