優香による、拓哉から花奈への精吸を提案してから一週間が経過した頃。
「花奈?」
それは学校からの帰り道で二人の家が見えてきた辺りだ。
新実家の玄関先で、花奈が立っている姿があった。
「……おかえり」
「ただいま。それで、何してんの?」
姉の問いかけに、花奈は「お姉ちゃん達が帰ってくるのを待ってたの」と答える。
拓哉と優香の二人は、彼女の様子からこの間の提案に対する返答が決まったのだろうと察した。
「拓哉お兄ちゃん、明日のお休みって予定空いてる?」
花奈は真っ直ぐな目で拓哉を見る。
「――うん、空いてるよ」
当然それに彼も応える。
二人の様子を見ていた優香としても、花奈が提案に乗ってくれた事にほっと胸を撫で下ろしていた。
「お姉ちゃんも時間ある?」
「空いてるけど……何、私も一緒の方がいいの?」
まさか優香も自分に聞かれるとは思っていなかった為に、困惑の表情を見せる。
「私、初めてだからどうなるか分かんないし……」
不安気な様子の妹にこう言われては、優香も放っておく事は当然ながら出来ない。
「万が一にも暴走しちゃう可能性もあるか……。分かったわよ」
溜息を
「それで、どうする? 拓哉の家でヤる?」
「なんで
「別にいいじゃん。いつもヤってんだし」
拓哉はジトリと優香を見る。
「私も、その……拓哉お兄ちゃんの部屋がいい……」
ダメかな? と言うように拓哉へ視線を送る花奈。
彼としてもその方が安心出来るなら、それでいいだろうと考えていたので自分の部屋でする事に問題はない。それを優香が提案した、という方が
「……分かったよ」
だが、観念した拓哉はそれを受け入れる。
「良かった……。そ、それじゃあ拓哉お兄ちゃん……また明日っ!」
花奈はそう言って先に自宅へと駆け込んでいった。
「じゃ、そういう訳だから、明日はよろしくね」
優香も涼しい表情でそう告げると、妹の後に続いて家へと入っていく。
一人残された拓哉は、明日に備えて今日は早く寝る事を決めるのだった。
× × ×
その夜の新実家――優香の部屋。
「お姉ちゃん、今いい?」
パジャマ姿の花奈が訪ねてきた。
「どうしたの?」
「ちょっとお姉ちゃんと話がしたくて」
そう口にする妹の真剣な表情を見て、優香は「いいよ」と言って応じる。
「でも、明日の事もあるしあんまり長くは出来ないからね」
「分かってるって」
「とりあえず、こっちで一緒に座ろっか」
優香は自分のベッドへと花奈を誘う。
彼女が腰を下ろしたところで、優香の方から口を開いた。
「それで話ってのは?」
花奈は何から話すかを少し考えて、率直にこの前の事を聞こうと思った。
「お姉ちゃんはいいの? 私が拓哉お兄ちゃんと……その、えっちするの」
「いいよ」
あっさりと答える優香に、思わず花奈は面食らう。
「なんで……」
「なんでって、花奈の為だからだよ」
拓哉からの精吸を提案した時もそうだったが、姉は嫌そうな表情を一切見せず口にしている。
それでも、まさかここまで簡単に返されるとは思ってもいなかったが。
「でもお姉ちゃんは彼女なんだし……普通は嫌じゃない?」
「まぁ
「それなのにどうして……?」
「花奈が大切な家族だからに決まってるじゃん」
優しく微笑む優香。
「花奈は私と違ってサキュバスの血より人間の血の方が濃いけど、それでもいつ消えちゃうか分かんないんだから、拓哉が私の彼氏だからって理由で独占はしないよ」
サキュバスと人間のハーフ。一口にそう言っても、二人はそれぞれに種族としての血の濃さに差がある。
優香はサキュバスである母――佳奈の血を濃く引き継ぎ、サキュバスとしての力もそれなりに強い。初めて覚醒した際に暴走を引き起こしたのも、それが原因と言ってもいい。
一方で、妹の花奈は人間である誠司の血が濃かった。優香のようにサキュバスの力は強く出ず、覚醒した時から今まで暴走もしなかったのはそれが理由である。
それでもサキュバスとして覚醒した以上、このまま精吸をしなければ存在が消滅してしまうかもしれない可能性はある。それを防ぐ為にも、優香は拓哉からの精吸を提案したのだと、彼女は言う。
「拓哉も協力するって言ってたんだし」
その言葉に花奈は静かに頷く。
「それに、これは花奈にとってもいい話なんじゃないの~?」
「な、何が?」
突然そんなことを言われて動揺した花奈の様子に優香はニヤリと笑う。
「そんなの一つしかないでしょ。拓哉のことを好きなのは分かってるんだから」
「っ……!?」
優香の指摘は図星だった。
花奈に好きな人がいないのかと聞いた時、彼女が拓哉に視線を向けたのを見逃さなかった優香。
姉としては、それ以前――小さい頃から花奈も彼のことが好きなのだろうというのは薄々感じていた。
それがあの瞬間に確信となった事で、優香は心置きなく拓哉との行為を提案していた。
「あ、別に怒ってないし隠さなくてもいいよ。そうじゃなきゃ拓哉とヤれなんて言わないし」
ケラケラと優香が笑う。
「お姉ちゃんはそうかもしれないけど……」
「だから拓哉とのエッチを楽しめとは言わないけど、もう少し気楽に考えてもいいんじゃない?」
「気楽にって……」
姉の言い草に花奈は思わず呆れてしまうが、それでも優香が言いたい事もなんとなく理解はしていた。
「これから先、拓哉から精吸し続けるんだから『好きな人に抱かれてラッキー♪』ぐらいに考えとかないと」
「その言い方もどうなの……」
ともかく花奈は、この先の事を多少は前向きに受け止める気になった。
「――よし!」
勢いよく立ち上がった彼女は自分の部屋に戻ることにした。
「もういいの?」
「うん。ありがと」
決意を固めた妹の表情はスッキリとしたものだ。それを見た優香も「それなら良かった」と返す。
「おやすみ、お姉ちゃん」
「うん、おやすみ~」
そのまま部屋を出るかという瞬間、花奈が振り返ったかと思えば、さっきのお返しとばかりにニヤリと悪い笑みを浮かべては――
「でもそう言うことなら、私が拓哉お兄ちゃんにアタックしても別にいいって事だよね?」
と口にして、軽い足取りで姉の部屋を後にした。
「……ん?」
一瞬のことで理解が追い付かなかった優香は、しばらくしてから「アイツは私の彼氏だから! そこは譲れないから!!」と既にいない花奈の背中に叫んだ。