※この作品はR-18です。

公爵家次期当主好色物語   作:ルペッタ好き

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紅衣の『女王』と紫衣の『騎士』(2)

 ラクダに跨りラティアの住む城に向かう。しかし、今の俺はすっかりラティアに乗っかりたい気分だ。

 すまんな、ゴポリン2世。キミはラクダ基準で十分な美女だと思うぞ。だからそんな目をして振り返って来るな。

 俺はまだ、そこまで至っていないし、至るつもりもないんだ。同種のラクダとイタしてくれたまえ。それか、人型に変化できるようになれ。美形で頼む。

 

 と、くだらんことをラクダさんと目で語り合っている内に目的地に着いた。分家と言ってもそこそこにデカイ。

 

 城門を潜り玄関でラティアに出迎えられた俺は、案内された部屋で彼女の両親に会ったところでさくっとこう切り出した。

 

「ラティアを俺の下僕にします」

 

「ください」などとは言わない。なぜなら、頂いていくことは既に俺の中で確定事項だからだ。

「やらん」などと言われては困るからな。俺の中では、ラティアはもう俺の女になっているのだ。

 

 かの冥府の主・ハーデス神も、気に入った女は掻っ攫って行ったと神話に語られている。

 でも、ちゃんと親の許可は取ったそうなので律儀だよな。当時としては、女は攫って嫁にするものだったらしいって聞いたような気もするし。

 まぁ、父親からしか許可を取らなかったせいで、母親が嘆いてえらいことになってしまうわけだけども。といっても、あの話は世界に季節がある理由付けに当時の人間たちが考えたことだろうからなぁ。

 ということで、悪魔が住まう冥界から歩いていけるご近所異界の支配者ハーデス神に学んで、俺はラティアの両親にちゃんと伝えておくわけだ。後で揉めたら困るしな。

 で、俺の発言に対してテーブルを挟んで座るラティアの両親の反応は──。

 

「娘から聞いてはいましたが……」

 

 ラティアママは困ったねと素に近い表情を見せてくれているように思える。

 彼女はアガレス大公の妹。シーグヴァイラの叔母でもあるので当然のようにキリッとした感じの美女であり、ついでに『時間』使いでもある。なので……怒らせると俺のタイムスケジュールがぐちゃぐちゃにされてしまうかもしれないヒトだ。

 アガレス家怖いよ。さすが第二位の家柄。

 正直なところ、自分も持っている消滅魔力のバアル家の方が権威を別にすれば怖くないぐらいだ。『時間』を滅ぼせるようになれば問題ないが。

 ラティアを眷属にして、『時間』特性を扱えるようになれば……あるいは出来るようになるかもしれないな。時間の消滅なんてことも。

『時を滅ぼす』とは、なんとも哲学的だなぁ。

 ま、今考えることじゃないか。

 

「物の言い方がラティアに似ているねぇ~。いや~、実はキミの影響なのかな……?」

 

 ラティアパパはディオドラとアジュカさまの兄弟なので、顔の造作はふたりに結構似ている。

 心の中身とは別に個人ごとに独特の雰囲気を持つアスタロト家らしく、こんな場面でもかる~い雰囲気だ。そのせいで顔自体は似ているのにあまり兄弟っぽく思えない。

 

 妖しく企んでいそうなアジュカさま。

 優しく穏やかそうなディオドラ。

 明るく軽そうなラティアパパ。

 そして、キツくて冷たそうなラティア。

 

 うーん、この何とも言えない配置。ラティアとディオドラの雰囲気交換してあげてよって気がしてくる。

 でもまぁ、ラティアの雰囲気が違っていたら俺との付き合い方も変わっていただろうしな。

 何にしても、全員見た目と言動から内心が推し量れない。付き合いが浅ければ雰囲気に騙される。ある程度分かってくると心情が読めなくて困惑する。親交がぐっと深まると、なんとなく理解できるようになる。

 アスタロト家はそんな感じだ。

 

 ちなみに俺はラティアに関してだけは、初対面から言いたいことがなんとなく分かった。

 今思うと、あれってグレモリーの女性特攻な魔力特性が効いていたのかもしれないな。身体が教えてくれるってヤツ。

 

「リアス……。あなたね、もう少し言い方を考えられないの?」

 

 隣の席のラティアはそう言ってこちらを睨むように見てくるが、彼女の手は俺の腿の上に置かれている。

 そこから伝わってくる声は、うん、まぁ、なんだ……照れるな。去年の夏頃、ちょうどミスラさんを連れ帰ってきた辺りから、ラティアからのスキンシップが増えた気がする。

 こんな風にペタペタと触って来たり、隣にピトッとくっ付いて来たりと。 

 

「そうは言っても、『駒』で眷属にした者を下僕呼びするのは普通だからなぁ」

 

 下僕には何をしても良いのである。そう、ナニもし放題なのである。なら、最初にそう言っておいた方がいいだろう。

 

「う~ん、ま~、いいんじゃないか? ラティアがそうしたいならさ。ただし──」

 

 と、急に顔つきを引き締めるラティアパパ。内心ビクっとしちゃうからやめて欲しいよな、急に雰囲気変えるの。ディオドラの豹変ゲス顔には慣れたけど。

 

「キミとラティアの間に子供が産まれたら、二人目まではアスタロト家にもらうから。これは、母上……アスタロト卿からの命令でね」

 

 ふむ、一応このことは事前に聞いてはいたのだが、改めて聞かされると「アスタロト家……本当にそれでいいの?」って気もしてくる。

 いや、ディオドラの養子にするってことだけど、これ、アスタロト家の後継者が俺の子供になるって話だよな。

 

「会わせてはもらえるのですよね?」

「それは構わないさ。グレモリー相手にそんなことはしない。面倒ごとになるに決まっているからね」

 

 なら、まぁ、構わないか。グレモリー家としては悪いことは無い。個人的には人質を取られているような気分にもなるが、アスタロト家にとっても大事な子になるはずだ。

 そこだけクリアしてしまえば、なんだ、悪い話ではない。というか、将来的な領地問題などを考えるとかなり旨い話だ。

 ディオドラはああいうヤツだが、ラティアとは仲がいいようだしな。結構気にかけているように見える。俺とは……ふむ、女の取り合いでもなければ大丈夫だろう。

 

「ディオドラの正妻予定の者の話は……?」

「聞いているよ。あれもなかなか……まぁ、ディオドラの気持ちは分からないでもない。ああ、教会の女がいいって意味じゃないからね~?」

 

 ラティアパパのセリフの後半は奥方に向けたものだ。でもって、そこで彼の雰囲気がゆる~い感じに戻った。

 

「分かっています。しかし、ジャンヌ・ダルクの魂を受け継いだ者とは……あの子が将来、天使に手を出さないかが心配ですね」

 

 ラティアママの予想……ありえる。

 天使で女と言えば、『天界一の美女』とか噂だけは聞くガブリエルが思い浮かぶが……。俺もそこはちょっと興味があるな。白だか金だからしい天使の翼を快楽で堕落させて真っ黒に染めるとか、そそるよなぁ……。見た目に現れる堕落指数。天使ってのはエロ種族だな。さすが人間とヤリテーって『聖書の神』から離反した堕天使の元種族だ。

 セラフォルーさんのライバルを、こう縄で吊るしてぐちゃぐちゃにとかさぁ……。

 あのドSな逸話の多い『聖書の神』に仕えているような女だ、どうせマゾに決まっているし最終的には啼いて悦ぶだろ。

 といっても、天使って基本人間界のことは教会任せで天界に引っ込んでるからな。会う機会はまずなさそうだ。

 

「リアス」

 

 そのとき、俺の腿にギッと痛みが奔った。

 

「ラティア、それ痛いから、普通に」

 

 つねられてる、つねられてる。拗ねられてる、睨まれてる。ガブリエル堕落調教……げへへって思ってたのがバレてる。

 あれか、たまにレイヴェルもしてくるが、俺って顔に出なくてもオーラに邪な感情が出ちゃってるのか? 

 まぁ、こういう反応は可愛いからいいけど。むしろドンとこいである。俺は別にマゾではないが。

 

「あらあら、仲がよろしいこと。わたくしも娘が望んでいるのでしたらかまいませんわ。……ところでリヴラクスさん」

「はい」

「貴方、『縄張り』は日本になるそうですわね?」

 

『縄張り』は我ら悪魔が人間たちの精神エネルギーを集めるための狩場だ。他所の悪魔やら神話勢力との関係でこれの用意はそこそこ面倒である。

 力の無い貧乏貴族だと結構苦労すると聞く。俺が今年から運営する予定になっている駒王町の前任者も、自身の家では用意できなかったらしい。それで、当時空いていた駒王町をグレモリー家とバアル家から借りたようだ。

 まぁ、そこでやらかしちゃったわけだが。

 

「ええ、バアル家との関係もあって日本の駒王町という場所になりました」

「ラティアも上級悪魔ですから、そろそろ『縄張り』の運営を学ぶ必要があります。ですが、貴方の眷属となるのでしたらこちらで予定していた場所では都合が悪いでしょう?」

 

 たしか、ラティアはヨーロッパ方面に縄張りを持つ予定だと聞いた覚えがある。転移を使えば移動は可能だが、俺の眷属となると……。

 ふむ、ラティアママの要求はもっともだな。

 

「分かりました。ラティアの縄張りについてはこちらで用意します」

 

 移動や運営の手間を考えると、駒王町の近辺、出来れば隣接地がいいな。数年内にはレイヴェルの分も用意しないといけないし、あのあたり一帯をまとめて頂いておくか。

 後々他にも分けることも考えると広めに確保しておいた方がいいな。まだ予定でしかないが、ソーナやイリューカの分も用意しておかねば。

 今は下級悪魔の眷属もいずれは上級悪魔になるだろうし、リュイとその眷属も今のベルフェゴール家の管理してきた縄張りを手放すことになる。

 去年まではローゼンクロイツとその眷属の分の縄張りはマモン家が用意していたが、これもグレモリーで手配する必要があったから丁度いい機会だ。

 

「話が早くて助かります。では、くれぐれもお願いしますね」

 

 駒王町は日本最大の『欲望』の集積地である東京に近い。なので、その近辺に縄張りを用意するとなるとそれなりに手間がかかる。他の悪魔に縄張りを手放してもらう必要があるからな。

 代替地を用意して、あとは金払って……まぁ、これぐらいは貴族の娘さんをもらうことに比べたら安いものだ。

 アスタロト家でも用意は可能だろうが、この程度はケチるようなことではない。

 なに、俺には金があるし、我がグレモリー家には権力があるのだ。いずれは東京都全体を地上げならぬ縄張り上げして、俺と俺の傘下眷属の縄張りにしてやろうじゃないか。

 

 東京制圧は冗談としても、日本の首都近くに現魔王と縁の深いグレモリー、シトリー、アスタロト、グラシャラボラス。『涙』で知られるフェニックスに、悪魔界でも強者と名高いロイガン・ベルフェゴールとリュディガー・ローゼンクロイツ、さらにその眷属である上級悪魔の中でも最精鋭な面々の縄張りが集中することになるわけだ。

 

 地獄のようだな。日本の神々や妖怪その他異形連中が何事かと驚きそうだ。

 

「それじゃ~、もう少し話そうか? 詳しくは後日にしても、おおまかには決めておきたいしね~」

 

 ラティアパパとの話し合いの結果、いろいろと準備もあるので正式にラティアがこちらに来るのはもう少しあとになった。

 といっても、例の『時間』制御用フィールドが完成したらそこで長期間一緒に過ごすことになるので特に問題はない。レイヴェルのように実家と行ったり来たりでもないしな。

 

「いってらっしゃ~い」

 

 ラティアの両親に見送られながら、ラクダに乗って屋敷をあとにする。向かう先はアスタロト本家の主催するパーティーの会場。お邪魔する時間は特に決まっていない。連日ぶっ続けで開いているので、適当に顔を出す感じだ。

 本家の当主ってのも大変なのだよ。俺の将来のお仕事なんだけどな! 

 

 ちなみにラティアは俺の後ろに騎乗していて、ときおり背中にむにゅっむにゅっといい感触が襲ってくる。

 あててるのよね? これ。そんなことされたら勃っちゃいそうだよ、俺。まだ街中なのにラクダの上でギンギンになってしまいそう。

 

「案外、あっさりしてたな」

「お父さまは、リアスなら……。いえ、超越者候補の『紫紅の龍帝』ならば……と言っていたわ」

 

 ラティア本人もそうだが、事前に次期当主のディオドラが話を付けておいてくれたお陰だろうか。ディオドラとアジュカさまとの仲は冷えた感じだったが、ラティアの父親とはそれなりに仲が良かったらしい。

 

「ディオドラには世話になった。ジャンヌ・ダルクの話を聞かされたときは驚いたけどな」

 

 アイツにも随分と気を回してもらったので、聖処女の誘拐だか篭絡だかにはきっちり手を貸さないといかんな。

 なんでも標的のジャンヌ・ダルクの転生者は聖剣を創造する神器『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の所有者で、教会が現在進行形でやらかしているエグい計画に関係しているとか言っていたが、暴力担当なら俺に任せろ! って感じだ。

 今回の件の礼もあるし、なんならヴァチカンを消し飛ばしてやってもいい。事前に最大ブーストしてからの不意打ちなら結界ごとぶち抜けるかもしれん。本当はそこに封印されてしまっているドライグの能力である『透過』でものせられれば完璧なんだが。

 まぁ、さすがにそれやったら戦争になるか。旧魔王の勢力もいるし……まずは堕天使滅ぼして冥界統一してからでないと天界・教会と本格的にことを構えるのは難しいな。

 魂にくっついてしまっている『赤龍帝の籠手』をどうにかしてからでないと『聖書の神』が怖い。

 

「刀身に未来を映す聖剣に、教会の者に殺される子供たちの姿が映ったのよね」

「ディオドラから聞いたところだと、そうらしいな。……失われたフィエルボワの剣の正体は神器だったと」

 

 歴史上の偉人の多くが神器持ちだったという話は、悪魔に生まれ変わってから知ったことだ。

 ジャンヌ・ダルクもそうだったということだろう。

 伝説でジャンヌの愛剣とされているフィエルボワの剣。その剣はいつの間にか無くなっていて、持ち主にどこにやったか聞いても答えなかったという話だった。

 出し入れ自由な神器ならば、そりゃまぁ捕虜になった後に探しても出てこないか。在り処は彼女の魂なのだから。

 で、その神器は転生を経ても魂に結び付いたままだったと。

 

『聖剣創造』は様々な効果を持つ聖剣を造り出すことの出来る神器だ。

 

 ジャンヌが未来視・遠隔視の能力を持つ聖剣を創造できたというのなら、軍を率いて戦を勝利に導いたという話にも納得がいく。

 ジャンヌ・ダルクは文字を書けなかったというし、農村の生まれで学もなかった。

 それでも戦争に勝てたのは敵軍の構成、攻め時が分かっていたから。いくつか予言めいた言葉を発したという逸話もある。

 

『聖書の神』から授かった『聖剣を創造する神器』を持ち、ミカエルに出会って戦いを決意した少女。なるほど、まさしく戦場の聖女だ。

 

 その結末が教会から受けた異端審問、無残な火刑というのもむごい話ではある。その上、たしかに実在する天国には何故か行けず、転生してみれば教会の暗部を見せつけられて……か。

 

 ミカエルに言われて戦って、捕虜にされたら教会の連中に寄ってたかって苛め抜かれ、最後は焼き殺された。

 で、冥界があるように天界もまた確かにあり、そこには『聖書の神』の敬虔な信徒が死後に迎えられるという天国もまた実在する。

 だというのに、生まれ変わってしまった。

 となると、ジャンヌ・ダルクは天国の住民として相応しくない人物だと他ならぬ『聖書の神』自身から魔女判定を受けたってことだ。

 そして、今生でも所有したままだった軍を勝利に導いた聖剣の力で教会を覗き見てしまったわけだ。全知を謳う『聖書の神』や、その使いであるミカエルは現在の教会の行いを許しているが、前世のジャンヌは認めなかったってことになる。

 

 伝説にあるジャンヌ・ダルクは熱心過ぎるほどの教会の信徒で、猪突猛進なほどに頑固で潔癖だったとか聞く。

 それがそんな立場になったとしたら……それはもう落ち込むだろうな。悪魔が美味しくいただけそうな精神状態になっても仕方がない。

 二十歳にもなっていない若い身空で、乙女の命を燃やし尽くしてミカエルの要請に従った結果が火刑アンド天国への入国拒絶ではな。

 まったく、ディオドラの好みの話だ。そりゃ食指が動くし、触手も伸びるってもの。

 アイツ、可哀想な娘で抜きたいヤツだから、今も頑張って堕落させようとしているのだろう。極端な者は反対の極端に転びやすいとも言うからな。神から悪魔への鞍替えもありそうだ。

 

 教会側がここまでお膳立てしてくれた超有名聖女をチンコで堕落させて、悪堕ちさせる……うーん、そそる。

 

 ……まぁ、ディオドラの嫁とり話はこれ以上考えない方が良いな。

 

 あまり考えて俺が欲しくなってしまうと困る。後ろからもちもち当ててくれる可愛い娘さんに拗ねられても大変だ。

 

「しかし、来るときも思ったが……この街は何か雰囲気が違うな」

 

 現在俺たちは城下町をラクダでポクポク進んでいるわけだが、街中の空気がグレモリーやアスタロト本家の城下、あと首都あたりとも何か違う。

 あまり分家の領地には行ったことがない俺だが、バアル領の辺境地域は知っている。ここは、あの田舎とも何かが違うんだよな。

 

「リアスでも分かるのね。貴方は鈍いから、言わなければ気付かないかと思っていたわ」

 

 さらりと見下したような言い方をするが、これがラティアの味わいである。愛でたいね。

 

「何が違うのか、そこはよく分からないけどな」

 

 なんというか、空気の感じが異なる気がする。こう、目に映る住民の数のわりに薄(・)い(・)というか。

 

「やっぱり、ここのことを知っていて、それで寄り付かなかったというわけではなかったのね」

「いや、知らないが、何かあるのか?」

「貴方は純血主義者を気取っているでしょう」

 

 純血主義。ものすごく簡単に言うと、悪魔は悪魔同士で子供を作るのが一番良いって考え方だ。

 俺はこの考えにはおおむね賛成している。少なくとも貴族についてはそうだ。

 

「気取っているわけではなくて、普通にその方が有用……。強くなれると思っているだけだ。悪魔の社会は魔力の運用で成り立っているからな」

 

 悪魔とそれ以外の種族とで血が混じった場合、生まれてくる子供の魔力は片親の悪魔のそれよりも基本的には落ちる。

 魔力量が上下関係に影響するのが悪魔の世の中。魔力は多い方が良いに決まっている。

 生活全般も魔力頼りだしな。

 移動だけでも、サイラオーグのように放出できる魔力が極端に少ないと転移魔方陣が使えなくなってしまったりする。下級悪魔の子供ですら使えるものが、だ。

 貴族階級、上級悪魔ともなれば領地をもつことになるので、領内全域に影響を与える大規模な術式を扱う必要も出てくる。

 

「魔王さま方のように月や太陽とまではいかなくても……。ああ……もしかして、ここの連中は魔力が少ないのか?」

 

 俺は自分の魔力量が多いので、平民クラスの魔力量の違いなんてものはよく分からない。太平洋と比べると、池も湖も大差ないような感じだ。

 

「ここの住民のほとんどは雑種なのよ。人間との混じり者が多いけれど、他の種族との間に生まれた者もそれなりにいるわ」

「混血か」

 

 半人半魔。悪魔と(多くの場合)人間のハーフ。悪魔と他種族が交わって生まれてくる者たち。

『悪魔の駒』で転生した眷属悪魔とコイツらは違う。

 純血の貴族悪魔が人間に手を出して生まれた場合はともかく、平民悪魔と人間との間に生まれた者は悪魔社会の最底辺だ。悪魔の血が完全に目覚めたとしても平民クラスの力しかなく、大概は平民以下の魔力しか持たないからな。

 いっそ魔力を全くもたない別種族ならばまだ扱いが違うだろうに、下手に僅かな魔力があるせいで同種の最下層扱いだ。

 

「そう、人間界ではまともに暮らしていけない。そして、冥界でも見下される存在よ」

 

 放置される混血は、ほとんどの場合において男親が悪魔である。そして男親の悪魔は子の面倒をみずに人間界に置き去りにするのが大半だ。女悪魔と違って、自分の腹から出てくるわけでもないしな。

 いつぞやゼクラムの祖父さんも言っていたが、悪魔にとっての人間とは「一時の戯れ」に付き合う存在なのだ。

 でもって、悪魔の活動地域には教会の影響も及んでいることがほとんどなので……見つかると殺されてしまう。

 

「混血を集めたのか」

「お父さまの政策よ。本家から独立して、この領地の経営を始めた頃から続けているみたいね」

 

 ディオドラのように『駒』を使って転生させたわけでもない人間の女を屋敷に囲い込んでいるのは、実は稀だったりする。そもそも中級以下の悪魔は『悪魔の駒』自体を持っていないが。

 寿命が違い過ぎるし、特殊な訓練を積んでいない人間は冥界の環境下ではそう長く生きられないので置いてくるしかないってこともあるか。

 ま、それでも欲望に従って手を出して、無責任な中出しを決めてしまうのが悪魔が悪魔たるところでもある。

 

「それはまた奇特だな。あー、もしかしてディオドラの子供が居たりするのか?」

 

 それこそディオドラはたくさん作りそうだ。というか、もう混血の子供が何人かいそうである。転生者を含む悪魔同士よりもずっと生まれやすいと聞くからな。

 

「まだいないわ」

 

 そのうち来そう、と。

 俺は出来る限り人間と子供を作らないように気を付けたいと思っているが、もしデキちゃったらここに連れてこようかな。

 同じ混血同士で集まっているのなら、気が楽かもしれん。

 まぁ、俺やディオドラのような純血の貴族悪魔の子供だと、混血でも平民よりずっと上の魔力量になるだろうけど。

 

「もしかして、ローゼンクロイツの子供のような神器持ちを探しているとかか?」

 

 混血で神器持ちだと、上級悪魔が眷属とするには最適だったりする。元の種族が純粋な人間の場合より強くなることが多いからな。

 

「それもあるのでしょうけれど、お父さまの考えは別のところよ」

 

 ふむ、わざわざ最下層の混血を集めて領民にする理由か。

 ラティアパパは掴みどころのない感じだったが、こんなことをするからには何かしらの利があるはずだ。慈善事業ってことはないだろう。

 

「悪魔だからなぁ……」

 

 俺がそう呟くと、後ろからラティアがぎゅっと強く抱き着いてきた。

 まだ成長途中だというのに、すでに巨乳枠を超えかけているラティアの乳が俺の背中でぐにゅり。この乳圧、朱乃に匹敵する! 

 

 そして、俺たちのこの姿を見ている街行く混血領民たちの目線。

 

 コイツら俺の姿を視界に入れると怯えた風になるのに、後ろに乗っているラティアに気付くとホッとした顔をしやがる。

 まぁ、コイツらからするとラティアは安住の地を与えてくれた慈悲深い領主のお嬢さまってことになるからな。慕われそうではあるか。俺の下は盛り上がりそうだが。

 このままでは、欲棒が充填されてしまう。 

 

「ああ……。なぁ、ラティア」

「なにかしら?」

 

 ちょいと指を振って、会話を悟られないようにしている術式の確認。

 

「こいつらから『欲望』は獲れるのか?」

「人間と同程度よ」

 

 はー、なるほどな。そういうことか。

 

「アスタロトの義父上は、やり手だな」

 

 半分人間だから、こいつらから『欲望』エネルギーを収集できるのか。でもって、半分悪魔だから冥界にも適応できる。

 領地と縄張りを兼ねるわけだ。しかも、教会の戦士とかが居ない冥界での安全な運営。

 領主は領民から感謝と税金と『欲望』を、領民は領主の保護の下で危険な人間界や蔑まれる他の悪魔領とは違う穏やかな暮らしを得られる。

 実に良い取引のように思えるな。

 俺は前世でわりと黒い感じの創作世界も嗜んでいたから、一瞬、牧場とかそんな言葉が思い浮かんでしまったが……。

 まぁ、深くは突っ込むまい。誰も得をしないだろうから。

 

「悪魔たるもの、何事も利益を出してこそか。勉強になる」

 

 ソーナが平民に入れ込むように、ラティアの父親も混血の状況をどうにかしたいと思っただけかもしれない。

 だが、それで自分が損をし続けるようではいけないってことだな。施すだけでは長くは続かない。個人の趣味ではなく、御家の事業にするのなら利益を出さねばならん。

 

 領地経営もいろいろとあるものだ。グレモリー本家の領地では難しいだろうが。

 純血主義というものはなかなかに根強く、そして理もあり、そういった心情になるのも分かるのだから。

 こういうことが出来るのは、ご先祖さま方からあまり煩く言われない分家の強みってヤツだな。

 

 

 股間を気にしつつ、ようよう城下町の門を出た。ここからは転移系の術式を阻害する結界がないので、パッと跳んでいける。

 グレモリー本家の結界なら仕様が分かっているので気にしないが、他人様の領地で結界ぶち抜いて転移とか失礼過ぎる。ラティアはラクダに乗ってみたそうな様子だったし。

 

「なあ、ラティア」

「なにかしら?」

「どうしてさっきから……そんなにくっ付いてくるんだ」

 

 いや、嬉しいけどさ。周りの目とかあるし。こそっと目立たないよう邪魔しないようについて来ている護衛連中とか、絶対俺の下半身の事情に気付いてるだろ。

 

「リアスも雑種だからよ。いえ、それよりも酷いわね」

「まぁ、俺って魂は人間のものだからな」

 

 なんだか分からんが、どうも心配してくれているらしい。

 俺って雑種と言えば雑種なんだよな。身体は純血悪魔、魂は人間、おまけにドラゴン系神器の頂点の一つの影響を多大に受けている。

 ついでに、禁手化すると眷属の翼まで出るからキメラのようになる始末。派手で分かりやすいから、これはこれでアリだと思ってはいるのだが。

 

「悪魔なら」

「ん?」

「悪魔だったら」

「うん?」

「昔の貴方はこんな風には言わなかった。でも、今はよくそう言っている」

「そうだったかな?」

「ええ、『赤龍帝の籠手』のことがあるまでは……。バアル家で、ゼクラムさまに何か言われたの?」

 

 とりあえず、ラティアが真剣な様子なのでそのままラクダを道なりに歩ませる。

 後ろから抱き着いてきている彼女の体温が伝わって来て、ぽわぽわしてくるな。

 しかし──

 

「なぜ急にそんなことを?」

 

 俺が祖父さんから教育を受け始めたのは、『赤龍帝の籠手』が初めて顕現して騒ぎになった頃のこと。もう何年も前からだ。

 

「リアスの『騎士』になるからよ。昨日までは、わたくしには関係のないことだから聞かなかった。でも、これからは違う。そうでしょう?」

 

 主と眷属は一蓮托生。いざ『騎士』になるというときになれば、これまで気になっていたことを訊ねてくるのはおかしくない。

 俺はあまり賢くないから、今後も何かあれば助言や質問が欲しいものだ。

 

「そうだな」

 

 しかし、どうだったかなぁ。『赤龍帝の籠手』が出て、ゼクラム祖父さんのところで教育受ける前か……。兄上つっよ! これは媚びでも売っておくかーとか考えていただけのような気がするが。

 まぁ、今のようにいちいち悪魔らしくしようとは考えていなかったかもしれない。あまり覚えていないけれど。

 

「小さい頃の話だからな」

「リアスは生まれた頃には前世の記憶があったはずよ」 

 

 俺の前世ブーストが一番輝いていた頃だ。生まれたときには自我がはっきりしていたから、普通の子より上だと思っていた時期だな。

 今ではいろいろな面でレイヴェルに勝てないと思い知らされている有様だが。神童も大人になったらただの人みたいな感じ。特に社交性。

 

「うーん、なんだろうな。ただ、俺は祖父さん……ゼクラムさまに感謝している。あのヒトが教育を引き受けてくれたおかげで、俺は今を気兼ねなく過ごせているからな」

 

 あの当時、父上たちと祖父さんの間でどういうやり取りがあったのかは知らない。

 分かっているのは、祖父さんが俺に悪魔社会の物事を教えることになったこと。

 それから、魂はともかくこの身体に流れている血は純血悪魔のものだと言ってくれたってことだ。

 

 バアル大王家の始祖の言葉。そこにある権威は大きい。

 

 あれがあったから、俺は純血主義者たちからイジメられずに済んでいるワケだ。そうじゃなかったら、今頃は嫌になって冥界を飛び出していたかもしれない。

 それこそ、「ここ居心地悪いから朱乃と駆け落ちするわ」みたいな感じで。

 もしくは、タンニーン殿の三男のように暴れまわっていたかもしれない。

 自分よりも弱いヤツに見下されるとカチンとくるのは、人間だろうが悪魔だろうが同じだ。ハッキリと言われるよりも、相手の態度に小馬鹿にした感じがにじんでいる方がイラッとくるってのはあると思う。

 まぁ、元竜王の転生悪魔タンニーン殿とドラゴンとの間に生まれた、悪魔でドラゴンなボーヴァ・タンニーンの心の内など俺の知ったことではないが。オスだし。

 

「そう」

「バアルの叔父上とは仲が悪いが、雑種どうこうと言われた覚えはないな」

「なら、どうしてなのかしら?」

 

 悪魔だったら。悪魔なら。悪魔たる者。

 別に周囲からどうこう言われているわけでもないのに、そう考えている理由を知りたいってことか。

 

「なんだろうな……父上も母上も悪魔で、周りの皆も悪魔。だからじゃないのか? 悪魔らしくありたいと思うのは」

「リアス、貴方は人間よ。少なくともその魂は、どんなに似せようとしても純粋な悪魔のそれにはならない。『悪魔の駒』で転生した者よりも劣っているわ」

 

 これラティアだからいいけど、他の誰かからだったらカツーンと頭に来るだろうな。転生悪魔よりも劣っているとか言われたら。

 ラティアはいつもこんな調子なので構わないのだが。別に貶しているわけでもないようだし。

 

「そっか」

「そして、貴方を眷属に出来るような悪魔はいない。ルシファーさまやベルゼブブさまのような超越者が、変異の『女王』かあるいは変異の『戦車』を二駒用いない限り無理でしょうね。いえ、それでも難しいかもしれないわ」

「超越者クラスの魔力に、既に亜種の禁手化している神滅具『赤龍帝の籠手』だからな。もっとも、俺は誰かの眷属になるつもりはないが」

 

 俺はコストがとても重いのだ。

 それに、俺の禁手は『王』であることを前提としたものだから他者の下僕にはなれないな。反映させているイメージが崩れてしまう。

 

「『女王』のレイヴェルは龍の気質との相性はいいのでしょうね。でもだからこそ、貴方は急ぎ過ぎてしまいそう」

 

 嫌っているわけではないが、否定的な感情。レイヴェルに対するそんな想いがラティアから伝わってくる。 

 

「ラティア?」

「怒らないで聞いてくれる? 貴方の魂は、人間のまま。純血でさえ数千年、転生者の中にはまだ千年も越えていないのに精神だけが老い衰えて、生きた屍のようになってしまう者もいる」

「それは……知っている」

 

 純血の悪魔でも、その生が何千年かを過ぎると生きていることに飽きてしまうのだという。転生悪魔にそれが訪れるのはもっと早く、『悪魔の駒』が製作されてからまだ数百年だというのに既に気力と活力の枯れてしまった者もいるらしい。

 そういった者は、人間出身が大半で、一生の目標を素早く達成してしまった成功者に多いと聞く。

 

「貴方の『女王』が司るものは、風と火と命。あの子はリアスの生を疾(はや)く激しくさせるわ。わたくしは、まだ千年どころか二十年も生きていないけれど、今の貴方は悠(・)久(・)を(・)生(・)き(・)る(・)悪(・)魔(・)と(・)し(・)て(・)は(・)急ぎ過ぎているように思えて仕方がないのよ」

 

 バサリと音が聞こえた。ラティアが翼を広げたらしい。

 黒い翼が俺の視界を覆った。後頭部が彼女の双丘の柔らかに弾む感触に沈んだ。

 

「契約よ。眷属として、貴方の『騎士』として、わたくしの命と魂とを捧げましょう。その代わり、わたくしは貴方の『寿命』をいただくわ」

 

 パーティードレス姿のラティアの腕が、俺の顔に両側から巻き付いてくる。紫色の長手袋とドレスの袖と、二つの間から僅かに見える白く滑らかな素肌。

 何の匂いだろうか。ラティアの香りに頭の全部が包まれている。

 

「寿命とは穏やかじゃないな。ところで……これ、何の匂いなんだ?」

「龍角香よ。年経た龍の角を、長い間寝かせて作るの。それなりに有名なものなのだから知っておいた方がいいわね」

「死んだ龍の角か。だから硬くて冷たい感じがするのかな」

 

 服装の好みはキツい印象を与えるもので、表情も厳しいことが多い。香りの選択には、甘さも華やかさも柔らかさもない。

 俺は女の表情が好きだ。怒り、笑い、拗ねて、蕩けてと……その時々で印象を変える瞳の色合いがたまらないのだ。

 

「それで、答えてはくれないのかしら?」

 

 ラティアにはそういうものがない。瞳は綺麗だが、いつも仏頂面だ。

 声は突き放すような響きがあるし、言葉にも棘があることが多い。

 

「ラクダに乗ったままっていうのもあれだ」

 

 だが、そこがいい! 

 その部分だけ切り取ると嫌われているようにしか思えないのに、実際の行動はデレッデレというこの感覚! 

 ラティアの身体から伝わってくるこの想い。恐ろしく癖になる! 

 

 こっちは下僕になれ、これからの悪魔生を全部寄こせと言っているのに、『寿命』程度でいいなんてさ。

 しかも、どうやらそれも俺のために言ってくれているらしい。

 

 ああーっ! もう抱きしめたいなぁ! 

 

 だが、ここは城門から出てさほど進んでいない道のど真ん中。こんなことをしていると忘れてしまいそうだが、アスタロト家の分家の田舎領地ではあるが、その中心都市なのでヒトの往来はかなりある。

 ラティアはそのあたりがまったく気にならないくらい盛り上がってしまっているようだが、俺は独占欲が強いので彼女のこういった姿を他人に見せたくないのだ。

 

「上に行くぞ。そのまま抱き着いていろ」

 

 ラクダ──使い魔のゴポリン2世──の足元に魔方陣を浮かび上がらせ、普段の居場所に送り還す。

 

「ちょっと、リアス」

 

 重力に引かれて地面に足がついたところで、俺は上空へと向かって跳び上がった。

 翼を広げなくても悪魔は空を飛べる。身体に対する大きさからも明らかだが、悪魔や龍などは羽ばたくことで飛翔しているわけではない。

 異形の翼は飛行術式の補助器官のようなものに過ぎないので、魔力が十分にあれば翼の展開は必須ではないのだ。

 そのまま飛んで、上空何キロか。地上の人影が判別つかなくなったところで身体を捻ってラティアを抱きしめた。

 毛先だけ青みがかった彼女の長い金の髪が、風で散らばらないように抑え込む。

 

「目を閉じるんだ」

 

 しばらく指先で金糸の感触を、腕と身体で細くも豊かで柔らかな肢体を堪能してから、彼女の頬を軽く撫でるようにして手を添える。

 

「リアス……」

 

 彼女の切れ長の瞳がそっと閉じる。

 冷たい口調と違って、ラティアは唇は情熱的だった。

 

 

 

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