(2021/09/30追記)
投稿時点では次話まで含めて一話で投稿していましたが、9000文字はこれまでと比較して多すぎるかと思ったので分割しました。分割にあたって少しだけ加筆してます。
肌を重ねた女性Aを差し置き、別の女性Bを口説く男性C――
そこへ居合わせた女性A――
閑静な住宅街、ごく普通の一軒家のリビングに、修羅場が形成される――!
………これBAD ENDどころかDEAD ENDまで行っちゃう奴だな?
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どうしようかなあ。
悟りに近い諦めが胸に満ちる。
この気分には覚えがある。あれはそう…ほぼ全てのアイテムを使い切ってボスを倒したら、別のボスがひょっこり出てきて『奴は四天王の中でも最弱…次はこの俺様が相手だ』などと抜かしてセーブ無しの二戦目に突入した時だったか。
前方のペンシルゴンは先程までの動揺が嘘のように鳴りを潜め、口元を手で抑えて神妙な表情………一見考え事でもしてるかのようだが、あれ口がニヤけてるのを隠してるわけじゃないよな?
後方の玲さん…へと振り向く前にヘルメットを取る。これから俺が何をするにしても、被り物はデバフアイテムだ。
ケッ、俺の顔くらい勝手に見やがれ。
改めて玲さんを見やる。いっそ怒っててくれたほうがまだマシですらあるが…
息が詰まった。
微動だにしない身体は、時が止まっているかのよう。
反して目はふらふらと彷徨い、口は何か言いかけて噤むのを繰り返している。
だが俺の目に留まったのはそれらじゃない。
目尻から顎へ、一筋流れた水の跡。
――玲さんは、泣いていた。
俺は、どんな感情が玲さんにその表情をさせているのかが、すぐに分からなかった。
怒りなら理解できる。
彼氏として完全にアウトな発言をした俺に対して、玲さんが怒るのは当然だ。
悲しみも納得する。
自分の彼氏がとんだクズ野郎だから。あるいはそんな奴と付き合ってしまった自分自身に。俺か、玲さん自身に悲しむのも無理はない。
今の玲さんから見える感情は、どちらでもないことだけはハッキリわかる。
だが、それが何なのかまではわからない。
だから、彼女にかける言葉もわからない。
俺の知識と経験をいくら漁っても、この状況を乗り越える手段が見つからない。ラブクロックの場合はリセット不可避の詰みシーンなので参考にならなかった。
頭の中で言葉が幾つも浮かんでは消える。緊張で喉が干上がる。
「何か言わなければ」。そう考えるほどに焦りが生まれ、焦るほどに思考がから回り、から回る間も時間が経ち、そして「何か言わなければ」が意識を占拠する。
「すみませんでした」?俺の発言が真実だと認めたことにならないか?
「誤解だ」?こういう時に誤解だって言うやつ大抵誤解じゃないんだよな。信じてもらえなければ状況は悪化する。信じてもらえる保証も無い。
「落ち着いて」?あまり冷静に過ぎると悪びれてないみたいに見られるんじゃ?
ダメだ。何を言っても上手くいく未来が見えない。
どうする?どうしよう。どうすれば上手くいく?考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ―――
そうして何も出来ないまま、タイムリミットは訪れる。
「あの、その………お邪魔、しまし、た………っ」
玲さんが踵を返し、リビングを出る。
このまま返したら、どうなる?
まず、訂正の機会は二度と訪れない。
今この場で何も言えない以上、後から何を言っても、玲さんの心には俺に対する小さな疑念の棘が残り続けるだろう。
その棘は――
平衡感覚が歪む程のショックが、俺の頭を強烈に殴りつける。
バカだ。最低だ俺は。
俺が犯した失敗の大きさ、重さを思い知る。
「待っ…!」
玲さんを追いかけなければ。強引にでも引き止めなければ。
焦燥にかられて踏み出した足が縺れる。身体が前に倒れ、反射的に伸ばした手が空を切る。
顔面を床に強かに打ち付け、痺れる痛みに全身が硬直する。
俺が無様を晒している間にも、玲さんは玄関へと走っていく。
「っぐ……!」
視界が暗がりに落ちていく。喪失の恐怖が見せる幻覚だ。惑わされるな。
まだ、
もう一度立ち上がれ。いやその前に声を上げるべきだ。
身体を起こして息を吸え。
僅かに貯めろ。
内容は重要じゃない。大声だ。とにかく玲さんの足を止めるんだ。
今――!
「玲ちゃん、さっきのはサンラク君の真っ赤なウソだよーっ!」
俺の背後から、驚くほどよく通る声が家中に響いた。
「え…?」
「は…?」
今まさに玄関を飛び出そうとしていた玲さんが足を止めて振り返る。俺も振り返る。
余裕綽々のモデル歩きで俺を跨いでリビングを出ていくペンシルゴン。
俺の耳に、声が届いた。
「寝覚め悪いからなんとかしたげる。感謝してね?」
「あ、おう……ありが…ハッ!」
あぶねえ!何ヒーロー面してやがんだ!
お前が!元凶!!だろがい!!!
そもそもお前が家凸しなければこんなことにはなってないんだよなぁ!?
「あの、天音さん……今のは、その……あ、い、いえ、どうして、ここに…?」
「んふふ、落ち着いて玲ちゃん。はい深呼吸深呼吸」
「は、はい……すーっ…はーっ……」
「…落ち着いた?」
「すこ、し…」
「じゃーまずは、私がここにいる理由からかな?玲ちゃん家に用事で来たんだけどね―――」
また無様を働かないよう気を付けて立ち上がる。
状況説明はペンシルゴンに任せよう。変にしゃしゃり出てもこじれそうだし。
しかしどうにも手持ち無沙汰で居心地が悪い。ここ俺ん家なのに…いや俺のせいだけども。
今の気持ちは
「―――という訳。サンラク君は私を部屋に入れさせたくなくて、ついあんな言い方しちゃったんだよね。まったく考えなしなんだからさぁ。あんなの彼氏にして良かったの?」
経緯の説明が終わったらしい。あと聞こえてるぞお前。
「えっと……その、確かに楽郎君は周りを顧みないで走っていく、向こう見ずなところはありますけど…」
玲さん??
「でも、それは即断即決ができる判断力があればこそだと思うので……私は、悪いとは思いません。私には出来ないことなので…。むしろ好ましいくらいです。もし何か間違えた時は、私が支えれば、良いんですから…」
玲さん…っ!くっ、優しさが目に染みる…
「むしろ、悪いのは私の方で……楽郎君が天音さんに…」
「おっと、その先は本人に直接言ってあげてね!」
そう言ってペンシルゴンは玲さんを俺の方に押し出してくる。玲さんの言いたいことが分かっているのか。俺はまだ全然なんだが。
陽が傾き始めているのか、赤みがかった陽光が差し込む廊下で、俺と玲さんが向かい合う。
上がり口でペンシルゴンが笑みを貼り付けてこっちを見てくるのが気になるが、見えないふりをしよう。
「ふえ!?え、ええと…楽郎君、あの、その…」
「えーっと…玲さんが良ければ聞かせてほしい。いやほんと察しが悪くて申し訳ない…」
「い、いえいえそんな…!…ふぅ。楽郎君が、その、『
「怖く……?」
玲さんは気まずさを紛らわそうとしているのか、指でスカートの裾をしきりに弄っている。
もう一度深呼吸して、言葉を続ける。
「天音さんは、私から見ても、とても綺麗な人ですから……その、楽郎君が
「あー……」
まぁ、玲さんにはそう見えても仕方ない…のか?
だがペンシルゴンの深淵を知ればそんな気は失せるものだ。
俺の場合はファースト・コンタクトからずっと、百年の恋も冷める邪帝っぷりをまざまざと見せつけられてきたので…
「天音さんは、楽郎君ともかなり交流があって…その、ゲーム友達ですし……気が合いますし…」
「………癪だけど、そうなるかな…?」
「ちょっと、何その不服そうな顔」
お前の普段の行いを考えてほしい。そしてそれと同列に扱われる俺がどれだけ可哀相か理解しやがれ。
お前が俺を鉄砲玉と言うのなら。『銃は人を殺さない。人が人を殺すのだ。』つまり
「だから、その……楽郎君が、私より、天音さんを、選んだらって、思、思っ……」
「ごめん玲さん!もうわかった!大丈夫!ストップストップ!」
俯いた玲さんの声色が涙混じりになってきたので慌てて止める。
ただおかげで理解できた。玲さんはあの時、俺に捨てられる事を恐れていたのか………。
なるほどそうか、と腑に落ちる。
しかしここまで言わせてようやくか…なんともまあ、忸怩たる思いだ。今後は玲さんを理解する為に、もう少し意識と時間を費やすべきだな。
別に自分の生き方を曲げる訳じゃない。俺がそうしたいと思い、そうしようとするだけだ。
玲さんの肩に手を置く。顔を上げた玲さんをじっくり観察する。
逆光で少し見づらいが――
――うん、やっぱりそうだ。
「玲さん。俺には
「ヘイユー、聞き捨てならない発言を検知したぞ~?」
今だけでいいから黙っててくれ外野。
感情による
「…なんて言っても、簡単には信じられないよな。嘘でもあんなこと口走るような奴だしな」
「そ、それは、その…」
だが、俺の言葉を玲さんが信じてくれるかはまた別の話。
ペンシルゴンが擁護してくれたとしても、前科持ちへの疑いは簡単に晴れるものではない。
触れた肩の小さな震えが、抜けきらない玲さんの恐怖を物語っている。
これを証明するのは困難を極める。悪魔の証明というやつだ。『無い』を証明することは、『有る』を証明するより遥かに難しい。不可能と言っても良いくらいに。
仮に、その方法があるとするなら。
「情けない話だけど教えてほしい。玲さんが俺を信じられるようになるために、俺は何をすればいい?玲さんに認めてもらえるなら、俺はなんだってやる」
相手が望む条件をクリアすることだけだ。
「え、えっと…」
「玲ちゃん、今だよ今!」
玲さんの背中にペンシルゴンが囃し立てる。
うげぇ、あいつ説明のついでに何か吹き込んだのか!
この期に及んでまだかき乱すのか!
鬼!悪魔!ペンシルゴン!
何が来ても応えてみせるつもりだが、内心かなり戦々恐々だ。
これで『蓬莱の玉の枝を取ってこい』とかお出しされたらどうしよう。
「う、うぅ………そ、『そんな口先だけの言葉で、私に信じさせるつもりですか』!」
思考に空白が生まれた。
ん?
どゆこと??
ここで俺怒られるの??
頭が真っ白になりかけたが、かぶりを振って空白を振り払う。
理解を諦めてはならない。この言葉には、理由と解答があるはずだ。
玲さんにしては珍しい、随分とセリフめいた…いや、実際にセリフなんじゃないか?
気づきのとっかかりに指をかけ、記憶の引き出しからその正体を手繰る。
仮にセリフだとするなら…玲さんなら、この状況で俺の知らないセリフは使うまい。
俺が由来に気付くまで、そう時間はかからなかった。
これは『オトギニア・ユニオン』の…『美女と野獣』編のセリフだ。
魔法で野獣に変えられたベルの家族を助けるために、己の体にかけられた魔法の残滓をかき集め、
まず、ベルが危険な戦いに一人で行こうとする王子を止めようとする。しかし王子は『必ず戻ります。ですのでどうか、この城から離れないでください。私は、ベルだけは醜い獣になどさせたくない…』と言って、ベルを諌める。
それを受けてベルが王子に詰め寄って言い放ったのが、玲さんが口にしたセリフ。
『そんな口先だけの言葉で、私に信じさせるつもりですか』だ。
対する王子の返答は『ならば、私の生涯で初めての誓いを捧げ、口先などではないことを示しましょう』。そしてベルと口づけをするんだったな、そうだったそうだった。
メインストーリーの中では序盤の部類だし、アニメにも使われたシーンだ。知っててもおかしくは無いか。
………。
…え、やれと仰る?今?ここで?
俺の視界にペンシルゴンがガッツリ映ってるんですけど?
ま、まぁ玲さんがそれをお望みなら……うん、恥なんざ安いもんだ。
やったらあよ!数多のクソゲーに培われた、俺のロールプレイ魂を見せてやらあよーっ!
確か動作は…えっと……オッケー思い出せる。
「…ごほん。『ならば私の生涯で初めての誓いを捧げ、口先などではないことを示しましょう』」
セリフはコレだが、俺達の場合は『
右手で玲さんの顎をつまみ、そっと顔をこちらに向ける。世間一般で言う『顎クイ』。
かーっ!なんてキザったらしい仕草!加減しろ王子!
玲さんは俺の首に両腕を回して背伸びし、向こうから顔を更に近づけてくる。
細められたその目は、俺に期待を投げかけていた。
――楽郎君なら、やってくれますよね?
眼差しが俺に問いかける。
玲さんは、俺を信じようとしている。信じたいと願い、手を差し伸べてくれている。
本当に素敵な人だ。透き通るほどにまっすぐな心根が美しい。俺にはもったいないくらいだ。
それでも、玲さんは俺を選んだ。
だったら……このくらいやってみせるのが、彼氏の務めだよな?
言葉はいらない。俺も目で伝える。
――当然。
元より至近距離。誓いの時は、瞬きの間に訪れる。
実質結婚式。尚神父が悪魔。
これがDevil's Weddingちゃんですか(書く時よく聞いてた曲)
オトギニア・ユニオン『美女と野獣』編
時系列的には美女と野獣本編の後。
王子の人気を妬み、野獣と化す魔法をかけた悪い魔法使いが、王子の幸せを壊そうとベルの家族を魔法で獣に変えてしまう。
悲しみに暮れるベルを救うべく、王子は己の中に残った魔法のかけらをかき集め、もう一度野獣となり戦いに赴く…みたいなお話。
本文で言及されたシーンの後、ベルとのキスをトリガーに愛の力でさらなるパワーアップを遂げ、体毛が白く染まった
プレイヤー操る
浮遊する12枚の鏡(姿見サイズ)は自分の周囲をオートで旋回して守る他、任意の場所に設置可能。
遠方と繋がる魔法の鏡は鏡面で受けたあらゆる攻撃を吸収し、別の鏡から発射する攻防一体のカウンター技となる。
また、鏡面を利用して王子本人をワープさせることもできる優れもの。
基本ステータスも攻撃力、防御力、機動力全てがハイスペックに纏まったソツのない構成。
ただ自発的な遠距離攻撃手段に欠け、また海外産の御伽噺なので、マルチに行けば日本産の御伽噺達にボコられて死ぬ。
空間を捻じ曲げる鏡も