※この作品はR-18です。

公爵家次期当主好色物語   作:ルペッタ好き

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内藤さん:サイラオーグの『騎士』。原作ではアザゼル杯に出場していたシューティングスターチームのとにかく速い人。能力以外の名前も容姿も不明。セリフもなし。
なので、ほぼオリキャラです。『騎士(サー)』ナイトウ。





根回し、駒回し(上)

 内藤は日本のとある町に生まれた。

 幼いころから足が速く、いつもそのことで誉められ、羨ましがられていた。単純な子供はそれが嬉しくて、ひたすらに走り、走り、走り……やがてすべての者を置き去りにしてしまう。

 オリンピック選手の記録を容易く突破してしまった子供は、両親を含む周囲全てから恐れられることになる。

 逃げた、逃げた、逃げた。排斥の瞳から、故郷から逃げ出した。

 足の速さ以外、何の取り柄があるわけでもない子供。食べていくために窃盗を繰り返すようになり、やがてその所業は人外の存在を討つ連中の目に留まってしまう。

 神か魔か、あるいはいずこの英雄か。足の速さで知られる超常存在の子孫、あるいは生まれ変わりだろう。そういった話を聞いた後、内藤は連中から逃げ出した。

 幸運だったのは、所詮はひったくり程度の罪の子供とやって来た連中に実力者がいなかったことか。もしもその時の追手が力ある者だったならば、空間を捻じ曲げ、結界を形成し、逃走を許されなかったかもしれないと後に聞いた。

 海にまで逃げた内藤は、そのまま海水の上を走り抜けた。足が沈む前に次の一歩を踏み出す。いつの間にか、そのようなことが出来るようになっていた。

 

 大陸に渡った後も苦難は続いた。言葉の通じる相手が少ない。稼ぐ手段も同じく少ない。結局また盗みを働き、その地を追われ、また遠方へと逃げる。十数年もの間、その繰り返し。

 風よりも速く駆ける内藤の足からはいつしか靴が消え、裸足になっていた。裸足の内藤は西へ西へと駆けて行き、やがて悪魔の一行と出会うことになる。

 ちょっとしたいざこざの後に捕らえられ、言葉が通じたことから事情を話してしまい。

 

「なら、俺達と一緒に来ないか?」

「走ることしか出来んぞ」

「なに、俺も拳しかない」

 

 悪魔になり、仲間が出来た。受け取った悪魔の駒は『騎士』。

 

「俺は長所を伸ばす方針だ」

 

 己の『王』(サイラオーグ)はそう言い。

 

「私は、神器で癒すことくらいしかお役に立てません」

 

 元は教会にいたと言う『僧侶』(アーシア)が続けた。

 

「私なぞ、雑用だけしか出来ませんからな!」

 

 小太りの『兵士』(トラーバ)はそう口にしながら、ポヨンと腹を叩いてみせた。

 他にも巨体が目立ってしまうために人間界には連れて来られなかったが、腕力だけが取り柄の『戦車』(リキーゴ)がいるのだと聞いた。

 

 西へ西へと逃げ惑ってきた道を、東へと歩いて行く。

 

「みなさん、食事の用意が整いましたぞ」

 

『兵士』と『僧侶』の作った食事の匂いが内藤の鼻をくすぐる。

 

「今日の糧となって下さった命たちに感謝を……」

 

 今日のメインは内藤の狩って来た獣の肉だ。

 悪魔となりかつて信仰していた神へと今日の恵みへの感謝を捧げることの出来なくなった『僧侶』。彼女はそれ以来、己の糧とするため命を奪った者たちへの感謝を捧げることにしたらしい。

 それが神から恵まれたものだと考えなくなれば、口にする全てのものは動物か植物の遺体であり、自分が生きるために殺した命なのだから、と。

 信心深い者の考えは、内藤には分からない。ただ、内藤も生きるために他者の物や財布を奪って来た。何とはなしに、そういった考えもあるのかと思う。

 

「遅くなったか。この辺りに危険はないようだ」

 

 ほんのさわりではあるが、闘気を纏い気配を探る仙術を学んだ『王』が周辺の索敵から戻り、共に飯を食い始めた。 

 この辺りの一月の夜は寒い。だが、内藤の心は暖かかった。

 

「宴のようだな。毎日が」

 

 内藤の口からこぼれた言葉に、『王』が空を見上げた。

 

「そういえば、あちらもそんな時期か……」

 

 思いにふける様子の『王』に質問すれば、返って来たのは今頃は丁度悪魔たちの社交の時期なのだという答え。

 

「俺は魔力が扱えない。そのため『御家の恥』とされ社交の場に出たことがない。昔はそのことに随分と思い悩んだ。それを思い出して……己の価値を証明したい。強さを示したい。その思いは、己を見下した連中を見返してやりたいという考えとどう違うのかと思ってしまった」

「どうでもいいだろう、そんなことは。まずは駆け抜け、その後に振り返ればいい」

「そうか……そうだな。まずは、強くならねばな」

 

 冬の夜が過ぎていく。

 

 

 

 

 ―○●○―

 

 

 

 

 一月は宴会が多い。

 区切りの時期でもあるため、各貴族家の分家の者は本家に顔を出す。全員とは限らないが、最低でも各分家から代表一名くらいはやってくる。

 そして迎える側となる本家は、それらの者をもてなす為の宴会を開くことになるのだ。

 

 年末から始まり、一月の前半まで続くレーティングゲームのイベントなどもあるため、参戦している者は大忙し。試合にも出なければならないし、宴でも話題の中心となるためだ。

 この一族、身内向けの宴は数日にわたって催される。これは既婚者と婚約した相手のいる者は、自身の生まれた家と相手の家の双方の宴に出席するためである。

 ある日は嫁入り先、婿入り先の家の宴に出席し、またある日は相手を連れて実家の宴に顔を出す。二日では入れ違いで顔を合わせられない者が出てくるため、予定を調整して互いの親類との顔合わせを行っていくわけだ。

 この辺りの調整作業も、主催する本家の者の仕事。とはいえ、これらのことは長い間続けてきたいつものこと。慣れてもいれば、大半のことは家臣が行うために手間はそう掛からない。

 そのため、疲れるほどのことではなかった。むしろ、多くの貴族家当主はこの時期を楽しみにしてさえいるだろう。

 貴族階級の悪魔には宴好きが多いのだから。

 

 ただし、今年のフェニックス卿は少しばかりの疲労を覚えていた。

 

 不死身のフェニックス故に肉体的にはどうということもない。ただ、精神的な疲労に関しては、さしもの不死身も回復してはくれない。

 今年のフェニックス卿は例年よりも遥かに気を遣っていた。こんなことは久しぶりだ。下手をするとレイヴェルが生まれた年以上かもしれない。

 

 それというのも、昨年、娘のレイヴェルを婚約させたからだ。レイヴェルの婚約相手は、グレモリー家の次期当主リヴラクス・グレモリー。

 現行の悪魔の国を取り仕切る四大魔王の筆頭として、ルシファーを襲名したサーゼクス・グレモリーの弟だ。

 内戦からこちら魔王筆頭を輩出したグレモリー家は隆盛を極めている。グレモリー卿ジオティクスが率いている現ルシファー派も、息子のサーゼクス・ルシファーの魔王としての職務担当が内政──大きく金に関わる──ということもあって大規模だ。

 

 フェニックス領を取り仕切る為政者として、貴族として、フェニックス卿はこの婚約を決めた自身の判断は間違ってはいなかったと考えている。

 

 一時は、バアル家次期当主マグダラン・バアルと結ばせることも考えたが、娘のことを思えばバアル家はあまり好ましくなかったのも事実。サイラオーグを産んだのちのミスラ・バアル──ミスラ・ウァプラの扱いは貴族の間では良く知られた話だ。

 バアル家は名門中の名門であり、率いる大王派は最大派閥。だが、レイヴェルがあのような扱いを受けることを想像してしまうと、父親としてのフェニックス卿はためらいを覚えた。

 このこともグレモリーを選んだ理由の一つだ。

 

 幸いなことに、フェニックス領の統治は安定している。これは領民の多くが、フェニックスの一族が自分たちがいなくとも何ら問題ない一族だと知っているからだ。

 豪奢な生活も、使用人の給金も、フェニックスの一族は『涙』の売り上げで賄えてしまう。むしろ、そうして稼いだ金を領地に投資してきたくらいだ。

 それ故に、この領地の平民たちは理解している。何か事があれば、切り捨てられることも十分にあり得る、と。だから、逆らわない。

 元七十二柱、今ではそれも半数ほどになってしまった。戦と混乱で柱を失った領地がどうなったのか。その過去を知る平民はよく従う。

 

 本来、冥界は神話における地獄。

 

 魔王様方の様に日月を空に浮かべ、時間を制御することまでは出来ないが、領主も天候程度は操作している。元々の地獄の環境は悪魔にとっても決して過ごしやすいものではない。

 そして、フェニックス家の者は自分自身の特性で懐を潤すことが可能なので、わざわざ領民から過剰に税を搾り取るような真似もしない。

 

 統治は安定しており、御家は自身の代でこれまでになく栄えている。時勢に助けられたことは事実だが、フェニックス家歴代当主の中でも自身の評価は屈指のものとなっている。

 

 ならば、欲をかき過ぎなくとも良い。

 

 レイヴェルも好いている様子を見せ、三男のライザーとの交流もあるリヴラクス・グレモリーを選んだのは間違いではなかったはずだ。

 

 娘から聞いた話では、いずれ義理の母となるヴェネラナ・グレモリーからも気に入られ様々なことを習っている様子。

 大戦以前多くの浮名を流していたグレモリー卿を捕まえ、彼の派手な女性関係を清算。その後に実家の意見を振り切って強引に嫁入り、夫の周辺を管理し、現在の隆盛を築いたかの女傑の教えがあるのならばおそらく問題ないだろう。

 

 フェニックス卿は幾度も心の中でそれらのことを確認し、その上でこう思った。

 

 昨年は、いろいろとあった。

 

 ミスラ・ウァプラ。

 エダーギ・ナベリウス拉致事件。

 旧魔王派の蠢動。

 堕天使との緊張の高まり。

 フェニックスの特性を『譲渡』することによる治療。

 トップランカーの最上級悪魔、リュディガー・ローゼンクロイツが娘の眷属に……。

 

 今のところそれらはフェニックス家にとって良い方向で作用しているが、今後も油断は出来ない、と。

 なにせ、昨年発生した騒動のどこかしらにリヴラクス・グレモリーが絡んでいたのだから。そして、その度にフェニックス卿は『紫紅の龍帝』の『女王』の父として多くの質問を受けたのだ。

 

 

 どこかそわそわとしつつも例年とさほど変わらなかった一日目が終わり、問題の二日目を迎えた。

 本日は人数が多い。世間の話題の的となっている、本家の姫とその婚約者に会いたいという者が多かったためだ。普段あまり見ない顔もある。

 

 昨晩グレモリー家の親類との顔合わせを終えたレイヴェルの本日の装いは、婚約者から贈られたと言っていた着物だった。紅に金色鳳凰の図柄。

 フェニックス卿は人間界の一地方の民族衣装について詳しくはない。ただ、グレモリーの紅とフェニックスに似た鳥、実に分かりやすい構成であることは理解できる。

 分かりやすいことは良いことだ。縄張りの関係で交流のある京都の妖怪に特急依頼で仕立てさせたと聞いたが、なかなかどうして仕立ても悪くない。

 当初はレイヴェルの普段の好みから桜色の物を用意されたらしいが、ある女性に紫に龍の図柄の着物を贈ったことを知り急遽用意させたものと聞いている。

 会場内の女性の多くが洋装のドレスの中、娘のその姿は大変に目立っていた。本日の主役なので全く問題ないが。

 

「もう! ご自身の瞳の色に龍では、あちらの方が本命のようではないですかッ!」

「いや、黒や紫が好きだったから……あと龍とも縁がある御家だろう? 黒は黒歌のイメージだから」

「ダメです! 返してもらってくださいまし!」

「贈ったものを返せとか出来ないから……な?」

「そんなことをしても、ダメです! でしたら、せめて私の方を紅色にしてくださいまし!」

「じゃあ、それ返せ」

「返しませんわ。こちらはこちらで、頂いておきます。せっかく……私のことを思って用意して下さったのですから」

 

 これには、このような光景を展開してレイヴェルも激怒したらしい。フェニックス卿はレイヴェルからの相談を受けた妻からそう聞いている。

 しかし、本日の娘は上機嫌。婚約者殿にベッタリだ。その一件は二人の間で尾を引くことはなかったようだ。

 

 年末のあの会見の件も、評判は悪くない。特に戦前を知る世代からは好ましく映ったようだ。

 体制が変わってからまだ数百年。戦争で多くの命が失われたとはいえ、未だそれ以前の一万年を超える期間で数を増やした戦前世代の方が数は多い。そのことを考えると、悪くはなかった。

 現体制からの利益を享受しつつも、現魔王の方針に不満を抱いている者。これらは特に大王派に多いところ。

 リヴラクスの血筋や少ないが急所を抑えている人脈を考えると、現ルシファー派内で大王派との間に立てる位置だ。舵取りは難しいだろうが、上手くやれば双方から利を引き出せる。

 あまりにも若すぎるのが困ったところだが、そこはレイヴェルを通して……。

 

「いかんな」

 

 フェニックス卿は、眉間を抑え目を閉じた。婚約者殿と娘の姿を見ていると、抑えたはずの欲が湧いてきてしまう。

 リヴラクス・グレモリーには華がある。戦前に浮名を流したジオティクスと、恐れられつつも憧れられたヴェネラナの血をはっきりと感じさせる容姿。

 何よりもレイヴェルが魅せられたのだろう、あの莫大な魔力。

 意識してやっているのか分からないが、時折見せる弱者を見下す傲慢さや気性の荒さも、あれだけの魔力があれば一種の魅力に映るだろう。難易度の高い相手を振り向かせたいと思う女性悪魔はそれなりにいる。

 

 魔力は悪魔にとってステータスだ。強大であればあるほど、多くの者が自らの頭を垂れることを容認する。

 

 身体能力、武術、魔法、神器、その他の力でも強さを結果として示せば認められはするが、それは理性によるもの。

 だが、魔力に関しては、悪魔という種の本能がその強弱によって同種族内での上下関係を悟らせる。角の大小で上下関係を決める獣がいるように、純粋な悪魔だけで暮らしていたときは魔力の大小だけで凡その強さを測れたからだ。

 

 そのため、名門の生まれであっても魔力が低ければ蔑まれるのが悪魔の社会。魔力に優れていなければ上には立つことは難しい。

 現四大魔王が皆抜きん出た魔力の持ち主なのもそのためである。混乱期をまとめるには、若く経験が不足していようとも、それが必要だった。

 この性質は転生悪魔が上級悪魔にまで昇進してなお侮られがちな原因にもなっているが、純粋な悪魔とはそういう存在なのだ。種の発生から内戦までの長い期間を通して培われた本能は如何ともしがたい。

 

 この点において、魔力の大半を封じているサーゼクス・ルシファーよりも曝け出しているリヴラクス・グレモリーの方が強烈だ。多くの純粋な悪魔に、本能的な畏怖を抱かせるだろう。

 会場内を見渡せば、これまで社交の場にあまり顔を出さず、学校に通っていなかったこともあり、彼のその印象がより一層鮮烈なものとなっているところがあるようにも思える。

 

 その隣に自分の娘がいる。グレモリー家の男性の伝統的な気性を考えると……。

 

「おっと、いかんいかん」

 

 欲張り過ぎれば墓穴を掘ることになる。

 

 しかし、今になって思えば婚約直後に『女王』の駒を取りに行った娘の判断は正しかった。

 ラティア・アスタロト。

 遅れて動き出したアスタロトの姫君は、分家とは言ってもアスタロト卿の孫であり、アガレス大公の妹の子。

 魔力量ではレイヴェルとそう差がないことを考えると、先手を取っていなければ家格の差でひっくり返されていたかもしれない。

 レイヴェルが、『王』の腹心である『女王』になったからこそ各家に紹介された。「婚約者を『女王』にしました」と各所に紹介しておいて、そこからの破棄はまずありえない。相当な恥をかく覚悟がいる。

 さらにダメ押しとして、その他の貴族・平民にも広く公開会見で周知させ、治療行為での利益も大半はあちらに流した。

 ここまでやってからの乗り換えはあり得ない。

 

 もっとも、目の前の二人の様子を見ていると、いらぬ世話を焼いたような気もしてくるが……。

 

 その後、フェニックス卿は『王の駒』の公表と、ロイガン・ベルフェゴールの眷属化の話を聞かされまたも精神的な疲労を蓄積させることとなる。

 

 

 

 

 ―○●○―

 

 

 

 

 親族を集めたパーティーの時期が過ぎると、今度は交流のある者を集めてのパーティーが行われる。

 それらの多くは同派閥の関係者が集まるものだ。このときに注意したいことは、同じ七十二柱の家でも同派閥とは限らないことである。

 悪魔社会の主要な派閥は、バアル家の大王派、グレモリー家の現ルシファー派、アスタロト家の現ベルゼブブ派、アガレス家の中立派、シトリー家の現レヴィアタン派、グラシャラボラス家の現アスモデウス派の六つ。

 これら六派閥に本家、分家ごとの判断で別個に所属しているのが悪魔の現状だ。

 パーティーの会場は、多くの場合派閥の代表を務める御家の領地内にある。建築好きで見栄っ張りの多い悪魔の貴族家は、こういった時のためだけの設備を用意しているものなのだ。

 

「──という感じなんだけど」

「それぐらい知っているわ」

 

 基本的には同派閥で集まることの多いパーティーではあるが、他派閥のそれに顔を出してはいけないと決められているわけではない。

 特にレーティングゲームのトップランカーなどの名のある者は、話題作りや見栄などのためによく招待されるものだ。

 

「ラティアはあまり出かけていなかったから、一応ね」

「つまらないもの」

 

 パーティーの主催を務めることとなる当主に代わり、他所に顔を出すのも次期当主の務め。

 ディオドラは同行者としてラティアを伴い、グレモリー家のパーティー会場へと向かっていた。

 本来であれば、こういったときに連れて行くのは妻や婚約者。そうでなければ眷属の『女王』か『騎士』となる。

 ディオドラには妻も婚約者も『女王』もいないが、『騎士』はいる。それがどうして兄の娘、つまり年の近い姪であるラティアを連れているのかと言えば、彼女が行きたがったからに他ならない。

 自他ともに認める下種な男であるディオドラにも、悪魔の男性の多くが持つ目下の女性親族への甘さがあった。年齢が近いせいかそれほどでもないが、それでもそこそこにはあるのだ。

 

「しっかし、その服……目立つんじゃない?」

 

 グレモリー家の者がラクダを乗騎とするように、アスタロト家の者はドラゴンに乗る。

 ラティアは今、ディオドラの操る巨大なドラゴンの背に彼からやや距離を取って着物姿で横座りしていた。

 

「あの時期に贈られたのだから、こういう意味でしょう?」

「どうかなー? アイツのことだから、本気でただのクリスマスプレゼントって可能性も……」

「……そうかもしれないわね」

「あー……なんか、ごめん」

 

『紫紅の龍帝』リヴラクス・グレモリーから、社交シーズン前に紫にラティアの髪色である金の龍があしらわれた服が届けば、そういった意味合いに受け取るのはおかしくはない。

 ただ、ラティアと同じく社交を嫌っている彼の場合、本気でただ彼女の好む色と、アスタロト家の乗騎としてよく用いられるドラゴンを選んだだけの可能性も高い。

 

 ラティアが社交の場を苦手としているのは、どうしても出てしまう冷厳なオーラと、高慢な雰囲気によるものだ。誰だって、自分が近寄ると談笑がピタリと止まり、場が静まり返る経験を幾度かすれば嫌になるだろう。

 それに対して、ディオドラは穏やかさを感じさせるオーラと、優しそうな雰囲気を持つ。表面を取り繕うのも上手いので、社交は得意だ。得意だからと言って好きだとは限らないが。

 実際、よくそういった場に出された結果として、ディオドラは貴族女性が苦手になってしまった。勃たん。

 

 そして、リヴラクスが社交に出ないのは、ただの不精だとディオドラは考えている。怠慢でワガママだ。

 ただ、過去にグラシャラボラス家のゼファードルにやらかしたことがあるので、グレモリー家としては無理には出せないのだろう。やらかされても困る。

 それが最近はそれなりに顔を出すようになったというのだから、婚約者であり『女王』でもあるレイヴェル・フェニックスの存在は大きいのだろう。

 

「今、リアスのヤツ眷属を集めてるけど、仮に駒を受け取るとしたら何がいいのかな? ラティアとしては」

「『女王』よ」

 

 意中の相手の『女王』になりたいと願う若い悪魔女性は多い。

 これは、魔王サーゼクス・ルシファーとグレイフィア・ルキフグスの馴れ初めの物語の影響だ。あの物語は広く悪魔社会に浸透しており、多くの場合ラストシーンはサーゼクスがグレイフィアを『女王』とする場面になっている。

 ラティア・アスタロトの外面は、そんな雰囲気を微塵も感じさせない冷たい女だ。だが、彼女の内面はそういったことに憧れる少女なのである。

 

「一年早く動いていれば手に入ったのにさ。妙な遠慮してるから」

「そんなこと、いちいち言われなくても分かっているわ」

 

 ディオドラとはあまり交流がないが、シトリー家次期当主のソーナ・シトリーはラティアにとって幼稚舎から付き合いのある友人だ。

 その関係で躊躇っている間にフェニックスに持っていかれてしまったのだから、ラティア・アスタロトは悪魔としてはあまり出来の良い方ではないのだろう。欲しいと望んだのならば、手を尽くすべきだ。

 

「『女王』がもう無理なのは分かっているだろ? あれだけ固められたらトレードはあり得ない」

 

 そう言って、ディオドラはそろそろ手に入れる算段のついた自身の『女王』候補のことを思い浮かべた。貴族女はダメだが、聖女やシスターならば、グイとおっ勃つのがディオドラ。彼は狙った獲物を手に入れる為ならば、手段を選ばぬ悪魔らしい悪魔であった。

 

「……『騎士』よ。レイヴェルとの話は付いているわ」

「あ、そうなんだ。どうしてその行動力をもっと早く……」

「うるさいわね」

 

『女王』と『騎士』の眷属の役割を考えると、実に分かりやすい選択。

 妥協してでもアイツの傍に居たいとは、男のディオドラにはなかなか理解しがたい感覚だ。

 

 ディオドラにとってのリヴラクス・グレモリーという男は、一言では表現し難い。

 

 同じ魔王輩出名家の次期当主。超越者の兄を持つ弟と、多少の親近感を抱かせるところがあるのは確か。

 しかし、大きな差もある。それは、才能。

 ディオドラも弱い方ではない、むしろ優秀な部類だ。だが、あちらとは圧倒的な開きがある。

 

『聖書の神』の業である神器ではない。悪魔として最重要のステータスである魔力。どうしようもないほどの魔力の差が、リアスが多く見せる上から目線の言動をディオドラに許容させていた。

 

 もしも、神器の力だけで自身を上回る強さを誇られていたとしても、ディオドラは決してそれを受け入れられなかっただろう。気に喰わないヤツだと感じたはずだ。

 

 話は割と合う方だ。大概がシモの話になるが、この貴族社会で気兼ねなくバカ話の出来る相手は貴重である。

 

 強さとは異なる方面でディオドラを頼ってくるのは、それはそれで面白い。対価もあちらからしっかり払おうとしてくるので、今後も上手く利用しながら付き合っていきたいと考えてもいる。

 

 気に喰わなかったのはサイラオーグとの関わりだ。グレモリーの性質であると理解はしているが、従兄というだけであの魔力なしの出来損ないをディオドラよりも重んじているように感じられたのは、なんともイライラさせられたものである。

 名家の中の名家に生まれながら、欠片の魔力も感じさせないサイラオーグをディオドラは心底から蔑んでいた。下級悪魔にいじめられていたというのも大いに納得したものだ。あれではな、と。

 あの雑魚が、自分よりも重要なのか。いや、リアスから見ると自分もサイラオーグも大差ない程度なのかと心がささくれたのだ。

 そこのところは、サイラオーグが人間界の旅に出る前に「あちらのことを教えて欲しい」と頭を下げて来たので、多少溜飲が下がったところはあるのだが。

 

 嫉妬ももちろんある。近くに居れば魔力の違いは嫌と言うほど分かる。正直なところいつもそれを羨ましいとディオドラは思っていた。

 超越者である実の兄に、ディオドラのような感情を抱かなくて済むのだから──。

 同じ両親から生まれて来て、どうしてこうも差があるのか。それを度々考えてしまう。リアスにはそれが無いように見える。そのことが心底羨ましい。

 

 ディオドラは、いっそのこと女として生まれて来たのなら、こんな思いはせずに済んだのではないかと思ってしまうほどだというのに。

 

 多くの悪魔は目下の親族女性に甘い。かなり可愛がられる傾向にある。そのせいでワガママに育つことが多いのだと思われる。

 だが男の場合は事情が異なる。よく比較される。ディオドラもあのアジュカ・ベルゼブブと比べられて育ってきた。

 聞けばあの魔王となった兄は、長い間自身の力を隠していたらしい。超絶した才能を持ちながら、それを世間に知らしめようとはしなかったのだ。内戦のその時まで。

 サーゼクス・ルシファーもそうだったという。そして、リアスにもそういった傾向が見られる。

 超越者たちには、世間の評価など必要ないのだ。称賛などあえて欲するまでもないと、歯牙にもかけていない。

 それは優秀過ぎる兄と比べられて育ったディオドラが、欲して止まないものの一つだと言うのに……。

 

「そういえば、兄さんは今回も顔を出さなかったな」

「お父さまは本家に行きたがらないから」

 

 そうだろうな、とディオドラは思う。おそらく、ディオドラのもう一人の兄。ラティアの父親も似たようなことを感じていたに違いない。

 いつもアジュカ・アスタロトの影が頭の上にある。こちらはそれに押さえつけられているかのようなのに、あちらは何も思ってすらいない。そう考えてしまう。

 アジュカの子供が生まれたならば、今はディオドラに与えられている次期当主の座などすぐに奪われてしまうのではないか。そう思えてならない。

 そうでなければ、どうしてアガレス大公家の姫君という当時最高の妻を娶った兄が本家を出て分家を起こしたりするだろうか。

 

 仮にディオドラが純血悪魔の貴族の女との間に子を成したとして、その後にアジュカの子が生まれたとしよう。

 そして自身の子よりも、アジュカの子を次の当主に望まれたとしたら……。ディオドラの自尊心は泥にまみれることになる。

 

「ところでさ、約束は覚えているかな?」

「ええ、覚えているわよ。しつこいわね」

「キミとリアスとの間に子供が出来たらさ。二人目まではアスタロト家……ボクの養子にもらうから」

「同じことを何度言えば気が済むのかしら?」

「なに、後で知らないって言われたら困るからね」

 

 ディオドラ・アスタロトは、純血悪魔の女性では勃たない。

 転生悪魔や人間が相手であれば、まったく問題ないのだが。

 

 

 




捏造設定もりもりでした





冥界=地獄:
原作のどこかで見かけた覚えなので、たぶん本来は地獄のような環境なのだろうと。
月も太陽も魔力で造っているので、元々は暗黒の世界(悪魔は闇を見通す)。
それを魔力で時間含めて弄っているようなので、たぶん天候もそうだろうということに。これは領主の仕事なのではないかとも。だから冥界の危機でもパパ世代があまり出てこないとか




魔力はステータス:
悪魔は元々は純粋な悪魔だけで序列を測っていたので、悪魔の強さの源である魔力量で悪魔同士の上下関係を判断しがち。転生悪魔のシステムが広まっても、本能的にそうしてしまうところがある。


魔力はステータスというのは、原作内で何度か言われていた覚えです。
自分から見て魔力が極端に少ない相手に負けると心が折れるとかアザゼル先生も言っていた。(サイラオーグvsゼファードル)

功績を積み上げて上級悪魔まで昇格しても、転生悪魔が下に見られるともあるので、その原因のひとつとして

下級悪魔の子供がサイラオーグをいじめた件も、これが原因ということに

原作の若手ゲーム戦ではパワー、テクニックとかのステータスが各チームに公表されていて、サイラオーグが№1とハッキリ言われていたのに、ゼファードルもディオドラもなんだかんだサイラオーグを下に見る発言をしていたというのもあります。

原作主人公イッセーくんも、10巻当たりの時点で(強敵をかなり倒していたにも関わらず)まだバカにされると愚痴っていた。
イッセーは一巻時点での初期魔力が悪魔の子供以下と極端に少ないので、戦歴を知っていて強いことが分かっていても、悪魔はついつい(コイツ魔力すくねーな)と下に見てしまっていたということで。

で、ヴェネラナさんはその辺りを見越して『おっぱいドラゴン』なんてヒーローを作り上げて広めてイッセーと同一視させ、娘の婿が受け入れられる下地を用意していた、と。

 なんかまとまりがありませんが、そんな感じです。はい


派閥:
大きく六派閥ある。隠れて旧魔王よりのところもある。
政治に関わらないとしている番外の悪魔を除くと、戦争で七十二柱の名家は半減しているので……四十もない。
そうすると各派閥に所属している家の数って、かなり少数なのでは(各派閥に6家でも36家になりますし)と思ったので、本家・各分家で所属が違うこともよくあるということにしました。





ラティアの父親:
ラティア・アスタロトはアジュカの姪で、母親はアガレス大公家出身。
ということは、ラティアの父親はアジュカの兄弟で、ディオドラの兄でリベラル派(ここまで原作設定)
ディオドラの兄で、第二位の名家のお嬢さんを嫁さんにもらってるのに次期当主になっていなくて、分家作ってるってことは、何かあったのではないかな……と考えた結果こうなった。
同じことをディオドラにも適用したら、コンプレックスましましになって、オーフィスの蛇が欲しくなりそうな感じになりました。強くなって調子に乗りまくるのも、分かる気がして来たという













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