公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
母方のバアル家の特色である紫の瞳、父から受け継いだグレモリー家の紅色の髪。
純血悪魔の多くが標準装備している美形フェイスに、ここしばらくベッド上での連戦を意識して鍛えて締まってきた身体。
グレモリー公爵家の次期当主として教え込まれた見栄えのする所作に、概ね上から目線の口調と態度。
魔王クラスを優に超えて超越者の領域にあるグレモリー家の秘密のエロ魔力と、自然とハーレムを形成すると言われる雄ドラゴンの中でも最高クラスな力を持つ赤龍帝由来の雌を惹きつけるモテオーラ。
それらを搭載した、これなんてエロゲ主人公? と言われそうな男。
それがこの俺、リヴラクス・グレモリー。
ヒトは皆「自分の物語の主人公」である、とするならば「俺の物語の主人公」である。
ちなみに現在俺の隣の席に座って、割と器用に箸を扱っている俺より二つ年下で、小柄な体格にくるくる縦ロールを左右につけた金髪でちょっと澄ました感じのフェニックス家のお姫様が、俺の物語の最初のヒロインということになるのだろう。
「レイヴェル、キムチ大丈夫か?」
「ええ、辛いものはそれなりに好きですわ」
まぁ、俺は悪魔社会ではまだ成人に至っていないというのに、女好きとして知られている男。今後も関わる女は増えていくことだろう。
実際、すでにレイヴェル以外にもそういった関係の女性が、イチ、二、サン……たくさんいるのだから。
さて、俺がなぜ自分のことを物語にたとえて考えているのかというと、それはテーブルを挟んだ向こう側に座っている二人の男性悪魔の内の一方の持論が原因だ。
「兄上、どうしてこの場でキムチ鍋を選ばれたのでしょうか?」
「ん? ああ、これを教えてくれたのはリアスだからだよ。前世の話を聞いた時に、よく食べていたと言っていただろう?」
そう我らが四大魔王さまの一人であり、俺の兄でもある紅髪の魔王サーゼクス・ルシファーである。
兄上は、『悪魔もまた生物に過ぎない』といった感じの自身の考えを俺に語ってくれたことがあり、俺は俺でそれについて自分の考えを返したりしてきた。
なので、こうして向かい合うと過去に話し込んだその手の事柄の記憶が蘇ってくるわけだ。
俺としては、悪魔だって生きていることは生きているのだから生物という認識はいい。ただ、それが人間やその他の人間界、魔法使い達が言うところの物質界の通常生物と同じかと言われると、かなり違うのではないかと思っている。
我々、悪魔は『
なにせ、神々は人間たちからの信仰あるいはそれに近しいなんらかの想いから発生する精神エネルギーを必要としているし、悪魔だって人間の欲望を糧としている。
植物が生まれ、それを食べる草食動物が生まれ、他の動物を食べる肉食動物が生まれ、といった順番で人間界の生物が発生してきた。
そう考えると、我々のような人間の『
まぁ、悪魔は目の前にある鍋の中身のような物質的な食事もするので、雑食になるのだと思う。生きるのに必要な栄養素の一つに『人間の欲望』があるみたいな感じか。
殺生しないという仏などは、たぶんだが完全に精神エネルギーだけで存在を維持しているのだろうな。
吸血鬼は血を媒介にしないと精神エネルギーを摂取出来ない生態の生き物で、人食いの怪物なんかは肉と一緒でないと取り込めないとかね。
はぐれ悪魔などは人食いをよくするそうなので、悪魔はいろいろな方法で精神エネルギーを得られるタイプの生物ってことになる。夢魔とか淫魔なんてエッチなことして取り込んでるしな。栄養摂取の方法が多いってのは、悪くない気がする。
祈られることでしかエネルギー得られないみたいな受け身オンリーなタイプだと、信仰が廃れたら終わりそうだし。積極的に狩りにも行ける悪魔は割と優秀なのかもしれない。
とまぁ、そのようなことを考えると我々のような夢幻より生れ出た存在にとって、イメージってものは大変重要だと思う! 何故なら我々悪魔は、人の考えた物語から生まれて来た存在なのだから。
「しかし、その……兄上はともかくベルゼブブさまに缶ビールって、ものすごく似合いませんね」
「そうかな? 俺としてはこういうのもアリだと思うのだが」
テーブルの向こうのもうお一人の男性は、アジュカ・ベルゼブブさまである。
なんでこんな方が、俺の前世における冬の味覚の一つであるキムチ鍋+缶ビールを堪能しているのだろうか。なんというか、こう、もうちょっとお上品な場面だけを見せていただきたいものだ。夢が壊れる。
兄上は、まぁ、もういいのだけれど。慣れて来たので。
魔王ベルゼブブが、缶ビールをお供に豚キムチ鍋をつついている風景。こんなの、人間にはとても見せられない。
あー、あー、兄上のせいで台無しだよ。俺の中にあった、妖しげな雰囲気の怜悧な魔王のイメージが崩れ去ってしまう。
「おねえちゃん」呼びを強要してくるセラフォルー・レヴィアタンさまもアレなところがあるし、もう頼みの綱はほとんど話したことのないファルビウム・アスモデウスさまだけだ。
たしかに? 兄上に冬場によく食べていたものを聞かれたときに、キムチ鍋に適当なアルコールと答えたのは過去の俺だ。
スーパーでキムチと豚肉買って来て、適当に鍋に放り込んで、あとはおおむね缶ビールみたいないい加減な食生活をしていましたとも。たまに奮発して、魔王っぽい名前の焼酎だったりもしたが。
辛い物を熱くして、温かい汁と共に胃に送って、アルコールも摂取する。寒い時期にはよくお世話になりましたとも。
だからといって、魔王がそんなの真似することないじゃん。イメージが壊れる。
しかも、友達だかなんだか知らないが、他所の魔王さまにまで「うちの弟が~~」とか言って勧めなくてもいいだろうが。
ああああああっ、兄上は父上を見習って。たまに着ぐるみ着てはっちゃけてたりするけど、貴族っぽい振る舞いを心がけている父上を。
「ところで、今さらですけれど、どうしてベルゼブブさまはこちらにいらしているのでしょうか?」
魔王ルシファーの城で面会を待っていたとき、要約すると「最近実家に帰れなくて寂しいから、一緒に晩御飯食べよ?」と兄上からの連絡を受けたときは「どうしましょう、どうしましょう」と慌てていたレイヴェルだったが、しばらくこうしている間に慣れて来たらしい。
まだ言葉は少なめだが会話に混ざってくれるようになってきた。
本来なら、今日のベルゼブブさまの予定は自分の城に居ることになっていたはずだ。兄上のところに挨拶に来る悪魔がいるように、ベルゼブブさまの城にも客が多いので。
それがどうして兄上の城で、俺やレイヴェルも入れて一緒にキムチ鍋食べてるんだって話である。
「サーゼクスも交えてリヴラクスと話すことがあったからだ。ああ、貰ったチョコレートだが、全て食べ終わったよ」
レイヴェルにそのことを聞かれたベルゼブブさまは、言葉の後半で顔を俺に向けた。
黒歌の駒を『僧侶』二駒から変異『僧侶』一駒に替えていただいた際、俺はお礼として渡したいくつかの品の中にチョコレートを入れておいた。
黒いチョコと白いチョコで出来たチェスの駒型チョコのフルセットだ。その中で一種類の駒だけ、チョコではなく本物のチェスの駒にすり替えておいたのだが、どうやら意味が伝わったらしい。遊び好きの方だと聞いていたので、こちらも少し遊んでみたわけだ。
たぶんだが、ベルゼブブさまはリュイことロイガン・ベルフェゴールが俺のところに入り浸っていることを知っているだろう。それに、ある程度は『王の駒』を使用している者のことも把握しているはずだ。
なにせ、ベルゼブブさまは『悪魔の駒』について一番詳しい方で、かつベルゼブブ派のトップを務める権力者なのだから。ルシファー派のグレモリー家に探りぐらい入れているだろうし、『王の駒』を使っているかどうかも分かるだろう。
はて、そういえば今、「全て食べ終わった」と聞こえたような?
「全て、ですか?」
「ああ、全部だ。なかなか歯ごたえがあった」
あれ? 本物の駒まで噛み砕いちゃったとか? まさかね。超越者ならそれぐらい出来るだろうけどさ。ハハ、まさかね、ベルゼブブさまの冗談はよく分からん。
「その話はあとにして、まずはこちらを片付けるとしよう」
兄上がまずは鍋の中身を平らげようぜ、と言うので駒の話は後回しだ。
食事中、しかも鍋つつきながらする話ではないしな。
しかし、他所の派閥のトップと鍋料理を一緒に食べるとはな。貴族の食事といえば、物語などでは毒物の出番がちょくちょく出てくるわけだが、同じ鍋でメシを喰うってのは、なかなか仕込みづらくていいのかもしれない。食器に塗っておいたらそれまでではあるが。
まぁ、兄上もベルゼブブさまも、その能力を考えると毒なんぞ効かないだろうな。
片や本来の姿は全身これ滅びの魔力の塊とかいう生物に分類していいのかよく分からない存在、片やあらゆる事象を式に当てはめ改竄してのけるとかいうゲームで改造コード使うみたいな能力持ち。
毒物なんて効きそうにない。おのれチートどもめ。
俺なんて、毒で受けた状態異常を他者や物に『譲渡』して押し付けるくらいしかないというのに。まぁ、バランスブレイクして『不死身』特性譲り受けでもいいけど。
「ベルゼブブさま、前にお聞きした」
「今はプライベートな場だ。アジュカでいい」
ベルゼブブさま──この場ではアジュカさまでいいらしい──とは、これまであまり話す機会がなかったのだが、こうしてみると意外と話題が出てくるものだ。
主に『ゲーム』関連だが。前世じゃ俺も、相当な時間をゲームにつぎ込んだものよ。今生ではなかなか暇がないというか、去年からはその時間を子作りに費やしているというか。うん、生産性は上がったかもしれない。
「では、アジュカさま。人間のゲームについてご存知のようですので、ふと思い浮かんだことがあるのですが」
「なにかな?」
はて、兄上がなにやら微妙な顔で俺とアジュカさまの会話を見ているような? まあ、いいか。レイヴェルはニコニコだしな。
「いえ、人間のゲームにもよく悪魔や天使が出てきますよね?」
ゲームやなにやらのエンタメキャラクターとしても、悪魔の名前はよく使われている。神話の神々や英雄も信心深くない人間にとっては、娯楽作品のキャラクターの元ネタに過ぎなくなっていたりするのだ。
「ルシファーもベルゼブブもよく見かけるな」
昔からの魔王クラスな悪魔たちは、悪魔の中でも知名度が桁違いの有名どころだから人間の創作物によく登場する。
「ああいったもので言われている設定や、人間たちが考えている悪魔の名の由来などを考えると……。ああ、これは政治的な意味合いなどはまったくない、ただの興味なのですが──」
と、一応断わりを入れておく。俺がこれから言おうとしていることは、受け取り方によっては問題になるかもしれないからな。たぶん、この場なら平気だろうけれど。
別にそこまで危険を冒さなくてもという気もするが、なんというかこう、どうにも気になっていたので聞いてしまおう。
「──出身の御家や、能力などから考えるとアジュカさまの方がルシファーを名乗るのに向いていませんか? こう、イメージとして」
以前に聞いたのだが、兄上がルシファーを襲名し、アジュカさまがベルゼブブを名乗ることになったのは内戦で勝利したあとのこと。
そのときに何やら相談があって、戦闘能力を考えて超越者である兄上とアジュカさまが、当時から悪魔界のナンバーワンとナンバーツーとして認識されていた『ルシファー』と『ベルゼブブ』を担当することになったそうだ。政治的な諸々が絡んでいそうなので、その相談した内容までは聞いていない。
で、四大魔王の残る二つの名は、『レヴィアタン』は雌しかいないとされているのでセラフォルーさんになり、こう言っては悪いが残った『アスモデウス』をファルビウムさまが引き受けた形だ。
なぜ魔王グレモリーや、魔王アスタロトではなく、ルシファーやベルゼブブを名乗ったのかというと、それはもう人間たちの考える悪魔のトップ勢のイメージに合わせたかららしい。
悪魔内部だけでなら魔王サーゼクス・グレモリーでも良かったのだろうが、外向き、特に人間の抱くイメージをのことを考えると魔王と言えば……となるので。
まぁ、アスタロトは魔王でも十分通用したとは思うが。そこは周りに合わせたわけだな。
「うん、その、リアス……私はルシファーらしくない、と?」
「兄上がらしくないのではなく、アジュカさまの方がそれらしい、と思っているだけですよ」
兄上がややしょんぼりし、アジュカさまはちょっと面白そう。
「レイヴェルは、人間たちがベルゼブブの名前の由来をどう考えているか聞いたことは?」
「もちろん存じておりますわ。なんでも人間の中では魔王『ベルゼブブ』の名は、異教の神の呼び名である『バアル・ゼブル』を聖書を教えを信じる者たちが貶めたことで生まれたと考えられているのだとか」
初代ベルゼブブは最古参の悪魔。バアル神との関係がいろいろと言われている七十二柱のバアル家、その初代であるゼクラム祖父さんの誕生よりも前から存在する悪魔だ。
そうなのだが、名前的にね。関係してるって感じがするよね。悪魔の実態とか、人間はそうそう知らないことだしさ。
「兄上の消滅魔力はバアル家から受け継いだ特性ですし、それに消滅魔力はこう何もかも飲み込んで喰らいつくすようなイメージがあるでしょう? 『暴食』を思い浮かべやすくありませんかね」
いわゆる七つの大罪の話では、魔王ベルゼブブは『暴食』を司るとされている。
兄上お得意の、小さな消滅魔力の球をブンブン飛ばして敵を消し去る技もこう蠅に食わせているように見えなくもない。ベルゼブブといえば蠅だしな。
「それで、今度はアジュカさまのアスタロト家ですが……聖書に記された金星に関わる女神の名前が元になっている。人間たちはそう考えているようでして」
「金星、つまり明けの明星ですわね」
レイヴェルに補足してもらいつつ話すと、アジュカさまも「うん」とひとつ頷いた。
まぁ、実際のところはともかく、人間の中でのイメージはそんなものなのだ。
「あとはアジュカさまの『
「『傲慢』なイメージを覚える、かな?」
「ええ、まあ」
大罪の『傲慢』はルシファー。なんでもかんでも、俺の思うとおりに書き換えてくれる! って感じのするアジュカさまの技ってそれっぽく思えるんだよな。
本人に向かって言いづらかったけど。向こうから言ってくれたからいいだろう。
「なるほど、リアスの言いたいことは分かった。どうだろうか、アジュカ。今からでも入れ替えないか?」
「魔王としての名を入れ替えても、担当する職務は変わらないぞ」
「くっ……ダメか」
兄上、仕事忙しいから代わって欲しいのか。でも、兄上に技術開発は……どうなのだろうか。
少なくとも『悪魔の駒』はアジュカさましか無理らしいから、担当は変えられないのだろうな。
その後もしばし雑談は続いた。
「年末の件で金が手元に来たので、その金で下級悪魔向けのレーティングゲームのようなもの出来ないかと考えているんですよ」とか。
「今年から『縄張り』の運営が始まるのですけど――」とか。
「治療の件では助っ人を送っていただいてありがとうございます」だとか。
俺って下っ端だしねこの中だと。雑談の話題ぐらいなんとか絞り出さないと……コミュ得意じゃないからこういうの疲れる。
それで、これ終わったら、『王の駒』の話か。
ま、そっちは言いたいことを言うだけだし、そこまででもないな。
旧魔王派が出てくると、セラフォルーがレヴィアタンの名前とったとカテレアに責められてしまうので、なんかこう適当に理由を付けておくことに。
とりあえず、魔王はいることにしとかないと精神エネルギーの収集効率に影響してくるとかなんとか、そんな感じのふわっとしたヤツです。