公爵家次期当主好色物語 作:ルペッタ好き
その堕天使幹部の名を聞いて、俺は思わず身を乗り出してしまった。
「バラキエルですか」
バラキエルは堕天使陣営のナンバースリーに当たるだろう大物だ。
武闘派幹部として知られ、その地位は『神の子を見張る者』の内では総督アザゼル、副総督シェムハザに次ぐものであると聞いている。
そして、そんなことより俺にとって重要なことは、ヤツが朱乃の父親であり、かつ小学生程度の年齢の娘を一人放り出した男であると言うことだ。放浪生活中の朱乃の生活の悲惨さは、俺もよく聞いて知っているところ。頼る相手もなく、食事も衣服も宿を用意する金もなく、ときに野山の草をはみ、ときに霊障などを患った人間の除霊などをして日銭を稼ぐ日々。しかも、その頃の朱乃は常に自身の命の危険に怯え続けていたのだ。
朱乃の命を狙って執拗に追い回した姫島家も好かんが、バラキエルはそれ以上に憎たらしい。そもそもヤツがそうしていなければ、俺と朱乃は出会ってすらいなかったのだろうが、それは置いておく。
「バラキエルに何か思うところがあるようだね」
心の内に湧き上がった怒りが漏れ出てしまっていたようで、アジュカさまの声に苦笑の響きがある。
レイヴェルからの視線も「貴族たるもの、あまり顔に出されてはいけませんわ」と言っているようだ。
だが、俺はそういうことが得意ではない。多少は出来なくもないが、こと怒りに関してはなかなか抑え込みづらいものがある。
溜め込むと爆発してしまうしな。
「目の前に現れたならば、首を刎ねる……。いえ、生け捕りにして、じんも……拷問にでもかけてやりたいところですね」
とっ捕まえて、朱乃自身の手で痛めつけさせてやりたいところだ。
バラキエルのクソめ! 娘に冷たい目で見下され、罵倒され、苦痛を味わわされ、屈辱と痛みに悶え苦しむがいい。
「キミの眷属には、バラキエルの娘がいたはずだが」
「ええ、だからこそですよ」
技術や裏方担当の魔王と言われるアジュカさまが、今回の堕天使陣営の動きに対してどの程度の権限を持っているのかは分からない。魔王は四人もいるし、議会なんてものもある悪魔社会の政治は複雑怪奇なので。
だが、ここは一つこの俺をその前線に送っていただきたいところだ。そこで、今バラキエルぶっころの理由を話して熱意を示しておけば、もしかしたら俺出陣があるやもしれん。
「俺はグレモリーですので、眷属を可愛がっています。もちろん朱乃もそれは同じです」
鞭で叩いて犯したり、縄で縛って犯したり、踏みつけながら嬲ったり、人間椅子を強要したり、悪魔となった今では激痛をもたらす聖水プレイを試したり、言葉で責め、苦痛で責め、と監禁凌辱の限りを尽くし、とても可愛がっているのだ。
朱乃とああいったことを嗜むようになってから、以前よりも俺は落ち着いてきたと言われる。大事なものを痛めつけることで、心の蓄積していく怒りゲージが下がっていたりするのだろう。
そして、朱乃もそれを愉しんでいる。むしろ、積極的に「甚振ってください」と求めてくる。素晴らしきwin-winな関係なワケだ。
その可愛い可愛い俺の大事な朱乃に、あのバラキエルの野郎が何をしやがったかという話だ。俺にこれを語らせたら、一時間は余裕でしゃべくりまくれるね。
「アジュカさま、バラキエルの年齢は相当なものですよね?」
「ん? ああ、七十二柱の初代よりも年上のはずだ」
アジュカさまに若干引かれているような気がするが、ここは語るべきところ。
「そして、堕天使なのですから仕えるべき主君であり、創造主でもある聖書の神に背き敵対者となった裏切者ですよね?」
「堕天使はそういう存在だな」
「その堕天使の大幹部が、宗教は異なりますが古くから神に仕えてきた家系の年若い巫女に手を出したのです。それが朱乃の母親なのですが……そのときに日本の神に仕え続けてきた一族の者がどう考えるのかは想像がつきますよね?」
「ああ……」
バラキエルに誑かされたと判断するに決まっているのだ。なにせ、ヤツは堕天使。肉欲に溺れて神を裏切り、一万年以上の長きに渡って人間の女と──あるいは男ともかもしれないが──交わり続けてきた存在。
スケールは小さくなるが、人間でたとえると経験豊富過ぎるマフィアの大幹部が由緒正しい神社の娘さんに手を出したような状態だ。そりゃ実家は怒るし、相手の男を信用などするわけがない。ロクなことにならんと連れ戻そうとするに決まっている。
巫女だった朱乃の母が、真剣に愛し合っていると口にしたところでそれは変わらない。
何故ってバラキエルは手練手管に長けた一万歳以上年上の肉欲のために神を裏切った堕天使だからだ。人間の小娘一人手のひらの上で転がすことなど容易いに決まっている。性経験が違い過ぎるからな。
姫島家は、朱乃の母がいいように騙されていると判断するだろう、それは。
俺が娘を連れ去られた父親の立場だったとしても、そう考えるだろう。娘がヤクザ者に騙されていいようにされている、許さん! 取り返せ! って。
「そうだというのに、ヤツは朱乃とその母を……日本の、娘を奪われ孕まされたことに恨んでいる一族の者の手が届く範囲に住まわせていたのです! 結界などを用いて多少の防衛はしていたようですが、それにしたって人間の術者に破られる程度の代物。しかも、ヤツの立場であれば部下を配置することなど簡単だったはずなのに、護衛の一人も置かない! その結果、どうなったと思いますか?」
気に入った娘がいたので手を出した。これは、分かる。
手を出した結果孕ませたので、手元に連れ去って囲うことにした。これも分かる。
そのことに恨みを持つ娘の実家があり、かつそこにある程度の力がある。その状況で実家の手の届かない場所まで連れて行かず、手の届く範囲に留め置く。これが分からない。
なおかつ、惨劇の前にも一度襲撃があったらしいのに防御策を強化することもせず、護衛の一人も配置しない。これもまったく分からない。
堕天使の中でも最高クラスの地位があるのだ、上級堕天使をダースで警護に置くことぐらいバラキエルならば余裕だったはずだ。おのれ、バラキエル!
俺なんか、自分より遥かに弱くて正直いらないんじゃないかなって思っているのに、護衛を毎回付けられていると言うのに。
「襲撃を受けて母親は殺され、産まれた娘の朱乃は放浪の末にキミの下に来たと聞いている」
「ええ、そうです! ヤツはその襲撃のとき、朱乃を庇った母親が殺され、庇われた朱乃だけがギリギリまだ殺されていないと言うあり得ないようなタイミングで現れたそうです。そして、母親を殺され、父親がその下手人である人間たちを惨殺したことにショックを受けた朱乃が逃げ出したのに追いかけようともしなかった!」
朱乃の話をしているとどうにも自然と熱がこもってしまう。
俺はそのまま、その後の朱乃がいかに辛く苦しい思いをしたのかを、アジュカさま相手に長々と語ってしまった。
「ああ、分かった。よく、分かった」
ややうんざりとした雰囲気を漂わせながらも、アジュカさまは俺の想いを分かってくれたようだ。
ちなみに、涙もろいところのあるレイヴェルは目にハンカチを当てていた。うちの嫁さんは知らない相手にはドライな風味だが、仲良くなった相手には情が濃くなるのだ。こういうところ、グレモリー向きで大変良いと思う。
「──そうして、姫島家の連中に殺されそうなところを俺が拾い上げたわけです。ただ、その際に姫島の者が言っていたのですが、どうもそれ以前には姫島の者が朱乃を殺せそうなタイミングで堕天使の妨害が入っていたようでして……。おそらくですが、バラキエルはそういった一人きりで旅をしていたころの朱乃の窮状を監視していたのではないかと思われる節があるのです。俺としては、娘が殺されそうな目に遭いながら辛い生活をしている姿を眺めていただろう、あのクソ堕天使を是非ともぶち殺し……失礼、打ち倒したいのです。ですので、バラキエルが出てきているということでしたら、どうか俺を──」
言葉を続けようとする俺を、アジュカさまは手で制した。
「分かった。キミをバラキエルの前に出すことは出来ない。そのことだけは、本当によく分かった」
「出すことは……出来ない? 何故ですか!」
俺はこんなに殺る気に満ちているというのに!
「まだ悪魔には堕天使と全面的に事を構える余裕はない。天使もいる、そして最近活動の気配を強めている前魔王の血族、さらに他の神話勢力にも気を配る必要がある。この状況では、戦場でバラキエルを討ち取って総力戦に突入してしまう可能性は避けたい。逆にサーゼクスの弟であるキミが討たれたり捕らえられてしまうような事態もマズイ」
兄上は常々、悪魔の数を増やすことを語っている。そのために戦を避けたいとも言っていた。
アジュカさまも兄上の方針に賛成ということか。ぐう……せっかく憎いあん畜生が面を見せたというのに、消し飛ばしてやれないとは……忌々しい。
「──それに、余裕がないと言ったことと矛盾するようだが、悪魔はまだ未成熟な年齢の学生を戦場に立たせるほど戦力に困ってはいない。おそらくだが、まずはファルビウムのアスモデウス眷属、その後に最上級悪魔の誰かをバラキエルの監視にあてることになるだろう」
最上級悪魔といえば、タンニーン殿のようなレーティングゲームのトップランカーたちが思い浮かぶ。
今のところは、リュイことロイガン・ベルフェゴールもその中に含まれている。
まぁ、リュイは『王の駒』を公表し、その後にベルフェゴール家の当主と最上級悪魔の座を降りて俺のところに来る予定なのだが。
「最上級悪魔の方々を……ですか。そういうことでしたら、仕方ありません。俺がまだまだ子供の年齢であることは事実ですし」
ほんと、十代の半ばなんて悪魔としては赤ちゃんだものな……そりゃ戦場には行かせてもらえないか。でも、縄張り関係で教会連中とのドンパチは普通にあるんだよな。
アジュカさまの弟のディオドラなんて、ある意味最前線にいるようなものだし。最前線どころか、敵勢力の女の中に突入して銃連射してやがるからなぁ……。
ディオドラが教会の女にしていることは、バラキエルが朱乃とその母にした仕打ちと比べてもなかなかに酷いものだ。だが、別にこちらには怒りも何もない。所詮他人事で、しかも被害を受けているのは敵勢力の女だからな。
敵対しているはずの悪魔のディオドラに誑かされて、教会内部の情報を流している聖女やシスターもいるようだが……。仮にそのことが露見してその女が粛清されたとしても、まぁ、スパイものとかではよくある話だしな。諜報活動ってヤツよ。
ディオドラの諜報といえば、あいつから聞いた話では堕天使どもは神器所有者の人間を探索してどうこうとか言っていたな。
たしか、堕天使にとって扱い難い者は殺して処分し、扱いやすい者は教育施設に集めて洗脳と訓練を施して戦力に替えているのだとか。
クソ忌々しい。奴らの戦力が上がるのも苛つくが、人間の面倒はみられるのに朱乃は放置しやがったことがなお苛ついてしょうがない。
はぁ……、さっさと堕天使ぶち殺しに行ける年齢になりたいものだ。
もしくは、俺の縄張りに堕天使がやって来ればいい。そうなれば政府にも兄上たちにも何の遠慮も要らない。邪魔だからってことで仕留められるだろう。
いっそ、こっちから誘導して侵入させてみるか……?
「さて、それではそろそろ本題に入ろうか」
俺の思考が他所に向かいそうになったところで、アジュカさまから声がかかった。
なんとかバラキエルをぶちのめしてやりたいところだが、俺の年齢と現政府の戦を避けたい方針を持ち出されてはどうにもならない……か。残念だが、今のところは我慢しよう。
ここは大人しく『王の駒』の話に入らせてもらおう。バラキエルめ、命拾いしたな。
「俺程度がアジュカさまと駆け引きなどできませんので単刀直入に言わせていただきますが、『王の駒』を使っている者を眷属に迎えたいので、どうかその者から邪魔な『王の駒』を引き抜いて下さい!」
相手は悪魔の中では若手扱いだが、それでも数百年の時を魔王として生きてきた方だ。年季が違い過ぎる。
ここはスパッと頭を下げて頼み込むより他に手はない。
取引の材料もないし、お金で解決できることを願うしかないのだ。地位も上なら、経験も上、おまけに武力でも敵わないときたら、もうこれしかない。
「やはり、か。『
「眷属に迎えたい者の名も必要でしょうか?」
引き受けてもらえたのなら当然リュイのことを伝えるが、断られた上で知られるのはあまりよろしくない。
もっとも──。
「ロイガン・ベルフェゴール。キミが眷属にしたいと考えているのは、彼女ではないかな?」
やはり調査済みか。
『王の駒』の疑惑自体は前々からあったようだし、製作者だろうアジュカさまならば誰が使用者なのかの見当などとうの昔に付けていただろうからな。
俺がチェスのキングの駒を贈った時点、あるいはそれ以前から『王の駒』使用疑惑のある者の動向を探っていたのならば一発で当たりを付けられる。
リヴラクス・グレモリーと接触した『王の駒』使用疑惑の候補者を絞り込むなんてこと、この魔王さまの調査能力があれば簡単な話だっただろう。
「はい、その通りです。リュイと名を偽り、魔力で姿を変えてグレモリー家のメイドとして働いていた彼女を気に入って眷属に誘ったのですが、そのときに正体を明かされ、『王の駒』を使用しているので他の駒との併用は危険だと聞かされました」
お手付き要員でもあるメイドとして俺の後宮で働いていたリュイに手を出し、そのまま仲が深まって……と事情をかいつまんで説明。当たり前だが、プレイ内容などは話さない。
「ロイガン・ベルフェゴールの趣味はある程度知っていたが……そうなっていたのか」
おおう、なんというか微妙に呆れたような声音だ。好色は悪魔的には誉められることで、力ある悪魔がメイドに手を付けて強い子供をたくさん作ろうってのは、兄上の政策的にも問題ないどころか推奨されていることのはずなのになぁ。
「レイヴェル姫も大変だな」
「ええ、まったくですわ。ほんとうに困った『王』さまです」
「うちのラティアも……いや、この話は今は関係ないか」
アジュカさまとレイヴェルの二人から、揃ってやれやれしょうがない奴だ的な雰囲気のセリフを言われてしまった。
「『王』の駒についてどの程度のことを知っている?」
「使用者の力を十倍から百倍に強化するが、まだ不完全な状態の代物だということ。他の駒との同時に用いると危険であると予想されていること。生来の力が『王の駒』の容量を超えるような者が使用した場合、力を高めるどころか副作用のようなものが発生してしまう恐れがあること。それから、現状のレーティングゲームのルールでは使用を禁じられていないこと……ぐらいでしょうか」
フッ、とアジュカさまが妖しく笑った。
「たしかに、ルールで使用を禁じられてはいない。だが、あれがルール外の力であることは分かっているはずだ」
「ええ、ですが我々は悪魔ですので……ダメならダメとはっきり記しておくべきでしょう。悪魔の契約とはそういうものですから。それに──」
俺はここで『赤龍帝の籠手』を顕現させた。そして、亜空間からヘッドに王冠をかぶったようなデザインのチェスの駒を取り出す。本当にただのチェス用のキングの駒だ。
「聖書の神の創った『
実際、元吸血鬼の転生悪魔などは、試合中に強力な力を持つ他者の血液を服用することで強化していたりする。
フェニックスの涙も、レーティングゲーム開始当初は使用数の制限などがなかったらしい。あまりに便利かつ強力すぎて後に使用数が限定されてしまったが。
ごくまれにだが、ディオドラのように元教会の者などを眷属にしていて悪魔のレーティングゲームに聖剣を持ち込む者だっている。聖剣は悪魔の弱点を突く強力過ぎる武器なので、これが通るのならば大概のものはオッケーだろう。
俺は朱乃の『雷光』特性を持ち込む気満々だしな。
「ならば、神器や特殊な武具などの使用を制限する形にルールを改定すると言ったらどうする? 『赤龍帝の籠手』も使用禁止だ」
「俺は構いませんよ。籠手がなくとも強いので。ただ、神器使いの転生悪魔が役立たずになってしまって大変なことになるでしょうね。それに、ゲームの運営に関する今のアジュカさまの影響力では……」
神器を所有している人間は、上級悪魔が眷属を探す際によく狙われる人材だ。既に相当数の神器所有者が転生悪魔になっている。
レーティングゲームでの神器使用は『悪魔の駒』が配られた当初から許されてきたことだ。今さらこれを禁ずることなど出来はしない。
運営の権限もアジュカさまの手から奪われて久しいようだし。
「そうだな、俺はあくまでゲームの発案者であり、根本的なシステムの管理ぐらいしか出来ない状況だ。その他の部分は『触るな』、『語るな』とレーティングゲームへの関与を出来なくされてしまった。政治闘争に敗れてね」
兄上たち現四大魔王の権力はそこまで強くはない。最初から武力に訴えて独裁的な政治にしていればどうとでもなったのだろうが、前魔王時代に似たそれを嫌ったのか内戦後に議員なども政治に参入可能な制度にしたためだ。
当時の情勢を詳しく知らない俺からすると、自業自得のように思えてしまうところはある。
まぁ、今さらどうこう言っても仕方のない話だ。もうそうなってしまったのだから、これを変えようとするのならば大きな騒動を起こすことになるだろう。
つまり、俺がこれから『王の駒』関連でやろうとしていることについて、アジュカさまも兄上もあまり関与できないってことになる。
「俺は『王の駒』をロイガンの口から公表させるつもりですが、そうなったらどうなると思われます?」
「大騒ぎになることは確実だろうな。そして……いや、どうなるかな? どういった形で公表するかでかなり変わってきそうだ」
これは悪いものだ! と言わせるのか。
これは良いものだ! と言わせるのか。
民衆というものは、最初の印象によって大きく流される。あとはその後のマスコミの報道の仕方でも大きく変わってくるだろう。
そして、貴族は己の利益で判断する。得になるのならば支持するだろう、損をするのならばその逆だ。
「前魔王の残党の動きについては、まだ下級悪魔たちには知らせていませんよね?」
「ああ、だが各貴族家が対応のために大きく動いたことは気付いているだろう。何かが起こっている、とは感じ取っているはずだ」
平民どもは雑魚だが、それでも弱肉強食が基本の異形の世界に生きる悪魔だ。弱いからこそある程度は周りを見ている。
叩いても反撃してこない相手は嵩にかかって叩くが、反撃を受けそうな者には手を出さない。ま、この辺りは人間と大差ない。
俺にはマスコミを通してしか文句も何も言わないが、グレモリー領で領民の世話を焼いていた頃のサイラオーグはいろいろ言われたようなので、相手を見て態度を変えてきているワケだ。
ということで、平民相手はなんら問題ない。一歩も引かずに見下しながら、「何か文句があるのか? ぶっ殺すぞ」といった態度で臨めばよい。それだけで引っ込む。
謝るなど以ての外だ。非を認めて頭を下げたりすると、平民ってヤツはすぐに調子に乗る。平民には関係のない世界の話だってのに、あれだ鬼の首を取ったような態度をとるからな。
お前らなんかそもそもレーティングゲーム出られないから。転生悪魔も他の駒と併用できない代物だから関係ないから。関係あるのは生まれながらに上級悪魔である我々貴族だけだから!
ということで、リュイが俺に言ったように「後悔もしていないし、悪いとも思ってはいない。そうしなければ勝てなかったからしただけだ」みたいな態度でいるのが良い。
で、貴族はもっと簡単だ。今は前魔王の血族の活動が判明し、戦の影が足元にまで伸びてきている。
堕天使までも動き出しているのだから、
転生悪魔には他の駒との併用が危険なための用いることが出来ず、平民を強化したところでたかが知れているとなれば、『王の駒』でもっとも恩恵を受ける可能性があるのは
「リヴラクス・グレモリー。キミのその考えは危険だ。急に絶大な力を得た者は目を曇らせる。政府に害意、邪な感情を抱く者が出てしまいかねない」
アジュカさまには、俺の考えなどお見通しだったのだろう。『王の駒』、量産して皆に配ったらいいと思うんだけどな。
「俺はそうは思いません。同じ冥界には堕天使がいます、そして天使たちもいる。さらに他神話の勢力もある以上、現状でそのようなことをすることは合理的ではない。それぐらいは誰だって分かるはずです。それに……絶大な力と言ったところで、所詮はリュイ……ロイガン・ベルフェゴール程度のものでしょう? アジュカさまや兄上には到底及びませんし、数を揃えてどうにか政権を奪えたとしても、その後が続かないではありませんか」
身内で争って潰し合い、それで弱った悪魔勢力の中で権勢を握ったとしてどうなるというのだ。その後に堕天使どもと衝突し、天使まで出てくればそれこそ終わりではないか。
バカらしい。万単位の寿命を持つ悪魔がほんの一時の権勢のためだけに全てをなげうって破滅をしてどうするというのだ。
もう既に内戦に敗れて辺境に追い立てられている連中、彼らそんなこともするだろう。もう失っているので何も怖くはないのだから。
だが、現政権の恩恵を受けている状況で、果たしてそれを捨てる選択をするだろうか?
「キミはどうも悪魔というものの合理主義と利己主義を悪い意味で信じすぎているようだ。一時の感情に流され、対話よりも暴力に訴える者はいるさ」
矛盾しているのが悪魔だ。俺も損得よりも感情で動くことはある。だから言われていることは理解できるのだが……それにしても、だ。
「結局のところ、アジュカさまは他の駒と同じように『王の駒』を抜き取ったり、機能を停止ししたりすることが出来るのですか?」
力を得たから驕り高ぶる。これは分かる。
だが、与えられた力を奪うことが出来る者に逆らうだろうか?
アジュカさまが『悪魔の駒』を抜き取ることが可能なのは、黒歌の件で知っている。これは転生悪魔の場合は元種族から駒の力で悪魔へと転生していることもあって、いろいろと条件があるようだが、生まれたときから悪魔をやっている純血悪魔の場合はどうなのだろう?
『悪魔の駒』の機能停止については、これまでに懲罰としてそういった処置が取られた事例があることは知っているのだが。
「フフ、出来ない、もしくはするつもりはない。俺がそう言ったらどうするつもりだ?」
「そのときはその時ですね。安全のためにも公表はさせますが、ロイガンは俺のところで引き取らせてもらいます。彼女もすでに引退して俺のメイドとして仕えるということに決めていますので」
『騎士』に出来ないのは残念だが、身柄は頂く。
考えようによっては、その方が強いのだから……そこまで悪い状態ではない。リュイ自身は、現時点で『王の駒』ありならば魔王クラスの実力があるのだ。公表さえしてしまえば、そうそうどうにかされる心配はないだろう。
心配なのは、秘密を秘密のままに握り続けた場合だ。他者の利益に絡む秘密を抱えたままでいるのは危険だろう。
俺やリュイはともかくとして、周囲に何かされると大変困る。俺がブチギレてあちこちを消し飛ばしてしまうかもしれないから、リュイに『王の駒』を売り、その後に不正の指示を出していた相手だって困りそうなものだ。真っ先に領地ごとぶっ殺されるのだから。
こういうときに過去の所業が響いてくる。怒らせたら後先考えないヤベー奴って悪評、これが活きてくるかもしれない。
ゼファードルの犠牲は無駄ではなかった。そう信じたいものだ。
「安全か、たしかにそれは重要だ。『王』の駒を利用している者たちは、かつてその真実にたどり着いた者を容赦なく始末したこともあるからな。だが、そのために混乱を招くことはどう考えている?」
「俺は悪魔らしく利己主義者でありたいと思っていますので。自分と周囲の安全のためでしたら、他がどうなろうと……ということです。なんでしたら、今度バアル家の新年の行事に参加することになっていますから、そこで大声で言ってしまっても構いません。ついでに俺の知り合いにも事前に話してしまいましょう」
まぁ、俺の交友関係って狭いから仮に公表せずに秘密を抱え込んだとして、人質として意味を持つ者がどれぐらいいるのかって話ではあるが。
フェニックス家と名門六家ぐらいしかいないからなぁ……。サイラオーグは危ないかもしれんが、ミスラさんは眠りの病だからほとんど死亡しているのと同じ扱いだろうし。
フェニックスの涙を抑えているフェニックス家と、名門六家に喧嘩売ってまでとなると……うーん、どうだろう。リスクがデカイ気もするがそれでも消しに来るか?
悩ましいところだが、やはり表に出してしまった方が気が楽だな。言ってしまえば、もう口封じは意味がなくなるのだから。
しかし、アジュカさまが……結構情報を出して下さる。過去に『王の駒』の情報を調べた者がいて、そいつは消されていたのか。
まぁ、リュイが『王の駒』を買い取ってから長い年月が過ぎている。そのくらいのことが何度かあったとしてもおかしくはないな。
それにしても、ソイツはどうやって『王の駒』を調べたのだろう? そこはちょっと気になるところだ。
俺がリュイから聞いたように、親しい相手から教えられた。この場合は身内の話だ。不利になるような真似はするまい。いや、その後に痴情のもつれやら何やらで不仲になって……ということもあるのか?
他は、運営に深く絡んでいる者のところに忍び込んで……。この場合はそれだけのことが出来る諜報員が、
情報を盗むために忍び込んだ際に姿を見られたか、記録されたか。あるいは、真実を知らせた相手に切られたのか。ふーむ、難しいな。
「アジュカさま、過去に俺のように『王の駒』使用者を眷属にしたいと言って来た方はいなかったのですか?」
「こんなことを頼まれたのは、キミが初めてだ。そして……それを実行した者もキミが初になるだろう」
お? これは、つまり……!?
「……それでは!?」
「ああ、時期が来た。そういうことなのだろう。いつかとは思いながら、切っ掛けがないままに続けてきてしまった。これからのことを考えると、
「これからのこと、ですか?」
「……古き魔王の血筋、そして堕天使の領域での騒ぎ。大事になる前に内部の問題を片付けておこうということだよ」
なんというか、何かが妖しい。
妖しいのだが。アジュカ・ベルゼブブという方は基本的に妖しいからよく分からん。
ディオドラが一見優しく穏やかなヤツに思えてしまったり、ラティアが冷たく厳しく高飛車っぽく思われてしまうのと同じで、アスタロト家の血筋がもたらす雰囲気のせいなのかもしれないからなぁ。
「ロイガン・ベルフェゴールの『王の駒』。俺が抜き出そう。そして、公表もするといい。身の回りには十分に気を付けてくれ。それから……ラティアのことも気にかけてやってくれ」
そうだな、俺と仲が良いってことで狙われることがあるかもしれない。
俺はアジュカさまに、力強く頷いて見せた。
「ありがとうございます。……ところで、重ねてで申し訳ないのですが、実はローゼンクロイツの子供ことでご相談が──」
―○●○―
我が家に帰って来た。ようやくの我が
やはり自分の巣は落ち着く。ここに貯め込んだ
今回はリュイを完全に俺の
「リアスさま、ベルゼブブさまとのお話ですが……」
「ん? ああ、どうした?」
俺の頭の中は、この和室セットな部屋のお布団の上で晴れ着姿のレイヴェル姫をどうやって剥いていこうかってところに飛んでいたのだが。
ぐふふ、姫初めだ。フェニックス家のお姫様だから、完全に姫初めである。素晴らしい!
「お話の通りに『王の駒』が……ひゃん」
何やらレイヴェルが話をしたがっているが、俺の下半身はすでに臨戦態勢。
とりあえず布団の上に彼女を転がして添い寝の態勢に。もう日付変わってるんだよ。
「もう、めっ! ですわ」
ペチンとデコピンをされたので、とりあえずお預けにも耐えよう。でも抱きしめるがな。
このあったかくて、やわっこくて、髪の毛さらさらーって感じがいいのだ。さすがに魔王城に出かけてきたところなので、香水の匂いは例のアレではないが。
「──仮に『王の駒』が貴族家に配られるようになったとすると、ベルゼブブさまの権勢はより一層強大なものとなってしまいますが……よろしかったのですか?」
「ああ、そのことか。それは別にいいんだ。悪魔全体が強くなることの方が重要だと、俺は思う」
『王の駒』を公表し、貴族悪魔がそれを使用して強くなるべきだ。そうしてこそ、真に少数精鋭の強力な悪魔の軍団が形成できる。
と、そのように上手くことが運んだ場合。
現状唯一『王の駒』を製造できる存在であるアジュカ・ベルゼブブさまの重要度は恐ろしく跳ね上がる。今でも相当なものだというのに、だ。
俺自身が『赤龍帝の籠手』が聖書の神の創造物であることに不安を覚えながらも手放し難く思っているように、一度手にした強大な『力』というのは麻薬のようなものだ。
味わってしまえば、なかなか離れることが出来ない。
『王の駒』を得るためにはアジュカさまが必要であり、そのアジュカさまは一度与えた『王の駒』を奪うことも機能を停止することも可能。
逆らえば、不興を買えば……力を与えてもらえないかもしれない、取り上げられるかもしれない。
平均数十倍の強化の魅力は、力を尊ぶ社会に暮らす者にとって頭を垂れるだけの価値が十分以上にある。
与えることで従える魔王ベルゼブブの権力は途轍もないものになるだろう。
「リアスさまがそうおっしゃるのでしたら……」
まぁ、レイヴェルとの婚約は、フェニックス家が俺の持つグレモリー家、つまりはルシファー派への繋がりとバアル家の大王派への影響力を求めて決まったところもある。
これでベルゼブブ派が強大になっては当てが外れた感じがあるかもしれない。
ま、それは家同士の政略の話であって、俺とレイヴェルの関係はまた別の話だ。
「まだ何か気付いたことが?」
レイヴェルがしがみついてきたので、その瞳をじっと覗き込んだ。
「少し、怖かったのです」
「そうか」
俺とレイヴェルでは、持っている力がかなり違う。そうなると感じ方も変わってくることもあるだろう。
妖しいからなぁ……ホントに。
シーグヴァイラの大好きなウルトラなロボットたちが大戦争するゲームで、「フフフ……バッドエンドショット」とか口にしそうなキャラをしておられる。雰囲気が妖し過ぎて、妖しいのが普通になって逆に妖しくない気がしてくるような訳の分からなさだ。これだからアスタロト家は困る。
「ベルゼブブさまは、『王の駒』の真実にたどり着いた者が始末されたことをご存知でした」
「それは知って……ああ、そうかおかしいな」
どこで、どうやってそのことをアジュカさまは知ったのだ?
仮に始末したのがお年寄りたちだとして、『王の駒』のことを知られたくないから消したのだ。アジュカさまがそのことを知っているということは……。
「アジュカさまご自身が手を下した。もしくはその消された者が『王の駒』の情報を持っていたことを知っていて……。消されたのはアジュカさまの手の者か、あるいはアジュカさまのところから情報を盗んで……」
「はい、どういった経緯だったのかは分かりませんが、ベルゼブブさまはそのどなたかの死を黙認されたのではないかと……思ってしまったのです」
「といっても、機密情報を盗みに入ったのならその手の仕事が専門の工作員だろう?」
ならば、ことが露見した場合にどうなるのかも織り込み済みでの行動だったはずだ。
「ええ、おそらくそうでしょうね。少し考えすぎてしまったようですわ」
俺はそう言ってぎこちなく笑って見せたレイヴェルの唇を塞いだ。
知らない方が良いことってのは、ままあるものだ。変に考えすぎるのもよろしくない。
そもそも、あのアジュカ・ベルゼブブさまがどうして『王の駒』の管理を怠って外部に流出させてしまう事態なんてことになったのか……とかな。あー、怖い怖い。
やっぱ、事前にラティアに執り成しをお願いしておいて良かった。
悪魔って種族は、俺の周りを見る限りではほぼほぼ年下の女性親族には滅茶苦茶甘いから。
さて、面倒ごとは一旦忘れて新年最初のお姫さまをいただくとしようか。
次回:『姫初め』
バラキエル戦:魔王様方は和平を考えているので、オリ主くんは出撃させてもらえません。
アジュカ・ベルゼブブ:
なんだか分からないが、原作でもチラホラ裏切りそうな描写が多々ある方。でも結局そんなことはなかった。
本人的には、怪しまれるのも魔王っぽくて良いと望むところらしいので、こんな扱い。
あやしい。
クレーリア・ベリアル:よくよく読み返してみると
この人って大王派に所属しているベリアル家の分家の娘が、『グレモリー家』と『バアル家』が共同統治してきた土地を、縄張り運営の勉強のために借りている状態で『教会の男』と恋仲になって、そのあと『アジュカ・ベルゼブブ』の人間界の施設に侵入して機密情報を盗み出しているようですけど……。王の駒がなくてもヤバい行動のような。
それで王の駒のことを知ったけど、情報ソースがマズ過ぎるので公表できなかったんじゃないかなって……。