※この作品はR-18です。

壊れるくらいに、離したくない   作:東雲。

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前話の文字量がそれまでと比較して多すぎと判断して二話に分割しました。
内容は分割前の下半分と完全に同じです。


誓いの後、二人は――

先週の一件が、俺達のファーストキスだった。その日のうちにもっとディープなのやったし、今日だってやった。

けれど、この時は、そのどれよりも…なんというか、純粋にドキドキした。

性欲がさせたものではなく、お互いの気持ちを確かめ合うための接吻。

互いに信じ合う、それを誓う口づけ。

 

 

実時間で二秒程度。けれど、俺達はその何十倍もの体感時間を共有した。この二秒には、そうさせるだけのものが詰まっていた。

 

 

互いに腕を緩め、距離を少しだけ空ける。自然と離れる唇。

玲さんは俺の腕に身じろぎ一つせず、強く揺るぎない熱の籠もった瞳を、一度も逸らすこと無く向けてくる。

ぱっちりとした睫毛、整った鼻筋。

上気した頬には乾いた涙の跡、濡れた唇は少し荒げた息を吐いている。

背中側から照らしこむ赤い陽光が、玲さんの顔を縁取り輝かせる。

 

俺の心拍数が否応なしに高まっていく。

 

 

この美しさは、言葉に表せるものではない。

だから目に焼き付ける。いつまでも忘れないように。

 

 

だというのに俺の口は勝手だ。言葉に表せないとわかっているのに、ひとりでに動きやがる。

「すごい、綺麗……」

語彙力ゼロか。

 

無意識にこぼれた言葉。それを聞いた玲さんが目を僅かに細めて柔らかく笑う。

美しさがもう一段階上がっちまったよ……美しさ測定器がメーター振り切って壊れちまうな。

 

「どれくらい…綺麗ですか?」

「わからない……でも、玲さんを好きになれたことが、心の底から誇らしくなった…」

俺の気持ちよりも玲さんを褒めろってんだよのこの口はよ。

 

 

「私も今、楽郎くんを好きになれて…本当に、良かったって、本当に……良かった、って……っ」

彼女の声音に涙が混じる。悲しみや恐怖から来るそれではない。

女神様が喜びに涙を流しているんだ。

 

身に余る光栄だと思う。受け止めきれる気がしない。

だが玲さんが笑ってくれるなら、他の選択肢を考えることすら烏滸がましい。

 

ついさっきのキスから、俺は玲さんに通算四回惚れ直した。

 

「玲、さん……」

「楽郎くん……」

 

声をかけると顔を上げてくれる。

溢れた雫の筋がはっきりと見える。

喜びに満ちた泣き笑いだった。

 

…五回に訂正しておこう。

 

心臓がけたたましく鼓動する。玲さんにも聞こえてしまいそうだ。

玲さんから目が離せない。玲さんしか視界に入らない。

 

もっとしたい。

この温かい口づけを、もっと。

 

 

どちらからともなく緩めた腕の力を強め、もう一度身体を引き寄せ合い―――

 

 

「はいそこまでー!!!」

「うわあ!!」

「ひゃっ!!」

 

両方の肩を掴まれ強制的にこじ開けられる。てめぇ何しやがる!

 

「ふたりともー?この私をガン無視して二人きりの世界にズブズブとはいい度胸だね??」

 

額に滲んだ汗を拭う。あーびっくりした。ペンシルゴンってばいきなり出てくるんだもんなぁ…。

「お前がそうさせたんじゃねーかよ。喜べよお望みの光景だぞ」

「ここまで!甘っっったるいのは!望んでないですぅー!頭ん中真っピンクに色ボケしちゃってさぁ!はー口から合成甘味料吐くわ!」

 

注文の多いやつだな…おっと、大事なことを忘れてた。

「えっと、玲さん…どうだろう、俺のこと、信じて、くれる…?」

 

玲さんは顔を下げ、指を唇に当ててぽーっと呆けている。

むう…その表情もまた素晴らしい(EXCELLENT)……

 

 

「ふぇ?え、あ……はい!それは、もう…ばっちりです!!」

「っ……!」

 

良かった。

本当に、良かった…!

 

いかん、ちょっと泣きそう。

 

ペンシルゴンが俺の背中をバシバシ叩く。痛いからやめろ。

「良かったねぇサンラク君!いやぁこれも雨降って地固まるってやつかな!」

「けっ、積乱雲がなんか言うとりますわ。お前のせいで土砂崩れ一歩手前だったぞ」

「そこは私がギリギリで太陽になってあげたじゃん。ありがたみ理解して?」

 

実質的にマッチポンプなのでは…?

しかし、まぁ…一応感謝してなくもない。俺の迂闊な発言もあってのことだし。

 

「わーったよ……ありがとうございます。これでいいか?」

「ヒェッ…明日槍が降るじゃん勘弁してよ」

「マジふざけんなよお前」

 

「……ふふっ」

玲さんがくすくす笑う。

俺もペンシルゴンも毒気を抜かれたのか、肩をすくめた。

 

このくらいの気のおけない友人関係が、俺達には合っていると思う。

俺がとんでもない失言をかましても、笑って流してくれるペンシルゴンに、安心を覚えているのもまた事実なのだ―――

 

 

 

----------------------------------------------------------------------

 

 

 

などと平和ボケしたことを考えていた時期が、俺にもありました。

今俺はリビングで正座をしている。うーん既視感(デジャヴ)。

あと俺に付き合って玲さんも正座している。

 

「いやあ技術の進歩ってさ、良いもんだよねぇ」

 

そして、俺達から数メートル距離を空けたソファで、まるでこの家の主かのように膝を組んでどっかりと座る女が一人。

 

 

「ウン十年前までは無かったらしいねぇ。こんな…片手に収まって、電話が出来て、文章が送れて、さらに――」

 

 

ピッ、と簡素な電子音が聞こえる。

『俺がお前をそ(・)う(・)い(・)う(・)目で見てたらどうするっ!!』

 

 

 

「――録(・)音(・)ま(・)で(・)出(・)来(・)る(・)機(・)械(・)なんてねぇ?」

 

 

 

ピッ、と簡素な電子音が聞こえる。

『さてどうかなァ!俺だって健全な男子高校生なわけだしぃ!?お前が懇切丁寧に作りあげた完璧な天音永遠の姿(アバター)に、全く何も思わなかったとでも!?』

 

 

「何が……望み………ですか…ッ!!!」

 

 

愚かなり、まこと愚かなり陽務楽郎…!

お前の目の前にいる女はただの外道ではない。悪鬼羅刹がドン引きするような真似を高笑いしながらしでかす魔王なんだよ……!!

 

 

あいつが一度あの音声データを、一切の脚色抜きの状況説明文を添えて瑠美に送ってみろ。俺の身内に殺人犯が誕生してしまう。

今この場に於いて俺の立場は奴の奴隷に等しい。

しかもフィジカルに優れた玲さんを警戒し、一歩の間合いに近づけない完璧な間合の管理。玲さんが奴の端末を奪うよりも早く、奴は瑠美に送信を終えるだろう。ペンシルゴンを一時でも信じたことが運の尽きだった。

 

「いやぁねぇ、バタバタして有耶無耶になってたけど、元々サンラク君に聞きたいことがあるって言ってたじゃん?」

「ハイ、ソウデスネ」

「玲ちゃんとのこともなんとかなったし、さぁ帰ろうかと思ったんだけど…そういや当初の目的果たしてないじゃん!って気づいたんだよね」

「・・・そのまま気づかずに帰ってくれればよかったのに」

「あっ手が滑っちゃいそう~」

「ハイ!ナンナリト、オモウシツケ、クダサイ!」

「よろしい」

 

わずかな抵抗の意思すら許さないというのか…!そんなだからアカい鉛筆なんて呼ばれるんだぞ畜生…!

 

思想の自由を主張するべく頭の中でペンシルゴンをボコボコにしている俺の横で、玲さんが手を挙げる。優等生か~?

「あ、あの…天音さん…」

「はい玲ちゃん、質問を許可しよう」

 

「楽郎くんに、何を聞くつもりなんですか…?」

「……んふふ、まぁ余興はこのくらいにしとこっか」

愉快そうに笑い、ペンシルゴンは足を揃えて身を乗り出す。

俺は奴の『聞きたいこと』については察しがついている。最初にリビングで奴が口にした内容の時点で。

向こうの手に脅迫材料が渡った以上、解答を拒否することはできない。故に我が心は諦念を経て明鏡止水……処刑場の列に並ぶ死刑囚ってこんな感じなのかなあ。

にしても玲さんがすぐそこにいるのにソ(・)レ(・)について聞ける精神構造は明らかにおかしい。やっぱり価値観地球外生命体だよお前。

 

 

 

「玲ちゃんとヤッた?」

世界獲れそうなレベルの剛速球ですね。誰も取れねーよバカ。

 

 

「……?………!!?!?!?」

ほら見ろ、玲さんが爆発しちゃったじゃないか。

 

「な、ま…待ってください!天音さんは楽郎君の友達ですよね!?どうしてそんな事を聞くんですか!!?」

耳まで真っ赤な玲さんの至極真っ当な質問。だがその真っ当を嘲笑うのがペンシルゴンとかいう奴だ。今日、玲さんも天音永遠の真実の一端に触れることだろう…南無。

 

 

「違うよ玲ちゃん…私とサンラク君は玲ちゃんが思ってるような楽しい友達関係じゃあない。笑って握手しながら互いの足を踏みつける、言わば悪友なんだよねぇ…」

 

これはまぁ、そのとおり。俺とペンシルゴン、この場に居ないがカッツォの三人はいつもなかよし。顔を合わせれば煽り合い、クソどうでもいいきっかけで殴り合う。「隙を見せた奴が悪い」は俺達の共通認識だ。

今回は俺が足元をすくわれる番(ターン)で、リカバリーすら出来ない惨敗を喫しただけの話だ。

 

 

「そしてサンラク君にこんな事を聞く理由は一つっきりさ………サンラク君が羞恥に苦しみ悶える程に、今夜の晩酌が美味しくなるからだねェーーーッ!!」

「くたばれこの外道がァーーッ!!!!!」

あっしまった感情が。

 

「なぁに安心しなって!聞いたことは全て私の胸にしまっておくし、質問に答えてくれれば録音データは消す。質問の内容を新たに録音したりもしない。今(・)言(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)は(・)約(・)束(・)す(・)る(・)よ(・)!根掘り葉掘り聞いたりもしないしさぁ!」

「お前の胸にしまわれる時点で死に勝る屈辱なんだがァ???」

「オーッホッホッホ!檻の中で猿が何か喚いておりますなぁ!せいぜい高らかに鳴いて私を楽しませてよねーっ!」

 

 

処刑は既に始まっている。俺に出来ることは、道連れを減らすことくらいだ。

 

「そういうわけだから…玲さんは帰ったほうが良いよ…。何も玲さんまで俺の処刑に付き合う必要は無いんだ…」

「いえ……私は、楽郎くんの…彼女、です!から!楽郎くんの痛みは、私の痛みです!!」

玲さんは俺の右腕に自分の腕を絡めてロックする。てこでも動かない構えだ。

その気遣いはとても嬉しいのだが、俺が受けるダメージが増えるんだねぇ…

 

「…ふぅ」

小さく息を吐く。

とはいえ、せっかく玲さんが勇気を出しているんだ。我が身可愛さにチキって無理矢理帰すなんてダサい真似はナシだ。

男は度胸だ。…度胸の出しどころを間違えている気がしないでもないが。

 

 

「――来やがれペンシルゴン!」

「ようしよく言った!それじゃあ質問その一(イチ)ー!―――

 

 

……

…………

………………

 

 

りちぎなあくまのペンシルゴンやろうは、やくそくしたことだ(・)け(・)はまもってくれました。

絶対にいつか復讐してやる。




試練は愛をより深くします(一般通過黎明卿)

メイビー続きません。
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