公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
「フィールド自体に『悪魔の駒』と同様の効果を付与することは可能だ。ゲームのフィールドに入った時点で、事前に登録しておいた者に各種の駒による能力上昇を適用することはできる」
「そうなると上級悪魔の眷属になっていない者でも、疑似的にその効果を体感させて適性を測ることができますね」
「ああ、ただ一時的に駒の効果を味わわせたとしても、ゲームが終われば消えてなくなるものだ。体感しただけに余計に不満を覚えさせることになるかもしれない」
「なるほど、たしかにそうですね。一度手にした力を手放すのは惜しい。なぜ自分は眷属になれないのかと悔しく思うかもしれません。ですが、それが可能でしたら上級悪魔が眷属に迎える際に、その相手にどの駒を使うのかを試すことができそうですが」
「それは俺も考えた。だが、眷属には『王』の魔力の影響が強く及ぶ。たとえばキミの眷属……そちらのレイヴェル姫はフェニックスの魔力と『王』であるキミの魔力が混ざっている状態だ。その再現までは難しい」
「同じ眷属候補でも、『王』になる者の魔力の違いによって駒の効果に差が出てくるわけですか」
「『王』となる者の力の差によって、駒の容量は変化する。それと同じさ」
食事と雑談は進んでいる。話題が『治療で稼いだ金で下級悪魔用のレーティングゲームを作ろうと考えている事』になってからは、ほとんどアジュカさまと俺しか話していないが。
兄上は『悪魔の駒』関連はアジュカさまに任せきりなようだ。そもそもアジュカさましか作れないのだから、そうするしかないのだろうけれど。
「……となると、『悪魔の駒』の効果はないものとして下級悪魔本来の実力のみで競う形の方が良さそうですか?」
「どうかな、『悪魔の駒』の効果ありの試合と、効果なしの試合を別枠で作ることも考えてみたらどうだろう? そうやっていろいろと考えている時間は楽しいものだ。俺の場合は、その途中で運営やゲーム内容に口出しする権利を奪われてしまったからな」
アジュカさまは『悪魔の駒』の開発者で、レーティングゲームの基礎を作った人物でもある。だが、現在はほとんどゲームの運営に関わっていないと聞いている。
ただし、どうもゲーム内に不正が行われた場合や、システム以上などが発生したときには呼び出されるらしい。
「それは『悪魔の駒』と政治を絡め過ぎたから……と以前どこかで聞きましたが」
今の悪魔社会では、レーティングゲームがかなり大きな影響力を持っている。下級悪魔から、中級、上級、最上級と昇進していく際に積み上げる功績としても、レーティングゲームでの活躍が高く評価されているのが現状だ。レーティングゲームメインで活動しているトップランカーたちもほぼ最上級悪魔だしな。
内戦以降大きな戦争がないので、戦功の代わりとして機能させているような形だ。
「ディオドラか、ラティアか……それとも父か母からだろう?」
「どなたからだったかまでは覚えていませんが、おそらくアスタロト家で……でしょうね」
アジュカさまは、その辺りのことを実家で愚痴っていたことがあったらしい。
まぁ、俺はアスタロト家には結構出入りしているから、ディオドラやアジュカさまの父であり、ラティアの祖父にあたるアスタロト卿ともときどき話すしな。
うん、たぶん、アスタロト家の誰かから聞いたのだろう。いまいち覚えていないが、そのときは自分がこんなことしようとするとは思ってもいなかったので、他人事ってやつだったのだ。
「キミも気を付けた方がいい。上手く行かなければ関係ないだろうが、利益が出るようになれば何かしら言ってくることもあるだろう」
悪魔が欲深いのは当たり前なので、そういうことはあるのだろうな。まぁ、それはそれで別に構わないが。むしろそうなったら、サクッと手放してしまうのもありだ。
とはいっても──
「ただの貴族の子供の道楽ですよ? たまたま手元に金が来たからそれを使って遊んでみるだけですから」
「どうだろうな。気に入らなければ妨害してくるということもある」
「俺には妨害を跳ね除けてまで、どうしてもやってやる! みたいなつもりがないですからね。そのときは……ああ、でも一応周りに声でもかけてみますか。多少は面倒ごとが減るかもしれませんし。いや、逆に増えるかな? まぁ、そのときはそのときですか」
転生者ではない、生粋の下級悪魔の中にもサイラオーグが見つけて来た『戦車』のリキーゴのような突然変異みたいな者がいる。業績自体は赤字でも、そういった者が一人でも発掘出来れば御の字程度──多少はソーナのこともあるかもしれない──の話なのだ、ダメならダメでポイと投げてしまっても構わない。所詮はあぶく銭よ。
とはいえ、他所から邪魔されてやめるってのも面白くない。なら、ある程度はお仲間を募っておいた方がいいのかもしれないな。
「周りに、というと?」
「ああっと、この間の会見のときに俺が交流があると名前をあげた御家がありますよね?」
「言っていたな」
「その家の友人にでも声をかけてみようかと。始めてみたはいいけれど、参加者が誰もいなかった……なんてことになっても恥ずかしいですからね。何チームか、前もって参加してもらえるようにしておきたいですから」
下級悪魔用のゲームリーグ作ったよ、参加者募集! …………誰も、来ませんでしたぁ! なんてことになったら、恥ずかしくて死にたくなってしまいそうだ。
「もちろん、フェニックス領からは参加させますわ」
ということで、まずは俺が声をかければグレモリー領からはいくつか参加させられるだろう。というか、軍の連中に聞いてみたときは割と乗り気だった。
フェニックス家も、お姫様のレイヴェルに呼びかけてもらえばいけるだろう。
「俺とレイヴェルでそれぞれの家の領地からまずは引っ張って、他は……ソーナに、ディオドラに、マグダランに、シーグヴァイラに、あとはウァプラ家も行けそうですね。グラシャラボラスは……」
ゼファードルくん、あーそーぼ! 昔、お腹パーンしちゃったけど、そこは気にしないでさ。
……なんてことはさすがに言い難いな。
「グラシャラボラス本家のイリューカさんとは同級生ですから、私から声をかけてみますわ」
そういえばそうだったか。
グラシャラボラス家には、俺と同世代として扱われる少し年上の次期当主殿が居て、その下に俺と同い年のゼファードル、そのまた下にレイヴェルと同い年のイリューカ姫が居る。
最近になって後継者がポコポコポコッと一気に増えているが、なにか子作りの秘訣でも掴んだのだろうか? 興味深い。
「ああ、そうだった。なら、レイヴェルから頼んでもらうとしよう」
うんうん。それぞれの御家から、駒効果ありと駒効果なしでそれぞれ2チームくらい出してもらえば、とりあえず開始は出来そうだな。
全部、軍関係者になりそうだが、最初はそれで仕方ないだろう。
アイツらだって、日頃の訓練の成果を見せつけたいって思っているようだからな。領内の治安維持やらなにやらだけではなく、民衆の前でいい格好してみたい、活躍してモテモテになってみたいって欲くらいあるだろうさ。
「少し良いだろうか?」
「はい、なんでしょうか? 兄上」
「今の話を聞いていると、かなり政治的なものが絡んできそうな気がするのだが」
ここまで黙って聞いていた兄上は、なにやら思案顔だ。だが、これはどうしようもない。
「俺の手持ちの金で開催しますが、グレモリー家の次期当主の行動ですからどうしてもそういった色合いは出てしまいますよ。最初はおそらく軍の有志からといった形になるでしょうし。それに、まぁ地元チームがいると熱が入りやすいでしょうしね」
地元贔屓、これはある。上級悪魔のする現行レーティングゲームでの悪魔全体で一番人気のチームは、ディハウザー・ベリアルのチームだ。
だが、やはりフェニックス領だけに限って言えばルヴァル義兄上のチームの人気が高いし、タンニーン殿のチームがその領地の領民(ドラゴン)たちからダントツの人気なのは言うまでもない。
グレモリー領選抜代表チームとか作って紅備えの装備を身に付けさせたりしたら……どうなのかね。前世ではスポーツにあまり興味がなかったが、野球チームとかそんな感じだったような気がするし。
ちなみに我がグレモリー家は、今のところレーティングゲームではあまり目立っていないのでな……。兄上は魔王なので参加していないし。
魔王がゲームにうつつを抜かすのはマズいってのもあるが、そのときの試合ルールによっては負けてしまうこともあり得るので……威厳的にね。
バアル家もそこまで……というか、『滅びの力』は殺傷力が高すぎてレーティングゲーム向きではないのだ。敵をぶっ殺してなんぼの実戦なら大変有効なのだが、悪魔同士の試合で使うと対戦相手が簡単に死んでしまうので大変よろしくない。
その点、対戦相手の特性を無力化するベリアル家の『無価値』や、応用力の高いアバドン家の『穴』、『不死身』のフェニックス家驚異の耐久力などはゲームに向いた特性と言える。
「仕方ない、か」
まぁ、俺って兄上サーゼクス・ルシファーの弟でもあるしね。どうしようもないのです、そこは。
というか、兄上が口を出しても結局は同じことだしな。他所の貴族家か、魔王かの違いでしかない。
「選手たちの治療体制の構築も必要だろう。それに、運営の責任者を決めておく必要もある。キミはまだ学習期間の最中、それにグレモリー家の次期当主ならば『子供の道楽』に割く時間はあまりないだろう」
戦争ゲームをさせるのだから当然ケガ人は出る。アジュカさまの言うようにその治療体制も必要だよなぁ。
本当は下級悪魔なんて前線で戦わせるよりも、全員に医療でも教え込んで回復役にしたらいいと思うんだ。ネトゲのRPGでも、攻撃役や盾役、妨害役はレベル高くないと役立たずだったが、回復職はレベル低くても役に立ったしな。
ソーナもレーティングゲームの学校とか言ってないで、シトリー家が力を入れている医療機関向けの人員育成学校を増やしたいとか言ってたら、俺もグチグチ言わなかったと思う。
「治療の方はおいおい考えながら人を集めるとして、俺の代わりに運営のトップを務めてくれそうな方にはこれから声をかけてみようかと思っています。受けてもらえるかは分かりませんが、まだこうしてみたいな程度の段階ですし」
仮に下級悪魔用のゲームリーグが上手く軌道に乗ったとして、俺がそれにかかりっきりになるわけにはいかない。まずは貴族の一般教養を覚えないといけないし、その後には次期当主としての実務を交えた勉強がある。父上から当主の座を引き継いだ後は、当然そちらが優先だ。
趣味で始める道楽なお遊びの運営は、そのほとんどを他の誰かに任せて少し口を挟むような形になるだろう。
「あら、そのことは私も聞いておりませんでしたわ。どなたに任されるおつもりでしょう?」
そういえばこれはレイヴェルにも話していなかったか。
金に困っていなくて、俺が話をしやすく、かつ俺やレイヴェルに恥をかかせるような真似をそうそうしない。それでいて、現在忙しい役職を持っていない人物──。
「ライザー義兄上にお願いできないだろうかと考えているんだが、どう思う?」
「ライザーお兄さまに、ですか……」
「ライザーくんか……なるほど」
「ライザー・フェニックス。フェニックス家の三男で、現在は特に仕事に就いてはいないか」
ライザー義兄上なら、自前でフェニックスの涙を製造できるので金に困ってはいないし、俺も話しやすい。
レイヴェルの婚約者である俺を裏切ることもそうはないだろう。これから先の長い悪魔生、妹からずっと責められる可能性を考えるとなかなか不正に手を染めにくいはずだ。
ま、別にいいけどね。横領とかあっても多少のことなら目こぼしする。ライザー義兄上は身内なので、許せる。
これが良く知らんやつを採用しておいて裏切られた日には、俺の紅髪が天を衝くところだ。
「しかし──ん、なんだ?」
何かを言いかけた兄上の言葉を遮るように、この部屋のドアを叩く音がした。急いでいるような雰囲気の音だ。
「ご歓談中失礼します」
入って来た者の名前を俺は知らない。たしか、魔王ルシファーとしての兄上の部下だったはず。兄上の眷属ではないが、何度か顔を見たことはある。
その者は兄上とアジュカさまのところまで歩を進めると、俺とレイヴェルに視線を向けた。
「席を外しましょうか?」
「いや、いい。少し遮断させてもらう」
アジュカさまは俺に断わりを入れた後、魔力で音と光、その他の情報を遮る小規模な結界を張った。
俺とレイヴェルからは、テーブルの向こう側の出来事は見えないし聞こえない。
「何かあったのでしょうか?」
「あったんだろうな。急ぎの何かが」
あるいはドライグが本来持っていた力の一つである『透過』が使えたならば、情報遮断結界の内側の様子を伺うことも出来るのかもしれない。
まぁ、出来てもやらないが。
「すまないが、急用が入った」
結界がほどけると、すぐに兄上は俺達に向かってそう言った。表情がゲッソリしているように見えるのは気のせいではないだろう。あまり良くない知らせだったらしい。
「分かりました。それでは俺はこれで──」
「いや、リアスの件も重要な話だ。そちらはアジュカに任せる」
ああ、と頷くアジュカさまに俺との話を任せて兄上は足早に去って行く。
席を立ち、その姿を頭を下げて見送ってから顔を上げると──アジュカさまと目が合った。
「グレモリー家にもすぐに知らせが行くだろうから教えておくが、どうやら堕天使の軍が動いたらしい」
「堕天使がですか!」
レイヴェルと二人で驚いていると、アジュカさまから身振りで着席を促される。
「昨年末から、堕天使の領域との境界付近で騒ぎがあったことは知っていると思う」
「ええ、そのこともあって兵の治療に応援があったと聞いています」
冥界は広い。おおよそ地球の表面積と同じほどの広さだと言われているぐらいだ。しかも、冥界には海がなくすべてが陸地である。なので堕天使たちの領域との境界線もとんでもなく広くなる。
赤道一周すべてが国境線のようなイメージだ。
とはいえ、悪魔も堕天使もその境界線すべてに兵力を張り付けておけるほどの余裕も人員もない。それに、どちらも翼を持ち飛行可能な種族で、なおかつ空間転移もこなす。
そのため、地面の上に軍隊を張り付けておく意味も薄ければ、要塞を築いてもあまり効果は無い。
なので、ここでいう境界付近というのは、長年の小競り合いの中で暗黙の了解として生じた紛争用の地域ということになる。「殺し合いするときはここでやろうな」って場所だ。
全面戦争するならともかく、そうでもないときにお互いに空間転移を用いて奇襲の繰り返しなんてやってるとキリがない。というか、それを続けているとそのまま全面戦争に突入してしまって天使たちの一人勝ちだ。あるいは他の神話勢力が手を伸ばしてくるか。
「実は堕天使側から連絡があった。このところ、悪魔による襲撃・略奪が繰り返されている、と。その現場に残ったオーラ、魔力の残滓からして上級悪魔クラスが複数関わっているようだが、どういうことか説明しろと言って来ている」
「それで我が家にも連絡があるわけですか」
上級悪魔複数名による堕天使領土への襲撃か。
魔力の残滓を調べた結果ということならば、ここで言う上級悪魔は基本的には貴族の誰かってことになる。転生悪魔の魔力量は、貴族のそれに及ばないことがほとんどだからな。
どこかの貴族家が、堕天使にちょっかいかけたんじゃねーだろうな? 魔王が聞いているんだ、正直に言え! みたいなお達しが各貴族家に来るわけね。
「前魔王勢力の残党の行動という線はないのでしょうか?」
レイヴェルが言う線も大いにある。なんだかんだで、内戦で敗れて落ちのびて行った連中も多い。
「その可能性は高い。だが、そうではない可能性も否定は出来ない。それに、どちらであろうと堕天使にとっては関係のない話だ」
現行政府にも内心では堕天使や天使と戦いたいって連中はいる。たとえば俺とか。
内戦で兄上たちに敗れた前魔王の血族とそれに従った者たちも堕天使や天使との決着を主張していたから、現政府に従ってはいるが密かに前魔王の一族らと繋がっている貴族の行動ってこともありえる。
俺もそうだが、悪魔って割と好き勝手にあちこち動き回るから、どこの誰が堕天使をやったのかなんて本人が申し出てこないと特定が難しそうだ。
「それは、まぁ、そうですが……俺たちも、グリゴリ以外の堕天使勢力が襲って来たとしても、まずはグリゴリを疑いますし」
堕天使の最大勢力は『
だが、俺も含めた大半の悪魔の認識は、堕天使=グリゴリである。
それはおそらくあちら側から見ても同じこと。悪魔といえば、現政権なのだ。悪魔による被害の文句はこちらに来る。
まぁ、堕天使共は前魔王勢力の残党、いわゆる旧魔王派の拠点がどこにあるかも知らないだろうしな。たぶん。
少なくとも悪魔やってる俺は知らない。さすがに兄上たちは知っているか目星は付けているだろうと思うが。
「堕天使としても、領土内で悪魔による被害があれば動かないわけにはいかない。それで境界地域の戦力を増やしてきていたようだ」
はぁ、そりゃ兄上が大忙しなわけだ。軍事担当のアスモデウスさまも、外交担当のセラフォルーさんも同様だろう。
「では、また一当て二当て程度の小競り合いが起きるのでしょうか?」
ここ数百年、悪魔は堕天使どもとの小規模な戦闘は幾度も経験している。
その原因は様々だが、とりあえず一発ぶん殴らなければおさまりが付かないことってのはあるものだ。
「場合によっては……それだけでは済まないかもしれない。堕天使側の今回の大将は、バラキエルだ」
旧魔王派の行動が四年ぐらい早い世界
堕天使領内で発生した悪魔によるテロ事件。その抗議のため境界領域に送る軍団の総大将をどうするか。
武闘派幹部の中から誰を送るか選択するアザゼル総督
1:コカビエル「戦争だ!」
2:アルマロス「グリゴリィィイ!!」
✓3:バラキエル「分かった」