団長とトレーニング!【オルタナティブ】 作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)
とろけるような、まどろむような。気が遠くなるほどの長い時間をかけて、絶頂の余韻から醒めていく。
テントの外から離れた調理場から、肉が焼ける良い匂いが立ち込め始めた頃。我に返ったノエルと青年はいそいそと後片付けを始め、少し気まずい雰囲気の中で日常生活へと戻った。
「あの……今日のこと、言わん事だからね……?」
「だ、誰にも言うワケないじゃないですか……!? 羨望の目で見られた後にボッコボコにされますよ!!」
「あははっ……そりゃそーだ……♪ また隙を見て――はぅ、んっ……♡」
「っ……!? だ、団長、どうしたんですか……!? そんなエッチな声を出すなんて……まだ、物足りなかったですか……!?」
「あ、や、違うから……! あの……あなたの、せーえきがな……? ちょっと、下着に……んっ……♡ た、垂れてきちゃって……♡」
ノエルがもじもじと足踏みをして、テントの隅に移動してから粗相の始末をする。
かすかに漂った栗の花のニオイが、先ほどまでの熱い情事を思い出させて――ノエルの頬を薄赤に彩った。
悩ましげに揺れるお尻と美しい太ももを見ながら、青年はドギマギとすることしかできない。『手伝いましょうか?』などと言って気を使ってしまえば、それこそ団員から私刑に処される事案となってしまうだろう。
「……すみません……避妊とか、全然考えてなくて……」
「あー、だいじょぶだいじょぶ! 団長、そういうことはちゃんと考えとるし……あなたの子なら、授かってもいいかなー……なんて……♪」
横顔を見せて、舌をチラリと覗かせる。小悪魔的な微笑みは、青年の中で燃え盛る愛に燃料をくべた。
ノエルのおかげで『好き』を貫く決意ができた青年は、もう一つの好意を叶えるために口を開く。
「団長……俺、どうやったら強くなれますか……?」
「え? まー、そりゃあ、毎日訓練するしかないと思うけど……あなたはそういう、ありきたりなことを聞きたいワケじゃない……よね?」
青年の力強い首肯に、困ったように頬を掻いたノエルが「そういえば!」とあることを思い出した。
「うふふっ♪ じゃあ、ヒトが一番強くなれる『呪い』を教えてあげよっか?」
「……呪い、ですか?」
「そ、そ。とっても効果的なんだけど、一度かかったらなかなか抜け出せないもの……禁断の魔法ってヤツがな、この世界には一つだけあるんよ」
「……教えてください……! 俺、もっと強くなりたいんです……!」
「それはいいけど……どうして、そんなに強さを求めるの?」
「……団長の隣に立っても、恥ずかしくないぐらいの男になりたいからです!! そうすれば……俺が夢見た理想は、全部叶うはずですから……!」
「ん♪ そっか、そっか……♪ ホントに、真面目な子なんだから……ぅふへへっ……♪」
自分の中にある恋を捨てず、最期まで愛を貫く覚悟ができている。そんな青年の心の強さを確信できたノエルが、ちょいちょいと手招きをする。
「……それじゃ、今から呪いをかけるから。後悔しても遅いよ?」
「大丈夫です。この気持ちを強く持てるなら、なんだって――ぅむっ……!?」
「んっ……♪ ちゅ、むっ……ん、んっ……♪」
ノエルは青年の背を抱き、愛しさを手に込めながらキスを交わす。少しだけかさついた相手の唇を、自分の潤いで満たすように食み合わせて愛を重ねた。
ゆっくり、たっぷりと。乳房を押し付け、髪を揺らして、その奥にある心を奪うほどにいじらしく。
周囲の声が聞こえなくなるぐらいに没頭したキスは、数分間か、数十分か、経った時間がわからなくなるほどに濃密な愛を育んでいた。
「ぷぁ……はぁっ……♪ ふへへ……貴重な団長のちゅーを貰って、気分はどう……?」
「いや、もう、最高としか言いようがないですけど……! えっと……もしかして、今のが……?」
「うん、そうだよ。今のがな、団長のファーストキスで……これから一生、団長のことだけを考えちゃう『呪い』っちゅうヤツなんよ」
「……なんちゃって、な♪」とイタズラに笑ったノエルに、青年は呆けるばかりだった。
いまいちピンと来てなさそうな顔に苦笑しながら、ノエルは優しく目を細めて青年の手を取る。
思わせぶりな愛情表現ではなくて、もっとシンプルに、その人に強さを求める『理由』を与えることにした。
「さっきのキスは、先払いのお礼みたいなものでさ……。その見返りとして……大好きなあなたに……一番近くで、『私』を守ってほしいんよ」
ノエルがはにかみながら微笑んで、若々しい女の子らしく肩の荷を下ろした。
「へへ……♪ あなたにはな、これから……ただ闇雲に強さを求めるだけじゃなくって……私のために、世界で一番強くなってほしいんだ」
それはまるで、ふわりと開いた花びらが風に揺れた瞬間のように――素朴で、可憐で、ただひたすらに可愛らしい笑みだった。
そこまでハッキリと言われて、ようやく『誓い』の気配に気づいた青年が心を引き締める。
「……このお願いをするのは、人生の内に一人だけって思ってたんだけど……今日、やっと相手を決めることができた。あとは、あなたの気持ち次第、かな?」
「…………団長……」
『俺なんかでいいんですか』。そんな弱音を、燃え滾る愛が押し潰す。
ただの名無しの団員ではなく、一人の男として――憧れの団長ではなく、白銀ノエルの手を強く握り返した。
「一応お断りしておくと……団長があなたにあげられそうなものは、さっきので全部だよ。それでも、あなたは……ただの私を……好いたままで、いてくれますか?」
「……はい。男として、一生を懸けて貴女のために尽くします――騎士として、貴女のことを守り続けると――誓います」
「……ありがとう……! これから……末永く、よろしくね……♪」
抱きついてきたノエルを受け止め、熱いキスの雨に打たれてどうしようもなく頬が緩む。
『強くなりたい』ではなく、『強くならなければいけなくなった』。
そんな重い宿命を――文字通りの『呪い』を背負わされたというのに、青年の心と表情は、その先の未来のように明るいものだった。
頭痛が酷いので寝ます。
夜にエピローグ投稿できるように頑張っときます。