S&Mシリーズ 探偵の真似事の代償 失恋というには 作:木桜 春雨
「見合いをする気はないかい、萌絵」
叔父の言葉にすぐには返事ができずしばらく考えていた後、西之園萌絵は頷いた。
そうか、だったらと話を進める叔父の顔は、安心したようなほっとした顔で、これでいいのよと萌絵は窓の外を見た。
半年が過ぎた、あっという間だと思いながら自分は、これで前に進むことができると思っていた。
犀川創平、自分の婚約者だった人は突然、大学を辞めて外国に行ってからというものしばらくは何も手につかなかった。
あの日、佐々木睦子から見せられた紙、そこに自分の名前を書く筈だった、だが、破きなさいと言われて自分はできなかった。
あのときの睦子の視線、自分を見る目は、今でも思い出すとてもなんともいえない気持ちになってしまう。
探偵の真似事をして危険な目に遭っても先生が助けてくれる、そのことに甘えていたのだろうか。
犯人が捕まったことに安堵したが、後になって知った事実、関係者が先生の知人だったことに驚いた。
謝ろうとしたが、いいよと言われてしまって、それで終わりになってしまった。
今までにも同じことがあり、自分としては、その繰り返しで、いつものことだと思っていた。。
「反省して、おとなしくするの」
叔母の言葉を思い出すと正直、素直にはいと答えられない、以前なら、すぐに出せる答えの筈だった、なのに、今はどうだろう。
自分と先生は将来、結婚するというのは皆が知っている事で結婚するものと思われていた、その為、大学を辞めたという事実に周りは驚いたものだ。
だが、一部では否定するような意見もあった。
偶然にも、そのことを知ってしまったせいで見合いをする気になったのかもしれない。
「先生も、正直、ほっとしているんじゃない」
「まあ、傍から見ていて、可哀想だよな、あれは」
それは偶然、聞いてしまった学生たちの会話だった。
誰のこと、可哀想というのは婚約をなかったことにされた自分のことだろうか、いや、もしかして先生のこと、自分と先生の関係を知らない第三者が何も知らないくせにと思ってしまった。
「自覚があろうとなかろうと大変だよ、恋人同士なら尚更だ」
「そうだね、当たり前って思っているんだろうね」
気づかれないように、その場を離れて気持ちを落ち着かせた後、訪ねたのは叔母の自宅だった。
少し驚いた顔で迎えてくれて、出された珈琲を飲んでいる萌絵は、しばらくは来ないと思っていたのよと言われて、えっとなった。
「今だから言うわ、私はね、これは当然の結果だと思っているの」
まるで小さな子供に言い聞かせるような口調だ、しかし、その言葉と声は少しずつ変わっていく。
どうして今、そんなことを自分にと思ってしまう。
「萌絵、あなたにとって先生は、どういう存在なのかしら」
以前ならはっきりといえたはずの言葉が、すぐには出てこない。
「最初は恩師の娘だから、そう思って接してくれているなんて思ってたんでしょう、でもね、時間がたつうちに変わっていく、正直、あなたが探偵の真似事を初めてから」
見ていられなかったと言われて思い出したのは校内で自分のことを噂していた人たちの言葉だ。
「あなたのお見合いのことだけど、とても喜んでいたわ」
誰がと口を開きかけた瞬間、決まっているでしょう、先生よと言われて驚いた。
どうして、自分の知らないところで先生と連絡を取っていたのかと聞くと、萌絵と強い口調で呼ばれた。
「私が、そうしてほしいと頼んだからです、でもね、先に話をしてきたのは先生からです」
説明してください、叔母様、だが、その言葉を聞く必要はないといわんばかりに睦子は席を立った。
先生はあえて出てきません。